昨年12月20日に、200台限定で発売されたカーオーディオ専用デジタルオーディオプレーヤー(DAP)「DAP300APEX Ti」(¥330,000 税込)。これは、大阪のホームオーディオ/ビジュアル/カーオーディオショップのAV Kansaiが、DAPの世界で知名度の高いiBasso Audio(アイバッソ オーディオ)とコラボして作り上げた別注モデルとなる。

画像: iBasso Audio「DX300MAX」をベースに特注にて開発された

iBasso Audio「DX300MAX」をベースに特注にて開発された

画像: 車載用に、専用の電源端子を備える

車載用に、専用の電源端子を備える

 僕はそのプロトタイプモデルを自宅のホームオーディオ環境でテストしてみて、予想を超える音の良さに感心したのだが、同時に、1つのショップがメーカーに、こんな風にDAPを特注することが可能なのだということに強い興味を持った。しかも、量産モデルはプロトタイプよりもさらに音質が上がっているというのだ。

 そこで本稿では、今初めて明かされるDAP300APEX Tiの企画から発売までの経緯を掘り下げるとともに、後半では、プロトタイプより音質が強化されたという量産モデルのクォリティチェックも行なってみたい。

 まずはDAP300APEX Tiの基本仕様について簡単に触れていこう。詳細については、AV Kansaiに寄稿した僕の投稿を確認していただければと思うが、ここでは大きなおおよそ3つの要点について紹介する。

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(1)iBasso Audioの最上位モデル「DX300MAX」をベースに、カーオーディオに最適化した特注モデルだということ。

(2)ハイエンドのカーオーディオやカーオーディオコンテストでの使用に最適化するため、「USBのデジタル出力の音質に特化している」ということ

(3)充電機能・自動再生モード等を可能にする「カーモード」を装備し、車載時のユーザビリティを上げていること。

 まずはAV Kansai側に、なぜこのような製品を企画したのか、意図を聞いた。

 デジタルオーディオプレーヤー(DAP)は、カーオーディオコンテストでの音質を決める大事な要素のひとつと僕は考えているが、DAP300APEX Tiも、音質についてはかなりこだわりを持って開発されている。AV Kansaiによると、車で聴く場合はヘッドホンやイヤホンでの聴取とは違い、必然的にロードノイズが入ってしまうので、細かい音が聞こえる解像度一辺倒の音よりも、音楽的な厚みが重要になるという。また、帯域バランスについては、低音域から高音域まで充分な情報量を持たせつつも、少し右肩下がり(高域を強調しすぎない)な音を狙ったのだとか。

 AV Kansaiは、ハイファイカーオーディオコンテストで上位に入る車両を多数輩出しているが、そんな同社が近年注目していたDAPが、iBasso「DX220MAX」だったという。競合他社のクールで解像度重視の音よりも、優しくて厚みのある音がその理由である。

 しかし、iBassoのDAPはイグニッションの連動に対応するカーモードを備えていない。つまり、一般的なDAP同様にエンジンの始動後、その都度電源を立ち上げ、曲を選び、再生ボタンを押さなくてはいけなかったのだ。

特注にて装備された「車載モード」。メニューからオン/オフが可能

 つまるところ、コンテストで上位に入るための音質とユーザビリティの両方を一挙に取得するためにAV Kansaiが考えたのが、iBassoへの依頼だった。

 しかし、そもそも1つのショップがメーカーへ、シャーシ素材から内部回路まで、多くの部分が違うモデルを依頼するなど前代未聞。僕はコミュニケーションも含め、かなり苦労したのでは? と予想していたのだが、意外にも、やりとりはスムーズで問題は起きなかったという。

 AV Kansaiは関西地域では大手のショップで、既に様々な国産メーカーから製品開発の補助や相談など請け負っていたことから、こういったメーカーの対応力やスピード感は予想していたそうだが、仲介してくれた国内代理店MUSINの対応も含め、開発、プロトタイプ作製までのすべてで、そのスピード感に驚いたそうだ。

 また、開発時のとある段階で、プロトタイプと製品版の音質的な違いを生む興味深いエピソードがあったという。

 プロトタイプ段階で目指した音質は、当然、ベースモデル「DX300MAX」よりUSB出力の音質を上げること。また、音調や音色などのトーンはプロセッサーで決めていくので、まずはS/Nや情報量の多さを重視した。到着したサンプル機のクォリティをチェックしたところ、目標通り、聴感上のS/Nが大きく上がり、分解能も高く、手応えを感じたという。ただし、音調的に少しクールさを感じたので、そこは要望を伝えたそうだ。

 そして製品版が到着。改めてチェックしたところ、一聴して音に艶が出ており、クールな音はより穏やかになりつつも、情報量はプロトタイプ機よりも向上して良いと感じることばかりだったのだそうだ。余談だが、クールな音だったプロトタイプは、AV Kansaiの関係者の友人が、イスラエルのスピーカーブランド、モレルのウォームなトーンに合うと言って喜んで使ってくれているらしい。

