人を不安な気分にさせ、襲い、食い殺してしまうのが、ゾンビというものであろう。が、「哲学ゾンビ」は違う。共同生活もできる。だが、内面がすっかり失われてしまう。脳を失ってしまうので、自分で考えたり行動することができなくなり、そこにいる人間をまるまるコピーしたような口調で、オウム返しにしゃべる。どの人生の「属性」を継承するかが大切で、おだやかな、いい人間の「属性」を継承すれば、まあ、どうにかなりそうなのだとしても……。

 そこでこの映画なのだが、「哲学ゾンビ」になってしまった妻を持つ男の物語だ。しかもその属性が、よりにもよって「連続殺人鬼」のそれなのだ。つまりこの男は「連続殺人鬼」の魂を持ってしまった妻と同居しているわけだが、それでも妻は妻である。「連続殺人鬼」の属性だから、ときに殺そうと迫ってくることもある。でも妻は妻だから、男は変わらず夫婦で生きていこうとすることを決める。が、世の中はそんなに甘くはなく、「哲学ゾンビ」は明らかにやばい存在であるのだから殺処分すべきだというのが世の流れであり、妻にも殺処分が宣告される。が、彼女は今のところ犯罪もおかしていない。ただ脳が失われただけだ。

画像: 妻が「連続殺人鬼の属性を持つ哲学ゾンビ」になってしまった。それでも夫は愛を貫けるのか? 『物体 -妻が哲学ゾンビになった-』

 設定は奇想天外だとしても、物語中に出てくるいろんな事柄を、身の回りのそれに代入すれば、実に地に足の着いた、ヴィジョンの明確な作品ではないか。それに、「哲学ゾンビの殺処分」に疑問を持つ者は、この男だけではなかった。そこが作品を明るく照らし出す。あともうひとつ、エンドロールになってからも席を立たないほうが賢明である。今後の展開に大いに含みをもたせるパッセージが終結部に向けて、けっこうなボリュームで流れるからだ。

 監督、これが長編映画第一作となる伊刀嘉紘。10年にわたる構想を経て完成したという。12月9日より池袋シネマ・ロサにて劇場公開。

映画『物体 -妻が哲学ゾンビになった-』

12月9日(土)より池袋 シネマ・ロサにて公開!

<キャスト>
管勇毅 門田麻衣子
竹中凌平 藤崎卓也/川瀬陽太 比嘉梨乃 渡部遼介 山田浩 川連廣明 金原泰成 埜本佳菜美 小磯勝弥 井波知子 高越昭紀 川野弘毅 赤山健太 沖田裕樹 鈴木広志 東涼太 土屋吉弘 田中庸介 井手永孝介 青木俊範 しままなぶ 橋本晶子 谷村好一 大谷亮介

<スタッフ>
原作・脚本・編集・監督:伊刀嘉紘 プロデューサー:西田敬 撮影監督:國松正義 美術:宮下忠也、永野敏 音楽:一ノ瀬響、鶴見幸代 宣伝:Cinemago 制作協力:広尾メディアスタジオ 小野川温泉観光協議会 製作:金青黒 -sabikuro-
2023年/日本/DCP/カラー/ステレオ
(C)2023 金青黒 -sabikuro-

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