ロス爆発寸前 ー 緊迫怒涛の115分!
私がこれまでに作った映画、そして作ろうと決めた映画はすべて、善と悪が紙一重となっている。その細い境界線は、私たちひとりひとりの中にも存在する。これが私の映画のテーマであり、この作品のテーマにもなっている。警察官と犯罪者の間には紙一重の境界線がある。優れた警官は犯罪者のように考えることができるが、彼らは運命のいたずらによって犯罪者になっていたかもしれない。(ウィリアム・フリードキン)
8月に87歳で他界した偉大なるウィリアム・フリードキン監督作(本盤冒頭の解説で「体調が優れない」と語っている)。問題作『クルージング』(1981)公開後、心臓発作を起こして瀕死の状態に陥り、数か月をリハビリテーションに費やしたフリードキンだが、これは『世紀の取り引き』(1983)に続いて放った犯罪スリラーの傑作である。
警察や犯罪者の登場人物を描くにあたって、中途半端な心理学的趣向や、ありきたりなサブプロットが避けられている。登場人物たちの性格は、行動によってのみ明らかにされるのだ。200人のスタントドライバーが参加したスリリングなカーチェイスや、実際の偽札犯の指導を受けた生々しい偽造モンタージュも、その一部として成立している。(デジタル・フィックス)
フリードキンは『48時間』『リーサル・ウェポン』といった80年代の流行ジャンルであるバディ・ムービーに対抗するかのように、彼ならではの毒の効いた容赦なき演出を披露する。『フレンチ・コネクション』の焼き直しと決めつける向きもあるが、飛んでも八分、いつのまにか既成の犯罪映画の枠組みは焼き払われ、観客は未知のネオ・ノワール世界に迷い込んでいくことになる。
これは彼(フリードキン)の復帰作であり、初期の作品の奥深さとスキルを示している。中心的なパフォーマンスは、シカゴの舞台俳優ウィリアム・L・ピーターセンによるもので、タフで、強靭さがあり、頭の切れる印象を与えている。彼はスティーブ・マックイーンの資質をいくつか備えている。もうひとり力強い演技を見せているのはウィレム・デフォーだ。(評論家ロジャー・エバート)
定年退職間近の相棒ジミーを殺されたシークレット・サービスのエージェント、リチャード・チャンス(ピーターセン)。ジミーを殺害したのは、チャンスが追い続けている偽札犯エリック・マスターズ(デフォー)。マスターズを捕らえるために、チャンスはあらゆる手段を使って復讐することを誓う。彼の新たなパートナー、ジョン・ヴコビッチ(パンコウ)は、その手段がどれほど無謀で執着的なものになるかを知らずに、彼を補佐することになる。規則を無視したチャンスの行動は熾烈を極め、やがて犯罪者のそれと見分けがつかなくなっていく。原作は元シークレット・サービスのジェラルド・ペティエヴィッチによるベストセラー。ペティエヴィッチとフリードキンが共同脚色。
映画の画像が生み出すマジックは、観客が光の現実を信じるかどうかにかかっている。私はアベイラブルライト(その場所にすでに存在する光)での撮影を非常に尊重する傾向がある。照明やフレーミングで人為的にコントロールして、フォーマルで美しい画像を作ることは、それほど難しいことではない。端を歩く方がずっと面白い。適正に処理することを求めると、自分自身の成長がそこで止まってしまうし、映画自体の可能性も萎んでしまう。(撮影監督ロビー・ミュラー)
撮影はヴィム・ヴェンダースと組んで(短命だった)ニュー・ジャーマン・シネマを担った撮影監督であり、渡米後も『パリ、テキサス』『ダウン・バイ・ロー』『デッドマン』等で高い評価を得た名手ロビー・ミュラー。ツァイスとクックの球面レンズを装備したアリフレックスBL3撮影。フジカラーネガティブフィルムA 8511/125T(LUTも同様)使用。アスペクトは1.85:1ビスタサイズ。
