瀬戸内海に浮かぶ北木島には、日がな一日日向ぼっこして過ごす、愛らしい3匹の猫が住み着いている。精力的に映画を製作し続けている今関あきよし監督の最新作は、猫が主役の不思議な作品。動物を擬人化するのではなく、人が動物(猫)になりきる擬猫化が最大のポイントなる。ここでは、猫になりきり猫語で演技を披露した鎌田らい樹と増井湖々の二人にインタビューした。
――よろしくお願いします。本作ではお二人とも猫になっていますが、撮影はいかがでしたか?
鎌田らい樹&増井湖々 ありがとうございます。びっくりというより、もうとにかくいろいろと大変でした。
――撮影はいつ頃でしょう?
鎌田 ちょうど、昨年の今頃(夏)でした。
――夏の撮影だけに、鎌田さんの演じたチョコが、段々黒くなっていくのが分かりました。
鎌田 あはははは(笑)、そうですよね、チョコは直射日光を浴びながら寝転がっているシーンが多かったので、自分でも日焼けしたなって思いました。
――さて、まずはこの作品への出演の経緯を教えてください。
鎌田 私は、二人よりも少し遅れて、オーディションで選んでいただきました。ただ、オーディションの時には、今関監督の作品ですということだけしか聞いていない状態で、作品の内容について何も知らされていなかったんです。当然、演技をするのかなと思っていたら、ただただ今関監督とお話をするという感じで、いまハマっているものなど、自分のことについてお話させていただきました。
その後、役のオファーをいただきまして、現場(本読み)に行ったら、そこで初めて猫語でやります、と聞かされて! ただただその状態を受け入れたという感じでした。
増井 私は今関監督のワークショップ参加後に声をかけていただいて、出演が決まりました。最初に集まった時に、急に猫語で演じてくださいと言われて……。(猫語を)受け入れる入れないの前に、ただただ言葉失ったというか、とにかくびっくりしました。
――最初から、猫語で演じると聞いていたら?
鎌田&増井 ……どうでしょう。もっと悩んだかもしれません。
増井 猫のコスプレだったら厳しかったかもしれませんけど(笑)、猫そのものになる役でしたから、よし頑張ろうと思いました。
――台本はどうなっているのでしょう?
増井 最初に見たものは、人間のセリフが書いてあって、監督から急に“これを猫語に直してみて”と言われたんです。美咲姫さんと二人でいろいろ考えましたが、もう笑いが止まらなくて(笑)。結局、後で監督に披露したものはビミョーなもので、最終的には脚本の小林(弘利)さんが直してくださいました。
鎌田 私が参加し時には、(私たちのセリフは)全部猫語になっていました(笑)。
――猫語のセリフはどう覚えたのでしょう。
鎌田 美咲姫さんは、台本に沿って、結構細かく猫語を覚えていましたけど、私には絶対無理だと思って! シャァとかグワッとか(の言葉?)を覚えても、内容(感情)が全然頭に入って来ないので、とにかく人間の言葉を覚えて、そのシーンを理解して、感情の動きに合わせて、ニャーとか、シャァとかグワッなど、私の猫語の種類はそんなに多くなかったので、その3つぐらいを話して(叫んで)、勢いで乗り切ったみたいなところはありました。
増井 事前にたくさん練習をしましたし、現地(瀬戸内海・北木島)入ってからも、泊まった宿舎でずっと練習をしていました。とにかく練習をしていた思い出ばかりです。
――猫の配役は?
増井 私は当初、ココアかミントのどちらかでというお話しでしたが、最終的にココアに決まりました。確かに、名前も似ているし(笑)、性格もちょっと自分に近い部分もあるのかなって思いました。鎌田さんも、美咲姫さんも、みんなちょっとずつ役(猫)と合っているのかなと思います。
――あて書きに近いものはある?
増井 普段の自分と似ているところもありますけど、少しずつ違うところもありますから、猫に近い配役になっていると思います。
鎌田 私の場合は、オーディションで決まったので、チョコっていうキャラクターがあって、それに当てはまったから選んでいただいたのだと思っています。まあ、この3人なら、チョコは私にしかできないだろうなっていう感じはあります。
――配役が決まって、さて猫(役)作りはどのように行なったのでしょう?
増井 とても素敵なストーリーなのに、最初は猫語ができる自信がなかったので、人間の言葉でやったほうがいいんじゃないですか! と何度も監督に直訴したんです。けど、猫語でやってほしいと言われて。
気持ちを切り替えて、猫語でやろう! と気合を入れなおして、自宅で飼っている猫(2匹)をひたすら観察して、雰囲気を覚えていきました。加えて、私の猫が結構しゃべるので、それを聞きながら、その違いを意識して、台本にある猫語に振り分けて、猫作りをしていきました。
なので、セリフを覚えて、セリフの感情を作るというよりは、猫のしぐさをずっと練習していて、ニャーとかはもう体に染み込んでいましたから、それを感情としてどう出すかに集中して、ひたすら練習していくという方法でした。
――すると、体に覚えさせたものを再現する、ある意味パントマ(ニャ)イムですね。
増井 そういう感覚です。
――鎌田さんは?
