話題沸騰の一作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』がついに6月16日から全国の映画館で公開される。

 スタン・リーとスティーヴ・ディッコの名コンビがこのキャラクターをつくりあげたのは1962年、今から60年以上前のこと。ケネディ大統領はいまだ健在、ザ・ビートルズのアメリカ侵略2年前のことである。一度見ると忘れられない赤いコスチューム、クモの糸を使って大都会ニューヨークを縦横無尽に動き回る敏捷性、間違ったことを決して許さない正義漢ぶりは歴代のファンをスカッとさせてきたはずだ。スパイダーマンに“変身”しないときの彼らは我々と同じく不器用で、悩みや壁にもぶつかり、自分の立ち位置も決して定まっているとはいえない。そんな状況の中にある、どこにいそうな普通のひとが一転、スーパーヒーローに変身する面白さ。この痛快さも大いなる魅力といえよう。

画像1: 『スパイダーマン』シリーズの待望の最新作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』がいよいよ公開。「音楽ファンを嬉しくさせる名曲が」

 スパイダーマンは決してひとりではなく、いろんなユニバースにいる。我々は椅子に座りながらにして、パラレルワールドに案内される。この映画にも主人公である高校生マイルス・モラレス(スパイダーマン)のほか、最強のスパイダーマンを集めた“スパイダー・ソサエティ”のトップに立つミゲル・オハラ(スパイダーマン2099)、アグレッシヴな気性の持ち主でロック・ギタ―も奏でるホービー・ブラウン(スパイダー・パンク)、気の強い姉御肌のグウェン・ステイシー(スパイダー・グウェン)、次世代のスパイダーピープルの指導役で現在妊娠中のジェシカ・ドリュー(スパイダーウーマン)、神秘的な力を発揮するパヴィトル・プラパカール(スパイダーマン・インディア)らがフィーチャーされ、それぞれに強烈な個性と魅力を発揮する。もちろん架空のキャラクターとはいっても、ヨーロッパ系、アジア系、ラテン系などのバックグラウンドがあることは瞭然だ。

画像2: 『スパイダーマン』シリーズの待望の最新作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』がいよいよ公開。「音楽ファンを嬉しくさせる名曲が」

 マイルスは『スパイダーマン:スパイダーバース』(18年)に続いての登場だが、本当に悩み多く、シャイな高校生である。が、いっぽうで無謀を恐れない一面もある。世界も救いたいし、愛する人も救いたい。両方救うことが無理だなんて誰が決めた、そう自問する反骨精神もある。自らの決意に忠実に動くマイルス、だがそれは多くの登場人物にとっては謀反に等しい。彼のせいでマルチバースが乱れたら、いったいどうなるのか。出る杭は打たれる、そうわかっていても、それでも出る杭にならなければならないときがある。マイルスが正しくて他が悪、ではなく、どちらの言い分も一理あるよなと思わせるところに、物語の妙味がある。

 監督はホアキン・ドス・サントス、ジャスティン・K・トンプソン、ケンプ・パワーズの3名。ジャスティンは『スパイダーマン:スパイダーバース』(18年)でプロダクション・デザインを担当した。プロデューサーのフィル・ロード&クリストファー・ミラーも『スパイダーマン:スパイダーバース』からの続投だ。まるで“アメコミが動き、飛び出してくる”ような画面の迫力、“ああ、今のナマの英語が聞こえてくる”と思わずにはいられないテンポ感のいいセリフ回し、サウンドトラックもSEも含めて入念というしかない音響は、観る者をとことんまで物語に没入させてくれるに違いない。マイルスと、師匠的存在のピーター・B・パーカー(スパイダーマン)、その娘のメイデイとの関係性にも気分が高揚したし、マイルスの両親の厳しさは、息子を「まっすぐに」育てようと尽力している姿勢の表れであることもうかびあがってきた。何しろマイルス一家の住居は――2012年の調査で、ニューヨーク州の数ある都市の中でも殺人事件が最も多く起きた地域――ブルックリンにあるのだ。

 既成の名曲が惜しげもなく使われているのも、音楽ファンを嬉しくさせることだろう。初老の男とマイルスが絡む重要なシーンで、今は亡きブルース・シンガー、ボビー・ブルー・ブランドのナンバーが使われているところに、私は大いに驚き、その瞬間、「この初老の男は1960年代から80年代にかけて青春を過ごしたアフリカ系アメリカ人で、ひょっとしたら南部の出身かもしれない。南部には今も妻や子供がいるのでは」等、勝手にキャラクターを妄想した。それほどブランドはブルース界にとってアイコニックな存在である。しかも、その歌がただ使われるのではなく、「レコードをかける」という形で流される。この場合の「レコード」は、部屋のレイアウトとして使われるような、オシャレアイテムとしてのレコードではない。「昔世代」の暗喩であろう。その「昔世代」を、「新世代」のマイルスが乗り越えていく。そこに新たな時代が開けてゆくのだ。

画像3: 『スパイダーマン』シリーズの待望の最新作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』がいよいよ公開。「音楽ファンを嬉しくさせる名曲が」

 来る2024年には『スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース』の公開も決定しているが、まずは劇場で『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』体験だ。全身全霊で、この世界観を浴びてほしい。

映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

6月16日(金)全国の映画館で公開!

監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
脚本:フィル・ロード&クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハム

声優:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、イッサ・レイ、ジェイソン・シュワルツマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ルナ・ローレン・ベレス、ヨーマ・タコンヌ、オスカー・アイザック

日本語吹替版声優:小野賢章<マイルス・モラレス/スパイダーマン>、悠木碧<グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン>、宮野真守<ピーター・B・パーカー/スパイダーマン>、関智一<ミゲル・オハラ/スパイダーマン2099>、田村睦心<ジェシカ・ドリュー/スパイダーウーマン>、佐藤せつじ<パヴィトル・プラパカール/スパイダーマン・インディア>、江口拓也<ベン・ライリー/スカーレット・スパイダー>、木村昴<ホービー・ブラウン/スパイダー・パンク>

日本語吹替版音響監督:岩浪美和
日本語吹替版主題歌:LiSA「REALiZE」
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