日本では2013年に石井一孝、島田歌穂、田代万里生、新妻聖子の上演で話題を集めた『トゥモロー・モーニング』が、ここに映画化された。監督はこの作品の初演を演出し、15周年公演も手掛けるはずだった(残念ながらコロナ禍で流れてしまったが)ニック・ウィンストン。彼の強力なコネクションによって『レ・ミゼラブル』『シカゴ』『アナと雪の女王』のサマンサ・バークス、『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』『エビータ』のラミン・カリムルーのスクリーン上での共演が実現した。卓越したミュージカル俳優のふたりであるだけに、思いっきり歌い、ハモリ、コール&レスポンスを繰り広げる。テムズ川など英国の美しい風景を随所で見ることができるのも嬉しい。
サマンサとラミンが演じるのは、「明日、離婚調停をする夫婦」。だが二人はそもそも10年ほどまえ、熱愛の末に一緒になっている。つまり「結婚前」と「離婚前」のふたりが、一本の映画で描かれているわけだ。俳優ふたりが演じる「周りが目に入らないほどのラブラブ期」と「もう顔を見たくないほどの倦怠期」のコントラストは舌を巻くほど鮮やかである。子はかすがいと言うべきか、息子のザックが実にいい表情・いい語り口で、険悪になって久しいふたりのバランサー役をしているところも見逃せない。
脚本と音楽はローレンス・マーク・ワイスが担当。たとえば1960年代くらいまでのアメリカ・ミュージカル映画ではよく、セリフと歌の間に、その変化をより滑らかにするためのヴァース(verse)という箇所があった。しかしこの映画は、いきなり卓越した歌唱力で歌い始める。そのあたりのスピード感もまた、「現代のミュージカル映画」であろう。音楽ファンには、11月23日に発売されたサウンドトラックも推薦したい。
映画『トゥモロー・モーニング』
12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開
監督:ニック・ウィンストン 脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、ハリエット・ソープ、ジョージ・マグワイア
原題:Tomorrow Morning/2022年/イギリス/英語/110分/日本語字幕:石田泰子/後援:ブリティッシュ・カウンシル/配給:セテラ・インターナショナル
(C)Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan