震災で家族を亡くし、ただ1人生き残ってしまった少女の生きざまを通して、生きること、人と関わることの大切さを描いた注目作『こわれること いきること』が、舞台となった福島での先行上映を経て、全国(順次)公開を迎えた。主演・河合遥を演じたのは、ドラマ・CMなどで活躍している吉田伶香。心を閉ざしてしまった少女の成長を、繊細な芝居で見事に表現している。ここではその吉田にインタビューを実施。当時を振り返ってもらった。
――よろしくお願いします。まずは、出演しての感想をお願いします。
重いテーマを描いた作品ですし、役どころも難しいものでしたので、当初は、演じきれるのかなという不安はすごく大きかったです。加えて、共演者にはベテランの方がたくさんいらっしゃったこともあって、現場でうまく馴染めるのかなという不安もありました。
でも、実際にクランクインしてみると、皆さんの方から話しかけてくださって、そうした不安もすぐに消えていきました。演技のアドバイスもたくさんいただけましたし、コミュニケーションを密に取ることができたおかげで、監督ともスムーズにお話しすることができて、芝居や仕草など、細かい部分のすり合わせを充分に行なえましたので、それらをお芝居に活かせたなって感じています。
――セリフの掛け合いも、思い通りにできた?
現場ではできたと思っていましたけど、実際に出来上がった映像を見ると、ちょっと思っていたものと違うところもあって、反省もたくさんありました。
――具体的には?
大きく二つありまして、撮影って、シーンごとにバラバラに行なうことが多いので、自分の中で、それぞれのシーンの感情の度合いを考えながらお芝居をしていたつもりですけど、感情の強弱など、繋がり方に違和感があったこと。
そして、作品って撮影からしばらく時間をおいて完成するものなので、自分でもその間に経験を積んでいますし、少しは(芝居面で)成長できていると思うので、過去の自分の芝居が少し未熟に見えたり、もっとこうできたよなぁっていう反省点が見えてきてしまうことです。当時は、自分なりの全力でやっていたつもりなのに……と思いました。1年後に観ても満足のいく演技をするのは、なかなか難しいですね。
――共演者ということでは、後半は本当にベテランの方ばかりでした。
同年代の子がほとんどいなくて、今までそういう現場を経験したことがなかったので、当初は不安でした。やはり、現場で共演者の方々とどれくらいコミュニケーションをとれるかによって、やりやすさってだいぶ変わってくると思うんです。和気あいあいとした雰囲気が作れれば、アットホームというか、伸び伸びと演技ができるなと感じています。でも今回は、失敗しちゃだめだとか、間違えられないという方面により意識が向いてしまって、そう思うと、逆に間違えてしまうことが多くなって……。そこがすごく不安ではありましたけど、最後には“仲良くなれた”って言えるぐらい皆さんと関わることができてよかったです。
――少しネタバレしますが、冒頭の時間の流れは速いですね(笑)。
冒頭部分というか、1本の作品中で、中学生から大学生、卒業した後の社会人まで演じるような、そんなに幅広い年齢を演じ分けることはなかったので、少し不思議な感覚でした。
――大学時代は青春していました。
彼氏がいて、恋愛も順調で……なんていうお芝居をするのは恥ずかしいのかなって思っていましたけど、そんな余韻に浸る余裕もないぐらいで、常に、これでいいですか? 大丈夫ですか? って、心配していました。
台本を読んで、状況を想像して、セリフを覚えて現場に行きますけど、やはり現場に入ると想像と違っていたり、あらかじめ考えたものと違う動き方をしないといけないこともあって、それらに集中していたので、“恋愛”とか“青春”について考える余裕は、本当になかったですね。
――シーンごとの感情の度合いというのは、どの程度まで考えていたのですか?
今ならもっと深く考えられるようになっていますけど、当時はそこまで深くプランを立てることができなくて……。たとえば、この時の心情(暗さ)は10段階ぐらいしか強弱をつけられなくて、バラバラに撮っているからこそ、自分の感情の軸が1本きっちり立っていないと、完成した映像を観た時に、繋がりがブレてしまうんだということが、分かりました。
もちろん、監督が見て下さっているので、辻褄が合わなければ、違うと言ってくださると思うんですけど、自分の中でもしっかりと組み立ててやっていかないといけないんだと強く感じましたし、しっかり立てられたのかと聞かれたら、甘かった、という反省があります。
――感情の10段階評価は面白いですね。
本当は、100の内の72とか、1の位まで考えてできれば綺麗に繋がると思いますけど、当時はできて10段階ぐらい。しかも、一つの目盛りの落差がまだまだ粗かった、と思っています。
――少し話は戻りますが、出演が決まった時、台本を読んだ時の感想・印象を教えてください。
まず、役自体が悲しい過去を背負っていて、とても重い設定だったので、私に演じきれるのかな、やり切れるのかなっていうっていう不安は大きかったです。しかも、泣くシーンが結構あって、それで言えば、自分が本当に泣いていても、泣いているように見えないこともあった……。そういう反省点もありました。
あとは、フルートを演奏しないといけないし、方言もある。(役の)性格が結構ナイーブ。3つもたいへんなことがあって、どうしようどうしようみたいなって、わ~不安だらけだ! けど頑張ろう! もう頑張るしかない! そういう感じの始まりでした。
――吉田さんは山形出身ですが、福島の言葉とは、結構違いますか?
