映画『渇愛の果て、』は、「家族・人間愛」をテーマにし、あて書きベースの脚本で舞台の公演を行なってきた「野生児童」主宰の有田あんが、友人の出生前診断の経験をきっかけに、助産師、産婦人科医、出生前診断を受けた方・受けなかった方、障がい児を持つ家族に取材をし、実話を基に制作した、群像劇。シリアスな内容ながら、大阪出身の有田特有の軽快な会話劇を活かした作品で、有田が監督・脚本・主演を務め、長編映画監督デビュー作となった。

 助産師・看護師・障がい児の母との出会い、家族・友人の支えにより、山元家が少しずつ我が子と向き合う様子を繊細に描きつつ、子供に対する様々な立場の人の考えを描く。

 この度、5月18日(土)より新宿K’s cinemaで公開されるのを前に、監督・脚本・主演の有田あんのオフィシャルインタビューが届いた。

画像: 妊娠・出産についての実話を基に制作した群像劇。映画『渇愛の果て、』の監督・主演の有田あんのオフィシャルインタビュー解禁

――本作が長編映画の監督デビューとなりますが、テーマを出生前診断・妊娠・出産・障がいにした理由をお教えください。
 地元の友人が妊娠・出産時に起きたトラブルや悩みを聞き、必要な情報がもっと身近にあると良いなと思い、テーマを決めました。関わりのない人はいないテーマなのに、前のめりにならないと情報が入ってこない。映画を観ることで、自分はどんな考えを持っているか、両親は出産の時にどんなことで悩んだのか、など色々なことを考えるきっかけになったら良いなと思います。

――有田さんは、主人公・眞希役でしたが、劇中眞希が経験することは、実際にモデルとなったご友人が経験されたことなんですか?
 全部ではないですが、ほとんどは彼女の経験談を参考にして作品に取り込ませていただきました。途中に出会う人や友人関係は、映画を観てもらいやすくするために、そして取材させていただいた方々のお話を届けたいと思い、物語を作っていきました。

――脚本執筆の際に、どんな方々に取材をしたんですか?
 全部で40名くらいの方々のお話をお伺いしました。キャスト・スタッフには、事前アンケートを取らせていただきました。それを基に、キャストとオンラインワークショップもやりました。高齢出産をされた方、出生前診断を受けようか迷った方、中絶しようと思ったけれど実際はご出産され、今はお子供様が可愛いと思っている方。そして、取材協力の、助産師であり二児の母でもある高杉絵理さん、本作監修医の、産婦人科医であり母親でもある洞下由記さんには、専門家の目線だけでなく、母の目線ではどう思われたかもお伺いしました。

――様々な方に取材をして、特に心に残ったこと、本作に活かしたことは何ですか?
 (本作監修医の)洞下さん、(取材協力の助産師である)高杉さんへの取材で印象的だったのは、医療従事者として理解していることは沢山あれども、母親としては悩むことも多いというお話でした。

 また、出生前診断をあえて受けなかったという方からは、「選ぶという重荷に耐えられる自信がないから」と伺い、作品に活かしたいと思いました。眞希が出生前診断について調べていながらも受けるのを辞めた理由を、そのように設定しました。取材を通して、改めて知らないことが沢山あるなと痛感しました。

――親友3人、それぞれのパートナーも描くことで、多様な考えや男性側の歯痒さや苦悩も描けていると思いますが、設定はどのように決めたのでしょうか?
 桜は、取材で「パートナーに対する不信から子育てへの不安が強くなり、当時は中絶したいと思っていた」と仰っていた方をモデルにしました。言いづらいことだったと思うけど、この現実をないものにしたくないと思いました。

 里美は、そんな人生もあったのかもなぁ、の女性像です(笑)。憧れの仕事についたけど、子供ができたらすぱっとやめ、家庭に入る。美紀は、私に近いというか。子供が欲しいけど、仕事から妊活へシフトチェンジするタイミングが見極められない。3人の誰かに共感する人も多いのではないかな、と思います。

 ZOOMでの初本読み後に全員に感想を聞いていた時、男性キャストから「こういう時、男って何て言ったらいいか、迷いますね」というコメントをもらいました。ふと、「それが現実だよな」と思い、本作に活かしたいと思いました。そこで、様々な立場の女性、医療従事者だけではなく、様々な立場の男性の視点も入れようと決め、ZOOMでシーン稽古をしながら「同じような状況の時、あなたならどう思いますか? どうしますか?」というような質問を男性キャストにもしていき、台本に取り入れていきました。良樹のように、「体感していないから実感がない→意見しづらい→自分にできることを頑張る→不安にさせないために仕事を頑張る→妊娠のことは奥さんの方が詳しいしあまり口出しをしないようにする。」というような思考の流れで、優しさ・思いやりから起こる夫婦のすれ違いが大きくなっていくご家庭が多いんじゃないかなと思います。今作を通して「対話」の大事さが伝わるといいなと思います。

