MARCH 2025 NEW RELEASES - THE CRITERION COLLECTION
THE CRITERION COLLECTION has announced its MARCH 2025 slate of 4K UHD BLU-RAY(5)and BLU-RAY(1)releases. They are: THE WAGES OF FEAR (1953)NIGHT MOVE(1975) THIEF (1981) CHOOSE ME (1984) GODZILLA VS. BIOLLANTE (1989)and A WOMAN OF PARIS (1923).
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
生か死か、恐怖の一瞬!
2025年3月第1週のクライテリオンは、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督作『恐怖の報酬』(1953)をリリース。なんど観ても心臓にたっぷりと汗をかかせてくれる傑作の登場である。油田で起きた大火災を消火するためにニトログリセリンを山上まで運ぶという、賞金付きの大仕事に挑んだ男たちのスリルとサスペンス。カンヌ国際映画祭グランプリ(現パルム・ドール)ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた本作は、世界の映像作家に大きな影響を与え、映画史上もっとも神経をすり減らす名作のひとつとして映画ファンに記憶されている。人生の起死回生を賭して危険な役目を請け負った喰い詰め者たちを演じるのは、イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネルといった通好みの顔ぶれだ。
過去から逃れ、腐敗と貧困の中で惰眠を貪り、それでもこの地からの抜け出すという叶わぬ夢に縋りつく男たち。クルーゾーは運命論的に、ときに昆虫学者のように彼らを見つめ、石油の黒よりも真っ黒な心の闇に焦点を当てていく。三幕モノの原作小説をクルーゾーは二幕モノへと改訂、トラックが出発するまでの1時間近くを喰い詰め者たちの生きざまを描くことに費やしている。スリルやサスペンスだけが目的なら半分以下の時間に圧縮もできようが、クルーゾーの目的は、映画の後半、恐怖の臨界点に達した4人の男たちの、むき出しの本性を暴き出すことにあった。脚本のディテイルにこだわるクルーゾーは、物語の導入部分に力点を置き、キャラクターの人物像、登場人物たちの関係性、言葉にしたらこぼれ落ちてしまう深い心理を、緻密かつ執拗にデッサンする。それこそが後半のクライマックスを盛り上げるための技であり、ときに無駄とも思えるきめ細かいディテイルがクルーゾー作品の血となり肉となっているのである。
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION, with uncompressed monaural soundtrack
- One 4K Blu-ray disc of the film and one Blu-ray with the film and special features
- Interviews with assistant director Michel Romanoff and Marc Godin, biographer of director Henri-Georges Clouzot
- Interview with actor Yves Montand from 1988
- Henri-Georges Clouzot: The Enlightened Tyrant, a 2004 documentary on the director's career
- Censored, an analysis of cuts made to the film for its 1955 U.S. release
- Program on the film's 4K restoration
- Trailers
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
Released: MARCH 4, 2025
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY)
本作の修復作業は、2017年、仏TF1スタジオとシネマテーク・フランセーズ映画博物館によって行われた。フランセーズに保管されていたオリジナル35mmナイトレートネガを4K解像度でスキャン/デジタルレストア。これまで未公開であった4分36秒の映像も修復され、仏公開オリジナル版の153分に仕上げている。生成された4Kレストア版は、同2017年にフランスで劇場公開、レストアBLU-RAYも英BFIからリリースされている。さらにBFIは今年2024年2月にUHD BLU-RAYをリリース。クライテリオン版は2017年4KレストアDSMを採用するが、追加レストアが施されており微妙な違いを発見できるはずだ。またHDR(HDR10/ドルビービジョンHDR)仕様のBFI版に対して、本版はSDR/BT.709仕様でリリースされる予定(TBC)。
タイトル | 恐怖の報酬 |
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年 | 1953 |
監督 | アンリ=ジョルジュ・クルーゾー |
製作 | レイモン・ボルデリエ アンリ=ジョルジュ・クルーゾー |
脚本 | アンリ=ジョルジュ・クルーゾー ジェローム・ジェロミニ |
撮影 | アルマン・ティラール |
音楽 | ジョルジュ・オーリック |
出演 | イヴ・モンタン シャルル・ヴァネル ペーター・ヴァン・アイク フォルコ・ルリ ヴェラ・クルーゾー ウィリアム・タッブス ダリオ・モレノ ジョー・デスト |
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
DIRECTOR-APPROVED 4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
ロス最大の金庫が眠りについたとき、俺のラスト・ビジネスが始まった!
