10月31日、まもなく発売となる尾崎亜美初のSACD第2弾『Air Kiss』と『Shot』 本プロジェクトも終盤に差し掛かった8月上旬、尾崎亜美さんご本人をステレオサウンド試聴室にお招きし、リファレンスシステムを用いて、制作途中の音をお聴きいただくことができた。お相手は、音質の総合監修をお願いしたオーディオ評論家の小原由夫先生。その時の模様は、9月4日(火)に発売となった季刊ステレオサウンドNo.208の232ページからに掲載されているが、ここでは完全版として、その取材の全貌をお届けする。今回は第3回、アルバム『Air Kiss』についてのお話をうかがった。(インタビューとまとめ:小原由夫、写真:相澤利一、コラム:レコード事業部)

 次に聴いた『Air Kiss』は、米国のスタッフを日本に呼び、レコーディングを行なった作品。アレンジとキーボードを受け持つデイヴィッド・フォスターらに交じって、録音エンジニアとしてジョージ・マッセンバーグも来日している。ここでは2曲めの「グラスのルージュ」を試聴した。

「この曲も、私の作ったデモテープとはまったく違ったアレンジになりました。AOR風っていえばいいかしら。『HOT BABY』で一緒だったジェフ・ポーカロも素敵でしたけど、このアルバムでドラムをやってくれたマイク・ベアードは、より深胴っぽい太鼓の音。「ボコンボコン」っていう感じで、ポーカロはもう少し軽快だったかなぁ。マイクはほんとに、クマさんみたいな人で(笑)、録音の合間によく原宿のキディランドに出掛けてましたよ。」

これは2018年7月に行なわれたマスタリングの様子。ソニー・ミュージックスタジオで作業が行なわれた。エンジニアの鈴木浩二さんと音づくりの方向性について話し合う二人のスーパーバイザー

『Air Kiss』の貴重なマスター素材は2トラ76のアナログテープだった。12インチの大きなリールに巻かれた状態で残されていた

 ジョージ・マッセンバーグの思い出は、モニタースピーカーに関して。レコーディングは、今はもう閉鎖されてしまった一口坂スタジオ(東京・千代田区)で行なっている。ところが、そこに設営されていたラージモニターでは仕事ができないと、日本メーカー製の小さなスピーカーを要求したという。
「ヤマハのNS-10Mを買ってきてほしいといわれました。当時はまだ日本のスタジオで注目される以前でしたね。ひょっとしたらそれからNS-10Mが急にワーッと流行り出したのかも! ジョージは『HOT BABY』を担当したアル・シュミットとは違う雰囲気で、どこか学者っぽい感じの人でした。エンジニアとしてはもちろん、スタジオ機材の設計者/メーカーの主宰としても有名でしたからね。日本のエンジニアが行なう音のバランスのとり方とはやっぱり違ってて、シンバルのカップの音色がよくわかるし、とってもリアルな感じでした。DSDになって、それが一層鮮明に聴こえますね。トップシンバルの音に凄くアメリカを感じるなぁ、日本で録音したんだけれど(笑)。当時の日本のエンジニアは、もっとスネアとかキックドラム寄りの音でしたね。そういう一挙手一投足見たさだったのか、スタジオにたくさん人がきてたことを思い出します」

一口坂スタジオは、1978年にニッポン放送傘下の企業として設立されたスタジオ運営会社。株式会社ポニー(現ポニーキャニオン)、同系列の広告代理店ビッグショットなどと同じビルに入っていた。オーケストラ録音も行なえる大規模なスタジオを持ち、TMネットワークやチェッカーズなど、当時の名だたる有名アーティストがこぞって利用。そのため、「出待ち」する女性ファンたちが近隣によく出現した。亜美さんが語っているヤマハのNS-10Mもスタジオと同じ1978年に誕生したオーディオ製品。ブラックのエンクロージャーに搭載されたホワイトコーンウーファーと、シンプルなネットワークによって繋がれたソフトドームトゥイーターを備えた小型スピーカーで、やがて録音/マスタリングスタジオの小型モニターとして広く使われるようになる。1981年に制作されている『Air Kiss』でジョージ・マッセンバーグが指名したということは、この時すでにアメリカでは小型のスタジオモニターとしての地位が定着していたということだだろうか。

 各メンバーはそれぞれ奥様を伴って来日し、オフには観光も存分に楽しまれた様子。亜美さんは日本人スタッフとの会話のなかで、各メンバーにあだ名をつけていたそうだが、鋭いデイヴィッドに感づかれ、大慌てしたと笑いながら振り返る。「メンバーにベーシストがいないんですけど、マイケル・ランドウが弾いたり、デイヴィッドがシンセベースを担当したりしてました。それも右手でエレピでメロディを弾きながら、左手でベースをいい感じで弾くんですよ。メチャメチャ難しいことをたやすくやるんですよね。後で真似させてもらいました(笑)。私にとっても、この時期はいい意味で「背伸び」していた頃。いまこんな感じの曲は歌っていないですね」

ステレオサウンド試聴室で行なわれた取材のようす。亜美さんの口からは、レコーディング当時の様子が次々とこぼれ出した

<次回へ続く> ※最終回は10月19日(金)の公開となります。SACD『Shot』も『Air Kiss』と同時発売。こちらもただいま予約受付中です。発売は10月31日(水)! ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

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