性能と機能、価格に優れた完全ワイヤレスイヤホンをステレオサウンドオンライン編集部が厳選して紹介するWEB特集「おすすめ5選」( https://online.stereosound.co.jp/_ct/17692788 )。そのなかから特に注目してもらいたい製品についてオーディオ評論家氏が詳しくリポートする企画の第二弾をお届けする。今回は、岩井 喬さんに、HIFIMANのニューモデル「Svanar Wireless Jr」を【深堀り】していただいた。(StereoSound ONLINE編集部)

HIFIMAN
完全ワイヤレスイヤホン
「Svanar Wireless Jr」
¥21,560(税込)

画像1: 「Svanar Wireless Jr」は、ハイレゾらしい緻密な音場表現、雄大なステージ感が楽しめる。LDACや独自の振動板を搭載したハイエンドモデルながら、2万円台前半というプライスも魅力

Svanar Wireless Jrの主なスペック
ドライバー構成:トポロジーダイアフラム搭載ダイナミック型
再生周波数帯域:10Hz〜35kHz
Bluetooth仕様:Ver.5.2
対応コーデック:SBC、AAC、LDAC
特長:アクティブノイズキャンセリング機能、IPX5防水対応、他
連続再生時間:約6時間(HIFIモード)、約7時間(ANCノイズリダクションモード)、約8時間(トランスペアレントモード)※ケースでの追加充電は3回までANC
ノイズリダクション:約35dB
重量:8.0g(イヤホン1ピース)、83.7g(充電ケースのみ)

 近年、完全ワイヤレスイヤホン(TWS)市場にも果敢に挑戦しているHIFIMAN。その中核といえるプロダクトが「Svanar Wireless」シリーズだ。有線イヤホンのハイエンドモデル「Svanar」の流れを汲むドライバー技術、シェルデザインを踏襲しつつ、独自のマルチビット・ディスクリートDACソリューションである、ヒマラヤR2R DACをも完全ワイヤレスイヤホンの小さな筐体に収め込んだ、意欲的なフラッグシップ機「Svanar Wireless」の登場は驚くべきものであった。

 その後、デザイン性や基本ソリューションをそのまま継承しつつ、LDAC非対応として低価格化を実現した「Svanar Wireless LE」も誕生。ハイレゾ対応ではなくとも、ヒマラヤR2R DACの持つ濃密なサウンド性をより身近なものとした功績はひじょうに大きなものであったといえよう。そして2024年、Svanar Wireless LEのさらに半値というプライスを実現した「Svanar Wireless Jr」が発売となり、大きな話題となっている。

画像: 特徴的な本体デザインは上位モデルの「Svanar Wireless」を継承し、仕上げがシルバーからホワイトに変更されている

特徴的な本体デザインは上位モデルの「Svanar Wireless」を継承し、仕上げがシルバーからホワイトに変更されている

 Svanar Wireless Jrは外観デザインこそ上位モデルと同じであるが、DACを独自のヒマラヤR2R DACからアイロハ製SoC内蔵のものを利用することで大きなコストダウンを実現。しかし、DSPアルゴリズムの最適化に加え、DAC以降のアンプモジュールに関しては上位モデルの流れを汲む、BTL構成の独立AB級バランスアンプを採用し、音質面へのこだわりについても決して妥協していない。

 機能面においても上位モデル同様にアクティブノイズキャンセル機能(以下、ANC)を備えているが、外音取り込み機能とともに、SoCで完結。HIFIモードでは独立したバランスアンプモジュールを使った駆動に切り替わるようだ。連続再生時間はSvanar Wirelessシリーズでもっとも長い8時間、充電ケースとの併用で32時間のロングライフを実現しているが、HIFIモードではアンプ駆動にリソースを多めに充てるため6時間となる。なおフル充電には2時間を要する。

 IEMを意識し、より高い装着性を追求するべく、エルゴノミックデザインを取り入れたイヤホン本体の形状も上位モデルと同じであるが、カラリングは白ベースへと変更。耳に接する面はシルバー仕上げとなった。このイヤホン本体はIPX5の防水性能を有しており、日常使いを意識した設計思想にも揺るぎはない。

