山本直樹の伝説的な漫画を実写映画化した『ビリーバーズ』が、7月8日より全国公開される。カルトを題材に、俗世の汚れを浄化するために孤島での共同生活を送る3人の男女の姿を描く本作。メガホンを取ったのは、数多くの作品を手掛け世界観の構築には定評のある城定監督であり、時にユーモラスな描写も交え、エンターテイメントな作品にまとめられている。ここでは、ヒロインとなる副議長を演じた北村優衣にインタビュー。オーディションから役作り、現場での思い出などを聞いた。

画像1: 映画『ビリーバーズ』でヒロインを演じた「北村優衣」、「今の自分にできる最大限の副議長として生きられました」

――よろしくお願いします。まずは、公開が迫ってきた今の心境をお聞かせください。
 かなり緊張しいの性格なので、とにかく不安でお腹が痛くて痛くて。ただ、こうしてフライヤーもできて、いろいろな情報が解禁されるようになってきたことで、ようやく楽しみという気持ちが半分を超えてきました。本当にこの映画が世に出るんだっていうワクワクを感じています。早くこの映画を観た方とお話ししてみたい、感想を聞いてみたいという気持ちでいっぱいです。

 記者さんはいかがでしたか?

――私ですか、そうですね、悩んだり、隠し事をしたり、洗脳されていく過程の中で見せる人間的な表情がよかったと思います。
 ありがとうございます。私の演じた副議長は、他のキャストに比べると、自分の意志を言葉にすることが少ないこともあって、そういう細かい表情の表現には気を付けて、きちんと副議長でいられるように準備しましたし、お二人(磯村、宇野)の空気感をきちんと受けるということを意識していたかもしれません。

――素晴らしいですね。さて、少し戻りまして、今回オーディションを受けようと思ったきっかけを教えていただけますか。
 マネージャーさんにオーディションの話を教えてもらって、さっそく台本と原作を読んでみたらもう、めちゃくちゃ面白くて! すぐに“出たいです”って返事をした覚えがあります。原作の面白さを監督が漏れなくギュギュギュって詰め込んでいて素晴らしい作品になっていたので、絶対にやりたい! と思って、いままでにないぐらいの準備をして、オーディションに臨みました。

――どんな準備をしたのでしょう。
 オーディション用の台本って、大事なシーンをかいつまんであるので、そのシーンの前後に何があったのかについて、原作にある部分はきちんとそのシーンを理解するようにしたり、そもそも副議長がどういう人なのかっていうことを考えながら、日常を過ごすようにしていました。

――では、オーディション会場に行く時にはもう準備万端だった?
 いいえ全く……。もう緊張しすぎて、近所のファストフード店に入って2時間ぐらい、自分が書いたノートとか脚本を何度も何度も見返していました。

――そして臨んだオーディションはどうでした?
 実はあまり覚えていないんですよ。監督を含めて大人の方が6人くらいいらっしゃって、緊張しすぎたのか、何をしたのか、何を話したのかの記憶がないんです。だから手応えもなかったし、不思議な気持ちで帰ったことしか覚えていないんです。ただ、やることはやったという気持ちはあったので、これでダメだったら私には向いていなかったんだろう、と思うようにしていました。

――そうしたら。
 割とすぐにお返事をいただいて、えっ本当に!? という感じで、嬉しさがこみあげてきて家の中をぐるぐる回っていました(笑)。ただ、すぐにいろんな不安も押し寄せてきて……。楽しみと不安で、頭がパンクしそうでした。

――クランクインに向けて、どんな準備をしたのでしょう。
 無人島で生活しているので、もっと痩せなくちゃってダイエットを始めたり、何度も何度も脚本と原作を読み込んでいって、副議長をイメージして、人生センターに入る前はどういうことをしていたんだろうって考えるなど、私の生活の中にずっと副議長がいた日々を過ごしていました。

――その日々の中で、どのように副議長を作り上げていったのか教えてください。
 いつもなら、私と役の共通点や共感できるところを探したりして、役を自分に引き寄せてくるんですけど、とにかく今まで演じたことのない役でしたから、すごくたいへんでした。人物としては、流されやすくはあるんですけど、信仰心というか、人を信じる力は人一倍強い女性なんだろうなって思いました。

――言いにくいと思いますが、共通点はありましたか?
 私も人をすぐに信じてしまうし、信じたいと思っている人間なので、そこに弱さというか、孤独を強めていったのが副議長になるかなって。全く理解できない人物ではありませんでした。

