ネットでの動画配信が主流になりつつある昨今、でもホームシアターで楽しむならやっぱりフィジカルメディア。実際に、ビットレートの有利さや細かな仕様、特典などでそのメリットを感じることも多いはず。本連載では、そんなディスクメディアをホームシアターで再生、そのインプレッションを紹介する。第8回はトム・ハンクスの怪演が話題の『エルヴィス』を、潮 晴男さんのシアタールームでチェックしていただいた。
試写会で観て以来、発売を楽しみにしていたエルヴィス・プレスリーの生涯を描いた映画『エルヴィス』のUHDブルーレイを、わがニコタマ劇場で視聴した。映像は108インチシネスコ画面、音声はドルビーアトモス7.2.4という環境だ。
試写会での印象は以前のリポートでお伝えした通りだが、改めてUHDブルーレイで見直して、画質・音質については、劇場を遥かに上回るパフォーマンスが実現できていることに驚いた。
エルヴィス役のオースティン・バトラーの演技もさることながら、彼を取り巻くミュージシャン役の演者達の表現力の豊かさ、そして何よりパーカー大佐のしたたかさとふてぶてしさをトム・ハンクスがこれでもかと演じているところも本作の見どころだろう。あそこまでえげつない表現のできるトム・ハンクスの怪演ぶり、演技とわかっていても腹が立ってくる振舞いに感心してしまった。本当はアメリカ市民でも大佐でもなかったということだが、そうした背景を知るほど、この人がエルヴィスのマネージャーでなかったら……という思いがこみあげてくる。
UHDブルーレイの見どころを挙げるなら、やはりライブステージ、コンサートシーンだ。他にも、エルヴィスに目を付けたパーカー大佐がツアーを組むことで徐々に名声を得ていくが、その途中のデイライトの中を車で移動するシーンは明快にして切れがよく、50年代の車の塗色の鮮やかさと艶がよく描き出されている。サン・レコードからメジャーレーベルのRCAと契約したエルヴィスの上り調子を象徴するかのようなクリアーな映像が印象的だ。
監督は『ムーラン・ルージュ』や『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマン。撮影はマンディ・ウォーカーだが、本作でも映像に対するこだわりは遺憾なく発揮され、65mmのフィルムカメラよりイメージサイズの大きい、アリの6Kカメラ「アレクサ65」を使っているし、このカメラに合わせてパナビジョン社が作った新しいレンズを使い分けて1973年のラスベガス公演以前と以後で色調やフレアの表現を変えているという。試写会ではそこまでは分からなかったが、UHDブルーレイで観ると70年代風の絵作りがしっかり表現されている。
またCh6〜7のビール・ストリートのライブハウスでB.B.キングと会話するシーンでは、当時の衣裳のテクスチャーやキッチュな色遣いが余すことなく捉えられているし、アップになった時のオースティンのフェイストーンも実に鮮やかだ。余談だがUHDブルーレイを観て、ラスベガスのインターナショナル・ホテルのライブ会場でエルヴィスがヴォーカル用に使っていたマイクがシュアーではなく、EVのRE15だったという発見もあった。
それにしてもラスベガス公演でのオースティン・バトラーの熱演には舌を巻くし、ここでも監督は音へのこだわりを見せる。60年代以前のヴォーカルはオースティン本人の歌唱で、ラスベガス公演以降はエルヴィス本人の声が使われているのだ。しかし、ダイアローグと歌唱部分のつながりがいいので、じっくりと聴かないとその違いは分からないだろう。
サウンドデザインと音響監督はウェイン・パシュレイが担当し、ダビングはオーストラリアのシドニーにあるビッグ・バン・サウンドデザインで、アンディ・ネルソンとマイケル・ケラーがダビング・エンジニアを務めている。音作りはどちらかというと落ち着きがあり余計な演出は少ない。
パッケージ用に整音し直したのかどうかは不明だが、試写会で感じたサラウンドチャンネルから再現される過渡な効果はわが家では抑えられており、効果音の中にLFEを適切に溶け込ませたバランスのいい音作りがなされている。ライブ会場のシーンでは広がりも感じさせるが、あざといアトモス効果を狙っていない、節度感のある音作りに好感が持てる。
色味のたっぷりとした映像と、落ち着きのあるサウンドでエルヴィスの苦悩と葛藤を見事に描き出した作品である。往年のファンはもちろん、後追いでエルヴィスのファンになった人も、ぜひともお正月休みにUHDブルーレイで、史上もっとも売れたソロシンガー “エルヴィス” をご覧になっていただきたい。絶対お薦めです。
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