今回は、オラソニックのIA-BT7を試聴した。オラソニックは、もともと2010年に東和電子のオーディオブランドとして誕生し、2017年10月に東和電子からインターアクションへ事業移管された。IA-BT7は、そんな新生オラソニックを代表する高音質ブルートゥーススピーカーだ。

 フォーマットの成熟、製品の成熟は意外なところからやってくる。カセットはもともと事務用のメモマシンとして誕生した。しかし日本メーカーの手にかかるとそれがハイファイになり、最後にはナカミチの1000番のような超弩級な製品まで発展している。

 ブルートゥースもそれに近く、最初はお手軽な、スマホからの通信手段として使われた。通信容量が少なく、汎用性が高いという点がメリットだった。その時点では音楽通信などは考えられていなかったのである。

 しかしその後、音楽通信用としてブルートゥースが使われるようになった。外ではスマホやDAPでヘッドホン/イヤホンで聴いて、家に帰ってきたらブルートゥーススピーカーで音楽を楽しむ。そんな使い方が増えている。

 それは当然ハイファイではなかった。だが、その後ブルートゥースを使いこなしていくと、意外なほどいい音がする製品がつくられてきた。特に今年に入ってから、注目すべき高音質なブルートゥーススピーカーがいつくも登場している。なかでもIA-BT7は、ブルートゥース高音質化の最先端を走る製品だ。

画像: 麻倉さんのお気に入りイタリアンレストランで取材を行なった。落ち着いた雰囲気にIA-BT7の音が馴染む

麻倉さんのお気に入りイタリアンレストランで取材を行なった。落ち着いた雰囲気にIA-BT7の音が馴染む

「なんて低音なんだ、と驚いた」

 初めて聴いたときに、“なんて低音なんだ”と驚いた。そもそもブルートゥース伝送でちゃんとした音が鳴り、こんなに小さなボディでこんなにしっかりした低音が出るということ自体が不思議だった。

 そういう意味では、きちんとしたオーディオ的考えと、ブルートゥースに対する的確な対処を行えば、ここまでの音ができると言うことが発見だった。低音はひじょうにリッチで、ピラミッド型の周波数特性であり、低音の上に素直な中域が乗っている。

 もともとブルートゥースで音楽を聴くということは、この程度のクォリティでいいや、という前提があった。なぜなら、ブルートゥース伝送は圧縮方式だから、そもそも情報量が少ない。となるとスピーカーにリソースをかける必要もないのだ。

 当然、低音・高音は欲張らずに、中域を聴かせようという強調バランスの製品が多くなり、気軽なリスニング、ボリュウムを上げないリスニング向きという製品ばかりになる。しかしIA-BT7なら正統的な音楽鑑賞スタイルで、スピーカーの前に座って聴くと気持ちのいい、なめらかにして低音感のあるしっかりしたサウンドが楽しめる。

「なぜIA-BT7はいい音なのか」

 ではなぜIA-BT7はいい音なのか。オラソニックは、StereoSound ONLINE読者ならご存じの通り、音のいい卵形スピーカーを開発・発売していた。つまり、従来のオーディオの延長ではない、形の変化を伴なった、新しいオーディオの提案を多く成してきたブランドである。

 形を変えるだけでなく、その中にオーディオの魂、音楽の魂を入れていこうという思いがたいへん強い。ブルートゥーススピーカーはITメーカーが手がける製品が多いけれど、IA-BT7はそれらにない、熱いこだわりを持っている。それは、ブルートゥースであっても、ハイファイ用途で聴ける、“しっかりした音”を作ろうという熱き思いだ。

 では“しっかりした音”とは何か。それは低音が確実に再生できる音である。

 IA-BT7自体は2.1ch構成で、正面に5.7cmフルレンジ2基と、11cmのサブウーファーを備えている。11cmサブウーファーは、本体の容積から考えてもひじょうに大きい。さらに背面には楕円形のパッシブラジエーターも搭載されており、これでもか、というこだわりで量感の低音が出てくる。

画像: IA-BT7のために独自開発したブルートゥース用の基板。対応するコーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、LDACと幅広い。この回路を搭載した同社製品も開発中とのこと

IA-BT7のために独自開発したブルートゥース用の基板。対応するコーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、LDACと幅広い。この回路を搭載した同社製品も開発中とのこと

「ブルートゥースの回路まで自作した」

 もうひとつ面白いのは、ブルートゥースという仕組みにも手が入っている点。ブルートゥースを使おうと思ったら、当然レシーバー回路が必要で、ほとんどの場合このレシーバーには市販のチップをそのまま持ってきている。しかし、今回はブルートゥ―スモジュールを自分たちで作ってしまった。

 これはオラソニックというブランドの規模からすると考えられないことだ。今、ブルートゥーススピーカーが人気なのは、レシーバーなどのパーツが安価で手に入るからという側面が大きい。しかしオラソニックはそれを拒否した。市販のチップが高音質再生のネックになっていると考えたからだ。

