『ペンギン・ハイウェイ』で高い評価を得たスタジオコロリドの長編アニメーション映画第2弾『泣きたい私は猫をかぶる』。監督は佐藤順一とスタジオコロリドに所属する気鋭の芝山智隆のダブル体制。脚本には岡田麿里と実力派のスタッフが集中した作品だ。本作はもともと劇場公開作品として制作されてきたが、新型コロナウイルスの影響により公開が延期。しかし、この作品を、今少しでも多くの人に楽しんでもらうため、NETFLIXでの配信が決定した。6月18日から独占配信スタートとなる本作の見どころを先行して紹介しよう。
ちょっと不思議な少女は、猫となって大好きな人に会いに行く
本作の主人公である笹木美代は、“ムゲ（無限大謎人間）”とクラスメイトから呼ばれているちょっと変わった少女。同級生の日之出賢人が大好きで、人目もはばからず彼につきまとっている。ちょっと変わったどころか、ストーカーに近い異常さえ感じてしまうが、実は彼女には秘密があった。猫の仮面をかぶることで、真っ白な子猫に化けることができるのだ。子猫になった笹木を日之出はかわいがり、ふだんは隠している優しさを見せる。そんな子猫の正体が笹木だと知らない日之出は、学校で人の姿で現れる笹木のことは面倒くさい存在だと感じている。
猫でいれば大好きな人とずっと一緒にいられる。けれども、それは真の自分の姿ではない。そんな矛盾を抱えながらも、彼女は猫になって日之出に会いに行く。そこには、彼女が抱える家庭の問題から逃げるため、という理由もあったのだ。
人が猫になるというファンタジックな設定はあるものの、本作は10代の少年少女の多感な想いをみずみずしく描いた青春映画だ。だから、日常生活がとてもていねいに描かれているし、主題でもある猫はいかにも猫らしく、可愛らしさやすばしっこさ、なにげない仕草が実に魅力的。猫好きならば、こうした描写を見ているだけでも楽しめるだろう。
14歳の揺れ動く気持ちを豊かに表現する演技に注目
もちろん、それだけの平凡なファンタジーには終わらない。笹木の両親は離婚しており、父の再婚相手である後妻とは表面的にはうまく付き合っているが、家族にはなりきれていない。笹木が恋する日之出も、進学校へ進むことを強制する母親と上手くいっていない。よくある家族の問題ではあるが、本人にとっては重大で、しかも解決の難しいものなのである。
そんな少年少女たちの心情を豊かに演じている声優陣にも注目だ。笹木美代を演じるのは志田未来。ドラマ出演をはじめとして、多くのアニメ作品の経験もある期待の逸材だ。そして、笹木賢人を演じるのは、『鬼滅の刃』をはじめ、今や人気アニメに数多く出演している人気声優の花江夏樹。このほかにも、笹木を猫の世界へと誘う謎の猫店主として山寺宏一らの実力派声優が集まっている。
ファンタジー要素はあるものの、日常の出来事がドラマの中心となっていることもあり、声優の演技は重要。それぞれが自分の演じるキャラクターになりきり、感情のこもった芝居をみせてくれる。
また、ヨルシカの歌う主題歌「花に亡霊」も聴きどころ。本作のための描き下ろしで、ヨルシカらしい少しせつなくて優しい気持ちにあふれた曲だ。作品の印象とヨルシカの音楽が絶妙にマッチした感触があり、今も繰り返し聴いているほど気に入ってしまった。
映画館で観たい作品だが、自宅でじっくりと観るのもぴったり
作品はたんたんと日常ドラマが展開していくだけではなく、現実での家族との衝突をきっかけに急展開していく。猫になって現実から逃避しようした笹木は、猫が住む猫島と呼ばれる不思議な場所へ向かう。言葉をしゃべる猫たちが人間のように生活する猫島の描写は妖怪の国のような不気味さと、実に猫らしい気ままさに満ちていて楽しい。しかし、そこはただ楽しいだけの場所ではなかった……。果たして、笹木はどうなるのか。そして日之出との恋の行方は。
ファンタジックでありながら、現実のリアルな少年少女の気持ちを描いた作品は、懐かしくもあり、心温まる物語でもある。こういう映画はやはり映画館の大画面で友達や恋人と一緒に観るのが楽しいとは思う。しかし、自宅で親しい人と一緒にじっくりと観るのにも似合う作品だ。笹木のように人目をはばかることもなく、恋人と一緒に思う存分仲良く楽しんでほしい。
『泣きたい私は猫をかぶる』
Netflixにて、6月18日（木）独占配信
