Maestraudioの有線イヤホン(IEM)第3弾となる「MA910SR」が発売中だ。これは、ベースモデルとなる「MA910S」にさらに改良を施し、Pentaconn earコネクターを採用してリケーブルに対応するなど、さらに魅力を高めたモデルとなる。¥19,800(税込)という手頃な価格もさることながら、素直な音色と豊かな音場感の再現力を持っていることから、発売以来大きな人気を集めている。ここでは、その「MA910SR」を取り上げて、ベースモデルMA910Sとの音質の比較や、Astell&KernのUSB DACアンプ「AK HC3」、ポータブルプレーヤー「A&futura SE300」と組み合わせてのインプレッションをお届けしたい。

Maestraudio
有線イヤホン
「MA910SR」
¥19,800(税込)

●形状:IEM型●カラー:マエストロブルー、グレイシアブルー●ドライバー:ハイブリッド型、10mm径グラフェンコートダイナミックドライバー×1、9mm径RST(Reactive Sympathetic Tweeter)×1●インピーダンス:16Ω●感度:100dB●周波数特性:20Hz~40kHz●コネクター:Pentaconn ear(OFC)●ケーブル長:1.2m(3.5mm3極L字プラグ)●付属品:シルバーコートOFC&OFCハイブリッドケーブル、iSep01イヤーピース(S/MS/M/L)、本革コードリール、キャリングポーチ

画像: Maestraudioの「MA910SR」は、手頃な価格で有線イヤホンの魅力を楽しめる逸品。豊かな音場と自然で緻密なサウンドがより進化

リケーブルによる音質チューニングが楽しめる有線イヤホンが今、面白い!

 iPhoneからイヤホン出力がなくなってすでにかなりの時間が経過しているし、Android端末も同じ傾向にある今、スマートホンで音楽を楽しむならばワイヤレスのイヤホンが主流だろう。しかし、そんな現状にあっても、やはり有線イヤホンが面白い! 特に、今年は1万円クラスに実力優秀な製品が増えてきていて、その中でもぼくが注目しているのがMaestraudioの「MA910SR」だ。

 その「MA910SR」の魅力を紹介する前に、有線イヤホンの面白さについて考えてみたい。まず、本質的に音が良い。プレーヤーの音を圧縮せずに伝送できるからだ。当たり前のことを言っているようだが、ワイヤレスイヤホンでは、ワイヤレスの伝送規格(=Bluetooth)に合わせて、楽曲(デジタル音源)を“圧縮して”伝送している。これに比べれば、CD音源にしろ、ハイレゾ音源にしろ、プレーヤーでアナログ変換(D/A)された音楽信号を“そのまま伝送”して再生してくれる有線イヤホンの優位性が分かるだろう。

 もちろん、ワイヤレスイヤホンも音質的にはかなり進歩していて、ハイレゾフォーマットでの伝送に対応する「LDAC」や「aptX Adaptive」といった高音質コーデックも登場している。しかし、そのぶん高価になる傾向があって、普及価格帯でも1~3万円、音質が自慢の高級機になると5万円を超えることも珍しくなくなってきている。

 そして有線イヤホンならではの楽しみ方もある! それがリケーブル(ケーブル交換)によるバランス接続だ。バランス接続とは、基本的には片チャンネル当たりプラスとマイナス、アースの3本で信号を伝送する接続のこと。一般的なアンバランス接続(3.5㎜ステレオミニなど)では、プラスとマイナス+アースの2本となるが、バランス接続では、プラスとマイナスの信号が独立しているので、外部からのノイズの影響を低減できるなど、音質的に有利な方式となる。もう少しマニアックな話をすると、ハイエンドオーディオやスタジオなどの業務用機器で採用されることが多く、ハイエンドクラスのアンプでは、内部がバランス構成となるものも珍しくない。

 そうした音質面での優位性を受けて、近年ではヘッドホンやイヤホンだけでなく、ポータブルプレーヤーにおいても、バランス接続(4.4㎜/XLR/ミニXLRなど)に対応したモデルが増えてきている。リケーブル対応のイヤホンは、バランス接続用ケーブルへの交換が必要な場合もあり、ちょっとしたコスト増になってしまうが、総じて音質的に有利で、お気に入りのイヤホンの音質をさらにグレードアップするには最適な手法と言える(リケーブルに対応していても、バランス接続には非対応というモデルもあるので注意したい)。

