新型コロナウィルス感染拡大という想定外の出来事もあり、この春はいつものように盛り上がらないと感じている方も多いだろう。周りを見渡しても、イベントの中止や外出自粛など、すっきりしない出来事ばかりだ。でも、せっかくお気に入りオーディオシステムやホームシアターを持っているのだから、こんな時こそこそいい絵やいい音に触れて気分をあげていきたいもの。ということで、これから数回に渡って、StereoSound ONLINE筆者陣が選んだお薦めコンテンツを紹介する。第三回は潮晴男さんが選ぶ“元気が出る外国映画”だ。(編集部)
『007/ダニエル・クレイグ 4K ULTRA HD BOX<8枚組>』 ¥17,900(税別)
コロナウィルスの影響で公開が11月に延期になってしまった『007』シリーズの最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』。ファンにしてみれば早く観たいのはやまやまだが、日に日に怪しくなる雲行きを見ていると致し方のないところかなとも思う。事態の好転までもう少し我慢を強いられそうだが、ならばここは出不精を決め込んで、溜まったソフトをじっくり視聴するのもいいかもしれない。
ダニエル・クレイグがボンド役に抜擢された時は、正直ええっ、と思ったけど、シリーズが進むにつれ馴染んでくるから不思議である。その『007/ダニエル・クレイグ 4K ULTRA HD BOX』のUHDブルーレイを見直してみることにした。
『カジノ・ロワイヤル <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』
¥5,990(税別)
ダニエル・ボンド1作目の『カジノ・ロワイヤル』は2006年の公開だ。工事現場の追跡シーン、大使館内での大立ち回り、巨大旅客機スカイフリートS570をタンクローリーで爆破しようとするなど、のっけから盛りだくさん。着陸寸前の旅客機がすり抜けていくシーンもなかなかにスリリングだ。モンテネグロに向かう列車の中でのヴェスパーとのやり取り、カジノ・ロワイヤルでのポーカーのシーンも見どころである。
フィルム撮影なのでUHDブルーレイになってもグレイン感は残るが、暗部の色乗りのいい映像である。音声は今回の4作ともDTS-HD MA(マスターオーディオ)収録。本作はアクション映画らしく華やかで賑やかだ。ハイライトではそれなりに重量感のあるサウンドが楽しめるので、144分もそれほど長く感じないかも。
『007/慰めの報酬 <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』 ¥5,990(税別)
当初はのんびりと1日1作品ずつ観てみようと思っていたが、見始めるとそうもいかなくなった。ストーリーを知っていてもまた観たくなるのも、007ならではの魅力……というわけで、2008年公開の『慰めの報酬』をトレイに載せる。
この作品は、何といっても冒頭のカーチェイスからシエナにたどり着くまでのシーンが印象に残る。アストンマーチンDBSを追いかける2台のアルファロメオ159。そこに現地警察のオンボロ車が割って入るが、結局3台ともバラバラ。アルファロメオの無残な姿に心が痛んだ。
本作は107分という短尺版だが、とにかく息をつく暇もない展開で流れが速い。異論反論はあるだろうけど、この作品はひたすらアクション映画の王道を突っ走っているように思った。
オルガ・キュリレンコ(回復を祈っています)扮するボリビアの諜報員カミーユの協力を得て敵地に乗り込むが、ボンドが操縦する貨物輸送機と単発戦闘機のアクションシーンも見ごたえ充分。リア側から登場する戦闘機のサウンドには度肝を抜かれること請け合いだ。オルガ・キュリレンコと言うと、ぼくには『オブリビオン』のイメージが強いけど、強い復讐に燃えるエージェント役も堂に入っている。
『カジノ・ロワイヤル』から2年後の作品としてはコントラスト感が高く、照り付ける太陽の日差しをよく捉えている。UHDブルーレイになって、HDRの効果でデイライトのシーンは眩しく輝く(ドルビービジョン収録だが、今回はプロジェクターにJVC DLA-V9Rを使ったので、HDR10で視聴)。全体に明るくヌケのいい映像が楽しめる。
音響もそれに見合うダイナミックな作りがなされているが、とりわけ砂漠の中のホテルの爆破シーンは派手。音響監督は前作と同じだが、サウンドデザイナーが新たに加わったこともプラスなのかも。『007』シリーズと言えばパインウッドスタジオが定番だったが、ダビングはいずれもロンドンにあるデ・レーン・リー・スタジオで行なわれている。
