ネットでの動画配信が主流になりつつある昨今、でもホームシアターで楽しむならやっぱりフィジカルメディア。実際に、ビットレートの有利さや細かな仕様、特典などでそのメリットを感じることも多いはず。本連載では、そんなディスクメディアをホームシアターで再生、そのインプレッションを紹介する。第5回は癖強めのTVシリーズ『ピースメイカー<シーズン1>』を深掘りする。

『ピースメイカー<シーズン1>』ブルーレイコンプリート・ボックス(2枚組)
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画像1: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】
画像2: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】

●本編:DISC1=約173分(映像特典約33分)、DISC2=約173分(映像特典約21分)●ビスタ●映像:MPEG4 AVC●音声:DTS-HD MA 5.1ch(英語)、ドルビーデジタル 5.1ch(日本語)●字幕:日本語、英語(for the Hearing Impaired)、吹替用●発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント●販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
Peacemaker and all related charactersand elements © & ™DC and Warner Bros. Entertainment Inc.

 『スリザー』(06)という映画をご存じだろうか。宇宙から隕石と共に地球にやってきたナメクジに似た生物が人間に寄生するという、1950〜60年代に作られたB級SFホラーのような作品。

 だが、この『スリザー』には物語そのものが『SF/ボディ・スナッチャー』(78)のオマージュだったり、登場人物の名前がフーパー(『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパー)、カニンガム(『13日の金曜日』のショーン・S・カニンガム)、カーペンター(『ハロウィン』のジョン・カーペンター)などホラー監督の名前が使われていたりと、SFやホラー映画への愛がたっぷりと込められていた。監督はジェームズ・ガンで、これが監督デビュー作だった。新人とは思えないファンのツボをおさえた演出で、この名前は覚えておこうと思った。

 そんなこともすっかり忘れていたのだが、実はジェームズ・ガンは、2010年にスーパー・ヒーローをおちょくったようなコメディ『スーパー!』で注目され、2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を大ヒットさせ、一躍人気監督となっていた。まあ、見ないうちにずいぶんと立派になっちゃって。そんなブラックな笑いとヒーローらしくないスーパー・ヒーローを描くのが得意なジェームズ・ガンの本領を発揮したのがTVシリーズ『ピースメイカー』(22)だ。

 最初にお断りしておくと、メチャメチャ笑えて最高に楽しめる作品だが、裸も出てくるし、下ネタもさく裂するし、顔面や身体が吹っ飛んだりと過激な暴力描写も満載なので、ご家族揃っての鑑賞はお奨めできない。だが気の合う仲間たちと大勢で見れば、一晩中笑いながら最高の時間を過ごせるに違いない。

画像3: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】

 主人公はクリストファー・スミスことピースメイカー=平和の使者(ジョン・シナ/吹替:大塚明夫)。演じているジョン・シナは、日本だと一般には知られていないかもしれないが、ザ・ロック様ことドゥエイン・ジョンソンがスーパースターとして活躍したプロレス団体WWEで、ザ・ロックと同じくスーパースターだった人気レスラー。つまりあの筋肉は長年鍛え上げた筋肉なのだ。

 生まれたときから父親に銃やナイフの扱いや殺しの技を徹底的に仕込まれ、殺人マシンとして育てられたというDCコミックの中でも異彩を放つキャラクター。だが彼が望んでいるのは平和。「平和のためなら男も女も子供も皆殺しにする」という、まるで「健康のためなら死んでいい」という偏執狂的健康主義者のような本末転倒な信念を持っている。自身はスーパー・ヒーローだと思っているが、平和活動(?)で犯した数々の罪で、懲役30年の判決をくらい投獄されていた。

 スーパーマンやバットマンたちを有する『DCエクステンデッド・ユニバース』の第10作『スーサイド・スクワッド“超”悪党、終結』(21、以下『SS2』)でメンバーのひとりとして初登場し、今回の『ピースメイカー』はその後を描くスピンオフ作品。

 おそらく『SS2』をご覧になった方の多くはピースメイカーのことが大嫌いになったことだろう。なにしろ先の「平和のためなら男も女も子供も皆殺し」発言でメンバーをドン引きさせ、モラハラにセクハラに人種差別発言まで連発して周囲を呆れさせ、挙句の果てにフラッグ中尉を殺害したのだから(厳密にはピースメイカー以外が命令に背いたのだが)。

 そして仲間だったブラッドスポーツとの一騎打ちで喉に弾丸をくらって倒れた。死んだかと思われたが、ポスト・クレジット(エンド・ロールの途中や終わった後に始まるおまけのようなシーン)で一命を取り留め、病院で治療を受けていることが明かされた。

画像4: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】

 今回のTVシリーズは『SS2』から5ヵ月後、こん睡状態から目覚めたピースメイカーは再び投獄されることを恐れ、病院からこっそりと逃げ出した。自宅へ戻ってきたところをウォラーの部下クレムゾン・マーンから射撃の腕を買われ「ブラックオプス暗殺チームに参加すれば逮捕を免れる」と誘われて否応なく参加することになる。

