『HiVi』誌の取材で2019年の「True Colors Festival(トゥルーカラーズフェスティバル)-超ダイバーシティ芸術祭-」を訪れたことが忘れられない。大人も子供も誰も彼も一緒、音楽間のジャンルの壁はもちろん、音楽と絵画とか、音楽とダンスとかの境目もなかった。外が大雨だったことも鮮明に覚えているが、そこだけはカラッと明るく、人間と人間のふれあいがあった。
それからはや3年を経た11月19日と20 日、「True Colors Festival THE CONCERT 2022」が東京ガーデンシアターで開催された。主催の日本財団は、50 年以上にわたって国内外の障害者支援を行なっており、2019年から前述「True Colors Festival」を推進。そしてこの2022年、様々な人が「その人らしい色合い」を出しながら共に生きる社会の可能性を発信するための取り組みの集大成として「THE CONCERT 2022」の開催に至った。
個人的に爽快な気分になったのは、“トニー・ディー+スーパーヒューマン・バンド+ザ・ソウルマティックス+Tokyo NAKAMA Dancers”のパフォーマンス。なかでもドラム歴50数年というアルヴィン・ロウ(カナダ)のプレイは華やかだった。「ぼくはロックスターに憧れていた。でも言われたよ、“君は生まれつき両腕がないのに、どうしてロックスターになれるんだ?”」。ドラムに情熱を傾けて、アルヴィンは小気味よいジャズ・ミュージシャンになった。「How High the Moon」における、両足指にはさんだスティックを使っての軽やかなパフォーマンスは目と耳を感嘆させた。ギタリストのジョナタ・バストス(ブラジル)も、楽器を床において、足指で見事に弦をつまびいていた。
二度のグラミー賞ノミネート歴があるラウル・ミドン(アメリカ)は、2016年の「ブルーノート東京」公演と同じく、ソロで登場した。ギターをただ弾くのではなく打楽器のようにも扱い、ボンゴも軽やかに叩く。歌声も地声と、得意技の「口トランペット」(トランペットの音色をスキャットで真似る)を混ぜて、徹底的にエモーショナルに迫る。「Sunshine, I Can Fly」と、スティーヴィー・ワンダーの「Too High」を思わせる「Bad Ass & Blind」で魅了した。
アメリカのラッパー、スパーシュ・シャーは生まれた時に骨が40本も折れていて、寿命48時間といわれたという(ジャズ・ピアニストのミシェル・ペトルチアーニ同様、英語で「グラス・ボーン」と呼ばれる疾患であると思われる)。しかし彼はサヴァイヴした。「This Is Me(The Rap Prince)」は、その半生をつづったナンバー。残念ながら体調不良のため来日はかなわなかったが、映像で登場し、ステージ上ではTokyo NAKAMA Dancers(日本)らがダンスで彩りを添えた。
車椅子ダンサーのかんばらけんた(日本)は、2020年に東京パラリンピック開会式に出演したひとり。ナマで見ると、目の前で起こっていることだというのに、「信じられない」という気持ちがさらに増す。七色のライトに、むちゃくちゃ鍛えられた上半身が映える。車椅子の上で逆立ちしたり、車椅子を解体して車輪を使って身体を回転させたりと、発想も、それをこなせるパワーにも口をあんぐりさせられるばかりだった。
ほかにも“義足をアートに変えた”との声もあるヴィクトリア・モデスタ(イギリス)のスタイリッシュなステージ、ピアニストとして再登場して肩の突起で鍵盤を押さえたジョナタ・バストス(演奏曲は「Eu Sei Que Vou Te Amar」、つまりアントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ヂ・モライスが書いた「あなたを愛してしまう」)、三角筋にアタッチメントをつけてヴァイオリンを弾くエイドリアン・アナンタワン(カナダ)の「Hana-Bi」等、入魂のパフォーマンスが続いた。
また、スペシャル・ゲストとして、きゃりーぱみゅぱみゅ、ケイティ・ペリーが登場。きゃりーは「にんじゃりばんばん」のサビに手話ダンスを取り入れ、ケイティは「Teenage Dream」、「California Gurls」など定番を次々と披露。“出演者の一員としてインクルージョン・ビューティー・カラーを体現するフェスティバルに参加でき、とても幸せです”と話した。
そしてラストでは全員が、“自分の中にある輝きを解き放とう、花火のように”という歌詞を持つ「Firework」で共演。障害・性・言語・国籍を超えて"ONE WORLD ONE FAMILY"を伝えるコンサート、「True Colors Festival THE CONCERT 2022」は幕を閉じた。
テンポよいマルチリンガルMCを行なったハリー杉山、舞台左右で大活躍した手話パフォーマーたちにも敬意を表したい。
<出演アーティスト>
ケイティ・ペリー、きゃりーぱみゅぱみゅ、アルヴィン・ロウ、イル・アビリティーズ、ウィー・アー・ワン、ウィールスミス、ヴィクトリア・モデスタ、エイドリアン・アナンタワン、Tokyo NAKAMA Kids、海蔵亮太、かんばらけんた、ザ・ソウルマティックス、ジョナタ・バストス、Tokyo NAKAMA Dancers、トニー・ディー、遥海、フェデリコ・マルテッロ、BOTAN & DAZZLE、 マンディ・ハーヴェイ、ラウル・ミドン、レイチェル・スターリット、Bboyz(Katsuya,Seiju,En,Satoru)、スパーシュ・シャー