『007/スカイフォール <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』
¥5,990(税別)
『スカイフォール』は、シリーズ50周年の金字塔を打ち立てた2012年の公開作。テーマソングをアデルが唄い、作品に華を添える。
オープニングからカーチェイスと列車の上での大立ち回りが始まり、タイトルバックまで13分9秒という破格の長さ。もうこれだけで普通のアクション映画1本分が堪能できる内容だ。
マカオのホテルでマネー・ペニーがボンドの髭をそるシーンも意味深だが、MI6本部の爆破、地下鉄の電車の崩落、公聴会での銃撃戦、そしてスカイフォールでの最後の戦いと見どころ続き。とりわけ今回の敵役となるシルヴァがヘリコプターで登場するシーンに、思わずにんまりする読者も多いだろう。
映像はどちらかというとクール。色味を抑えた絵作りである。上海、マカオロケの映像は甘口だが、後半のスコットランドの風景では『スカイフォール』というタイトルの終末観を連想させる荒涼とした感じがよく出ている。この辺りは監督のサム・メンデスや撮影監督ロジャー・ディーキンスの意図したところなのだろう。
音作りは前の2作とはかなり雰囲気が違う。これまでは英国での製作だが、『スカイフォール』から2012年にハリウッドに開設されたテクニカラーのパラマウントスタジオがダビングステージとして使われていることも作用しているようだ。
この作品の音響監督は、パー・ハルバーグ、カレン・ベイカー・ランダース、サウンドデザインをピーター・ストウブリ、クリストファー・アセリスが担当し、アカデミー賞の音響編集賞も受賞した。さらにスタッフ・ロールの中に、スコット・ミランという懐かしい名前を発見。以前、トッドAOで一緒に仕事したことのある、センスある録音エンジニアがダビングを行なっていたのである。
サウンド・パフォーマンスとしては4作の中で一番バランスが取れている。全体に音の厚みとスケール感が増し、低音域にかけてのエネルギーに圧倒される。
『007 スペクター <4K ULTRA HD+2Dブルーレイ/2枚組>』 ¥5,990(税別)
4作目の『スペクター』は、2015年に公開された作品だ。
メキシコへと飛んだボンドは死者の日のパレードの中、スペクターの一員であるスキアラがスタジアムの爆破計画を立てていること知る。奇しくもボンドの放った銃弾により爆薬入りのスーツケースが爆発してしまう。
このシーンに限らず本作における爆破シーンはいずれも地を揺るがすような凄まじい音響なので、深夜の音量はちょっと控えめに。その後に続くヘリコプターでの格闘シーンも立体音響ならではの音作りでテンションも最高潮。アクション映画らしい要素がフルに盛り込まれている。
監督は前作から続投のサム・メンデス。撮影監督はホイテ・ヴァン・ホイテマに代わっているものの、絵作りは似ていて、少し色味を抜いたような優しい感じの映像に仕上げられている。デジタルカメラによる撮影だが、あまりきりりとした今風の映像にしていないところに監督の意図があるのだろうか。暗部階調も比較的穏やかで、テレビ的な沈み込んだ黒にはなっていない。UHDブルーレイという器の大きさを、ゆとりを持って活かしているように思う。
音響製作も基本的には前作を踏襲し、スタジオもスタッフもほぼ同じだが、オープニングアクトで彼らのクレジットが登場するなど、アクション映画に音が大切な要素であることを示している。とりわけLFEの使い方は大胆にして快活で、伸びやかな作りに感心した。やり過ぎの感がなきにしもあらずだが、美味しいところがたっぷりと楽しめるというわけだ。
全編に流れる音楽や効果音も力強い。前述した冒頭のヘリコプターのシーンもサラウンド全開で作られているが、劇場公開時は7.1chだったようだが、ドルビーアトモスで製作していたらどうなっていたのだろうかと想像を掻き立てる。
『007』シリーズはそれぞれが独立した物語なので、個別でも楽しめるが、ダニエル・クレイグの作品は全作を踏襲した要素が多いので、順番に視聴したほうがいいだろう。ただし4作で9時間4分あるので、寝不足にならないようにご用心。そういえばダニエル・ボンドはウォッカ・マティーニは呑むけど、煙草を吸うシーンはない。これも時代の流れなのね。