シカゴを舞台にした傑作ネオノワール犯罪スリラー『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』の登場である(邦題は酷い)。刑務所から出所して4年が経ち、高難度な金庫破りを専門とする超一流の窃盗犯の地位を確立したフランク。中古車センター経営者という堅気の顔を持つフランクだが、内に孤独な魂を抱えながら信頼できる仲間と己のために裏稼業をこなす。一方で、危険な仕事から足を洗い、愛する女と平凡で平和な生活を築くことを夢見る男でもある。そんなフランクのもとへ、彼の腕を買った犯罪組織のボス、レオからの仕事の依頼が届く。監督は『ヒート』『コラテラル』のマイケル・マンで、脚本、製作総指を兼ねた長編映画デビュー作となる。2014年にリリースされたクライテリオンBLU-RAYも高品質だったが、今回は2014年4KレストアDSM(デジタルソースマスター)から新たに細部の修復とHDRグレードを行っている。
主演はジェームズ・カーン。共演にチューズデイ・ウェルド。またジム・ベルーシ、デニス・ファリーナ、ロバート・プロスキー、ウィリアム・L・ピーターセンのデビュー作品でもある。カーンを囲む共演陣は、ハリウッド映画にありがちな、物語を盛り上げるための飾り立てた配役ではなく、観客が感情移入できる生身の人間として描かれており、フランクが実の父親のように慕う受刑者オクラに扮したウィリー・ネルソンをはじめ(カーンを含めて)全員が記憶に残る演技を披露している。
DIRECTOR-APPROVED 4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION OF THE DIRECTOR'S CUT, supervised and approved by director Michael Mann, with 5.0 surround DTS-HD Master Audio soundtrack
- HDR PRESENTATION OF THE FILM(HDR10/DOLBY VISION COMPATIBLE)
- Audio commentary featuring Mann and actor James Caan
- Interviews with Mann, Caan, and Johannes Schmoelling of the band Tangerine Dream, which contributed the film's soundtrack
- Trailer
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
- PLUS: An essay by critic Nick James
Released: MARCH 11, 2025
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY)
実在の宝石泥棒ジョン・ザイボルトによる(フランク・ホヒマーのペンネームで出版)『家宅侵入者:泥棒の告白』(1975年/原題)を下敷きにした本作は、劇場公開されると批評家たちからの高い評価を受けた。長編映画デビューとなる経験の浅い監督マンが、明確なビジョンを着実で確かな手腕で実現し、知的で成熟した映画を作ったことに驚きを隠せずにいたのである。だがマンは主要スタッフの誰よりも経験豊富だった。すでにアラン・パーカー、リドリー・スコットといっ た監督たちとのコマーシャル制作で技術とスキルを磨いており、カンヌ映画祭では監督した短編映画で審査員賞を受賞していた。その後のTV業界で脚本家としての実力を示し、長編(TVムービー)デビューした『ジェリコ・マイル/獄中のランナー』ではエミー賞を受賞している。『ジェリコ~』の成功が本作の監督抜擢に繋がったのだが、本作に注いだ細部への徹底したこだわりは驚くべきものがある。プリプロダクションの段階から徹底的なリサーチをしただけでなく、撮影中にテクニカルアドバイザーとして実在の強盗を雇ったのもそのためだが、それは開幕の金庫破りの場面を観るだけでも明快だ。
タイトル | ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー |
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年 | 1981 |
監督 | マイケル・マン |
製作 | ロニー・カーン ジェリー・ブラッカイマー |
製作総指揮 | マイケル・マン |
脚本 | マイケル・マン 《原作》フランク・ホヒマー |
撮影 | ドナルド・ソーリン |
音楽 | タンジェリン・ドリーム |
出演 | ジェームズ・カーン チューズデイ・ウェルド ウィリー・ネルソン ジェームズ・ベルーシ ロバート・プロスキー トム・シニョレッリ デニス・ファリナ マイク・ジェノヴィーズ ジョン・サントゥッチ ハル・フランク ウィリアム・L・ピーターセン マイケル・ポール・チャン |
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
超ゴジラ それはゴジラ細胞から生まれた!
