「次はどうなるのか?」と、ハラハラしながら見入った。2020年の第33回東京国際映画祭のワールドプレミアとして上映されて話題を呼んだ作品が、ついに全国公開されることになったのは大きな喜びだ。監督のシェン・ユーは、中国で最も注目されている気鋭であるときく。彼女が初監督作品の題材としたのは、2011年に起きた事件。母と娘が、娘の同級生を誘拐・殺害するという、「事実は小説より奇なり」を地で行くような事柄をベースとして、ときに冷酷に、ときに物語性豊かに描く。

 映画の冒頭は、いわば「現在」。事件の後である。そこから一気に時が戻る。舞台は、重工業が盛んな四川省の攀枝花市。父親、継母、弟と決して豊かとはいえない暮らしをしている高校生のシュイ・チン(リー・ゲンシー)が主人公だ。そこに突如、実母が都会から戻ってくる。派手で不良でダンスが得意でちっとも所帯じみていない実母のふるまいは、素朴な彼女を大きく刺激した。シュイ・チンには、父親の暴力にふるえながらも美貌を生かしてモデル活動をおこなっているマー・ユエユエ、経済的に恵まれた家に生まれたが両親がものすごく不仲なジン・シーという友人がいた。この仲良しグループのつながりが、だんだんと3人のなかで形骸化していくところも、物語の大きな見どころとなっている。「むなしさが高まった先にあるものは、果たして何なのか?」と考えさせる。

画像: 『トレインスポッティング』やポン・ジュノを愛する中国の才人が放つ、超スリリングな初監督作『兎たちの暴走』

 小道具の位置ひとつにも徹底的にこだわったであろうディテイルの細かさにも惹かれたし、縦横無尽なカメラ・ワークも含めて、見て、感じていただくしかないが、物語の筋とは直接関係ないところで筆者が大いに感銘を受けたのは、「ユエユエの父の暴力性」を描く場面だ。この部分だけで、シェン・ユー監督が「いかにセンシティヴに現在の空気を呼吸しているひと」かが、よくわかり、彼女の作品を見たのはこれが初めてだというのに一気に大きな信頼感を得た。脚本:シェン・ユー、チウ・ユージエ、ファン・リー。

映画『兎たちの暴走』

8月25日より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺
8月26日より新宿K's cinemaほか全国順次公開

監督:シェン・ユー(申瑜) 脚本:シェン・ユー(申瑜)/チウ・ユジエ(邱玉潔)/ファン・リー(方励) プロデューサー:リー・ユー(李玉)/ファン・リー(方励)
出演:ワン・チェン(万茜)、リー・ゲンシー(李庚希)、ホァン・ジュエ(黄覚)ほか
(2020年/中国/105分/北京語、中国語/日本語字幕:鈴木真理子/原題:兔子暴力 The Old Town Girls)
(C)Beijing Laurel Films Co.,Ltd.

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