5月30日(木)〜6月2日(日)の4日間、東京・砧のNHK放送技術研究所で開催される「技研公開2024」。今回で77回目を迎えるこのイベントから、編集部が注目したテーマについて詳しく紹介します(数字は技研公開の展示ナンバーです)。

6)次世代地上放送の伝送技術

画像1: 6)次世代地上放送の伝送技術
画像2: 6)次世代地上放送の伝送技術

 次世代地上デジタル放送の安定受信、高画質化に向けた研究も進められている。そのひとつがLDM(Layered Division Multiplexing=階層分割多重)技術を使った効率的で強靭な地上放送の実現だ。

 LDMは、同一チャンネルにレベル差のある電波(高電力階層と低電力階層)を重ねて送出する方式で、今回の展示では、高電力階層に2Kの情報を、低電力階層に4Kとの差分を割り当てている。こうすることで通常受信では4K画質で、電波状態が悪くなった場合でも2Kでの視聴が可能になるというわけだ。

 その他、移動体受信用(ワンセグなど)に補間音声を追加し、トンネルなどの電波が弱い状況で映像が映らなくなった場合でも、音声だけは受信できるという提案も行われている。現在のワンセグでは電波状況が悪くなると絵も音も途切れてしまうが、音だけでも残ることで情報の継続性を実現しようということだろう。

 LDMで多重化した放送を視聴するには対応チューナーが必要とのことで、市場導入にはまだ時間がかかりそうだ。技研ではまず、2024年度末に地上放送高度化方式の標準規格化を目指したいとのことだった。

8)映像符号化方式と連携した衛星伝送技術

画像1: 8)映像符号化方式と連携した衛星伝送技術
画像2: 8)映像符号化方式と連携した衛星伝送技術

 先述のLDM方式を用いて、天候が悪い(雲が多い)場合でも安定した衛星放送を実現しようという展示も行われていた。地上放送では同一放送に2Kと4Kの信号を多重化していたが、こちらでは高電力階層に4Kの情報を、低電力階層に8Kとの差分を割り当てることで、高品質で安定した放送ができないかというアプローチだ。

 電力差をつけたふたつの信号を送り出すことで、天気がいい場合には8K画質が受信でき、雨天などで受信状況が悪い場合でも4K画質は担保できるという狙いだ。さらに4K用チューナーしか持っていない場合でも高電力階層部分だけ使うことで8K放送と同じコンテンツを4Kとして視聴できる可能性もあるという。

 こちらもLDM対応チューナーが必要になるとのことで、2026年頃までに衛星放送伝送実験での装置評価などを進めていく予定という。

10)イマーシブメディア用音楽制作ツール

画像1: 10)イマーシブメディア用音楽制作ツール
画像2: 10)イマーシブメディア用音楽制作ツール

 VRゴーグルなどのイマーシブメディアでは、自由に動き回れる仮想空間でどんな音環境が楽しめるかも重要になってくる。ここでは、そんな仮想空間に向けた音楽制作ツールが紹介されていた。

 会場に設けられたカフェスペースには、8人のキャラクターの等身大パネルが置かれている。各キャラクターは会話をしている想定で、スタッフがななみちゃんの人形(位置センサーが付けられている)を持ってこの中を歩くと、場所に応じてそれぞれの声の聞こえ方が変化する。

 今回の制作ツールでは、キャラクターの位置や顔の方向などをメタデータとして設定し、収録した音声信号にこれを付加することでななみちゃん(自分)が居る場所ではどう聞こえるかを判断、音響レンダラーで最適な音場を生成してヘッドホンに送っているそうだ。

 キャラクターの人数や環境音をどこまで再現するかはPC側のスペックに依存するそうだが、将来的に音楽ライブなどのコンテンツがこういった環境で楽しめると面白くなるだろう。

13)音楽の可視化による新しいコンテンツ表現

画像: 13)音楽の可視化による新しいコンテンツ表現

 音楽を映像に変換することで、子供から高齢者、視覚障害者といった様々な人に音楽をより理解してもらおうという研究も進められている。

 これまでも音圧などの音響情報を使ったビジュアライザーは存在しているが、今回の展示では音程やリズム、コード進行といった音楽を構成する要素に加えて、それらのフレーズから聞き手が想起する情感まで含めた視覚化にトライしている点が異なっている。

 展示ではピアノソナタの演奏風景に、音楽を可視化したビジュアル(色とりどりのドットが動き回る)が重ね合わせられてデモされていたが、他にも絵本のキャラクターやCGなど様々な映像にも可視化できるとのことだった。

14)周辺視野の知覚感度特性

画像: 14)周辺視野の知覚感度特性

 VRやARで広く使われていくであろうHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に関する研究展示も行われていた。そもそも現在のHMDは視野角が製品によってまちまちで、現実世界と同じように感じるにはどれくらいの視野角や解像度が必要なのかといった点について技研で行った実験の結果が披露されている。

 実験では20枚の縦型4Kディスプレイを円筒状に配置し、その中央に被験者が座って、顔の向きに応じて視野周辺の映像を消したり、ぼかしたりしてどこまで気になるかなどを調べていったそうだ。その結果、HMDで必要となる水平方向の視野角は240度で、120度より外側であれば解像度が落ちても気にならないという結果が得られたという。

15)光源アレーを用いた3次元ディスプレー

画像1: 15)光源アレーを用いた3次元ディスプレー
画像2: 15)光源アレーを用いた3次元ディスプレー

 裸眼で自然な3D映像を楽しめる小型ディスプレイで、さらに2D映像と瞬時に切り替えたり、一枚の画面内に3Dと2Dの映像を表示できるという展示も面白かった。

 デバイスは液晶方式で、バックライトの前に2枚の液晶パネルを配置し、奥側(バックライトに近い方)は光源制御用として使われている。3D表示を行う場合には奥側の液晶パネルで光を複数の方向に拡散させ、手前の液晶パネルにそれに応じた3D映像を表示することで、裸眼でも左右の目の視差に応じた光を届けるという(目の位置は付属カメラを使って推定する)。

 2Dで表示する場合は奥側の液晶パネルは全白で表示することでバックライト的に使えばいいわけで、これを応用することで3Dと2Dの映像を同時に表示すると言った使い方もできるわけだ。

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