11月にUHD BLU-RAY『ゴジラ』(1954)をリリースしたクライテリオンが、NEXT 4K GODZILLAに選んだのは『ゴジラVSビオランテ』であった! ゴジラ・シリーズの第17作であり、前作『ゴジラ』(1984)の直接の続編、そして新たな年号を数えた平成ゴジラ・シリーズ(aka. 平成・VSシリーズ)の第1弾である。原案は一般公募で選ばれた歯科医・小林晋一郎のオリジナル・ストーリーで、これをゴジラ・シリーズ初の東宝外部監督となる大森一樹が、3年余の準備期間を費やしてシナリオ化。さらに特技監督に川北紘一、音楽にすぎやまこういちを迎え、これまでと違うゴジラ映画製作に挑んだ田中友幸プロデューサーの想いが結実した、新たなるゴジラ映画となった。
1985年、ゴジラ強襲によって破壊された新宿新都心。その悪夢のような夜が明け、自衛隊は被災現場に飛散したゴジラ細胞(G細胞)の回収を行っていた。同じく密かにG細胞を狙う米バイオメジャーは、細胞採取に成功するも中近東のサラジア共和国の情報機関に奪われてしまう。サラジアでは遺伝子工学の権威であり白神博士がG細胞の研究を行っていたが、バイオメジャーの襲撃に遭い、細胞を強奪されたばかりかひとり娘の英理加までも失ってしまう。それから5年後、三原山火口内にてふたたびゴジラが活動を開始。そしてほどなく、芦ノ湖に巨大な怪獣が出現する。
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION, with 5.0 surround DTS-HD Master Audio soundtrack
- One 4K Blu-ray disc of the film and one Blu-ray with the film and special features
- New audio commentary featuring film historian Samm Deighan, host of the podcast Eros + Massacre and coeditor of the book Revolution in 35mm
- Making-of program from 1993 featuring director Kazuki Omori and special-effects director Koichi Kawakita, among others
- Short documentary from 1993 about the Biollante and Super X2 vehicle concepts
- Deleted special effects
- TV spots and trailers
- New English subtitle translation
- PLUS: An essay by science-fiction and horror film expert Jim Cirronella
Released: MARCH 18, 2025
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY)
平成ゴジラ・シリーズ(aka. 平成・VSシリーズ)は、1984年(昭和59年)公開のリブート作品『ゴジラ』から、1995年(平成7年)の『ゴジラ VS デストロイア』までの7作品を指す。本シリーズでは人類の敵としてのゴジラが描かれ、それぞれ作品のストーリーが連続する続編構成となっているのが特徴である。大森一樹は本作に続く『ゴジラVSキングギドラ』を監督、『ゴジラVSモスラ』『ゴジラVSデストロイア』の脚本を書いた。日本での新たな時代(年号)に初めて製作されたゴジラ映画であり、伝統を重んじながら新たな世界観を構築して新世代のファンの心を掴んだことなどから、海外では『ゴジラ-1.0』との共通点を指摘する評論も多い。確かに大森一樹と山崎貴は演出スタイルこそ違えど、彼らが内包する作家主義に共通点をみることができる。ゴジラの敵ビオランテは、シリーズの中でももっとも奇妙な怪獣のひとつで、バラの細胞、科学者の亡き娘、そしてゴジラのG細胞から生み出された変異種だ。遺伝子工学の実践と、人間によるその無謀な誤用をテーマとした本作は、深く考えさせられるSF映画であり、怒り狂う怪物の苦しみに巻き込まれた、十分に共感できるキャラクターたちが登場する点でも『ゴジラ-1.0』を思わせる。
スパイ、超能力を持つ子供たち、そして狂気のバイオテクノロジーを巻き込んだワイルドなストーリーと、日本映画史上もっともクールな特殊効果のいくつかを備えた『ゴジラ対ビオランテ』は、進化し続ける怪獣王の神話の頂点に立っている。(クライテリオン)
印象的な特殊効果、傑出したサウンドトラック、アクションシーンを盛り上げる優れたテンポを誇っており、それだけでこの映画は、もっとも楽しめるゴジラ映画のひとつとなっている。(エンパイア・マガジン)
タイトル | ゴジラ VS ビオランテ |
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年 | 1989 |
監督 | 大森一樹 |
製作 | 田中友幸 |
製作総指揮 | 富山省吾 |
脚本 | 大森一樹 《原案》小林晋一郎 |
撮影 | 加藤雄大 |
音楽 | すぎやまこういち |
出演 | 三田村邦彦 田中好子 高嶋政伸 峰岸徹 高橋幸治 小高恵美 金田龍之介 中田博久 上田耕一 佐々木勝彦 鈴木京香 豊原功補 相楽晴子 沢口靖子 久我美子 永島敏行 |
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
謎が謎を呼ぶ!
