1999年6月、当時HiVi編集部員だった僕は1週間の休みを取り、ロサンゼルスに飛んだ。もちろん、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を、チャイニーズシアターで観るためだ。
この頃はまだ全世界同時公開なんて習慣は存在せず、本作も5月19日に北米で上映がスタート、日本公開は7月10日と2ヵ月弱やきもきさせられる状況だった。たまたまこの頃に知り合った映画ジャーナリストがL.A.に住んでいたので、それを頼って渡米したというわけ。
もちろんチャイニーズシアターも初めてで、雑誌やTVで観ていたR2-D3、C-3PO、ベイダー卿の足形の写真を撮ったりと、気分は大いに盛り上がった。が、正直なところ作品そのものは内容の理解はおぼつかず(そもそも英語のヒアリングも苦手だし)、印象は弱かった。どちらかというと前日に観た『マトリックス』の方がインパクトは強かったですね
でも、当時は “この映画を一日でも早く観るために、アメリカまで行こう” という気分は映画ファンの間では割と当たり前に共有されていたはず。それくらい情報にも飢えていたし、ハリウッドで映画を観るという行為も憧れだったんだよなぁ。
と、僕にとっての『EP1』原体験はそんな感じで、作品で一番印象に残っていたのはポッドレースでもクワイ=ガンやオビ=ワンとダース・モールのライトセーバー戦でもなく、グンガンシティの水中のきらびやかな映像だったりしたのです。
その後、LD、DVD、ブルーレイと今で言うプリクエル・トリロジー(正式なタイトルはインプレッションを参照)も見続けてきたわけだけど、今回のUHDブルーレイについては、発売前から気になるところもあった。
というのもこの三部作はデジタル製作で、当時としては最新の2Kカメラで撮影されていたはずだから(フィルム撮影もされたようだけどDIは2K)。『EP2』はデジタル上映しか認めないとルーカスが言ったとか言わないとかいう話もあり、確かにその頃からDLPシアターの普及が進んでいった覚えがある。
でも当時はDCIなどの規格も出来ておらず、劇場用DLPプロジェクターもワイドXGA(水平1366×垂直768画素)が中心だったはず。それもあって、映画は2Kで製作されていれば充分というのがハリウッドでも常識だったのでしょう。
そうして作られたプリクエル・トリロジーをUHDブルーレイ化するということは、2Kマスターを4Kアップコンバートしているはずで(4KでCGを作り直すと、コストも時間もたいへんなことになるだろうし)、その変換処理がどれくらいの品質なのかが気になっていたわけ。
ということで、JVC DLA-V7の110インチ映像&ドルビーアトモス環境で『EP1』から順番に再生をスタート。以下はその際のインプレッション。
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)
・映像のビットレートは40〜60Mbps前後、音は4〜5Mbpsあり
・全体を通してS/Nがひじょうによく、クリアーさが際立つ
・Ch7のグンガンシティの照明が綺麗。ここは劇場の記憶以上
・ポッドレースシーンは岩のディテイルが甘めで、CGの古さを感じる
・ポッドーレスのサラウンドは、トップスピーカーを使って、レースのスピード感を演出している
・ダース・モールとオビ=ワンのライトセーバー戦は、低音が強めで迫力も充分
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)
・映像ビットレートは40Mbpsオーバーで、音声は5Mbps前後
・Ch14のカミーノの荒海の迫力が凄い。雷鳴も高さがある
・ナブーの湖畔、宮殿はロケ撮影されている(イタリアのはず)が、その映像は4Kでも建物の再現などがきちんとしている
・Ch21の草原は、草木のディテイルは出ているが、遠景はやや甘い
・Ch28のサイズミックチャージャーの音が水平方向によく広がる
・Ch45ドゥークーとの暗がりでの戦いは、ライトセーバーの演出などでHDR効果満載で目に痛いほど。ヨーダの素早い動きもクリアー
『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005)
・映像ビットレート40〜50Mbpsくらいと思うが、冒頭で一瞬93Mbpsが出た! 音は4〜5Mbpsほど
・コルサント上空の戦い。黒がやや沈みぎみに感じたので明るさを「+1」に。ただしパルパティーンのガウンの黒が浮いてくるので微調整は必要
・Ch9のコルサントの夜景は妙にリアル。細かい窓の明かりまでていねいに再現される
・Ch42以降の火山の星ムスタファーは、溶岩の赤が綺麗に再現。ただし、色がちょっと薄めかも
・Ch46のベイダー誕生シーンは、細かい効果音、息づかいまでくっきり
・ラストシーンで、オーエンが見ているふたつの太陽は階調が綺麗
以上、プリクエル・トリロジーの3作をUHDブルーレイで見返して感じたのは、2K→4K変換の恩恵は画素数の変化だけではなかったこと。もちろん引きの映像、遠景のカットでは甘く感じる部分もあったけど、50インチくらいの画面ならほとんど気にならないレベルだと思う。
それ以上に、HDR効果が加わることで奥行感や映像の力が向上し、ひいては作品の印象がより強くなった。正直プリクエル・トリロジーを見直したのは数年ぶりだったけど、思いがけず面白く観ることができたのは、映像の力によるところも大きいのだろう。
今回のサーガ9作の中では、プリクエル・トリロジーはUHDブルーレイ化の恩恵は一番少ないかもしれない。しかし、デジタルシネマを牽引した作品が4K/HDR時代にどんな品質で楽しめるのかを体験する意味でも、貴重な存在といえるだろう。それは、『スター・ウォーズ』が映画の進化を引っ張って来たことの証明であるのだし。
(取材・文:泉 哲也)
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