いよいよ本日(10/6)劇場公開となった『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話。冬季無限軌道杯の準決勝の模様が描かれるのだが、継続高校と対戦する大洗女子学園は、序盤であんこうチームが戦線離脱という大波乱の幕開け。もう一方の聖グロリアーナ女学院対黒森峰女学園も強豪校同士の激戦が予想され、中身の濃いドラマが予想される。今回は最新の立体音響技術ドルビーアトモス版音声でのマスコミ向け試写会が、東京・竹芝のイマジカ第2試写室で行なわれた。しかも音響監督の岩浪美和さんとCG監督・特技演出の柳野啓一郎さんによるティーチイン付き。この模様をレポートする。

画像1: 『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話、ドルビーアトモス版試写会レポート~岩浪美和(音響監督)&柳野啓一郎(CG監督・特技演出)が見どころを解説

 試写会が行なわれたイマジカ第2試写室は、株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(Imagica EMS)の新しい拠点となる「竹芝メディアスタジオ」にある。2021年12月に稼働したばかりの新しい施設で、その第2試写室はドルビービジョン、ドルビーアトモスに対応した最新のシアターだ。かつて五反田にあったイマジカの試写室も優れた画質と音質で評判だったが、新しいシアターもさらに実力を高めたものとなっている。

 まずは『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話をドルビーアトモス音声で上映。筆者はすでに5.1ch音声版の試写会にも参加しているのだが、ドルビーアトモス版は音の包囲感や移動感がまるで違う。そして、ハイスピードに展開するストーリーがよく分かることが印象的だった。

 上映が終了すると、まずは岩浪美和さんが登壇。5.1ch音声とドルビーアトモス音声の違いについて解説してくれた。

画像2: 『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話、ドルビーアトモス版試写会レポート~岩浪美和(音響監督)&柳野啓一郎(CG監督・特技演出)が見どころを解説

岩浪美和 ドルビーデジタル方式による5.1ch音声は、1992年に採用された方式で30年近く続いています。サラウンドと言えば5.1chが一般的で、現代の日本の劇場のほとんどが対応しています。対してドルビーアトモスは2012年に採用された方式です。一番の違いは、5.1chなどの従来のサラウンドが制作時に5.1chにすべての音を振り分けるのに対して、ドルビーアトモスでは118個のオブジェクトチャンネルの位置情報を記録すること。劇場にはスクリーンの裏だけでなく、横の壁や後ろの壁、そして天井にたくさんのスピーカーを配置していますが、ドルビーアトモスではそのスピーカーのすべてを個別に制御して制作時に記録されたオブジェクトチャンネルの位置(空間)に正しく音を再現します。位置情報はタテ1000×ヨコ1000×高さ1000で設定できますから、劇場に総数10億個のスピーカーがあって、劇場内のあらゆる場所から音が出ると考えてもらっていいです。

 これがオブジェクトチャンネルによる最新の立体音響技術だ。映画館では劇場内にあるスピーカーの数に合わせて、サラウンドプロセッサーがリアルタイムでスピーカーに音を振り分ける。家庭用のドルビーアトモスも、制御できるオブジェクトチャンネルの数や接続できるスピーカー数に違いはあるが、方式としてはほぼ同じだ。

 この結果、これまでのサラウンド以上にさまざまな位置に音を定位させることができ、自由自在に音を移動させられるのだ。従来のサラウンドとは表現力や臨場感が圧倒的に優れるため、イマーシブ(没入型)サウンドなどとも呼ばれている。

 この解説をふまえたうえで、継続高校戦のある場面を、5.1chとドルビーアトモスで比較上映。その差は明らか。雪上での戦車戦は今まで以上にハイスピードで目まぐるしく展開するが、5.1chだと戦いの中での戦車の動きが把握しにくい。あれよあれよという間に戦いが決着してしまう感じだ。これがドルビーアトモスになると、ハイスピードに展開する映像を見ながら豪快に雪上ドリフトを決めるポルシェティーガーなど、各戦車の動きと活躍がはっきりと把握できるようになる。