『俺たちに明日はない』で新しい映画の時代を切り拓いたアーサー・ペンが、ジーン・ハックマンを主演に迎えて放ったネオノワール『ナイトムーブス』(1975)の登場である。劇場公開当時は多くの注目を浴びることがなかったが、パッケージソフト化されると評論家や映画ファンの関心を集めるようになった。この時代に製作された『チャイナタウン』や『ロング・グッドバイ』は、今日ではニューハリウッドによるフィルム・ノワールの傑作として頻繁に称賛されているが、本作も「これまで観た中で最高の映画の ひとつ」「70年代のノワールの代表作」などと再評価されている。とはいえ主人公の私立探偵ハリーは、サム・スペードやフィリップ・マーロウとは別物。どのシーンにも孤独や不安、フラストレーションや焦燥が満ち溢れており、古典的なフィルム・ノワールで見られた、あの才気あふれる私立探偵とは正反対の人物として描かれている。脚本はスコットランドの作家で、脚本家でもあるアラン・シャープによるもの。監督ペンと脚本家シャープのキャリアにおいてハイライトのひとつとなった作品であるが、残念ながら本作以降はその才能を輝かす機会に恵まれていない。
ジーン・ハックマンが奈落の底をさまよう私立探偵を演じた、素晴らしく絶望的な『ナイトムーブス』は、ウォーターゲート事件以降の出口のない時代に対する回答である。(ニューヨーク・タイムズ/映画評論家マノーラ・ダルジス)
元プロ・フットボールの花形プレイヤーのハリー・モースビーは、いまは落ちぶれたしがない私立探偵。妻との仲も危機的状況だ。そんなハリーのもとに美味しい仕事が舞い込んだ。元女優のアーレン・アイバーソンの16歳の娘デリーが失踪。アーレンの唯一の収入源はデリーの信託基金で、そのためには娘と同居している必要があるため、行方を捜してほしいというのだ。ハリーはアーレンに教えられた手掛かりをもとに、娘の捜索を開始するが・・・。ハリー役のジーン・ハックマンは、凡俗な探偵人生から得体の知れない深みへとはまっていく、哀れな中年男を演じて絶賛を博した。この頃から役柄も広がり、不幸で内省的なアウトサイダーという役柄が、ハックマンの十八番のひとつになっている。共演は『スラップ・ショット』のジェニファー・ウォーレン。のちに『ワーキング・ガール』でブレイクするメラニー・グリフィスの映画デビュー作でもある。
私のお気に入りの私立探偵映画とネオノワールのひとつであり、アルトマンの非常に優れた『ロング・グッドバイ』よりも百万倍も優れており、同じ音をよりパーカッシブに、より優雅に、そしてよりスタイリッシュに奏でている。そしてこれの映画は負ける人びとについての映画だ。負けることには真実があり、負けることには詩があり、人間の弱さを認識し、人生に感謝する気持ちが生まれる。それはただ勝ち続けるだけでは得られないものだ。 (ミステリ作家サム・ウィーブ)
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION, with uncompressed monaural soundtrack
- HDR PRESENTATION OF THE FILM(HDR10/DOLBY VISION COMPATIBLE)
- New audio commentary by Matthew Asprey Gear, author of Moseby Confidential
- New audio interview with actor Jennifer Warren
- Interview with director Arthur Penn from a 1975 episode of Cinema Showcase
- Interview with Penn from the 1995 documentary Arthur Penn: A Love Affair with Film
- The Day of the Director, a behind-the-scenes featurette
- Trailer
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
- PLUS: An essay by critic Mark Harris
Released: MARCH 25, 2025
