僕は前回の取材で、aune audioの小型デスクトップ用のヘッドホンDACアンプ「X1sGT」とオーディオクロックジェネレーター「XC1」を試して、その洗練されたデザインとアキュレイト方向の音質など、コストパフォーマンスの高さには大いに感心したことを鮮明に覚えている。今回、新発売されたポータブルDACアンプ「BU2」もかなり充実した内容を持っているので、ぜひご覧になっていただきたい。
ポータブルDACアンプ
aune audio 「BU2」
¥39,900(税込)
3月26日発売
Bluetooth SoC:「CS8675」
対応コーデック:SBC、AAC、aptX、aptX HD、LDAC
搭載DAC:「ES9318」
対応サンプリングレート:PCM 768kHz/32bit、DSD512
S/N:120dB
THD+N:0.000145%
ヘッドホン出力:2.5㎜バランス(265mW/32Ω)、3.5㎜アンバランス(100mW/32Ω)
内蔵バッテリー容量:4000mAh
バッテリー再生時間:約9時間
寸法:W65×H126×D18mm
質量:210g
改めてaune audioのことを紹介しよう。同社は2014年に6人のメンバーによって設立され、最初はプロフェッショナル向けオーディオ機材を市場投入。コストパフォーマンスの高さが評判となり、その勢いのままコンシュマー市場にも参入した。現在のaune audioは、特にDACやヘッドホンアンプが高く評価されている。
多くのオーディオファイルが中国のオーディオブランド、特にアンプやDACなどに対して、「安いが、音質やデザインは……」、という印象を持たれる方も多いと思う。正直に言えば僕もそうだった。しかしレビューした2台の製品は、優秀なプロダクトデザイナーが参画したと思われるデザインの良い筐体と、ソースに対してアキュレイトな方向性の音を聴かせるなど、総じてコストパフォーマンスが高く、所有欲を掻き立てられるほどの仕上がりだった。
好評のポータブルDACアンプ「BU1」に、Bluetoothレシーバー機能を追加
話をBU2に戻すが、今回レビューするのはバッテリーを内蔵したポータブルタイプのDACアンプである。2019年にリリースされ好調なセールスを達成している「BU1」のラインナップモデルで(BU1と併売)、スマホやDAPとUSBケーブルでデジタル接続を行なう他に、新たにBluetooth接続機能(Bluetoothレシーバー)を実装して汎用性をあげた。
寸法は幅65mm、厚さ18mm、高さ12.6mmと、スマホと同じくらいの大きさで、4000mAhのバッテリー容量を持ち、再生可能時間は公称9時間、質量は210gとなる。
筐体のデザインは同社らしく洗練されている。ブラックカラーのシャーシの上部が窪み、そこにボリュームと機能切り替えを共有するノブが備わる。中央にはライン上にデザイン意図を有したボリュームやソース、デジタルフィルターなどの表示部が備わる。シンプルだがしっかりとデザインされた筐体だと判断した。
インターフェイスについては、デジタル入力がUSB Type-Cで、アナログ出力として、3.5mmシングルエンド(アンバランス)、および2.5mmバランスというデュアルヘッドホン端子を搭載していることが大きな特徴だ。
Bluetooth周りについては、SoCチップにQualcomm社の「CSR8675」を搭載し、接続コーデックはSBC、AACに加え、aptX、aptX HD、LDACをサポートする。
と、インターフェイスや端子周りは、そつなくこなしているが(それでもディアルヘッドホン端子は嬉しい)、ここからがBU2の真骨頂というか、はっきり言うと、価格が信じられない内容なのである。
まず、DACチップはESS SabreTechnologies社の最新世代「ES9318」をなんと2基搭載する贅沢な仕様で、PCMは768kHz/32bit、DSDは22.4MHz(DSD512)のデコードを可能とした。
ヘッドホンアンプ周りも強力で、評価の高かった「B1」にも搭載された、低リップルで駆動力の高いアンプ部を4回路分、独立して搭載する。
さらに、ハイレゾ時代のデジタルオーディオにおける音質対策の肝として、改めて注目度が上がっているクロック周りは、45M / 49Mという2つの水晶発振器を実装し、USBチップとDACチップを同期させている。
