先般の麻倉怜士さんのインタビュー取材の際、放送する作品を選ぶ基準について、NHK
編成局 展開戦略推進部 チーフプロデューサーの坂本朋彦さんは、「皆さんがよくご存知で高い評価を受けた作品が4Kになって、高品質で楽しめるといいと心がけています。」と話してくれた。
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その言葉の通り、BS4Kの「4Kシアター」ではフィルムで撮影された作品を4Kスキャンしたタイトルが中心で、それを見るにつけ、フィルムの持つ情報量の凄さと4Kレストアの相性のよさを痛感していた。
で、そんなフィルム&4Kレストアの魅力を、先日発売されたアニメUHDブルーレイ『ルパン三世 ルパンVS複製人間』と『ルパン三世 カリオストロの城』の2枚で再確認したので報告します。
『ルパンVS複製人間』は1978年、『カリオストロの城』は1979年の公開で、どちらもフィルム時代の作品。両作品ともこれまでLD、DVD、ブルーレイと歴代のパッケージソフトで発売されてきた、“皆さんがよくご存知で高い評価を受けた作品”といっていい。
そんな作品がHUDブルーレイで発売されたわけで、当然どれほどのクォリティなのかは気になるはず。パッケージには今回のマスター等について詳しく紹介されてはいないけど、特典映像にSDR/HDR比較画像が入っていたり、音声もリミックス版が収録されていたりと、ていねいな修復作業がされているのは間違いない。
というわけでお盆休みに『ルパン三世』4K上映会を決行。わが家の110インチスクリーン&ソニーVPL-VW1100ES(SDR仕様)とパナソニックDMP-UB900で再生してみた。AVセンターはヤマハCX-A5100で、3台のパワーアンプを組み合わせた7.1.4システムというもの。
年代順に『ルパンVS複製人間』からスタート。1978年という宇宙SF大ブームの中で、クローン技術をテーマに“大人のルパン”をスクリーンに蘇らせた一作。
冒頭から、これまでのパッケージとはまったく違う映像が目に飛び込んできた。何より色が鮮やかで、どちらかというと乗せ気味だ。しかしそれは決して厚ぼったい方向ではなく、どことなくフィルムライクな印象につながっている。
ルパンの赤いジャケットや次元のスーツ、不二子のドレスはこんな色調だったのかとか、ベンツのボディはこんな風に仕上げていたのかと改めて見直した次第。マモーの顔色は記憶よりも濃かったですね。
ちなみにフィルムライクと書いたけれど、グレイン感は抑えめで画面自体はすっきり、クリアーに感じる。しかしちゃんと手描きのニュアンスや絵の具を塗ったトーンが残っているので、アナログライク、フィルムライクな印象を受けるのだろう。
先述した通りわが家のプロジェクターはHDR非対応モデルなのだけど、輝度が上がって透明度も高くなり、それが色純度の高さにつながっている。いわゆる白ピークが伸びて、まばゆさが再現されるといった方向ではないが、画面全体で力強い絵が楽しめた。
『カリオストロの城』のUHDブルーレイもまったく同様で、キャラクターの肌やルパンのジャケットも色が鮮やか。色の乗りも深めで画面全体の印象はフィルム的と言っていいと思う。もちろんS/Nもいい。
影の軍団が襲ってくる夜間のシーンも落ち着いたトーンで、閃光弾が破裂すると一転して鮮やかな色が溢れてくる。しかもそのどちらも純度が高い。また背景画の再現も緻密で、朝焼けの中に描かれるお城もブルーが綺麗だ。
ここまでは映像の印象ばかり書いてきたけれど、音もきちんとレストアされており、聴きやすい。両盤ともオリジナルのリニアPCM2.0ch(モノーラル)に加えて、リミックス2.0chとリミックスマルチチャンネル版の3種類が収録されている。
ただ、個人的にはこの2作品はモノーラルの印象が強烈なので、今回もオリジナル・モノーラル音声をチョイス。でも110インチと組み合わせると少し寂しかったので、ヤマハのシネマDSPで「モノムービー」を加えて再生している。こうするとモノーラル音声にも奥行方向の立体感がつき、心地よい響きが楽しめた。
なおこの2作は絵・音とも共通したトーンがあり、UHDブルーレイに仕上げる際の狙いがしっかり定まっていたのは確か。試しに2008年に発売されたブルーレイを同じ環境で再生してみたが、そこには明確な違いがあった(UB900で4Kにアップコンバート)。
ブルーレイは2K/SDRで根本的な情報量が違うのは当然。さらに『カリオストロの城』のブルーレイは1080/60i収録のためか、所々に圧縮に起因したノイズが散見される(青空やマントの裏地の赤などにじらじらしたノイズが見える)。
というわけで既に両作のブルーレイをお持ちの方もUHDブルーレイを入手すれば、いっそうの高品質を味わえるのは間違いなし。さらにブルーレイとUHDブルーレイではファン的に注目すべき違いもあるので、両方コレクションしておく意味もある。
『カリオストロの城』に関する有名なエピソードとして、オープニング曲のラスト、ルパンと次元がフィアットに乗り込むシーンで、一瞬だけ次元の足が草むらの手前に来るカットがあります。おそらく撮影時にセルを重ねる順番が入れ違っていたのではないかと。
当初のパッケージではそのまま収録されていたはずだけど(アメリカ盤DVDはそのまま)、国内でDVD化されるときにデジタル修復されました。しかし次にブルーレイが出たときはマスターから作り直したらしく、次元の足が復活! こういった点でもマスターの変遷が分かるのは楽しいもの。
で、最新のHUDブルーレイはどうかというと、撮影ミスは綺麗に修復されています。新しい4Kマスター製作時にはこういった細かい点まで気を配っていたのでしょう。
なお今回の取材時は、VW1100ESの「シネマフィルム1」をベースに、コントラスト「92」、明るさ「47」、色の濃さ「54」、アドバンスドアイリス「オートリミテッド」、ランプコントロール「低」といった調整を加えています。
40年前の劇場を思い出しつつ追い込んだ、なかなかいい案配だと思うんだけど、よくよく思い返してみると、これまでの取材時にモンキー・パンチさんのお宅で見せてもらっていた映像は、もっときりっとした印象だったはず。
ということで、次回はモンキー・パンチさんならどんな画調で楽しんだのか想像しつつ、映像イコライジングを加えてみようと思っている次第。UHDブルーレイはそもそものクォリティが高いので、各社表示機器の初期値でも充分楽しめるけど、ぜひ自分好みの絵も探してみて欲しい。それがパッケージの大事な楽しみ方でもあるのだし。(取材・文:泉 哲也)