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY)
撮影はブルース・サーティース。ドン・シーゲルの『白い肌の異常な夜』でデビューし、その後はクリント・イーストウッド監督作のビジュアルスタイルの創出に大きく寄与した撮影監督である。『ゴッドファーザー』のゴードン・ウィリスと並んで「暗闇の王子」(THE PRINCE OF DARKNESS)と称賛される彼の特徴は、極端に光量を出し惜しんだローキー画調にある。ジョン・アルトンやニコラス・ムスラカといった撮影監督たちが推し進めた、ミッドセンチュリー・ノワール的なライティングの正統なる後継者とされるのも頷けよう。同時に強い日差しが生み出す黒々とした物陰、ドキュメンタリータッチで切り撮られる街の風景など、外光と陰影の硬質なコラボもサーティース絵画の魅力のひとつであり、本作ではいずれもが楽しめる。
タイトル | ナイトムーブス |
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年 | 1975 |
監督 | アーサー・ペン |
製作 | ロバート・M・シャーマン |
脚本 | アラン・シャープ |
撮影 | ブルース・サーティース |
音楽 | マイケル・スモール |
出演 | ジーン・ハックマン ジェニファー・ウォーレン エドワード・ビンズ ケネス・マース ハリス・ユーリン ジェームズ・ウッズ スーザン・クラーク メラニー・グリフィス ジョン・クロフォード ジャネット・ウォード アンソニー・コステロ デニス・デューガン |
4K UHD BLU-RAY/BLU-RAY COMBO RELEASE
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION
孤独な夜を彷徨う男と女たち。 わたしを選んで・・・愛のトライアングル
クライテリオンは80~90年代を代表するインディーズ監督アラン・ルドルフを探求、彼の名を一躍高めた『チューズ・ミー』(1984)をリリースする。近年、再評価され始めているルドルフだが、彼は50年代ゴールデンエイジのテレビディレクターで俳優でもあったオスカー・ルドルフの息子で、名匠ロバート・アルトマンに師事したことで才能を開花させた。『ロング・グッドバイ』『ナッシュビル』の助監督、『ビッグ・アメリカン』の脚本も彼の仕事である。その『ビッグ~』が公開された年に、アルトマンの模倣作と自他ともに認める監督・脚本作『ロサンゼルス・それぞれの愛』を発表して注目された。以降好んで執筆・演出することになる、孤独で風変わりな登場人物とその関係性に焦点を当てた、ロマン主義とファンタジーを顕著に表現したアンサンブルドラマが彼の代名詞となっている。
本作の姉妹篇的フィルム・ノワール『トラブル・イン・マインド』、カルト的人気を誇る『モダーンズ』、カンヌ国際映画祭で高い評価を得た『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華』など、一度観たらルドルフ中毒になる映画ファンも多い。一方で、細部まで非常に詳細に描かれながらも、結局は中身のない映画を作る作家という評価もあり、この微妙なバランス感覚もルドルフの魅力のひとつとなっているのである。今秋ブルース・ウィリス、アルバート・フィニー、ニック・ノルティ共演のコメディ『ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ』の4Kレストア版が限定上映されており、コチラもクライテリオンからのUHD BLU-RAY化を期待したい。
4K UHD + BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION, supervised by director Alan Rudolph and producer David Blocker, with uncompressed monaural soundtrack
- HDR PRESENTATION OF THE FILM(HDR10/DOLBY VISION COMPATIBLE)
- New conversation between Rudolph and actor Keith Carradine