 つまり、有線イヤホンは音質的に有利な上に、リケーブルで音質チューニングができるなど、楽しみの幅が広いことも特徴となる。しかも、手頃な1万円台の価格の有線イヤホンにおいても、驚くほどの実力を備えた製品が増えているのだ。「MA910SR」はその代表的なモデルと言える。

オーツェイドが誇るセラミック技術を元に開発した「RST」を搭載

 Maestraudioは、オーディオメーカー・オーツェイドが展開する独自技術である「セラミックオーディオテクノロジー」を使用した新たなIEMブランドとなる。10mm径のグラフェンコートダイナミックドライバーに、9mm径のパッシブ型セラミックコートトゥイーター「RSTドライバー」が組み合わされている。RSTドライバーは、真後ろに配置されたダイナミックドライバーの音波を受けて振動することで、主に高域の音を再生する仕組みで、管楽器にも使われる赤銅を基材とした振動板にセラミックコートを施したもの。高音域での指向性が広いことが特徴で、ボディの小さなIEMに内蔵するドライバーとして開発されたものだ。

画像: オーツェイドが誇るセラミック技術を元に開発した「RST」を搭載

 さらに、TBI Audio Systemsの音響補正デバイス「HDSS」も搭載しており、コンパクトな樹脂筐体では難しい広い音場の再現を可能にしている。音質チューニングにおいては、頭部伝達関数に注目し、聴き手が臨場感を得るために適した周波数特性に最適化されているということだ。ハート型の可愛らしいハウジングの形状も、音響的に工夫されたものだという。ここまでは、MA910SやMA910SBとほぼ同じだ。

画像: ▲Maestraudioの第一弾モデル「MA910S」

▲Maestraudioの第一弾モデル「MA910S」

 「MA910SR」では、前出の通りリケーブルに対応した点が新しい。ブランド第1号モデルMA910Sは、音質の良さで評判となったが、ユーザーからはバランス接続への対応が要望として出てきた。そこで登場したのがバランス接続に対応したMA910SB(リケーブルには非対応)。そうなると今度は、リケーブルにも対応して欲しいという要望が出た。そうして本稿の主役となる「MA910SR」の登場に至るというわけだ。

 リケーブル用のコネクターには、Pentaconn earコネクターを採用している。これは、脱着時の機械的な信頼性が安定していることに加え、MMCXコネクターに比べて接点抵抗を1/10以下に抑えていることが大きな特長だ。リケーブルによる音質の変化を楽しむうえでも、音質的にも接点抵抗が少ないことが重要と考えての採用になるそうだ。

 さらに外観上の大きな違いとなるアルミ製のフェイスプレートを採用した。もともと樹脂で作られているハウジングも、独自にFEM(有限要素法)解析して設計されているが、ドライバーの背面からの音がフェイスプレートにぶつかって細かな振動を発生させることが分かっている。しかもこの細かな振動がより速く筐体全体に伝わることで、より多くの情報量を持った音が得られることに注目し、振動の伝播がより速いアルミ製フェイスプレートを採用したという。

画像: ▲「MA910S」(左)と「MA910SR」(右)。MA910SRではフェイスプレートが金属製となり、性能だけでなく質感も向上している

▲「MA910S」(左)と「MA910SR」(右)。MA910SRではフェイスプレートが金属製となり、性能だけでなく質感も向上している

 リケーブルへの対応だけでなく、さらに音質向上を追求したグレードアップが図られているというわけだ。それだけの実力の向上を果たしているので、価格がMA910Sより高くなっていることにも納得だ。

スマホとの組み合わせでも、情報量豊かで、より広大な音場が楽しめる

 ではいよいよ試聴だ。まずは手持ちの「iPhone 14」とAstell&Kern「AK HC3」の組み合わせで、両者を聴き比べてみよう。AK HC3はスティック型のコンパクトなDAC内蔵ヘッドホンアンプで、コンパクトなサイズながらもESS社の「ES9219MQ」を2基搭載してデュアルDAC仕様とするなど、実力の高いモデルだ。iPhone 14との接続では、付属のUSB Type-C to Lightning変換アダプターを使用している。iPhoneの再生アプリはラディウスの「NePlayer」だ。

画像: ▲スマートホンでの試聴用に、Astell&KernのUSB DACアンプ「AK HC3」を組み合わせている(出力は3.5㎜ステレオミニ)

▲スマートホンでの試聴用に、Astell&KernのUSB DACアンプ「AK HC3」を組み合わせている(出力は3.5㎜ステレオミニ)