画像2: 「Svanar Wireless Jr」は、ハイレゾらしい緻密な音場表現、雄大なステージ感が楽しめる。LDACや独自の振動板を搭載したハイエンドモデルながら、2万円台前半というプライスも魅力

 また、Svanarから受け継いだドライバーユニットである証拠ともいえるトポロジーダイアフラムも継承。これは振動板表面に特殊なメッキ処理を施し、表面構造を適切に調整する技術であり、一般的な構造のものと比べ、より自然できめ細やかサウンドを実現するという。

 コーデックはSvanar Wirelessと同じく、96kHz/24ビットまでのハイレゾ無線伝送を可能にしたLDACの他、AAC、SBCに対応。そして8組のサイズ・形状の異なるシリコンチップが同梱されており、充電ケースの内部空間を広く取ったことで、大きなサイズのイヤーチップを装着していても、充電の妨げにならないよう工夫されている。

LDACでの音質はいかに? 2種類のプレーヤーでじっくり聴いた

 試聴は普段使いを想定し、Androidスマートフォンのソニー「Xperia10 Ⅲ」(再生アプリには『Poweramp』を使用)と接続したパターンと、よりよい音質環境として、Astell&KernのハイエンドDAPである「SP3000」との接続でも確認を行った。いずれもコーデックはLDACを使用している。

 まずXperia10 Ⅲとの組み合わせであるが、地下鉄車内での環境下でANCを有効とすると、エアコンや走行音、トンネルの騒音などが軽減され、クラシックのようなダイナミックレンジの広いソースでも弱音部のニュアンスが掴みやすくなる。ANCの効き具合としては強めではないものの、音質に留意したバランス志向といえる感触だ。

画像: イヤホンの振動板には、表面に特殊なメッキ処理を施したトポロジーダイアフラムを採用した。充電ケースはひし形を多用した多面体で、底面に充電用のUSB Type-Cコネクターを備える

イヤホンの振動板には、表面に特殊なメッキ処理を施したトポロジーダイアフラムを採用した。充電ケースはひし形を多用した多面体で、底面に充電用のUSB Type-Cコネクターを備える

 HIFIモードに切り替えると音圧もアップするが、地下鉄の車内では騒音の方が勝るため、ある程度音量を抑えつつ、ANCモードで楽しむのが無難であろう。ANCモードのサウンドとしてはやや抑制的な傾向で、オーケストラは広がりより、ぎゅっと密度を高めた印象である。音ヌケのよさはHIFIモードに分があり、ヴォーカルやスネアドラムの快活さ、余韻の自然な階調表現についても同様だ。以降はHIFIモードでの音質について述べていく。

 一般的にハイレゾ音源をLDACで再生した際のメリットとしては、微小レベルでの再現性のよさ、楽器や声の質感の滑らかさ、粗さやきつさのない自然な再生音にある。なかでも余韻のキメの細かさ、グラデーションの緻密さは特筆すべきものだ。Svanar Wireless JrでのLDAC再生についてももちろん当てはまることであるが、試しにSBCコーデックへ切り替えてみてもサウンドバランスは大きく破綻せず、ディテイル表現がわずかに粗目となる程度であった。LDACの優位性に変わりはないが、どのコーデックでも本領を発揮できる点は頼もしい限りだ。

 クラシックの管弦楽器は、粒立ちがよくクリアーに浮き立つ明瞭な描写で、ハリよく爽やかに表現。ハーモニーの響きも緻密であり、低域方向の弾力も心地いい。ロックのディストーションギターのリフも小気味よくまとめ、スネアのリムショットを含め、耳当たりのいいサウンドとしている。

 Xperia10 Ⅲでの接続では輪郭表現が幾分マイルドとなり、ヴォーカルのエッジも穏やかに描く。しかしヌケ感もよく、口元もシャープに浮き立っており、明瞭さが損なわれるようなことはない。

画像: 試聴はスマートフォンと専用DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の 2種類を使って行った

