「小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所」第4回目は前回に引き続き山本先生宅のオーディオシステムで小岩井さんが気になっているレコードや、サラウンドシステムを体験していただきました。(編集部)

前編はこちら

小岩井さんが気になるレコードを再生

小岩井 それではわたしが気になっているレコードを聴かせてもらってもいいですか。

山本 もちろん。

小岩井 『ルパン3世』をテーマにしたアルバムで、聴かせてもらいたいのは「カリオストロの城」の主題歌、エンディングで流れてくる曲です。

山本 「カリオストロの城」か、名作ですな。

試聴中

画像: 【連載】小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所  
第4回 山本先生のお家に行ってみた。(後編)

小岩井 めっちゃくちゃいい……。この曲、家でもよく聴くんですが、もうこの部屋でしか聴きたくないです。

山本 いつでも来ていいですよ、1曲5円。

小岩井 そんなに安くていいんですか。

山本 ウソウソ(笑)。お金とったら怖い人に逮捕されちゃう。

小岩井 やっぱり楽曲に込められた情緒を感じとる、音楽をもっと知りたいという方には、オーディオシステムって必要なんですね。

山本 これ、いつ頃の録音なんだろう?

小岩井 79年12月のリリースですね。わたしサブスプリクションでカバーバージョンとかは良く聴いていんですけど、断然このアナログがいいと思いました。

山本 CD登場以前の録音ですからね、アナログで聴くほうがしっくりくるのかもしれません。

小岩井 話は突然変わりますが、老後はステレオサウンド試聴室みたいな共有ルームのある老人ホームで暮らそうって、オタクの友だちと最近話してるんです。

山本  ん? オタク老人ホーム?

小岩井 そうなんですよ、オタクばっかりが集まった老人ホームが将来出来るといいよねって話をすると、みんな「入居してぇ~」って(笑)。

画像: 小岩井さんが気になるレコードを再生

山本 (笑)。でもさ老後のことなんか考えないで、いまやろうよ、オーディオ。前回の取材や今回の取材では、たいそうな機器だけど、もっと手軽にできますよ。

小岩井 でも最近の若い人って将来に対する不安感が強くて、趣味に投資することに躊躇する人が多い気がするんですよ。

山本 うーん、そうなのかな。ぼくは還暦を過ぎても物欲のカタマリだけど(笑)。次々に欲しいオーディオ機器が出てくる。でも、若い人にモノを買うのを躊躇させるような不安な時代をつくったのは、ぼくたち今の大人の責任だからね、若い人たちのそういう態度を簡単に批判できないと思います。

では最後に、ぼくの大好きなナット・キング・コールの1958年のアルバム『The Very Thought of You』を聴いてもらおうと思います。

小岩井 うわ~、このジャケットかっこいい。アナログレコードはモノとしても魅力も大きいですよね。

山本 うん、そうだよね。ヴィンテージマイクの最高峰ノイマンU47を前にしたナットのかっこよさは、やはりLPサイズで眺めたい。では、ゴードン・ジェンキンス指揮のフルオーケストラをバックに歌う「But Beautiful」を聴いてもらいます。

小岩井 すごい、ゴージャス。とろけちゃいそうです。これ62年前の録音になるわけですよね。信じられない。

山本 今じゃ考えられないような録音手法が採られています。LAのキャピトルレコードのビッグルーム・スタジオにオーケストラを入れての一発録音。誰かがトチったらもう一回初めからっていう。歌う人、演奏する人、録る人、みんなすごい緊張感の中で仕事をしているはずです。

小岩井 そうか、この音の生々しさの理由は、そういう録音手法にもあるわけですね。

山本 今では高値取引されているヴィンテージのU47がバリバリの現行商品だった時代の録音だから、音が良いのも当然なんだけどね。

小岩井 そうか!