画像: ▲iPhoneとは同梱のコネクターを使用して接続した

▲iPhoneとは同梱のコネクターを使用して接続した

 まずはMA910Sを聴く。聴き慣れたクラシックの曲を聴くと音場感も広いし、細かな音まできめ細かく再現されているのが分かる。低音の量感豊かな響きもしっかりと出るし、ティンパニの連打ももたつくことなく歯切れよく鳴る。AK HC3の情報量の豊かな音にも感心するが、その情報量をきちんと再現できていて、1万円のイヤホンとしてはかなりの実力だと感じる。高域はきめ細かいが線が細くなりすぎず、しかも聴き心地のよい素直な音質で楽器の音色なども自然な音質で再現する。人気となったのもうなずける音質だ。

 久石譲/ロイヤル・フィルによる『A SYMPHONIC CELEBRATION-Music from the Studio Ghibli films of Hayao Miyazaki』のハイレゾ版(96kHz/24bit FLAC)から、『風の谷のナウシカ』の曲を聴くと、自然で柔らかな音色で「ナウシカのテーマ」や「鳥の人」を鳴らし、クライマックスの雄大なメロディーも堂々とした音で描く。一方で、仮面ライダーの楽曲を現代的なアレンジで収録した『シン仮面ライダー音楽集』の電子楽器も多用したビートの効いた楽曲も歯切れ良い音で楽しめる。音質的なバランスも素直で聴きやすく、情報量も充分。スマホを使って気軽に音楽を楽しむならば、上等すぎる音だ。

 今度は「MA910SR」に替えて聴いてみよう。ケーブルは付属のアンバランスケーブルだ。一聴してわかるのが、音の情報量がさらに増していること。音場もさらに広がっている。優しい感触の音の印象は大きく変わらないが、細かな音が出るようになったし、音の立ち上がりの素早さも出てきている。

 久石譲の「ナウシカのテーマ」や「鳥の人」では、音場の豊かさが印象的だ。音場というとイヤホンならば頭の外まで音が広がる感じや、頭の中で鳴っている感じがしない空間的な抜けの良さを連想すると思うが、ただ音場が広がるだけでは個々の音が薄まるというか、少し寂しい感じになってしまう。「MA910SR」だと細かな音の情報量が増えているので、音と音の隙間が埋まるというか、音場は広がりに合わせて音の密度も高まっているのが分かる。この聴こえ方の違いはかなりの差だ。

 『シン仮面ライダー音楽集』でも、音のキレ味がさらに高まったように感じ、MA910Sに戻してみるとややソフトでスピード感が物足りなく感じてしまうほど。低音の伸びも厳密に比較すると大きな差はないと思うが、「MA910SR」の方がローエンに伸びがあり、ビートの効いたドラムの音もより重厚で力強くなっている。

 まさしくMA910S系列の完成形と言いたくなる音で、これならば1クラス上の3~5万円くらいのイヤホンと比べても実力的に遜色がないと感じる。

高級プレーヤーと組み合わせでは、全方位的に音質が向上。プレーヤーのクォリティに相応しい表現力を発揮

 「MA910SR」の実力はたいしたものだ。スマホとAK HC3の組み合わせでも通勤・通学で気軽に使えて、しかも飽きることなく長く愛用できる実力があるが、より優秀なプレーヤーと組み合わせたらどうなるだろう? そこで、Astell&Kernの注目のポータブルオーディオプレーヤー「A&futura SE300」と組み合わせて聴いた。

画像: ▲Astell&Kernの高級ポータブルオーディオプレーヤー「A&futura SE300」とも組み合わせてみた

▲Astell&Kernの高級ポータブルオーディオプレーヤー「A&futura SE300」とも組み合わせてみた

 まずは、付属のアンバランスケーブルで接続。SE300の設定はぼくの好みで、「NOSモード/A級動作」としている。当然ながら、印象的だった音場の密度の高さ、広がりの豊かさなど大きな差になる。自然な感触でなめらかな「MA910SR」の音質と、R2R DACのある意味でアナログ的な感触の音も絶妙にマッチして、優しい音から厳しい音までありのままの自然な感触で楽しめる。こうしたプレーヤーとの違いにも敏感に反応するので、プレーヤーを替えるなどさまざまな機器と組み合わせて聴いても,その違いをきちんと表現してくれる。

