頭脳明晰で、やり手、ベンチャー企業でバリバリと働く女性。しかし、そんな彼女には大きな弱点があった……。近年話題作への出演が続く森田想が挑むのは、人の心を感じるのが苦手な自己中心的な性格の遥風。ここではその森田にインタビューを実施。役作りの苦労について話を聞いた。
――よろしくお願いします。今回演じられた遥風は、なかなかにすごい女性でした。
ありがとうございます。かなり強めな印象の女性でしたね。撮影していた時は、結構ナチュラルに演じていたので、キャラクターとしてどういう感じになるんだろうという不安はありました。ただ、初号を観た時に、結構いい感じに嫌なニュアンスもありつつ、いかにも現代にいそうなリアル感も出せていたと思えて、安心できました。加えて、共演の皆さんと一緒に過ごした時間がしっかりと作品になっているのを感じられて嬉しかったです。
――日常が淡々と積み重ねられていました。
そうですね。ロードムービーというか、ライフムービーといった趣で、日常を繋いでいった作品、と思います。
――遥風を演じるにあたって感じたこと、考えたことがあれば教えてください。
分かる部分もあるし、決して自分と遠い存在ではないという感じは受けました。ただ、分かりあえるというよりかは、理解はできるという感じなので、(役作りの)アプローチとしては、(自分と)遠くはないという人物に対して、割とこうスッといけた感覚でした。
――遠い近いところというのは?
近いのは、少しやり過ぎてしまうところでしょうか。結構、(私の意見を)聞いて聞いてみたいな部分があるんです。ただ、私はそこで一歩踏みとどまって、私だけがいいと思ってないかなとか、相手はどう感じるかなとかは考えますけど、遥風にはそれはないですね。相手の気持ちを考えないところは、違うかなと思います。そうした差というか違いが分かるからこそ、演じやすいという感覚を持てました。
あとは、遥風は、周囲の人に対しての鬱憤をかなり持っているのかなとも感じましたね。その鬱憤に、強めの性格が乗っかっている、と。だから周囲の人を見下すような態度をとってしまうのでしょう。そうした危うさを持った女性って、周りにいそうだよねって感じてもらえるように演じました。まあ、私の周りにはいませんけど(笑)。
――そうした遥風の性格を振り返ると、冒頭部分の面接を受けている(?)シーンのギャップは印象に残りました。
演じる方からすると、あの切り替えってすごく面白かったですよ。そっちだったか! みたいで。これまで、どちらかと言えば、ちょっと弱くて誰かに言い負かされてしまう役を演じることが多かったので、本来の遥風みたいに、自立していて、他人に意見するまで行ってしまう人を演じるのは、楽しかったです。
――あの強さをずっと出し続ける(演じる)のは大変だったのでは?
気は強い方ですから(笑)、普段の自分よりも、性格を悪くすればよかっただけなので、苦労はありませでした。ただ、芝居の上では、その感情を正直に顔に出すようにしていたので、撮影していた時期は、ちょっとその役を引きずっていて、わがままだなって見られるような雰囲気を出していたかもしれません。
――意外と感情は残る方ですか?
感情は撮影が済めば終わります。ただ、そのキャラクターの雰囲気とか話し方を、1日に何時間もやっているので、ちょっと引きずることはあります。違う作品の話ですけど、いじめっ子の役を演じていた時は、家に帰っても割と意地悪だったよって、母が言っていました。
――さて、遥風は両親とは馴染めずに実家を飛び出していますが、その実家に戻ることになります。しかし、やはり仲はよくないですし、あの家族との違和感は秀逸でした。
作品として、いい意味で(遥風は)浮いてるなぁと思っていて、恐らく末っ子ってこうだよねっていうイメージ――私には兄がいるので、どういう態度をとっていたのかを思い出しながら――で演じていました。
――戻ってきて、より意固地になっているにも見えました。
そうですね。それこそ仕事を辞めてしまっている状態なので、絶対に焦りはありますけど、それは家族には出さない。私は私で計画があるから辞めたんだ、っていう風に自分に言い聞かせて、自分を保っている状態だと思うので、盛大に空回りしていました。
――そんな状況が、どんどん追い詰められていきます。
普通は、追い詰められたりすると大抵は、この状況って自分が招いたんじゃないかみたいに、はっと気づくことがあると思うんです。でも、この作品ではその気づきが、本当に最後にしかないんです。撮影中には監督と、この時はもう気づいていいですか? いやまだです というやりとりをたくさんさせていただいていて、あっ、この時点でもまだ自分が何をしたか気づいてないんだ、えっ、ここでもまだ気づかないんだって、演じていて面白かったです。