 この違いは大きい。特に戦車の形を見ただけで車種が特定できるくらいのガルパンファンでもない限り、大洗女子学園の各チームの車両を追うのが精一杯。登場するキャラクターもさらに増えた継続高校の面々の動きまで把握するのは何度も観る必要がある。これがドルビーアトモスならば初見でも物語の展開や戦車の活躍が把握できてしまうのだ。

画像3: 『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話、ドルビーアトモス版試写会レポート~岩浪美和(音響監督)&柳野啓一郎(CG監督・特技演出)が見どころを解説

 ここで、もうひとつのゲストとなる柳野敬一郎(CG監督・特技演出)さんが登壇。岩浪さんとのふたりでのトークとなる。

岩浪 今までも、シナリオ、コンテと見るごとに「これ、どうなるんだろう?」と思っていたガルパンですが、今回のはやりすぎでは? コンテの段階で柳野さんがかなり直したと聞いています」

柳野啓一郎 3Dカットのコンテ修正もやっています。実際の動きではコンテが上がってムービー制作に入りますが、その前にコンテのリファインの工程が加わっています。

岩浪 コンテより盛ってますよね。まさか勝手にやったとか。

柳野 監督の許可は取っていますよ。コンテを元に戦車の細かい動きや名も無い戦車がどういう意図で動いているかを考えると、戦車が勝手に動きはじめます。それに合わせてコンテの修正を提案しています。

岩浪 そのせいもあって、今回は音の作り方を変えざるを得なかった。ふだんは54分の本編を見て満足できるように全体を考えていきます。迫力を感じてもらう場面、気を抜いてもらう場面とメリハリを付けていきます。今回は映像の情報量が膨大なので、音はあまり目立たないようにしました。映像のサポートに回っています。映像の理解度を深める音作り、鑑賞の助けになる音を目指しました。今まではわりと無茶な音も入れていますが、あまり入れていません。映像が凄すぎた。

柳野 ドルビーアトモス音声だと、どこから戦車が現れるか、どのように動いているかがわかりやすくなっていました。映像と音の完成度が高まったと思います。

岩浪 今までは映像も音も、お互いに負けないように競っているところがありました。「ドヤ!」ってね。今回は映像に寄り添って作るしかなかったです。音の位置や移動感に注目してほしいです。日本映画のアクションの最高峰です。継続高校戦は雪上を戦車が滑ることもあって、スピード感はいつも以上ですが、そのあたりはどのように調整しましたか。

柳野 高速で動く物体の見せ方というのは、師匠である板野一郎の教えどおりです。クレジットにコンテ修正と特技演出が加わっていますが、特技演出という役職は板野一郎ならではのものですから、許可を得て使わせてもらっています。

岩浪 柳野サーカスだ!

柳野 ハイスピードなシーンではモノをいっぱい出せばいいのではなく、映像としてどう見せるか、そのためにどう動かすのかを考える仕事だと教わりました。

岩浪 これをドルビーアトモスで観てもらうのがベストだと思います。5.1chの劇場でも観てほしいですが、アトモス上映もぜひ楽しんでほしいですね。

柳野 今回はアクションの密度も高いので、初見ではアトモスで流れを把握してもらうといいと思います。次に細かいところ、戦車などのキャラクターが生きていること、すべての動きに意味があることを見てほしいです。

岩浪 細かいところだと、テレビ版から劇場版になるときに五角形のナットが現実と同じ六角形になるなどモデル自体も変わっていますが、今回も変わっていますか。

柳野 新しい戦車だけでなく、IV号戦車などもなにかしら手が加わっています。戦車に詳しい人だと違いにも気付くのではないでしょうか。

岩浪 総カット数は1000カットほどと聞いていますが、そのうちCGカットはどれくらいですか?