鎌田 私は、猫を飼っていないし、触れ合ってきた経験もなかったので、始めはどうしていいか分からなくて……。ひたすら、ネットで猫の動画を探してそのしぐさを覚えていきました。
でも、(猫の動きには)人間がやる限界はありますし、そもそもチョコはそんなに動き回る子(猫)ではない。そして、猫の持つ自由さを一番発揮しているのがチョコなので、基本的にガッツリ猫を研究しましたというよりかは、自然体で、何を考えているのか分からないところを取り入れながら、演じるようにしました。
――猫作りについて、監督からの要請は?
鎌田 まったくなかったですね。最初に自分なりの猫でやってくださいと言われただけで、あとはもうお任せでした。
――今関監督というと、長回しの多い監督ですが、本作でも結構ありました。
鎌田 そうですね。一つひとつのシーンは結構長く撮っていて、細かくカットを割るというよりかは、シーンや感情の流れに合わせてずっと撮っているという感じでした。
増井 そうそう一カ所、台本にない長回しのシーンがあるんです。夕日をバックに、3匹でのんびりしているところなんですけど、そこはめちゃくちゃ素の姿が映っています。撮影の合間に3人(匹)で遊んでいたら、知らぬ間に撮られていて! 試写会で観た時に、えっ、このシーン撮っていたんだって思いました。
鎌田 そこはチョコではなく、鎌田が映っています(笑)。カメラを見たり、履いていたビーチサンダルを投げたりして、自由にしていましたし、だからこそ猫っぽく見えるのかもしれません。
――セリフ(猫語)に絡めてお聞きしますが、3匹の猫は、結構人の言葉を理解しています。
鎌田 そうですね。
増井 私(ココア)は、人間と関わるシーンがほぼなかったので、怒られているところは、何を言っているか分かるんだろうけど、特に意識することはなかったです。
鎌田 最後のシーンでは、がっつり人間と関わっているので、どこまで人語を理解している猫でいるべきかを悩みましたけど、結局は、聞いているんだかいないんだか分からない、集中力のない猫として演じました。私自身というか役者としては、(人の言葉に)反応したい、けど猫だからできない……。そんな葛藤が表情に出てしまっているんですけど、作品としてはいい感じに映っていたので、まあ、結果オーライと思っています。
――かなり、ネタばれになりそうなことをお聞きしますが、冒頭に「ココアに捧ぐ」と表示されることについて、どう捉えていますか?
鎌田 それは謎なんです、というか、観て下さった方が感じたものが正解だと思っています。
増井 ココアを演じた者としては、こういうココアの物語があったからこそ、最後にはみんな幸せになってほしい、そう感じてもらえるといいなって思います。
――では、定番の質問に行きます。印象に残ったシーンを教えてください。
増井 私は喧嘩のシーン、一択です。そこは本当に大変だったので、強く覚えています。普通の喧嘩でも、感情を入れないといけないので難しいのですが、それを猫でやらないといけませんから、大変どころではなかったです。現地(北木島)に着いて、“喧嘩は三日後だよね”って確認して、毎日みんなで練習していました。布団を敷いてみんなでキャッツファイトをしてました(笑)。その成果を、一番観てほしいです。
――そのメイキング映像は?
鎌田 残っていないです。撮るのも忘れて必死に練習していました。
増井 毎日、寝る前に暴れていました。
――鎌田さんは?
鎌田 私は、さきほど出てきた夕日のシーンです。何もセリフを喋っていないし、喧嘩などのアクションが起こっているわけではありませんけど、この作品の中で、3人(匹)の関係性が一番自然に描かれていて、チョコ、ココア、ミントが映像の中に存在しているのが分かると思います。そこまでに築いた3人の仲の良さが現れていますので、気づいてもらえたら嬉しいです。
――本当に仲がいいですよね。最初のお互いの印象はどうでしたか?
鎌田 私は少し遅れて合流したので、新入りです(笑)みたいな感じで入っていったら、美咲姫さんは結構そのままで、最初からニコニコしてくれて、お互い猫語で頑張ろうねみたいな感じだったんですけど、増井さんとは目が合わなくて……。ちょっと人見知りしてました。
――先輩風を吹かせた?