 久石譲の「ナウシカのテーマ」、「鳥の人」では、クラシック編成のステージの大きさ、ぐっと盛り上がる雄大なメロディーの高揚感も見事だ。音像自体も芯の通った実体感があり、かなりリアルな感触がある。『シン仮面ライダー音楽集』でも、重厚な低音のリズムを力強くきざみ、迫力たっぷりの音だ。それでいて基本的には素直で柔らかい感触なので、意図的に付加された歪んだ音などが耳に付くようなこともなく、情報量が豊富でも聴きやすい。このあたりは長く音楽を聴きっぱなしにしても疲れにくいし、ふだんから使いやすいと思う。

趣味のオーディオ機器としての魅力を改めて実感させてくれた

 最後はリケーブルも試してみた。悩ましいのが交換用ケーブルの選択で、Pentaconn earコネクターということで、選択肢もやや狭まるのだが、評判の良さそうなもの、音質的に良さそうなものを探していくと、5万円前後のものが多いと分かる。ケーブル交換などのアクセサリーにどれだけお金を費やすかは他者がとやかく言うことではないが、ぼく自身は元の価格とのバランスが重要だと考える。

 「MA910SR」を例にすれば、約2万円のイヤホンに5万円のケーブルを組み合わせるのはどうだろうか。もちろん、音はそのぶん良くなるだろう。しかし、5~7万円のイヤホンに買い換えた場合の方が満足度は高いのではないか。「MA910SR」にあえて苦言を呈すならば、価格が安いこと。交換用ケーブルは基本的に高価なものが多いので、価格的に釣り合わないものが多いのだ。個人的には「MA910SR」に組み合わせるならば、ケーブルは1万円が精一杯、できれば5000円くらいが理想。これはMaestraudioだけの問題ではないが、メーカーには純正の交換用バランスケーブルの発売を検討してほしいし、「MA910SR」に釣り合う価格の交換用ケーブルが数多く発売されてほしいと思う。

 そこでぼくが選んだのは、onsoの「iect_03_bl4p」(¥9,900 税込)。価格を優先して選んだのは確かだが、実はonsoのケーブルはこれまでもよく使っていて、特にコストパフォーマンスの高さに感心している。

 Pentaconn earコネクターについては、使い勝手としてはMMCXと同じ感覚で使えるので戸惑うことはないだろう。しかし、Pentaconn earコネクターとMMCXコネクターは一見よく似ているが、互換性はないので間違えると接続できないし、破損してしまうこともあるので注意しよう。

 「MA910SR」に、onsoのリケーブル(Pentaconn ear/4.4mm)を組み合わせ、SE300の4.4mmバランス出力端子に接続する。SE300のバランス出力は出力値も大きいし、ぼくの個人的な好みからしてもエネルギー感のある音でアンバランス出力よりも気に入っている。そこの違いも含まれるので、ケーブル交換だけの音質差ではないが、驚くほどの音質向上だ。

 久石譲の「ナウシカのテーマ」などでも、音のエネルギー感がまるで違う。雄大なメロディーやバトルシーンで使われるような迫力のある曲はもちろんだが、ピアノの伴奏だけでシンプルに演奏するような曲、幼少期のナウシカの思い出を振り返る場面でのしっとりとした哀しげな曲などでも一音一音の力強さや楽曲としての訴求力がまるで違う。「鳥の人」の壮大なクライマックスなどは鳥肌が立つようなスケールの大きさと高揚感が味わえる。

 こういうことがあるから、交換用ケーブルに高価なものを選ぶのは無駄遣いとは簡単には言いにくい。緻密で精細だがけっして尖りすぎず、滑らかで聴きやすい音、自然で密度の高い音場など、「MA910SR」の持ち味はそのままなのに、まるで別物に化けたように感じるほど、音楽としての表現力が増す。

 繰り返すが、これはバランス接続による音質向上もあるので、ケーブル交換だけで「MA910SR」が化けたわけではない。だが、これが冒頭でも述べたバランス接続へのグレードアップやリケーブルの面白さ、大きな魅力だと思う。

画像: 趣味のオーディオ機器としての魅力を改めて実感させてくれた

 「MA910SR」ならば、そんな楽しみがより無理のない価格で味わえる。高級なプレーヤーと組み合わせてもきちんと応える実力の高さもあるし、基本的な音質の良さ、音楽のジャンルや聴き手の好みに左右されにくい音質的バランスの良さがある。ワイヤレスイヤホンの快適さも捨てがたいものはあるが、趣味のオーディオ機器として有線イヤホンの魅力を改めて実感させてくれた。MaestrAudioの「MA910SR」はそうした利点を備えた有線イヤホンだ。

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