 ブルートゥース伝送では、クァルコムのaptX HDやソニーのLDACなどの高音質伝送規格が登場しており、圧縮ながらハイレゾ音源の再生も可能になっている。しかし音の出口という意味では、汎用チップは低音がしっかり出て、広帯域の再現ができるというレベルには達していなかった。そのために同社はレシーバーチップを自作した。

「開発陣のこだわりが音にちゃんと出ている」

 今回はソニーのウォークマンNW-Z300との組み合わせにて、ウルトラアートレコード第一弾の情家みえ『エトレーヌ』のハイレゾ音源(96kHz/24ビット)をLDAC伝送で試聴した。1曲目「チーク・トゥ・チーク」の冒頭4小節はピアノとベースが活躍する音源だ。そのベースのスケール感もよく出て、ピアノの質感もいい。雄大な土台の上にヴォーカルが乗っている、そんな音の視覚的バランスもよい。

 ブルートゥース伝送でも、ここまでのしっかりとした音が出るというのは新しい発見で、特に低音の安定感が良く、開発陣のこだわりが音にちゃんと出ていると聴いた。

 ブルートゥーススピーカーは、リビングやプライベートルームで手軽に聴くという使われ方が中心だろうが、そんな生活の中に漂う音楽であっても、音質はたいへん重要である。IA-BT7なら、それがここまでのハイクラスの音になることで、ユーザーに良い心理的影響を与えてくれるだろう。

画像: 取材に同席いただいた、株式会社インターアクション オラソニック事業部 マーケティング部長の清水潤一さん。IA-BT7開発に関するお話をいろいろと聞かせてくれた

取材に同席いただいた、株式会社インターアクション オラソニック事業部 マーケティング部長の清水潤一さん。IA-BT7開発に関するお話をいろいろと聞かせてくれた

「使いこなしに正しく反応する」

 さて、ここからはIA-BT7の使いこなしについても触れておきたい。

 IA-BT7はオーディオ的にこだわって作られた製品で、使い方でさらなる可能性を引き出すことが可能だ。

 第一が置き方。通常はTVラックなどに置くことも多いと思われるが、その場合、やわな棚板では駄目。できればオーディオボードや無垢の板を敷きたい。DIYショップなどでIA-BT7のひとまわり大きめのサイズにカットしてもらうのもいい。これは低音の安定感向上にも効果的だ。

 逆に低音が多すぎると感じた場合は、IA-BT7とボードの間に隙間を作るといい。低音が多すぎるのは、本体の振動が接地面に伝わって共振を起こし、低音を増幅させているからだ。その増幅作用を、空間で止める狙いだ。

 オーディオ用のインシュレーターでもいいし、DIYショップで売っている木製サイコロブロックを使ってもいい。これを敷くだけですっきりした、見晴らしのいい低音に変化する。さらに、棚板と本体の間の隙間にハンカチなどを入れてみるのもお薦め。この隙間で音が反射して、いわゆる定在波が発生して音のにごりにつながるので、それを吸収してあげるわけだ。

 ただし、本体をハンカチの上に直接乗せるのはよくない。本体をハンカチに置くと安定しないので、そもそも音が甘くなってしまう。大原則として本体をしっかり安定させ、共振や反射といった余計なものを取る、という使い方を心がけよう。

「家で聴くなら、有線接続もお薦め」

 最後に電源にもこだわるのも効果的だ。わが家で、IA-BT7の付属ACアダプター(12V)をボルトアンペアのGPC-DC12というオーディオ用に交換したところ、驚くほどの効果があった。

 GPC-DC12は、もともとUSB DAC用として使っていたものだが、IA-BT7に試してみたところ、とたんに品位が上がって、音の解像感、音場の見晴らしもよくなった。ブルートゥーススピーカーでここまでの効果があるというのは驚きで、それだけIA-BT7が潜在的な高音質再生能力を秘めていたという証拠だろう。

 素の状態でもハイファイの音を聴かせてくれるが、置き方や電源にこだわることでさらなる高音質を引き出せるというのは、まさに趣味のオーディオに通じる世界。IA-BT7は、いい音楽を楽しく、気軽に聴かせてくれるということで、“生活の友”になる存在だ。

 最後に、IA-BT7は3.5mmミニジャック入力も備えていて、この音が抜群にいい。ブルートゥース伝送の音もいいけれど、やはり有線にはかなわない。有線接続では、帯域が上がって、描写が細かくなったハイレゾらしい、クリアーな音で楽しめる。ぜひ試してみよう。

画像: 「家で聴くなら、有線接続もお薦め」

「ヒッコリーファーム登戸店」
●住所:神奈川県川崎市多摩区登戸3253 Tel 050-5868-3687
●営業時間:11:00〜22:30(L.O.22:00)、年中無休
 今回の取材・撮影はヒッコリーファーム登戸店にお邪魔して行なった。同店は、小田急線・JR南武線の登戸駅から徒歩3分の住宅地にある、お洒落な佇まいのイタリアンレストランだ。麻倉さんによると、本場イタリアのピザ職人選手権で連続入賞を続ける職人が作るピザはもちろん、パエリアもひじょうにおいしく、お薦めとのこと。

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