ホームオーディオシステムでも柔らかさと厚みのある再現性で、分解能が高くワイドレンジなサウンド

 さて、今回は、この製品版を僕の自宅1Fのメイン試聴ルームに持ち込んでクォリティチェックを実施した。再生システムは、DAP300APEX Tiをトランスポートとして、D/Aコンバーターを搭載したテクニクスのプリメインアンプ「SUR-1000」とUSBケーブルで接続する。そのケーブルは、M&M DESIGNの「SN-USB6000」(TYPE-C OTG/TYPE-B)を使用した。スピーカーはJBLの「L100 Classic 75」だ。

画像: 試聴は、テクニクスのプリメインアンプ「SUR-1000」とUSBケーブルで接続して行なった

試聴は、テクニクスのプリメインアンプ「SUR-1000」とUSBケーブルで接続して行なった

 試聴に使う楽曲は、今年の5月15日(西日本)と6月19日(東日本)に開催される「ヨーロピアンサウンドカーオーディオコンテスト(通称:ユーロコン)」の課題曲の4曲。音が良いと評判のAndroid用アプリ「Mango OS」から再生する。

 ちなみにこの4曲、そもそもホームオーディオの2chスピーカー環境でも再生難易度が高い。カーオーディオコンテストの課題に選定される楽曲は良質な録音が多く、しかもウーファーの低域再生能力を試される難易度の高いものが多い。

 まずは2曲のボーカル曲から。ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガー、セリア・ネルゴール 「My Crowded House」は、イントロの左右に広がるボーカルとバックミュージックの段階で聴感上のS/Nが高く、高音域から中音域がクリア。ボーカルは音像のフォーカスが整って滲みが少なく、口元の大きさがわかるリアルな表現が印象的だ。ベースのリアリティも秀逸で、音階もよく分かるが、弾力感の表現もクールにならず、確かにプロトタイプからの音質向上が聴き取れる。低域のレンジも広い。

 トニー・ベネット&レディ・ガガのデュエット曲「It's De-Lovely」は、イントロから聞こえる打楽器のアタック感の表現がオーバーオール(評価項目)を左右する1つの要素。ここでは、音の立ち上がりが良くベースはしっかりと階調表現を持ち、低域の沈み込みも聴き取れる。DAP300APEX Tiのノイズフロアの低さが際立っているようだ。レディ・ガガのボーカルはしっかりと前へ張り出すが、ピアノは少し柔らかい表現。この質感的な対比が正確に表現できるところは、DAP300APEX Tiが持つ1つのアドバンテージだ。

 続いてクラシックの2曲、スウェーデン室内管弦楽団の「Symphony No. 1 in C Minor, Op. 11~」。聞きどころの1つは、柔らかめの音調をしっかりと表現できているか。まさにここは、DAP300APEX Tiの良さが音に現れた。サウンドステージの左右の広さを表現する小レベルの音がノイズフロアに消されないのも良いし、0:32付近から盛りあがってくる抑揚表現への適度な追従力、すなわちDレンジの広さもある。

 続いて、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の『Concerto for Orchestra, Sz. 116: V. Finale』は、打って変わって比較的ハイファイ調の音調と音色が特徴だが、そこにも的確に対応する。イントロのトロンボーンの音は粒子が細かく透明感もある。0:09~0:20付近の静かさは、小レベルでの分解能が高く、空間の抜けも良い。その後徐々に盛り上がってくるパートでは、ダイナミックレンジの広い表現。ヴァイオリンを始めとする弦楽器のアコースティックな質感もソースに対してアキュレイトだ。

 DAP300APEX TiのUSBデジタル出力は、しっかりとしたホームオーディオのシステムでも充分な能力を発揮した(DAP以降のアンプSU-R1000のD/Aコンバーター回路の性能の高さに支えられたことも大きいだろうが)。

 今回はカーモードなどの機能部分はチェックできなかったが、音質については満足の仕上がりで、音の柔らかさなどの再現性もしっかりと聴き取ることができた。

画像: ホームオーディオシステムでも柔らかさと厚みのある再現性で、分解能が高くワイドレンジなサウンド

 ちなみに今、この原稿を書いている僕の目の前には、引き続きDAP300APEX Tiが置いてある。良質なUSBデジタル出力の音は、ホームオーディオ環境でも戦力になるし、DACチップ「ESS9038Pro」を使用したヘッドホン出力の音はクセがなく、逆に使いやすいので、HiVi夏ベストバイ2022で、ヘッドホン/イヤホン部門の選考のリファレンス機に使うつもりでいる。

 なおAV Kansaiは、今回のDAP300APEX Ti開発を通して、海外メーカーのモノづくりのスピード感に衝撃を受けたとも語っていた。確かに、iBasso Audioは設立当初からポータブル機器に特化しつつカッティングエッジな製品を高いスピードで発売したことで、今の地位を築いたとも言えるが、今回の特注モデルの存在は、そのメリットが大きく活かされた好例と言えそうだ。

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