――その弱さはどのように表現したのでしょう?
 物理的な方法で言うと(笑)、声をちょっと弱めたり、言い方(話し方)を自信なさげにしたりはしました。とはいえ、心の奥底には強い欲望を抱えている人だから、それをどこまで出すかというバランスは、考えていました。

――初めてメインキャストの他の2人と会った時は?
 ただただド緊張していましたけど、磯村(勇斗)さんは髭を生やしているイメージがなかったので、髭の磯村さんを見た時には“あっオペレーターさんだ”っていう印象は強かったです。

画像2: 映画『ビリーバーズ』でヒロインを演じた「北村優衣」、「今の自分にできる最大限の副議長として生きられました」

――宇野(祥平)さんは、変わった役柄が多いですし、劇中では、後半に向かってどんどん狂気じみていきます。
 “お芝居”は本当に素晴らしかったです。劇中でなまこを持つシーンがあるんですけど、“なまこです”っていうお芝居が本当に気持ち悪くて……。リアルに顔が引きつってしまったんです。試写の後に宇野さんに、“気持ち悪くて最高でした”ってお伝えしたら、それ褒めてるの? って渋い顔をされて……。私的には、最高の褒め言葉だったんですけどね。

 ただ、宇野さん演じる議長がどんどんどんどん欲望に開花していってしまうので、そことの違いは出したいと思って、途中からは議長とは距離を置くというか、温度差を感じてもらえるようなお芝居を意識していました。

――現場では監督からこうしてほしいという要望はあったのでしょうか?
 具体的な演技指導はありませんでしたけど、(お芝居の)見え方の強弱については、もう少し弱くしてほしい、というような指導はいただきました。

――話は少し飛びますが、当初は天気が悪くてたいへんだったそうですね。
 ものすごい土砂降りでした。私、雨女なんですよ。撮影に入る前にロケハンもしたんですけど、雨が凄すぎて、中止になってしまって。とにかく、足はぐしゃぐしゃになるし、立っていられないぐらいの雨量でしたから、すぐ帰って長靴を買いに行きました。

 ただ、そうした天候も作品の世界観に寄与してくれたのかなって思いますね。どんよりした天気から始まって、最後、島に信者が集まるシーンでは見事な快晴になったので、天気までも監督の演出だったんじゃないかって感じましたから。

――実際にクランクインの撮影はいかがでしたか?
 これから始まるんだっていうワクワク感は強かったですね。実際にはたいへんなこともたくさんあったはずなのに、いま思いだすのは、楽しいことばかりなんです。

――月並みな質問ですが、印象に残っているシーンは?
 たくさんありますけど、一番っていうと、やはりクランクアップですね。そのシーンーー夜にオペレーターさんと2人で、コンテナの窓から外を見ながら、キスするところーーを撮っている時は、本当にこれで終わってしまうんだなっていう寂しさと、これで副議長とお別れするんだっていう寂しさがありました。そして、撮影が終わってコンテナを出る時に磯村さんが“頑張ったね”って言ってくださったんです。それで、“終わっちゃったんだ”っていう悲しさと、それまでの2 週間、3 人で頑張ってきた思い出が一気に蘇ってきて、胸が熱くなって……。でも、ここで泣いちゃだめだと思って、(涙を)すごく堪えていたのは覚えています。

――日常に戻って(自宅に帰って)どうでしたか。
 喪失感は大きかったですね。しかも、2 週間の間ずっと、人もいない大自然の中で撮影をしていたので、都会の人の多さとか、音のうるささに敏感になってしまって、なんかずっと気持ちがそわそわしていました。

 撮影が始まった時は、この生活は大変だなーという気持ちだったんですけど、終わってみると、そこに戻りたくなるので、そのぐらい濃い時間を過ごせたんだなってしみじみ感じました。ただ、大好きなビールと餃子を食べた瞬間に、生き返ったーっていう感覚は強かったです。幸せでした(笑)。

――ちょっと聞きにくいことをお聞きしますが、ラブシーンに挑む心境はいかがでしたか? 内に秘めていた感情が爆発するところが、表情からも感じられました。
 ありがとうございます。それは意識していましたね。磯村さんとも相談して、これは最初のシーンだから、2人の初めて欲望が出てくるところが見えた方がいいねって、お互いの感情の流れを共有しながら、お芝居をしたのは記憶に残っています。