- New program featuring interviews with Rudolph, Blocker, production designer Steven Legler, and producer Carolyn Pfeiffer
- Excerpts from an interview with Rudolph at the Midnight Sun Film Festival
- Trailers
- English subtitles for the deaf and hard of hearing
- PLUS: An essay by critic Beatrice Loayza
- New cover based on an original theatrical poster
Released: MARCH 25, 2025
List Price: $49.95 USD(4K UHD + BLU-RAY 2-DISC SET)$39.95 USD(BLU-RAY)
孤独と倦怠と逃避が漂う街。ナンシー(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド)はラジオの人気パーソナリティ。番組で愛の悩みごとを解決しているが、素顔の彼女は愛に渇いた女。「イブのバー」の女主人イブ(レスリー・アン・ウォーレン)は誰にも縛られずに自由気ままなに生きる女だが、コミットメントを恐れる元セックスワーカーの顔を持つ。そして彼女たちの前に現れた、精神病院を抜け出してきたという謎の男ミッキー( キース・キャラダイン)。ふたりの女がひとりの男と出会い、さらにイブの愛人とその妻が加わって、都会の夜を舞台にした恋の駆け引きが始まる。風変わりな会話、ジャジーな照明と音響演出とともに、儚い恋愛、誰かを選ぶことと選ばれることの束の間のスリルを、緩やかに祝福していく。ゲーテの『親和力』とシュニッツラーの『輪舞』を下敷きにルドルフによって書かれた脚本は、パートナーを変える2組のカップル、人気アーティスト(テディ・ペンダーグラス)によるオリジナル曲によってグルーブするドラマ展開など、フランシス・フォード・コッポラの『ワン・フロム・ザ・ハート』と同列に語られることが多い。
タイトル | チューズ・ミー |
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年 | 1984 |
監督 | アラン・ルドルフ |
製作 | キャロリン・ファイファー デヴィッド・ブロッカー |
製作総指揮 | クリス・ブラックウェル シェップ・ゴードン |
脚本 | アラン・ルドルフ クリス・ブラックウェル |
撮影 | ジャン・キーサー |
音楽 | テディ・ペンダーグラス |
出演 | ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド キース・キャラダイン レスリー・アン・ウォーレン レイ・ドーン・チョン パトリック・ボーショー |
BLU-RAY RELEASE
BLU-RAY SPECIAL EDITION
3月のクライテリオン唯一のBLU-RAYタイトルは、喜劇王チャールズ・チャップリンの長らく見過ごされてきた無声映画の傑作『巴里の女性』(1923)である。チャップリンがD・W・グリフィス、メアリー・ピックフォード、ダグラス・フェアバンクスと創設したユナイテッド・アーティスツでの第1回作品となる。会社創設から 4 年後、ようやくチャップリンは、才能重視の新興スタジオで映画を作り始める自由を得る。ピックフォードとフェアバンクスは映画製作に熱心に取り組んでいたが、グリフィスは会社を去り、創立後3年間は赤字経営が続いており、会社幹部たちはチャップリンが間違いなく大ヒットし、金儲けのできるコメディを作ってくれると期待していた。しかし、いつも期待を裏切ることを厭わないチャップリンは、自分が主演しない、コメディではないシリアスなメロドラマを作るつもりだと宣言し、周囲を大いに驚かせたのである。放浪者を演じることへの意欲が萎えていたチャップリンは、会社創立時から新しい分野に移ろうと決心していたのだ。自分がどのような新しい方向に進むとしても、観客はきっと自分についてくるだろう。チャーリー・チャップリンには放浪者以上のものがあることに、観客は気づくだろう。そうではないか?