山本 しかも基本「せーの」の録音。今みたいにノンリニア編集ができないからね。いいところだけつないでいく現代の手法が採りにくいわけです。

小岩井 今じゃ考えられないですね。

山本 ヴォーカルのピッチのズレをポストプロダクションで微調整するなんてできないし。

小岩井 今では多くの方がやってますよね。

山本 本当は好ましくないよね。音の鮮度がどんどん失われるし、プロなら実力で勝負してほしいなぁ。

小岩井 わたしもお世話になってるから何も言えない(笑)。

山本 むかしのレコーディング・アーティストは、みんなほんとうに上手かったってことかもしれないね。まあとにかく、音の生々しさを得るうえで、みんなで気持ちを合わせての一発録りに勝る録音法はないと思いますよ。

小岩井 そうですね。声優の仕事のアフレコの現場でも、いまはコロナの影響もあって、一人ずつ録るんですよ、ほんとうは声優どうしが掛け合いをやる刺激によって生まれる感情があって、それが重要なんですけどね。歌手とオーケストラが一発録りする贅沢な手法は、現代ではきわめて難しいことだなと改めて思います。もちろんメンバー全員で一発録りしなくちゃならない音楽もあると思いますけどね、たとえばジャズとか。

山本 たしかにインプロビゼーション命のジャズは、メンバー同士の瞬間的なインタープレイを収録しないとどうにもならないよね。

画像: 山本先生がかけてくださったレコード 左上からナット・キング・コール『The Very Thought of You』、イーグルス『ならず者』、五輪真弓『恋人よ』、ジョニ・ミッチェル『ブルー』

山本先生がかけてくださったレコード
左上からナット・キング・コール『The Very Thought of You』、イーグルス『ならず者』、五輪真弓『恋人よ』、ジョニ・ミッチェル『ブルー』

サラウンドシステムを聴いてみる

山本 では、リクエストをいただいたので、最後にスクリーン大画面とサラウンドを体験してもらおうと思います。この部屋のプロジェクターはJVCのDLA-V9Rというモデル。前方の110インチ・スクリーンにその映像を映し出します。AVアンプはデノンAVC-X8500Hで、この部屋はセンターレスの6.1.6構成。つまり、サラウンドスピーカーが2本、サラウンドバックスピーカーが2本、サブウーファー1台、ドルビーアトモス、Auro(オーロ)3D用のトップスピーカーを6本という構成です。サブウーファーはイクリプスTD725sw、サラウンド系スピーカーはすべてリンのUNIKで揃えています。フロントスピーカーのJBL K2S9900は、X8500Hのアナログ出力をオーディオ用プリアンプのJubilee Preのプロセッサー入力につないで、ステレオ再生時と同様にオクターブのコンビで鳴らします。UHDブルーレイプレーヤーは、パナソニックのDP-UB9000というモデル。

ちょっと説明がクドくなりましたが、さっそく再生してみましょう。まず第2回の取材で聴いてもらったノルウェーの2Lレーベルから発売された『マニフィカト』のブルーレイオーディオ盤です。このディスクにはハイレゾ(192kHz/24ビット)の2チャンネルの他に、Auro3Dの9.1ch音声が記録されています。ブルーレイオーディオは、ブルーレイの大容量を高音質のために使おうというものですが、このディスクには収録現場を撮影したボーナスビデオが収録されているので、それをリニアPCMの2.0chとAuro3Dの9.1chを聴きくらべてみます。

画像: サラウンドシステム時の様子。スクリーンは天井に収納されており、プロジェクターは部屋後方に設置されているJVCの「DLA-V9R」を使用している。

サラウンドシステム時の様子。スクリーンは天井に収納されており、プロジェクターは部屋後方に設置されているJVCの「DLA-V9R」を使用している。

小岩井 Auro3Dっていうんですか、サラウンドの臨場感、ホール感が凄すぎて、びっくりしました。荘厳な教会の雰囲気が甦ってきて……。2チャンネルに戻すと、聴き慣れた音になりますが、なにかすごく音が寂しく感じました。