――まだ気づけないんだ、と思いながら演じていた。
そうなんですよ。私だったらもう、ここで耐えられないんだけどなぁ(笑)みたいなことが、何度もありました。自分のせいだったり、自分が本当に悪かったっていうことを受け止められないままで、最後までいますからね。
――しかし、ちょっとずつは変わっていったのかな、と。
影響はあったけれども、変わっていく自分にも気づいていなかった、という感じでしょうか。
――憲太郎(後輩:三村和敬)との関係も、家族と同じでドライでした。男目線では、憲太郎は遥風に対して淡い想いを持っているようにも見えましたし、その後の展開も、遥風の気づきに影響を与えているように感じました。
いやぁ~、遥風からしたら、そういう対象ではないですね。事業を興す上で必要な存在――ビジネスパートナーだと思っているだけで、どれだけ使えるかという観点でしか見ていないはずです。ただ、ある出来事によって、結果として、最後に自分が気づきを得る際の、きっかけの一つにはなったと思います。
――お兄さんの彼女・明日香(堀春菜)との関係も、後々の変化のきっかけになっているのかと思いました。
明日香と一緒に農作業をしているところは、楽しかったですよ。初めてなので、結構、ダメダメっぽく見えるようにやりましたけど、そもそも私は運動神経がないので、まああんな感じになるんだろうなと、想像していた通りになりました(笑)。ただ、遥風としては、あくまで、自分の未来の立場を良くするために、今近くにいるお兄さんの助けをしているだけで、別にその人たちに興味があるわけではないんですよ。
――あれだけいろいろなことがあっても気づけない。演じる上では、かなりのもどかしさがあったのでは?
ありましたね。変わりたい(気づきたい)な~とは思いつつも、役は変わりませんから。そこは、監督の決断――一番最後まで気づきを持ってこない――を信頼して、それが、どういう風に生きるのかなと思っていましたし、潔いなって感じていました。途中で曖昧に気づいて、曖昧に修復して終わるよりかは、もう修復できないところまで来て、やっと気づく。それがすごく痛いところを突いていて、特徴的な作品になったと思います。
――遥風は、よっぽどこじれていたんでしょうね。逆に、あのまま気づかないでいて欲しいとも感じました。
気づかないで終わっても、気づいて終わっても、まあ、もう終わってしまっていることは同じですね。
――ところで、お姉さんと夜に会話するシーンは、表情の変化を含めて印象に残りました。
いいシーンですよね。そこは、結構長めに演じてくださいと言われていて、二人のきまずさがより出たと感じています。遥風としては、私が何かした? ぐらいな感じで、でも言葉が出てこなくて無言になってしまう。お姉さんの中では、そのことに関してはもうすっぱり諦めているというか、終わっているんです。まあ、それが遥風が何かを考え始めるきっかけになったところかなと思います。表情で分かっていただけるのは嬉しいですね。ありがとうございます。
――ネタバレしないようにお聞きしますが、ラストシーンはいかがでしたか?
そのシーンの撮影は、結構難しかったですね。特に表情の作り方、複雑な心情を表現するのは苦労しました。
――森田さんだったらなんて声をかけましょう。
難しいですね。けど、きっと“すみません”って謝ってしまうと思います。
――最後に、今後演じてみたい役・設定などがありましたら教えてください。
バラエティに富んだ役を演じてみたいです。飛んだり跳ねたり落ち込んだり、あるいはSFのように現実離れしたものとか、職業的なものなどなど、いろいろな幅のある役を、一年通してやれたらいいなって思います。
映画『わたしの見ている世界が全て』
3月31日(金)よりロードショー
<ストーリー>
遥風(はるか)は、家族と価値観が合わず、大学進学を機に実家を飛び出し、ベンチャー企業で活躍していた。
しかし、目標達成のためには手段を選ばない性格が災いし、パワハラを理由に退職に追い込まれる。
復讐心に燃える遥風は、自ら事業を立ち上げて見返そうとするが、資金の工面に苦戦。
母の訃報をきかっけに実家に戻った遥風は、3兄妹に実家を売って現金化することを提案する。
興味のない姉と、断固反対する兄と弟。
野望に燃える遥風は、家族を実家から追い出すため、「家族自立化計画」を始める。
<キャスト>
森田想
中村映里子 中崎敏 熊野善啓 松浦祐也 川瀬陽太 カトウシンスケ 小林リュージュ 堀春菜 三村和敬 新谷ゆづみ
<スタッフ>
監督・編集:佐近圭太郎
脚本・末木はるみ 佐近圭太郎
製作・配給:Tokyo New Cinema
2022年|日本|カラー|アメリカンビスタ|G|5.1ch|82分
(C)2022 Tokyo New Cinema
スタイリスト:入山浩章
ヘアメイク:榎本愛子