画像3: 映画『ビリーバーズ』でヒロインを演じた「北村優衣」、「今の自分にできる最大限の副議長として生きられました」

――表情繋がりでお聞きしますと、最後の混乱のシーンで、小さい子供を助けながら迷っている時(の表情)も印象的でした。
 原作にそういうシーンはないんですけど、台本を読んで私が考えたのは、女性としての本能というか、母性本能がそこで目覚めたことで、子供を助ける行動を取ったんだろうなということでした。無人島での生活を通していろいろな欲が解放されていく中で、母性という本能も解放されて、子供を逃がすという選択ができたのだろうと思っています。

――最後は、いろいろな謎を残したまま終わります。
 そうなんですよ。脚本でははっきりと描写していないし、私もこうと決めずに、あいまいさを残したお芝居をしているので、観てくださる方が感じたものでいいのではないかと思っています。個人的には、副議長には幸せになってほしいなと願っています。

――ちなみに、最初に完成した作品をご覧になった時の感想は覚えていますか?
 覚えてますよ。すっごく緊張して、またお腹痛くなってきて……。本当に緊張とお腹が痛くなるのはセットなんだなと思いながら、ずっとふわふわした気持ちでいました。

 いつもなら、もうちょっとうまくできたんじゃないかなって、色々な後悔が出てきしまうんですけど、この『ビリーバーズ』に関しては、もちろん後悔はありつつも、今の自分にできる最大限の副議長として生きられたなって思えたので、そんな気持ちになったのは試写で初めてでしたから、それやはり私だけではなくて、磯村さんと宇野さんの2人が、自分が出せる以上の副議長を引き出してくださったからだったんだろうなって、すごく感じました。

――観客にはどんな風に受け取ってほしいでですか。
 カルトをテーマにしているので、身構えてしまう方もいらっしゃると思いますけど、要所要所で笑えるポイントがあって、きちんと面白くなっていますし、3人が欲望に忠実になっていく姿はとにかく愛おしく感じてもらえると思うので、そうした登場人物たちを愛していただけたら嬉しいです。

 あとは、自分たちが思っている正しさとか普通さっていうのは、本当に正しいものなのかなっていうことを、考えさせられる作品になっていると思いますので、ぜひ色々な価値観を手に入れていただけたら嬉しいです。

――ところで、話は飛びますが、北村さんが女優になりたいと思ったきっかけは?
 幼稚園の頃に見た舞台のキラキラ感が忘れられなくて、そのキラキラした世界に行きたいと思ったのがきっかけだと思います。それ以来、ずっと女優になるという気持ちを持ち続けていて、小学生の時に実際に劇に出てみて、お芝居の楽しさだったり、みんなで何か 1つのものを作る喜びを感じたのが大きかったですね。しかも、家族がとても喜んでくれたんです。その時に感じた女優への憧れ・夢は、今も変わらず持っています。

画像4: 映画『ビリーバーズ』でヒロインを演じた「北村優衣」、「今の自分にできる最大限の副議長として生きられました」

――北村さんが目指す女優像というのは?
 もちろん、いろいろな役を演じていきたいですけど、やる以上は、自分がやる意味のある役にしたい、と思っています。自分の色も出しつつ、作品に合わせて、その役の役割をきちんと果たしていく。自分である必要性をきちんと提示しながら、その役を作品の中で生かしていきたい。そう思っています。

映画『ビリーバーズ』

2022年7月8日(金)より、テアトル新宿ほか全国順次公開

<キャスト>
磯村勇斗 北村優衣 宇野祥平 毎熊克哉 山本直樹

<スタッフ>
原作:山本直樹「ビリーバーズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊
監督・脚本:城定秀夫 音楽:曽我部恵一 製作:藤本款、久保和明、直井卓俊 プロデューサー:原口陽平、秋山智則、久保和明 撮影:工藤哲也 照明:守利賢一 録音:松島匡 衣裳:十河誠 ヘアメイク:重松隆 装飾:藤田明伸 助監督:山口雄也 制作担当:矢口篤史 編集:城定秀夫 整音:山本タカアキ 効果:小山秀雄 ラインプロデューサー:浅木大 キャスティング:伊藤尚哉 主題歌:曽我部恵一「ぼくらの歌」(ROSE RECORDS 宣伝美術:寺澤圭太郎 宣伝協力:プリマステラ 制作プロダクション:レオーネ 製作:『ビリーバーズ』製作委員会 配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
R15
(C)山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会

ヘアメイク:椿えりか
スタイリスト:豊島今日子

This article is a sponsored article by
''.