コカイン取引現場で密輸船が謎の大爆発を起こし、27人が死亡、大量のコカインと大金が忽然と消えた。捜査本部は生き残った男を尋問するが、謎は深まるばかり。いったい真実は何処に?タイトルは「常連の容疑者たち」という意味(※)。米雑誌スパイ(1986から98年にかけて刊行。米国のマスコミ/エンタメ業界を皮肉るユーモア誌)に掲載されたコラム『ユージュアル・サスペクツ』を読んだ監督ブライアン・シンガーと脚本家クリストファー・マッカリーが、5人の犯罪者が警察の面通しで出会うイメージからプロットを創出している。
私の監督作についてだが、映像やサウンドの造形や構築は、スティーヴン・スピルバーグ、デヴィッド・クローネンバーグ、ピーター・ウィアの映画の影響下にある。(ブライアン・シンガー)
二転三転するプロット、ランダムに交錯する複雑なスタイルで展開するミステリアスなストーリーテリングの妙は、映画通ならば1940年代から50年代にかけて一時代を築いた(アメリカ映画のジャンルの多様性を特色づけた)フィルム・ノワールのムードを想起されよう。やがて明らかにされる事件の真相。迎えるラストの大ドンデンは、一寸やそっとで驚かぬ強者シネフィルをも仰天させた。第67回アカデミー脚本賞(クリストファー・マッカリー)・助演男優賞(ケヴィン・スペイシー)受賞。
(※)事件があると警察に犯行を真っ先に疑われる者たちを指す。映画の台詞では『カサブランカ』の終幕、ルノー署長(クロード・レインズ)の台詞「round up the usual suspects(いつもの容疑者を集めろ)」が有名。新聞紙上では1930年代前半に使用されており、起源は不明。
撮影監督は『ドライヴ』『ボヘミアン・ラプソディ』のニュートン・トーマス・サイジェル。35mmオリジナルカメラネガからの最新4Kデジタルレストア/HDRグレード。HDRはHDR10とドルビービジョンHDRを採用。いずれもサイジェルがグレーディング監修、最終承認。
2007年MGM BLU-RAY(1層/MPEG-2/18.8Mbps)や2013年独パラマウントBLU-RAY(同国内版/2層/MPEG-4・AVC/36.2Mbps)との比較では映像アップグレードが明快。27年前のローバジェット撮影ゆえに先鋭な高精細表現とは無縁ではあるものの、これまででベストの映像パフォーマンスを披露している。粒子感は中庸、ナイトショットでは幾分重くなる。これまで埋没していたテクスチャとディテイルが提供され、深度再現も良好。カメラワークやフレーミングの再発見も楽しい。
シーンに微妙なエネルギーを追加するために、ゆっくりと忍び寄るズームとドリーの動きを組み合わせて会話シーンを撮影した。フレーミングや構図はタイトなクローズアップだ。ドリーの動きとわずかなズームを組み合わせたことで、限定的で閉塞的なスペースでも動的なエネルギーを感じることができ、切れ目のない緊迫感が生まれるんだ。
(撮影監督ニュートン・トーマス・シーゲル)
最大の映像改善点はコントラストの処理にあり、盛大な白飛びを許していた白レベルは安定をみせ、高輝度部分に隠されていた多くのディテイルが露わとなった。予想以上に黒レベルは深く、低照度ショットにおいても陰影の深みと濃淡ディテイルが引き出されている。派手な色づかいの作品ではないが、犯罪ムードを深めるカラースキームを再現、原色や二次色のアクセントも印象的だ。
音響エンジニア(サウンドデザイン/音響編集監修)は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』のチャック・マイケル。ドルビーSRトラックからの2007年リミックス5.1chトラック、2021年リマスター2.0chトラック(初ロスレス化)収録。
BLU-RAY版サウンドトラックと大幅な改善はないものの、整音は行き届いている。フロントヘビーのシネソニック。ステージングは中庸。オールドスクールで機知に富んだ口跡が明確に伝わり、個性豊かな面々の美味しき物云いを味わうことができる。銃声や爆発のディテイルと重量感が高められており、アンビエントや環境音の描音に説得力があり、緊迫した対話シークエンスにさらなる没入感を齎し、フィルム・ノワールのムード構築の一助となっている。ジョン・オットマンのスコアは聴きどころのひとつ。思いのほか明瞭度が高く、ミッドレンジは豊かなウォームトーンを響かせる。
UHD PICTURE - 4/5 SOUND - 4/5
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