NHKは、5月30日(木)〜6月2日(日)の4日間、東京・砧のNHK放送技術研究所で「技研公開2024」を開催する。NHK放送技術研究所は、日本で唯一の放送技術分野を専門とする研究機関として1930年に誕生した。技研公開は1947年後からスタートしており、今回で77回目を迎えるそうだ。

画像: NHK放送技術研究所 所長の今井 享さん

NHK放送技術研究所 所長の今井 享さん

 昨日開催されたプレス向け説明会では、まずNHK放送技術研究所 所長の今井 享さんが「技研公開2024」の概要を紹介してくれた。今井さんは今回のテーマである「技術で拓くメディアのシンカ」について、「最後の “シンカ” はカタカナになっていて、3つの漢字を当てています。ひとつ目は放送メディアのバリューを高めるという意味での “真価”、ふたつ目が技術の “深化”、そして最後が将来に向けた新たなメディアを創造するアドバンストという意味の “進化” です。技研の意気込みをこのテーマに込めております」と解説していた。

 さらに今回の技研公開では、「Future Vision 2030-2040」というキーワードも掲げられている。3年前にも同じキーワードが使われていたが、これについては、3年の間に生成AIやAR、VRなどメディアを取り巻く環境が大きく変わっていることを受けてアップデートするという。

画像: NHK「技研公開2024」が明日からスタート! 「技術で拓くメディアのシンカ」をテーマに、没入体験や基礎研究についての興味深い研究成果が発表された(1)

 そこでのテーマは「イマーシブメディア」(没入体験)、「ユニバーサルサービス」(いつでもどこでも情報を届ける)、「フロンティアサイエンス」(基礎研究)であり、今回の技研公開でもこの3つに準拠した展示が多く行われていることを紹介してくれた。

 その展示は全部で29のテーマで行われている。今回はその中から編集部が注目したテーマについて詳しく紹介したいと思う(数字は技研公開の展示ナンバーです)。

1)ARグラス型ニュース提示システム

画像: ARゴーグルを装着したらこんな風に見えますというイメージ。色分けされたニュースがヴァーチャル空間に浮かんでおり、この中から気になるものを探してくださいという提案だ

ARゴーグルを装着したらこんな風に見えますというイメージ。色分けされたニュースがヴァーチャル空間に浮かんでおり、この中から気になるものを探してくださいという提案だ

画像: 1)ARグラス型ニュース提示システム

 ARグラスが普及する時代を見据えて、ニュースはどうあるべきかという提案が行われていた。NHKが毎日放送している様々なジャンルのニュースをデータ化し、ARグラスを装着することで、ヴァーチャル空間にニュースが写真付きのシートになって眼の前に浮いているように見えるという提案だ(映画『マイノリティ・リポート』のコンピューター操作ようなイメージ)。

 各シートは関連性の高いものが近くに配置されているので、あちこちを見回して気になるテーマを見つけることができる。この関連性については、ニュースのテキストに含まれる単語を識別し、それぞれに重み付けを行うことで決定しているそうだ。

 ヴァーチャル空間でシートをクリックするとテキストが表示され、ニュースの詳細を読むことができる。さらにシートをつかんで並び替えたり、別の人に渡したりもできるので、複数人でニュースを共有するというったことも可能だ。担当者は、様々な情報を配置することで様々なニュースとの出会いの場として活用してほしいと話していた。

3)放送とネットを統合したコンテンツ提供基盤

画像1: 3)放送とネットを統合したコンテンツ提供基盤
画像2: 3)放送とネットを統合したコンテンツ提供基盤

 放送とネット配信の境目をなくし、ユーザーに両方の違いを意識することなくコンテンツを楽しんでもらおうというWebベース放送メディアという提案。クラウドを使って番組をサーバーにアップ、それをモアチャンネルとして視聴できるというものだ。

 この方式であればドラマなどの完パケしたコンテンツだけでなく、ライブストリーム生成機能を使って生放送も配信にアップできる(地方局からのアップも可能で、数の制約もない)とのことで番組制作の充実も期待できる。またプロ野球を放送していて延長になった場合にも、続きを配信で楽しめるといった使い方もできるようだ。

 テレビ側はハイブリッドキャスト対応モデルであれば比較的対応しやすいとのことで、2206年頃のコンテンツ提供基盤の実現を目指して実用化を進めていくとのことだ。

5)コンテンツの信頼性を高める来歴情報提示技術

画像1: 5)コンテンツの信頼性を高める来歴情報提示技術
画像2: 5)コンテンツの信頼性を高める来歴情報提示技術

 生成AIの誕生に伴い、インターネット上で偽情報、誤情報の拡散が増えてきている。近年のテレビでは視聴者が提供した映像素材を使うこともあり、そんな中に偽情報が紛れ込んでいないかの検証も問題になっているそうだ。

 現在は情報が正しいかどうかを担当者がチェックしているが、それらの素材に来歴情報を(改ざんできない形式で)生成・提示、判別支援ソフトウェアを使って選別することで信頼性を高めようという技術となる。

 来歴情報はC2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)というデジタルコンテンツの出所と信ぴょう性の基準や技術仕様を策定する標準化団体の仕様に基づいているとかで、対応カメラや生成AIを使うことで付与できるようだ。

 展示のデモでは、来歴情報を持った素材を放送している場合はテレビの画面にマークが表示され(リモコン操作で呼び出す)、逆に改ざんが疑われる素材が見つかった場合は警告が出るといった対応も考えているとのことだった。

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