 今回はリーダーの元傭兵マーン<貴重な真面目キャラ>(チュクウディ・イウジ/吹替:上田耀司)、現場で指揮を執るエミリア・ハーコート<ピースメイカーがモノにしようと狙ってる>(ジェニファー・ホランド/吹替:水樹奈々)、インターネットの達人で戦術担当のジョン・エコノモス<ピースメイカーに何かとイジられる>(スティーヴ・エイジー/吹替:遠藤純一)、なぜか新人なのに参加するレオタ・アデバヨ<意外とピースメイカーの理解者>(ダニエル・ブルックス/吹替:斉藤貴美子)、そして勝手に参加するピースメイカー大好きの自称“親友”でスーパー・ヒーローのビジランテ<お調子者の超ド天然>(フレディ・ストローマ/吹替:前野智昭)の6人がチームを組む。

 このミッションでピースメイカーはゴフ上院議員と妻、そして二人の子供の暗殺を命じられるが、入院中にいろいろと思うことがあったピースメイカーは「理由もなく子供は殺せない」と拒否し、ビジランテが代わって妻と子供を狙撃したところで、ゴフを護衛していたジュードーマスターの反撃をくらってしまう。ピースメイカーはなんとかゴフの脳天を撃ち抜くが、頭の中から蝶のような奇妙な生物が出てきた……。

 ピースメイカーには知らされていなかったが、人間に寄生して操る未知の宇宙生物、通称バタフライを殲滅させる『バタフライ計画』がこのチームに課せられた使命だった。この『バタフライ計画』を主軸にピースメイカーと父親オーガスト・スミスとの確執や少年時代のトラウマなど、ピースメイカーはなぜこんなおかしな人間になったのかが明かされていく。

画像5: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】

 なお父親のオーガストもトンデモない男で、超過激な白人至上主義者で多数の信者を持つカリスマであり、ピースメイカーのトレードマークであるヘルメット・通称“銀色の便座”(用途に応じて様々な能力を持ったヘルメットが複数存在する)を作った天才で、自身も白いアーマーを身にまといスーパー・ヴィランのホワイト・ドラゴンとなる。演じるのは『ターミネーター2』(93)のT-1000ことロバート・パトリックで、狂気に満ちた男を怪演している。

 実はジェームズ・ガンもピースメイカーに対しては思うところがあったようで、オファーも受けていないのに勝手に脚本を書き始めたという。後にDC側から「やりたい企画はあるか?」と聞かれ、『ピースメイカー』を提出し、栄誉あるDCドラマ第1弾となった。ジェームズ・ガンは全8話の脚本全部と第1、2、3、6、8話の5本を監督している。

 さて、この『ピースメイカー』だが、ブルーレイで見ていただきたいポイントがいくつかある。NG集(セリフを忘れるロバート・パトリックが見られる)や撮影の裏側を見せるメイキング映像などはもちろんだが、キャストがものスゴイ量のセリフでバカなことを言いあうので、巻き戻してもう一度見たくなるのだ。

 なかでも笑えるのが横暴でバカなピースメイカーと超ド天然のビジランテのやりとり。まるでダブルボケのマンザイそのもの。しかもそれが敵地へ乗り込む道中で、普通なら緊張感ある場面なのにオチのないマンザイが繰り広げられるのだ。さらに日本のドラマでは絶対出てこないような過激な言葉もバンバン飛び交う。

 監督のジェームズ・ガンは映画オタクなので、マニアックな映画ネタもあちこちに散りばめられている。なかでもビジランテの“『俺たちに明日はない』のラストでボニーとクライドは死んでない”説は面白い(説得力はないが)。映画好きの方ならニヤニヤしてしまうことだろう。

画像6: これこそブルーレイで楽しみたい一作! 『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう【フィジカル万歳 05】

 またピースメイカーは1980〜90年代ハード・ロックの大ファンでシンデレラ、ハノイ・ロックス、クワイアボーイズなどについて熱く語り、バックにもガンガン流れるので、どのバンドのなんという曲か当てるのも楽しい。さらに最終回となる第8話にはジャスティス・リーグのあのスーパー・ヒーローも登場する。

 ドラマ・シリーズというと、シーズン最終回のラストでは何か大事件が起きて「シーズン2へ続く」なんてパターンが多いが、『ピースメイカー』はきちんと事件が解決し、シーズン2へ引っ張るようなことも起こらないので安心してご覧いただきたい。

 つまり『DCエクステンデッド・ユニバース』シリーズ最長と言われる『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダー・カット』4時間1分を超える、5時間46分間の映画を楽しめるということになる。笑って、スカッとして、最後にちょっと泣ける。これこそブルーレイで楽しみたい作品だ。

 監督・脚本のジェームズ・ガンも「スーパー・ヒーロー、スーパー・ヴィラン(悪役)界最大のクソ野郎」と称しているほど。だが『ピースメイカー』全8話を見終えた頃にはピースメイカーのことが大好きになっているだろう。

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