ボリューム回路部にもこだわりがある。精度の高い抵抗を用い、微妙な音量制御と、モデルごとにインピーダンスが違うヘッドホンやイヤホンに対応できるR2Rラダーネットワークタイプの動的ボリューム制御回路が用いられている。
つまるところ、DACチップやクロックなどのデジタルドメインから、D/A変換後のアンプ回路、ボリューム回路というアナログドメインの全領域において、高音質化対策が施されているのだ。
ヘッドホン端子の出力電力は、2.5mmバランスが最大265mW@32Ωで、3.5mmシングルエンドが100mW@32Ωとなる。
また、DACチップの機能を生かした、音調可変が可能な7つのデジタルフィルターを利用できることもポイント。
<フィルターモード>
SC:ブリック ウォール フィルター
SU:ハイブリッド 高速ロールオフ フィルター
SL:アポダイジング 高速ロールオフ フィルター(デフォルト)
SI:最小位相 低速ロールオフ フィルター
SH:最小位相 高速ロールオ フフィルター
SE:線形位相 低速ロールオフ フィルター
SD:線形位相 高速ロールオフ フィルター
BU2の持つ「フィルターモード」は、搭載するDAC「ES9038Q2M」に標準搭載されている、「カスタマイズ・プログラマブル・フィルター機能」を利用したものとなり、DAC内にイコライザーのようなフィルターが用意され、減衰幅、フィルターのかかり具合、低域寄り、フラット寄りといった要素を組み合わせた7種を選択できるようになっている
付属品については、「USB-C to Cケーブル」「USB-A to USB-Cケーブル」に加え、「USB-C to Lightning変換コネクター」が同梱される。これにより、パソコンから、AndroidスマホやiPhone、さらにデジタル出力可能なDAPなど幅広い環境で利用できるのが嬉しい。
iPhoneとの有線接続では、音場感やディテイルの再現性向上に感動。「iPhoneからここまでの音が出せるのか」と驚いた
クォリティチェックは自宅にBU2を持ち込む形で実施した。今回の目的は2つ。1つはiPhoneを有線化して根本的な音質向上にトライしつつヘッドホンの駆動力などを確認する。またホームオーディオ環境に投入し、ライン出力のクォリティチェックを行なう。
まずはiPhoneと組み合わせてみた。ご存知の通りiPhoneは2016年に発売された「iPhone7」よりステレオミニジャックを廃したので、有線タイプのヘッドホンやイヤホンが使えなくなった。Bluetoothイヤホン/ヘッドホンを使っている方も多いと思うが、改めて有線(Lightning-USB)接続での音質向上を確認するのだ。
ここで活躍するのが、付属の「USB-C to Lightning」変換コネクターと「USB-C to Cケーブル」だ。
組み合わせたヘッドホンはドイツ・ゼンハイザー社の「HD800S」で、まずは3.5mmのシングルエンド接続で視聴した。HD800Sのインピーダンスは300Ωとかなり負荷がかかる、その結果はいかに。
再生アプリの「NePLAYER」を利用して、人気女性アーティストのアデル「Easy on me」(44.1kHz/24bit)を再生した。帯域バランスについて、中高域はフラット志向で、低域については適度にブーストされる。高性能なDACチップを2基も搭載しているおかげもあり、分解能についてはクラス以上で、ヴォーカルの距離感も適切かつリアリティを感じる。負荷の高いHD800Sで気になる音量も確保できており、ヘッドホンアンプ部の出力には問題がなさそうだ。当然、大型の据え置き型のヘッドホンアンプのようなとことんグリップさせるような駆動力はないものの、輪郭の滲みも最小限で、価格を考えると大したものだと感心した。ボリュームやヘッドホンアンプ部の品質が良いせいもあり、聴感上のSN比悪くないし、小音量時の音痩せも価格の割に抑えられている印象だ。
次に2.5mmのバランス接続でクォリティを確認した。HD800Sの付属ケーブルは、4ピンのXLR端子なので、秋葉原のオーディオショップ「オーディオみじんこ」で特注してもらった「XLR4ピン-2.5mm」の変換ケーブルを用いて同曲を試聴した。
この値段のポータブルDACでバランス接続ができるとは良い時代になったが、その効果は確実に聞き取れた。左右のステージがより広くなり、ヴォーカルとバックミュージックの描き分けも少しだが向上する。全体的に音場や楽器の配置に余裕が出るが、楽器の押し出しなどのエネルギー感はシングルエンドにも良さを感じた。