若い娘マリーと青年画家ジャンは両親に結婚を反対され、パリへ駆け落ちする手筈を整える。駅でジャンを待つマリー。だが待てども待てども、ジャンは現れなかった。そして1年後・・・。冒頭「私はこの映画には出演していない。これは私自身が脚本と監督を務めた初めてのドラマである」というインタータイトル。その後に続く予想外のシリアスな展開。さらに元恋人で長年のスクリーンパートナーであるエドナ・パーヴィアンスにスポットライトを譲ったことで、観客は当惑した。当時チャップリンの人気は絶大で、多くの観客がお馴染みの喜劇役者ぶりを期待して映画館に足を運んでいたからだ。残念ながらこの野心的な試みは、チャップリンが期待していたほど観客には受け入れられなかった。だが一方で、多くの批評家はチャップリンの挑戦を理解し、この映画を高く評価した。
私がこれまで見たどの映画よりも、チャーリー・チャップリンの『巴里の女性』には真の天才性が宿っている(ニューヨーク・ヘラルド)
これまで作られたほとんどすべての映画に欠けている抑制力を備えている。威厳と知性を備えた映画が生まれ、その効果はあまりにも異例で、驚くべきものである(エクセプショナル・フォトプレイズ)
最初から最後まで心を掴まれる人間物語。彼は女性をよく知っている!ああ、彼は女性をよく知っている!私は映画を観てもなかなか泣けないが、チャーリーの『巴里の女性』を観た後は、涙があふれて胸がいっぱいになった。(メアリー・ピックフォード)
BLU-RAY SPECIAL EDITION FEATURES
- NEW 4K RESTORATION OF THE 1976 RERELEASE VERSION, with uncompressed monaural soundtrack featuring a score composed by director Charlie Chaplin
- Alternate score from 2005 created by conductor Timothy Brock, based on music by Chaplin, presented in uncompressed stereo
- Introduction by Chaplin scholar David Robinson
- New video essay by Chaplin biographer Jeffrey Vance
- Chaplin Today: "A Woman of Paris," featuring interviews with actor Liv Ullmann and filmmaker Michael Powell
- Archive Commentary: About "A Woman of Paris," a documentary by Arnold Lozano, managing director of Roy Export S.A.S.
- Excerpts from an audio interview with Chaplin Studios cameraman Roland Totheroh
- Deleted shots from the original 1923 film
- Archival footage
- Trailers
- PLUS: An essay by critic Pamela Hutchinson and notes by Brock on the 2005 score
Released: MARCH 18, 2025
List Price: $39.95 USD(BLU-RAY)
本作の撮影期間は7か月間に及ぶ。撮影は順撮り(脚本の冒頭から順を追って撮影を進める方法)で行われ、いつものようにチャップリンは脚本なしで演出している。すべてはチャップリンの頭の中にあり、複数のアイデアがある場合はそのすべてを撮影し、編集段階で最適なショットを選抜している。また幾度もテイクを重ねる完全主義により、13万フィートものフィルムを回し(編集で82分/7500フィートに短縮)脚本執筆から1年後、ようやく本作は完成した。カメラの後ろに立つという目的以外に、チャップリンにはもうひとつの目的があった。それは、コメディアンヌとしてのキャリアが揺らぎ、酒に溺れていたパーヴィアンスが、ドラマ女優としてふたたび脚光を浴びるように手助けするためであった。だがチャップリンが望んだような成功を収めることができず、パーヴィアンスは2本の映画を残して引退している(のちに『チャップリンの殺人狂時代』『ライムライト』に客演)。そして観客の反応に落胆したチャップリンは、映画の公開後すぐに自らお蔵入りさせ、長きに渡って『巴里の女性』が観客の前に姿を現すことはなかった。
だが1975年、チャップリンは自ら作曲した新しい音楽を加えて本作を再編集、翌年に公開した。そしてそれが、彼の手掛けた最後の作品となった。チャップリンが世を去る1年前のことである。今回リリースのBLU-RAYは76年版を収録。もちろんチャップリン作曲のスコアも収録されている。『巴里の女性』で描かれた、パーヴィアンスをはじめとする登場人物の動機と性格は、当時のアメリカ映画の文脈とは異なる型破りな複雑さを持っており、後の映画製作者に影響を与えたとされている。自ら『巴里の女性』を葬った1923年、「自分の気持ちが大きく変わらない限り、喜劇に戻る」と宣言したチャップリン。その彼が2年の沈黙を破って放った映画は、彼の最高傑作のひとつとされる『黄金狂時代』であった。必見!
タイトル | 巴里の女性 |
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年 | 1923 |
監督 | チャールズ・チャップリン |
製作 | チャールズ・チャップリン |
脚本 | チャールズ・チャップリン |
撮影 | ロリー・トザロー ジャック・ウイルソン |
音楽 | チャールズ・チャップリン(1976) |
出演 | エドナ・パーヴィアンス カール・ミラー アドルフ・マンジュー クラレンス・ゲルタード リディア・ノット チャールズ・フレンチ ベティ・モリシー |
バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi
バックナンバー:2025年2月のクライテリオン
バックナンバー:2025年1月のクライテリオン