近年、PC用としてはもちろん、スマートホンやタブレット端末から接続するだけで手軽に高音質再生を楽しめるアンプ内蔵のパワードスピーカーの注目度が上昇しています。
録音モニター用途も想定して優れた再生能力を持つ小型パワードスピーカーは、いまどのようなポテンシャルを持つのか。
4月26日発売の管球王国Vol.108の実験工房では「小型パワードスピーカー聴き比べ」と題して、ウーファーが12~18cm口径で、ペア価格30万円台までの国内外モデルを全20機種集めてその魅力を探ります。
そのなかから厳選したモデルを、管球王国でお馴染みの新忠篤氏、岡田章氏の試聴対談形式でご紹介します。
ADAM AUDIOは、主にプロ用スピーカーを提供するドイツのメーカー。本機は、同社が手頃な価格帯を目指したTシリーズの製品で、ポリプロピレン製7インチウーファーと、U-ART(Unique Accelerated Ribbon Tweeter)と称する1.9インチリボン型トゥイーターを搭載。入力端子とコントロール回路、低域50W/高域20WのD級パワーアンプを左右個別に備える完全分離型。エンクロージュアはリアバスレフ方式を採用。(管球王国編集部)
このような音がこの価格帯で聴けることを、多くの人に是非知ってほしい
新 リボン型トゥイーターを搭載したドイツブランドのモデル。1台毎にパワーアンプと入力を備える完結した仕様です。XLRバランス入力、RCAアンバランス入力各々に、スチューダーA730からダイレクトに入力して聴きました。
岡田 ボリュウムがあると、CDプレーヤーから直接つなげることができて使いやすいですね。
新 この価格から想像する以上の、豊かな音が出て来たのには驚きました。このような音が、この価格で聴けることを、皆さんにも是非とも知って欲しいと思いました。
岡田 とにかくバランスが良く、音の質感も柔らかな感じ。ちょっと渋めで、高品位感もありました。
新 「ドゥムキー」は、音楽の情感が損なわれていないところが好ましい。情感を掬い出して、聴き手に投げかけてくるようです。ヴァイオリン、ピアノ、チェロの個々の音色が溶け合って音楽を紡いでいる。その様がとても良かった。
岡田 何度、聴いてもいい音楽だなと思うのですが、本機は、その「いい」がかなり高いところにあるという印象。演奏は最初の小さい音から徐々に盛り上がっていきますが、全体の音のバランスが良くないと、個々の楽器の音が気になる、レベルが気になりだすなど、微妙なところで再生がむずかしくなってきます。本機は好バランスで、気になるところがなく、きちんと再生していました。
新 「御諏訪太鼓」の大太鼓には揺るぎがありません。打音のアタックの強いところでも、安心して聴いていられます。鳴り物、張り上げる口上の声、笛の音なども生々しいものでした。
岡田 最初の大太鼓の連打は、立派の一言。バイアンプ駆動であり、スピーカーユニットと一体でよく作り込まれていることがわかります。アンプとスピーカー一体でなければ得られないような、迫力のある音が聴けました。大太鼓の後の口上の声も鋭くかつ伸びやか、また太鼓が鳴っている空間の広さも描かれていました。
新 「美空ひばり」は、日本コロムビア時代にスタジオのモニターで彼女の歌声を聴いたことがありますが、そのときに聴いた声が、今、この場で再生されているような気がしました。アンバランス接続に比較して、バランス接続のほうがやや味が濃いように感じました。
岡田 何度も言うように人の声は再生がむずかしいものですが、ここでは特定の部分が突出するところがなく、とても中庸な聴きやすい音でした。
評論家プロフィール
新 忠篤 氏
大手レコード会社で制作・マーケティングを担当し、退任後専門誌に古典真空管のアンプ製作記事を数々発表。再生音の判断基準はマイクロフォンの前で鳴っている生の音との比較。レコード会社では静電型を含む様々なスピーカーと付き合い、自宅ではウェスタン・エレクトリック555を核とする励磁型システムを使用。DSD録音によるSPレコードや初期LPレコードのトランスファーに熱意を注ぐ。「新 忠篤オーディオ塾」の講師を務める。
岡田 章 氏
大手電機メーカーで長く半導体関連の仕事を続け、ウェスタン・エレクトリックをはじめ古典真空管の歴史と、ヴィンテージ管から現行生産管まで真空管の内部構造や構成パーツの組成にも精通する真空管研究家。『管球王国』誌では詳細な真空管の解説を数多く執筆。自宅では蓄音機によるSPレコード再生に熱意を注ぎ、現代の音源の試聴ソースとしてCDも重視する。