ちなみに1983年にリリースされたA 8511は、従来の映画用フィルムよりさらに画像の保存性などを大幅に改良、併せて無公害の過硫酸塩漂白処理適性をもたせた製品。感度も従来の露光指数100から125に向上。色再現性を改良しつつ、超微粒子と鮮鋭なシャープネスを特徴とした。
いまやUHD BLU-RAYリリースのリーダーのひとつとして認められているキーノ・ローバーだが、本作でもその存在感を発揮している。監督フリードキンの監修・承認を得た、35 mmオリジナルカメラネガからの2019年4KデジタルレストアDSM(デジタルソースマスター)使用。デラックス・メディア社による最新HDRグレード。HDRはHDR10とドルビービジョンHDRをサポート。HDR のピーク輝度は1349nits に達し、平均も626nitsと高く、映像平均転送レートは78Mbpsを記録(3層100GBディスク)。同梱BLU-RAYも新しい4Kマスターを採用、SDRグレードが施されている。
画像クオリティはかつてないほどにアップグレード。ディテイルは鮮明かつシャープになりすぎず、細粒のグレインが HEVC エンコードによって適切に処理されている。粒子感は犯罪スリラーに相応しいもので、フィルムストックの特徴が尊重されており、有機的な画調が目を奪う。際立つファブリックの質感や顔の特徴、街頭外角風景や室内装飾などのディテイル描画も際立っている。
HDRは優秀なコントラストを実現。ハイライトの白飛びを許さず、深い黒と強靭な陰影のディテイルは観応えあり。アヴェイラブルライトの持ち味も十分に出る。とりわけ精彩を放つのはWCG(広色域)によって拡張強化された色再現。より深い色彩度と濃淡が提供され、ロサンゼルスのダイナミックな息づかいを伝えて余りある。暗闇を切り裂くポップなネオンライトも強烈だ。惜しむらくは、いくつかのショットで軽度のパラが残存していること。
この容赦ないスリラーのサウンドトラックは、ミケランジェロ・アントニオーニの『砂丘』(1970)を思わせる。しかし、アントニオーニがピンク・フロイドのオリジナルスコアの大部分を破棄したのに対し、フリードキンは(英国出身の音楽グループ)ワン・チャンにほぼ自由な創作を許している。その結果、彼らの邪悪でスリリングな楽曲は映画を強化するだけでなく、作品テーマとビジュアル・スタイルと完全に融合し、より深く、より強力な次元を映画に与えた。それはレーガン時代の強欲に奴隷化された都市の、ザラザラとした質感を持ったビジョンと完璧に調和している。(リレコーディング・ミキサー、クリス・ジェンキンス - 『愛と悲しみの果て』『ラスト・オブ・モヒカン』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でオスカー受賞)
音響エンジニア(サウンドデザイン/音響編集)は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ラスト・ボーイスカウト』のサミュエル・C・クラッチャー。リレコーディングミキサーはクリス・ジェンキンス他、オスカー受賞者が顔を揃えている。ドルビーステレオ上映作品。DTS-HD MA 5.1ミックスと2.0ステレオ・ミックスを収録。デフォルトの5.1chトラックは、2010年MGM BLU-RAY音声と同じマスターと思われるが、整音精度は高い。2.0音声のクオリティはいまひとつ。
ここでは典型的な 80 年代中期のドルビーステレオ・ミックスの再現に努めており、音響エネルギーの大半をフロント・チャンネルに集約、サラウンドはアンビエンスと残響のシンプルな使用に限定されている。フロント・チャンネルのセパレーションは良好。発声は明快であるが、一部のADRは明瞭度が落ちる。ローエンドやLFEエンハンスは、ワン・チャンによるシンセ主導のスコア、銃声やカーチェイスの衝突音をサポートしている。
UHD PICTURE - 4.5/5 SOUND - 4/5
バックナンバー:銀幕旅行
バックナンバー:世界映画Hakken伝 from HiVi