試聴はスマートフォンと専用DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の 2種類を使って行った

 このパターンで印象に残ったのはサイモン・フィリップスの大口径ドラムの響きと、冴えわたるスティーヴ・ルカサーのエレキギターとの対比が好対照のTOTO「Gift Of Faith」(192kHz/24ビット)、そしてビリー・シーンの卓越したベースプレイの粒立ちと厚みを気持ちよく聴かせてくれたMR.BIG「Just Take My Heart」(192kHz/24ビット)。これらロックの楽曲におけるリズム隊のリッチさだ。前者はドラムのファットさ、胴鳴りのエアー感の豊かさも実感できる。後者はスイートなヴォーカル、クリアーで煌きのいいギター、低重心で安定的なリズム隊の融合感が特に素晴らしい。

 この低域の豊かさ、伸びのよさが本機の魅力であるが、パワフルなアンプモジュールのおかげで制動よくまとめてくれる点が好ましい。SawanoHiroyuki[nZk]「Hands Up to the Sky」(96kHz/24ビット)の肉付きよくダイナミックなベースライン、力強いキックドラムの存在感。その低域のパワーに負けず、ヌケよく艶やかに浮かび上がる女性ヴォーカルのどっしりとした安定的な描写、対比も印象深かった。

本格DAPとの組み合わせで、ハイレゾならではの緻密な音場表現が体感できた

 そして価格的にはアンバランスではあるが、SP3000との接続でも試してみる。Xperia10Ⅲに比べ、音像のフォーカス感、S/Nが向上し、音離れのよさ、しなやかな描写性で優位性を感じた。クラシックではアンドレア・バッティストーニ/東京フィルハーモニー交響楽団「『マーラー:交響曲・第5番』〜第1楽章」(96kHz/24ビット)を聴いたが、金管楽器のクリアーさ、大太鼓のニュアンスの厚みや細やかな抑揚感もていねいに拾い上げる。管弦楽器の旋律は太く安定しており、低域の沈み込み、どっしりとした響きの豊かさも堂々と描き出す。実にダイナミックで雄大なサウンドだ。

画像1: 本格DAPとの組み合わせで、ハイレゾならではの緻密な音場表現が体感できた

 ジャズのオスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』から「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」(CDリッピング)は、澄んだピアノやシンバル、トライアングルの響きも心地よく、アタックの響きも滑らかで落ち着きがある。ウッドベースの胴鳴りの豊かさ、弦のコシの太さも印象的で、ドラムセットの厚みも自然だ。スネアブラシの擦れ感もスッキリときめ細やかに表現している。

 特に好ましく感じたのは、中島美嘉「FIND THE WAY」(96kHz/24ビット)だ。鮮度のいい旋律と、重厚なハーモニーが融合するストリングスをバックに携え、艶ハリよく柔らかく浮き立つヴォーカルのエアリーさ、ウェット感との対比が美しい。島健が奏でるクリアーで軽やかなピアノの旋律と絶妙な距離感で定位するヴォーカルの存在感、重層的な空間表現も的確に表現。

 このあたりはLDACの効果も高く、ハイレゾならではの緻密な音場表現、雄大なステージ感を引き出している。リヴァーブの深い響き、その消え入る瞬間もわかりやすく、コーラスとの対比、分離感も爽快に描く。ベースやキックドラムの厚みもサウンドの土台を支えており、理想的なピラミッドバランスを構成している。

画像2: 本格DAPとの組み合わせで、ハイレゾならではの緻密な音場表現が体感できた

「Svanar Wireless Jr」で、音楽製作者の意図を汲める、深遠な空間表現を楽しむ

 Svanar Wireless Jrはシリーズの末弟ながら、ANCやハイレゾ対応といった機能性をきちんと取り込むことで、高音質モデルでありながらも2万円台前半という驚くべきプライスを実現した。Svanar Wirelessのデザイン性に惹かれつつも、その高価さから購入を諦めたという方にとっては、またとない選択肢となろう。

 上位機譲りのHIFIモードのパワフルかつ情報量豊かなサウンドは、低価格TWSでは味わえない世界観である。まず本機でLDACによるワイヤレス環境でのハイレゾ再生体験に臨むのも一興だ。一般的な圧縮音源では味わえない、製作者の意図を汲める深遠な空間表現をSvanar Wireless Jrで楽しんでいただきたい。

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