山本 そうだよね。天井がすごく高い石造りの教会がスクリーンに映し出されていて、前方に弦楽セクション、中央にソロ歌手、後方に女声合唱団、その奥にパイプオルガン、手前にピアノという配置が一目でわかります。サラウンドのAuro9.1で聴くと、その配置が寸部違わず音場として再現されるので、圧倒されちゃいますね。こういうコンテンツが今ヨーロッパのクラシック系のインディペンデント・レーベルからけっこう出ているんですよ。音楽再生にもサラウンド再生が有効だということをまず体験してもらいました。

小岩井 音の「広がり感」が全然違いますね。2チャンネルよりも空間の高さが出てきます。Auro3D、初めての体験だったので驚きました。

画像1: サラウンドシステムを聴いてみる

山本 それでは次にジェニファー・ハドソンとビヨンセが出演した映画「ドリーム・ガールズ」のブルーレイを再生してみます。これはDTS:Xというトップスピーカーを使うサラウンド・フォーマットで収録されています。

小岩井 この映画、わたし大好きなんです。

視聴中……

小岩井 ステージ・シーンがとてもゴージャスで、時間を忘れてうっとりと観てしまいました。ほんとうにライヴ会場に出かけたみたいな感じです。音もいいし、色もきれい。いいなあ、ほしいなこんな部屋。石油掘り当てたい!

山本 (笑)。お金のかかった映画ならではのリッチな映像と音でしたね。コロナ禍騒ぎでますます夢を見るのが困難な時代になってしまいましたけど、”STAY HOME”な毎日において、ホームシアターほど夢を見させてくれる装置はないと思いますよ。

小岩井 でもプロジェクターって高いですよね。

山本 このV9Rという製品はたしかに高いですけど、55型の4Kテレビを買うくらいの投資で、今ならすばらしい画質のプロジェクターが買えますよ。

小岩井 え?そうなんですか、研究してみます。映画館みたいに部屋を暗くして映像を映し出すっていうのもいいですよね。まさに特別な時間を過ごすんだという感じで。ワクワクします。

山本 そろそろ約束の時間が迫ってきました。最後にUHDブルーレイの「AKIRA」を観ようと思います。

小岩井 うわ~大好きです、このアニメ映画。スマホで観たんですけど……。

山本 我が家で見ちゃうと「映画はやはり大画面で見るべきだな」と思いますよ。これはUHDブルーレイといって4K解像度の映像が収録できるフォーマットで、このディスクには新たに192kHz/24ビットで制作された5.1ch音声が収録されています。注目なのが、20kHz以上の可聴帯域外のハイパーソニックと言われる成分が新たに足し込まれていること。「AKIRA」の音楽を担当された山城祥二さんは、「ハイパーソニック・エフェクト」を発見した脳科学者の大橋力教授その人で、大橋先生の学説では、超高域成分は耳からではなく皮膚から取り込まれ、「快」や「美」を司る基幹脳の報酬系神経回路を刺激し、五感を活性化、ヒトを健康にするというものだそうです。では「AKIRA」の冒頭部分を再生します。

視聴中……

小岩井 すごい迫力、恐ろしいほどの音響ですね、圧倒されました。スマホで観てもほんとうに観たことにはならないと、つくづく思いました……。

山本 ぼくら二人にハイパーソニック・エフェクトがいま発現しているかどうかはわからないけれど、バリ島の民族音楽で使われる青銅器のガムランや竹のアンサンブル、ジェゴクの響きが恐ろしいほど生々しくて、時間を忘れて観てしまいましたね。

小岩井 1988年作品ですか。こんなに迫力のある作品だったんですね。いや~今回も人生の宝をいただきました。ありがとうございます。

山本 それはよかったです。次回の「オーディオ研究所」は、ちょっとがんばれば誰もが買える値段のスピーカーを集めて、いろいろな実験をしてみたいと思います。お楽しみに!

画像2: サラウンドシステムを聴いてみる

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