違いますね。山形弁については、おばあちゃんとかおじいちゃんが話しているのは聞いていたので、ある程度の聞き馴染みはありましたけど、福島弁にはそれはないし、だからこそどう訛ればいいのかが分からなくて、難しかったです。
ただ、遥自身は大学時代は東京にいたという設定なので、標準語メインで、方言は軽め、つまり語尾に少し福島弁が入るという感じでしたので、なんとかやり切ることができました。
――さて、その遥について少し伺います。いろいろと辛い経験をしながらも、それを乗り越え成長していきます。その成長の変化をどのように表現しようと思いましたか?
まさに、遥の成長がこの作品の重要なポイントになっていると思っていて、たとえば暗い時とか、辛い時、楽しいなどの心情に合わせて声のトーンをまず、変えるようにしました。やはり人間ですから、感情(行動)に声が伴っていないと、違和感があるじゃないですか。実は、そこまで悲しくないんじゃないかとか、しんどくないじゃないかって思われないように注意しました。
そして、成長していく過程では、少しネタバレ的なことをお話すると、実は服の色が変わっていて、悲しい時は寒色系の服でいることが多くて、逆に明るい時には暖色系になっているんです。つまり、シーンごとに服を通して(感情が)視覚的に分かるようになっているので、その服に合わせた感情の表現に注意しながら演じるようにしました。
――心情と服装がリンクしているのは面白いですね。話は変わりまして、現場では実際に介護士の仕事もされていました。所作などの練習はあったのでしょうか?
特に撮影に入る前の練習はありませんでしたけど、あの手際の良さも、(成長の)ポイントになってくると思っていました。だから現場では、撮影後にモニターチェックして、テキパキ動けているかどうかを確認して、シーンごとにフィードバックしていました。自分ではキビキビ動いているつもりでも、実際にはもたもたしているように見える(涙)。思っているよりも速く動かないと、映像的にキビキビ動いているようには見えないんだっていうことが分かりました。そこは、自分で微調整できる範囲のことだったので、撮影では“ちょっとスピード速め”を心がけていました。
――そして、今回はフルートの演奏シーンもありました。
楽器の経験は、小さい頃にピアノを習っていたぐらいで、フルートはまったくの初めてでしたから、指自体はなんとか動かせましたけど、とにかく決まった位置に指を持っていくのが難しくて! 何度もつりそうになりました(笑)。
しかも、演奏した楽曲は結構、上級者向けのもので、とにかく指の動かし方が難しかったです。フルートの先生の手元を映した映像を見ながら練習していたんですけど、先生の指の動きがめちゃくちゃ速くて! スロー再生しても、指がどういう動きをしているのかよく分からかったので、最後には楽譜をもらって、それを見ながら、もう1人の親友役の方と一緒に撮休の日に集まって、必至に練習していました。お互いに、「やばい、あと1週間しかない。間に合う?」「いや、間に合わないとかありえない」。もうそんな感じで、焦りが募っていく中、撮影が終わるとフルートの練習をして。とにかく必死でした。
――そうして迎えた演奏シーンの撮影はどうでしたか?
本番はもう、めちゃくちゃ緊張しました。まるで本物の発表会のように、皆さんが見ている前での演奏(撮影)でしたので、失敗できないというプレッシャーはより大きかったです。
――さて、ネタバレしないようにお聞きしますが、最後には、先生(藤田朋子)との仲もより深まっていました。
はじめは、大好きだった先生が認知症になってしまったことを受け入れられなかったんですけど、季節が過ぎるごとに、間違いを指摘することだけが正しいのではなくて、それを受け入れてあげることも一つの正解なのかなって、きっと気づいたと思うんです。先生も私も家族を亡くしていて、遥は先生をお母さんのように慕っている。そういう気づきや思いがより深まったから、先生の想いに応えることができた。そう思いながら、ラストシーンを撮らせていただきました。
――話は飛びますが、この世界に入って来たきっかけはどういうものだったのでしょうか。
父の後押しがあって、芸能界に入りました。小さい頃は、とにかくおままごとが大好きで、ぬいぐるみ遊びをしながら、よく話しかけていたんです。そういうおままごと遊びを1人でもやっていたし、お母さんとかお父さん、友達ともよくやっていたんです。それを父が見て、芸能界に向いていると思ったようで、いろいろとオーディションに応募してくれたのが、きっかけですね。まあ、当時はそういうお仕事があることを知らなくて、将来、自分がそれを生業としてやっていくだなんて、まったく思っていませんでした。
でも、高校2年生ぐらいの時から芸能活動が楽しいなって思うようになって、将来、職業としてやっていけたらいいなと、自分主導で活動するようになって、今に至ります。主軸は女優として、あとはモデル、タレントとしてもマルチに活躍していけたらいいなと思っています。
――目標は?
今、1番の目標としては、大好きなアニメ『名探偵コナン』、その劇場版にゲストとして出演することです。毎回、有名な女優さんがゲスト出演されていますが、それに呼ばれるぐらい有名になれたらいいなと思いますし、とにかく犯人でも何役でもいいので、コナンに出たいです。
映画『こわれること いきること』
5月26日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開中
<キャスト>
吉田伶香 藤田朋子 宮川一朗太 斉藤 暁 寺田 農 風祭ゆき 丸純子 兼次要那 福原稚菜 大野佑紀奈 神倉千晶 木村八重子 五頭岳夫 外波山文明
<スタッフ>
監督・脚本・編集:北沢幸雄 作曲・編曲:富澤タク エンディングテーマ「小さな声でも」(Toshie) 製作:三英堂商事/アイ・エム・ティ 配給:アイ・エム・ティ 配給協力:FLICKK 2022年/126分/ステレオ
(C)三英堂商事/アイ・エム・ティ