――SDN48元メンバーで、現在は作家としてご活躍されている大木亜希子さんとは10年ぶりの共演とお伺いしました。数年ぶりの俳優業とは思えなかった大木さん演じるりかは、眞希にとって大きな存在だったと感じました。りか役にもモデルとなった方がいらっしゃるのでしょうか? それともオリジナルでしょうか?
 りかは、出産してから数年後の友人がモデルです。眞希を悩んだまま終わらせたくなかったというのもありますが、実際友人がそうなっていったように我が子を受け入れて生活している方をちゃんと描きたかったのもあります。お子様にかき氷を食べさせてみたりしていたのは彼女が実際にやっていたことです。お医者さんに言われたことだけが事実なのだろうか。母親として、日々我が子と向き合い、前向きに模索しているように見えました。ですので、実際は同じ友人がモデルなんですが、「そんな未来もあるかもしれない」と眞希にとっての希望になると思い、りかという人物として登場させました。

――主人公の家族の赤ちゃんと初めて会った時の表情も素晴らしかったですが、主人公の母役でみょんふぁさん、父役でオクイシュージさん、妹・渚役で辻凪子さんはどのような理由でキャスティングしたのでしょうか? また皆様大阪ご出身というのはこだわりですか?
 こだわりです(笑)。関西出身じゃない方が関西弁の役を演じられているのを拝見する時、お芝居が素敵でもどうしても発音が気になってしまう時があって……。今回は関西ご出身の方にお願いできたらと思いました。ちなみに、眞希の高校時代を演じたくれた大塚菜々穂さんも大阪出身です。

 凪ちゃん(辻凪子)は、昔映画のワークショップで一緒になったことがあって。別チームだったんですが、お互いに覚えていて、「次は共演できたら」なんて話していて。そんな時に、今回自分の妹役は、できれば大阪出身で映画制作の経験もある方となると、凪ちゃんしかいませんでした。

 みょんふぁさんは、野生児童の「春暁」という舞台で既に私の母親を演じてくださっていて、お芝居・人としての信頼があったので、母親役はみょんふぁさんしかいないなと思いました。

 お父さん役のオクイシュージさんは、劇団鹿殺しという私が昨年まで所属していた劇団の舞台で共演したことがあるのですが、プロ意識の高さ、お芝居への責任感、周りへの気遣いがすごい方で、ずっと尊敬している方です。また、オクイさん自身も映画監督のご経験(岡山天音主演『王様になれ』(2019))もある方で。明るくもあり、真面目な話もできる人という、眞希の父親像を演じていただくのは、オクイさんしかないなと思いました。

――演じていて難しかったシーンはどこですか?
 メインビジュアルにもなっている、退院後に山岡竜弘さん演じる良樹と、「延命のために難病を患っている我が子に大がかりな手術をするかをしないか話し合う」というシーンは本当に難しかったです。出産して間もなくでまだ現実を受け入れるのに必死なタイミングで、重大な選択を迫られる。また、生きるために手術をし、結果食事が出来ない状態で0歳から生き続けることは、我が子にとって本当に幸せなのか? という考えもよぎる。取材をしたところ、現実問題として、お子様に何かあった時にすぐに病院に連れて行けるように、休みをとりやすい職種に転職をしなければいけない。「実際、私だったらどうするだろう」と脚本を書いている時も悩みましたし、演じるとなっても答えが出ない、非常に難しいシーンでした。ですので、演技プランを持ちこまず、夫・良樹役である山岡さんと向き合って夫婦として会話することだけに集中しました。少しでも何かを持ち込むと、取材をさせていただいた方々にも、山岡さんにもすごく失礼だと思ったからです。自分でもどう転ぶかわからないと思いながら撮影し、お芝居後のモニターチェックはせず、撮影監督やヘアメイクさん、助監督さんなど信頼しているスタッフさんに判断を全て委ねました。1回目はセリフが聞こえないくらいボロボロになってしまい、それは録音さんが教えてくださったので、2回目を撮影し、このシーンの撮影は終わりました。