と、ふと「iPhoneでこんなに良い音を聞いたのは、いつ以来だろうか?」と考えてしまった。最近の完全ワイヤレスイヤホンは音質向上が顕著で、僕もいつのまにかBluetoothイヤホンを使うことが増えていたが、iPhoneからここまでの音が出せるのか、と改めて新鮮な気持ちになり嬉しくてしかたない。
この状態でデジタルフィルターのモードを可変して音調を確認した。先述した通りBU2は7つのモードで可変できる。標準は本体に[SL]と表示される「アポダイジング高速ロールオフフィルター」で、今聴いた音の印象は本フィルターを適応した状態だ。
それ以外の6つのフィルターの音は、高域や低域の帯域バランスはほぼ同じだが、音楽的な印象はかなり変わって面白い。エッジの立ったスピード感のあるモードや反対にディテイルが柔らかいモード、それに加えて音のスピード感もそれぞれのモードで違ってくるので楽しい。今までであれば製品を買い替えなくてはいけなかった質感の変化を、デジタルフィルターによりその場で切り替えられる良い時代になった。
次に、iPhoneとBluetooth接続して、Spotifyから手嶌葵のシングル「ただいま」を再生した。iOS端末だと圧縮接続コーデックのAACとなってしまい、先ほど聞いた有線接続ほどの絶対的な情報量はないが、帯域バランスが崩れることもなく、イントロの右チャンネルから聞こえるピアノの質感や音色も良好に表現。いつもより少しエコー成分が多く加えられた彼女のウイスパーボイスに適度な透明感もある。
現在発売されている一部のAndroidスマホや多くのDAPは、圧縮コーデックながら、48KHz/24bitの伝送を可能とする「aptX HD」や同96kHz/24bit、990kbpsの「LDAC」に対応するモデルも増えており、これらと組み合わせれば、スマホ(DAP)-DAC間を手軽にワイヤレスで結び、有線タイプの高音質ヘッドホン/イヤホンを楽しむこともできる。
そのBluetoothレシーバー機能については、自宅のホームオーディオ環境でLDAC対応のDAPを組み合わせた時の確かな音質を確認している(来客がBluetoothだと気がつかなかったほど)。つまるところ、本BU2のBluetooth接続機能(LDAC)は、使い勝手の面だけでなく、クォリティ面でも注目できるものだと言える。
ホームオーディオ環境でも充分に使える、情緒豊かな音楽性のあるサウンドを聴かせてくれた
と、ポータブル用途で満足の結果だったが、最後はしっかりとしたオーディオ環境にBU2を投入した。本モデルはライン出力を持たないので、ヘッドホン出力を利用する。オーディオクエスト製の3.5mm-RCA変換ケーブルを使って、テクニクスのプリメインアンプ「SU-R1000」に入力、ディナウディオのスピーカー「Special Forty」を鳴らした。
ソースは、Mac用再生プレーヤーソフト「AudirvanaPlus」をインストールしたMacbook Proをトランスポートとした。
ここでの試聴ソースは、ステレオサウンド社「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」から、リーズ第五弾『シュタルケル/J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』をチョイスする。英国保管のオリジナル・アナログ・マスターテープからダイレクトにトランスファーされたDSD11.2MHzタイトルの超絶音源だ。
余談だが、ストリーミングサービスで192kHz/24bitなどのソースが不自由なく聴ける現在、これを超えるハイレゾファイルは価値が大きく上がっていると僕は考えている。
そして気になるBU2音質だが、価格を感じさせない再生音で、天才シュタイケルの眼前に繰り出すチェロの実体感や、情緒豊かな音楽性など多くの聴き所があった。もしBU2がライン出力を持っていたならさらに良い音が出せそうだが、DAC回路を中心としたデジタル回路部の可能性を感じる音だった。
いかがだったろうか、BU2の価格を考えると、今回もコストパフォーマンスの高さが大変印象的だった。デジタル、アナログ、ヘッドホン回路の全てに隙がなく(この価格でこのような表現は中々使えない)、自身のiPhoneを有線接続した時の音には大いに感心したし、派手さを狙わない本質的な音色、音調を探究していることにも好感を持った。とにかくお買い得感の高いヘッドホンDACアンプだ。