NHKは去る10月8日、「8K文化財プロジェクト」の一環として6大学との合同授業「8K文化財アカデミー」を開催した。

 8K文化財プロジェクトとは、2020年にスタートしたNHKと東京国立博物館の共同事業だ。国宝や重要文化財は展示の際の条件(照明の明るさや公開日数など)が決まっているので、研究者であっても実物を見ることができる機会が少ないという。そこで8Kと最新技術を組み合わせてそれらをデジタルデータ化し、新しい展示方法や学校教育での活用、伝統文化の継承に役立てていこうというものとなる。

画像: 8K文化財プロジェクトでの撮影の様子

8K文化財プロジェクトでの撮影の様子

 その手法としては、文化財を3Dスキャン&フォトグラメトリでデジタイズし、高精細の3DCGデータを製作している。具体的には実物を3Dスキャナーで解析し(ミクロン単位)、さらに8K以上の解像度を持ったスチルカメラで撮影、そのデータを3Dデータとして合成していく。撮影の際には5〜10度単位でアングルや高さも変えているので、ひとつの被写体で数百枚の画像を撮影しているそうだ。

 これらのデータを元に作成された3DCGは、PCなどの画面上ではユーザーの自由視点で観賞できるようになっている。こうすることで普段はなかなか目にすることができない建物や仏像の裏側などもゆっくり観察でき、新たな発見にもつながるのだという。デジタルデータなので拡大、縮小も自由にでき、実際に8K解像度の400インチに投写したところ、ある文化財の傷がわざとつけられたものだったことも判明したそうだ。またAR/VRを活用した能動体験も検討されている。

 その8K文化財3DCGデータを活用した「新しい授業の形」として実施されたのが8K文化財アカデミーで、今回はNHKと6つの大学の合同で開催されている。今回参加した大学は以下の通り。

HARBARD UNIVERSITY Yukio,Lippit教授(日本中世絵画史)
大阪大学 藤岡 穰教授(仏教彫刻史)
学習院大学 皿井 舞教授(仏教彫刻史)
東京大学 増記隆介教授(仏教絵画史)
東北大学 長岡龍作教授(仏教彫刻史)
早稲田大学 山本聡美教授(日本中世絵画史)

画像: NHKが、6つの大学と共同で「8K文化財アカデミー」を開催。最新デジタル映像技術を駆使して、文化財の新しい展示方法や学校教育での活用、伝統文化の継承を模索する

 8K文化財プロジェクトで制作された3DCGデータをクラウド上に置き、各大学からネット経由でクラウドにアクセスすることで、それぞれの教室に設置されたコントローラーで3DCGの向きや大きさなどを自由に変更できる。これにより、Zoomなどで会話をしながら同じ視点で画像をチェック、それぞれの意見を述べ合うことができるという内容だ。

 これまでのビデオ画像やスチル写真では決まった角度で撮影されたものがほとんどで、授業内容に合わせて文化財の細部まで鑑賞できる機会はほとんどなかったが、8K文化財アカデミーならそういったことも可能になるため、授業の質、学生のモチベーションも上がってくるだろう。

 今回の授業で採り上げられるのは、国宝の救世観音と百済観音(どちらも飛鳥時代、法隆寺蔵)の2体。救世観音は聖徳太子の姿を写したという伝説を持った仏像で、年に2回だけ御開帳されるが、近くで全身を拝むことは研究者にも許されない門外不出の秘仏だという。

画像: 学習院大学での8K文化財アカデミー授業の様子

学習院大学での8K文化財アカデミー授業の様子

 なお今回の8K文化財アカデミーは、学習院大学 文学部の皿井 舞教授の尽力もあって実現したという。皿井教授は以前東京国立博物館の学芸員の経験があり、そこでNHKと情報共有をしていたことがきっかけになっている。

 10月8日に学習院大学で行われた8K文化財アカデミーの授業を見学してきた。教室には4Kモニターを縦置きし、こちらに8K文化財プロジェクトで製作された3DCGを表示している(クラウドにつないだPCからHDMIで出力)。さらにその隣のスクリーンには別の大学の教室の様子が映し出されていた。

 皿井教授の司会で授業がスタート。学習院大学では20名ほどが出席してモニターに集中している。他の大学も同様のようで、ハーバード大学では時差があるにも関わらず25ほどの学生が参加していたそうだ。

画像: 救世観音の3DCGデータを4Kモニターに表示して、自由に拡大や回転が可能。通常目にすることができない背面の様子もじっくり確認できる

救世観音の3DCGデータを4Kモニターに表示して、自由に拡大や回転が可能。通常目にすることができない背面の様子もじっくり確認できる

 この環境で、各大学が順番で近年の調査内容を報告、それをスクリーンにパワーポイントで表示しながら、それぞれの教室に設置されているコントローラーを使って4Kモニターに関連した画像を表示していくという形で発表が行われた。

 例えば救世観音のアルカイックスマイルについての見解を話している際には顔のアップになり、宝珠の楕円が鋭く盛り上がっている、あるいは光背の火炎の動きが激しいことは何を表現しているのかといった分析の際にはそれぞれの該当箇所にズームインするといった具合だ。確かに解説されている内容と詳細な映像が同時に確認できると、講義の内容が分かりやすくなって、理解が進むのは間違いない。

 他にも3DCGならではのメリットとして、仏像の裏側まで詳細に確認できることが紹介された。こういったアングルで文化財を確認することは研究者でも難しいという話があり、これには学生たちにとっても驚きだったようだ。

 今回の8K文化財アカデミーは学生のみならず、研究者同士の横のつながりにも有用だったようで、2時間弱の講義の間にもそれぞれの立場から興味深い見解、議題が多出していた。高解像度のデジタル技術を学術的な研究や教育、文化の継承に役立てる取り組みとして、もっと多くの大学でも広がっていって欲しいと感じた次第だ。

画像1: 見たことのない文化財 www.nhk.jp

見たことのない文化財

www.nhk.jp

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