増井 そんなことないです! チョコとココアは、関わりが少ないし、役の上であまり仲がよくないという設定でしたから、あまり関わらないようにしようという気持ちが働いた面はあります。演じる(撮影)前から、仲良くなってしまうと、登場のシーンの犬猿さの表現(演技)に響いてしまうかもしれない、ということは考えていたように覚えています。
鎌田 でも、読み合わせが始まったらすぐに打ち解けられました。最初から最後まで何も変わらなかったのは、美咲姫さんでした。
増井 美咲姫さんとは、役の上でも仲が良かったし、鎌田さんが合流してくるまで、ずっと一緒に猫作りをしていたので、余計仲良く見えたかもしれません。
鎌田 仲良くなって現地に行ったら、喧嘩シーンの練習で毎晩キャットファイトしていましたけどね(笑)。
――話は飛びますが、皆さんの猫衣装(?)はいかがでしたか?
鎌田 チョコの衣装は、泳ぐ時は上着が脱げるし、一人(匹)だけサンダルだから、チョコの、気ままでふわっとふらっと生きている感じが出ていると思います。あと、ミントの頭に着けていたリボンは、メイクさんのアイデアなんですけど、甘え上手だったり、妹・お嬢様気質なところがよく出ているなって思いました。
増井 私は、なぜセーラー服なんだろうと思いましたけど、チョコとミントの仲介役みたいな雰囲気もあるので、ある意味特別な存在を衣装で表現しているのかなって。着ているうちに、だんだんその違和感もなくなっていきました。それよりも包帯が動きにくくて、喧嘩をするシーンも、包帯を巻いている腕を動かさないようにしないといけないと思いながら、演じていました。
――途中、なにか小動物的なものと戯れているシーンもありました。
増井 私と鎌田さんは、嫌だ、怖いって思っていましたけど(結局、触っていない)、美咲姫ちゃんはめっちゃ慣れていて。本当にミントがじゃれているようでした。
――では、定番の質問になりますが、作品の見どころをお願いします。
鎌田 私が一番感じてほしいのは、映画の観方は自由だということです。観ていただいた方には、自由に感じて、考えて、楽しんでほしいです。というのも、この作品には、一応字幕はありますけど、猫語がセリフというちょっと新ジャンルの映画なので(笑)、面白かったとか、悲しかったということではなく、猫語の映画を観たっていうことが記憶に残ると思うんです。その後、こういう映画を観たよって、広めてもらえると嬉しいですね。
加えて、北木島の綺麗な風景にも注目していただいて、その島に行きたい、行こうって思ってもらえたらさらに嬉しいです。そして、3匹のその後に、いろいろな考え、思いをはせてもらいたいです。
増井 見どころはやはり、北木島の綺麗な風景ですね。景色から受ける影響も、演技面においてはとても大きかったので、観て下さる方には、その景色を楽しんで、感じてほしいです。そして、猫一匹一匹が持つ背景・ストーリーに感情移入してもらえたら嬉しいです。猫を大事にしてほしい、捨てないでほしい、を伝えたいです。
――最後に、俳優としての目標、あるいは今後やってみたい役について教えてください。
鎌田 私は、作品を観ていただいた方に、鎌田らい樹っていう印象・存在を残せたらいいなと思っています。こんな役をやっていたのかとか、外見からこんな雰囲気も出せるんだっていう風に、作品ごとに違う印象、色を残していきたいです。幅が広いと言うとちょっとありきたりな感じになってしまいますけど、意外性みたいなものを全ての作品で感じてほしい。そういう俳優になることが目標です。ミントのような、自分と逆の甘え上手な役も演じてみたいです。
増井 私は、いろいろな作品に出たいという気持ちがありますし、同時に、型にはまりたくないという思いも強いです。俳優という仕事をやっていく上で、演じる役が決まってしまうと、芝居・表現の幅が狭まってしまうと思っているので、ミステリアスな役もやりたいし、明るい役、いろいろな役をやって、いろいろなことを発信していける俳優になりたいです。
映画『しまねこ』
公開中
<キャスト>
鎌田らい樹、増井湖々、美咲姫、利重剛、大島葉子、佐伯日菜子、平岡京子、沖山マコト
<スタッフ>
プロデューサー・原案・監督:今関あきよし 脚本:小林弘利 撮影・編集:三本木久城 録音・音楽・MA:種子田博邦 助監督:森川大三 制作:杉山亮一 メイク:伊藤里香 衣装:Rica 制作応援:平岡京子 ラインプロデューサー:山本周史 現地コーディネーター:藤井和平(北木島活性化プロジェクト協議会) 宣伝デザイン・タイトルデザイン:中澤崇 主題歌:「ねこ想い」歌・作詞・作曲:よしむらさおり 編曲:今村良太 配給宣伝:MAP 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 製作:映画「しまねこ」製作委員会
2024年/日本/66分/カラー
(C)「しまねこ」製作委員会