――本作の見どころはどこだと思いますか?
 沢山の方々の考えや生き方を1時間37分で観られるところです。ほとんどのお話は事実に基づいて執筆したので、人生の縮図みたいな作品になっていると思います。また、テーマのわりにポップで観やすいというのも大事にして作ったので、そこも見どころです。子どもにも男性にも観てもらいたいと思って作りました。また、私は舞台の時もですが、役者さんに「このキャラをやってください」と強いることはほとんどなくて、その方の人柄を活かして執筆し作っていくタイプです。ですので、役者さんのお人柄がそのまま滲み出る、魅力たっぷりの映画になっていると思います。

――読者の方にメッセージをお願いします。
 お読みいただき、ありがとうございます。新宿K’s cinemaでは、毎日上映後のトークイベントもあります。監修医の洞下さんや、取材協力の助産師の高杉さんも登壇していただきます。普段お伺いできないお話が聞ける、貴重な機会になると思っています。トークイベント後には、ロビーにおりますので、ご意見・ご感想・質問など、何かお話ししたいことがあれば是非お気軽にお声がけいただければと思います。前知識なく、老若男女問わず観ていただける作品となっております。劇場でお待ちしております!

【脚本・監督・プロデュース・眞希役】有田あん (An Arita)
1987年7月15日生まれ。大阪府吹田市出身。
劇団野生児童主宰、脚本・演出・役者。大阪出身。台湾とのハーフである。立命館大学、新演劇研究会劇団月光斜で芝居を始める。同時に、学内だけでなく京都の小劇場にも数々出演。演技指導にも関わる。2011年に上京。ENBUゼミナールで作・演出を始め、学内大会で作品賞を受賞。オーディションを経て劇団鹿殺しに出演。ENBUゼミナール卒業後、劇団鹿殺しの劇団員となる。(2023年8月に退団。)2015年に舞台活動を中心とするプロデュースユニット野生児童を旗揚げし、本格的に舞台の作・演出を始める。2019年に、有田杏子から有田あんに改名。認知症を患う母とその家族を描いた短編映画『光の中で、』(2019)で映像初監督。本作が、長編映画初監督である。俳優との出演作として、映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』(2022)、ドラマ「うちの弁護士は手がかかる」(フジテレビ)などがある。

映画『渇愛の果て、』

5月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

<STORY>
山元眞希は、里美・桜・美紀の4人から成る高校以来の親友グループに、「将来は絶対に子供が欲しい!」と言い続け、“普通の幸せ”を夢見ていた。妊娠が発覚し、夫・良樹と共に順風満帆な妊婦生活を過ごしていた眞希だが、出産予定日が近づいていたある日、体調不良によって緊急入院をする。子供の安否を確認するために出生前診断を受けるが、結果は陰性。胸をなでおろした眞希であったが、いざ出産を迎えると、赤ちゃんは難病を患っていた。

我が子を受け入れる間もなく、次々へと医師から選択を求められ、疲弊していく眞希。唯一、妹の渚にだけ本音を語っていたが、親友には打ち明けられず、良樹と子供のことで悩む日々。

そんな中、親友たちは眞希の出産パーティーを計画するが、それぞれの子供や出産に対する考えがぶつかり……。

<キャスト>
有田あん 山岡竜弘 輝有子 小原徳子 瑞生桜子 小林春世 大山大 伊藤亜美瑠 二條正士 辻凪子 烏森まど 廣川千紘 伊島青 内田健介 藤原咲恵 大木亜希子 松本亮 関幸治 みょんふぁ オクイシュージ

<スタッフ>
監督・脚本・プロデュース:有田あん
監修医:洞下由記 取材協力:高杉絵理(助産師サロン)
撮影:鈴木雅也 谷口和寛 岡達也 編集:日暮謙
録音:小川直也 喜友名且志、西山秀明 照明:大﨑和 大塚勇人
音楽:多田羅幸宏(ブリキオーケストラ) 歌唱協力:奈緒美フランセス(野生児童)
振付:浅野康之(TOYMEN)
ヘアメイク:佐々木弥生 衣装監修:後原利基
助監督:藤原咲恵 深瀬みき 工藤渉 制作:廣川千紘 鈴木こころ 小田長君枝 
字幕翻訳:田村麻衣子 配給協力:神原健太朗
宣伝美術・WEB:金子裕美 宣伝ヘアメイク:椙山さと美 スチール:松尾祥磨
配給:野生児童
2023/日本/97分/カラー/アメリカン・ビスタ/ステレオ
(C)野生児童

画像: 映画『渇愛の果て、』予告編 youtu.be

映画『渇愛の果て、』予告編

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