柳野 800カットはあると思います。

岩浪 戦いっぱなし。54分の上映時間のうち、40分以上戦車シーンという構成ですね。

岩浪 戦車戦の場面では水島監督の要求も厳しいのですか。

柳野 水島監督は背景動画、ほぼすべてCGが画面全体で動くシーンが好きですね。主観視点とか。CGのおかげでより面白い映像が作れるようになったと言っています。

岩浪 作るのが難しかったのはどの場面ですか。

柳野 うーん。全部ですね。CGなら戦車を動かすのも楽だと思われがちですが、全然楽じゃありません。毎回大変でも今回ももの凄く大変でした。雪山の次は砂漠なので楽になるかというと、砂漠でも砂嵐が吹きますから。やはり大変です。視界が見えづらくなって戦車の中で戦っている人が混乱するのはいいのですが、観客にわかりにくくなるのはまずいんです。そこの調整が大変でした。

岩浪 僕はこれまでもアニメでドルビーアトモスで作りたいと言い続けて、日本では一番ドルビーアトモスの映画を作っています。最近ではようやくドルビーアトモス制作の作品が増えてきましたが、海外ではアトモス制作が当たり前ですから、まだまだ差はあります。アニメが海外の市場で勝負していくためにもドルビーアトモスが必要なんです。ドルビーアトモスの魅力もしっかりとわかる作品になっています。今回はぜひとも「アトモスはいいぞ」って言ってほしいですね。

 公開直後ということで、ストーリーに関わる具体的なトークはカットしたが、今まで以上にアクションの密度とスピード感が高まっているのはわかってもらえたと思う。ファンにとっては待望の第4話。オープニングも新しくなるなど、待っただけの価値のある映像と音に仕上がっている。なお、トーク部分では映像のサポートに回っていると岩浪美和さんが言っていた音響だが、当然ながら肝心な場面ではもの凄い音が入っているので、安心(!?)してほしい。

画像4: 『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話、ドルビーアトモス版試写会レポート~岩浪美和(音響監督)&柳野啓一郎(CG監督・特技演出)が見どころを解説

 ガールズ&パンツァーに関して言えば、最終章もすでにパッケージ化されているが収録音声は5.1ch版。つまり、現在のところドルビーアトモス音声を楽しめるのは劇場公開のみだ。ファンはもちろんだが、そうでない人もぜひドルビーアトモス上映に注目してほしい。また、映画好きでドルビーアトモスに関心はあるものの今までのサラウンドとあまり違いがわからないという人にとっても、ドルビーアトモスの威力がよくわかる作品になっているので、ぜひ期待してほしい。

画像5: 『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話、ドルビーアトモス版試写会レポート~岩浪美和(音響監督)&柳野啓一郎(CG監督・特技演出)が見どころを解説

『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話

2023 年10 月6 日(金) 劇場上映

【STAFF】
監督:水島 努/構成・脚本:吉田玲子/キャラクター原案:島田フミカネ/キャラクターデザイン・総作画監督:杉本 功/考証・スーパーバイザー:鈴木貴昭/キャラクター原案協力:野上武志/ミリタリーワークス:伊藤岳史/プロップデザイン:竹上貴雄・小倉典子・牧内ももこ・鈴木勘太/3DCGI 監督:柳野啓一郎/モデリング原案:原田敬至・Arkpilot/3DCGI:STUDIO カチューシャ/色彩設計:原田幸子/美術監督:平栁 悟/撮影監督:棚田耕平/編集:吉武将人/音響監督:岩浪美和/音響効果:小山恭正/録音調整:山口貴之/音楽:浜口史郎/アニメーション制作:アクタス/製作:ガールズ&パンツァー 最終章 製作委員会/配給:ショウゲート/上映時間:54 分
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt

本予告第2 弾(90 秒) https://youtu.be/CxNqHf8AnW0

上映館情報 https://girls-und-panzer-finale.jp/theater-finale04-screening/

作品公式サイト https://girls-und-panzer-finale.jp/

作品公式X(旧Twitter)  https://twitter.com/garupan

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