画像1: 名盤見聴録(2):『ドヴォルザーク:交響曲第九番「新世界より」』。時空を超えて名演奏が蘇る高音質が魅力

オーディオファンや音楽ファンが聴いておきたい名盤を紹介するコラム『名盤見聴禄』(めいばんけんちょうろく)。オーディオ評論家が名盤の名盤たる所以とともに、聴きどころを紹介します。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【今回の名盤】
ドヴォルザーク:交響曲第九番「新世界より」

著者名/演奏者名:イシュトヴァン・ケルテス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
型番:SSHRB-002
メディア:データBD-ROM
¥12,960(税込)

門外不出のマスター・テープから作られた生々しいサウンドが魅力

 2008年にリンの「KLIMAX DS」(編注:最新は「KLIMAX DS/3」)を購入して以来、筆者は数多くのハイレゾファイルを聴いてきた。その中で「高音質」と「音楽の魅力」の高度な両立という点で、個人的にもっとも強い感銘を受けたのが、2017年にステレオサウンド社から発売された1950年代後半から1970年代前半までのアナログ録音黄金期のクラシック音楽の名盤を、最高品質の11.2MHz DSDで収めた6本のBD-ROMだった。

 とくに最初に入手したケルテス指揮ウィーン・フィルの『ドヴォルザーク:交響曲第 9番<新世界より>』の感激は大きかった。BDドライブをつないだPCを用いて、自室のミュージックサーバーDELA「N1A/2」(4T バイト・タイプ)に本作の11.2MHz DSDファイルをコピー、本機のUSB DAC接続機能を用いてコード「DAVE」と組み合わせて再生し、その音のすばらしさに驚愕した(スピーカーはJBL「Project K2 S9900」、アンプは「JUbilee Preamp」と「MRE220」というオクターブのコンビ)。

 このBD-ROMには、1961年3月に録られた本演奏の英国デッカ本社所有のオリジナル・アナログ・マスターテープから、ノイズ除去処理などを行なわずにダイレクトに11.2MHz DSD変換したデジタルファイルが収録されているが、その音には門外不出のマスターテープそのものを聴いているかのようなフレッシュな生々しさが内包されている。

 ぼくは本作品のSACDを所有しているが、ここで体験できるスケール感は段違い。音楽の細部を精妙に照射しながら、一つの生命体となってひたひたと迫りくるオーケストラの気迫と熱気が余すところなく伝わってくるのである。

 再生システムによっては、SACDの整いのよい音のほうが好ましく感じられることもあるかもしれないが、オーディオ・システムの実力が上がれば上がるほど、11.2MHz DSDファイルの凄さが実感できるのは間違いない。

画像: DSD 11.2MHzファイルを収録したBD-ROMとブックレットがパッケージに収められている。物として保管でき、所有欲が満たせるだけでなく、伝送による音の変化も防ぐ

DSD 11.2MHzファイルを収録したBD-ROMとブックレットがパッケージに収められている。物として保管でき、所有欲が満たせるだけでなく、伝送による音の変化も防ぐ

時空を超えて名演奏が蘇る面白さが味わえる

 DSD(Direct Stream Digital)は、音声信号の大小を空気振動の密度、濃淡として捉え、デジタルデータのオンオフ(1と0)の切替えの疎密で記録する方式だ。つまり、オンオフの切替えが多ければ多いほど元のアナログ波形をより忠実に再現できるわけで、本シリーズで採用された標本化周波数は11.2MHzだから、CDのサンプリング周波数の256倍の、毎秒11,200,000回という天文学的数字でオンオフが繰り返されることになる。

 DSD音声はPCMに比べて音の質感がアナログライクでナチュラルだとよく言われるし、ぼくもそう感じるが、その理由は終段にシンプルなローパスフィルターを加えるだけでアナログ信号に戻るこの超高速標本化信号処理に依るところが大きいのだろう。確かにこの11.2MHz DSDファイルで聴ける音は、アナログレコードを上手に再生したときの音にきわめて近いと思える。

画像: 豪華ブックレットには、本作にまつわる話が詳しく紹介されている

豪華ブックレットには、本作にまつわる話が詳しく紹介されている

 この作品を11.2MHz DSDファイルで聴く面白さを一言で要約すると、「プレゼンス感の圧倒的な豊かさ」にある。録音されたゾフィエンザールでの演奏の様子が時空を超えて甦る面白さと言い換えてもいい。幅と高さと奥行を伴った広大なサウンドステージが眼前に展開され、そこにオーケストラが確かな実在感を伴って佇立するスリルが堪能できるのである。

 1961年3月の収録時、指揮者のイシュトバン・ケルテスは32歳だったというが、若き俊英ならではと思える力みなぎるフレッシュな演奏が目の前に甦るその面白さに筆者は夢中になっている。「新世界=アメリカ」の民俗音楽の要素を取り入れたドヴォルザークの楽想のユニークさ、そのエキゾティシズムとノスタルジーをハンガリー出身のケルテスが見事にすくい上げて、われわれ日本人の心の奥深いところに棲むセンチメンタリズムを刺激するのである。

 第1楽章のダイナミック・コントラストの鮮やかさ、第2楽章の響きの芯がしっかりしたノスタルジックな語り口、第4楽章のスピード感に満ちたスリリングな展開など、聴きどころも満載だ。

 いずれにしても、この作品ほどハイレゾファイル、ことに11.2MHz DSDファイルの凄さを生々しく伝えてくれる作品はほかになく、ぜひ対応再生システムを整備して「人類の至宝」とも言うべきこの作品の<音響の快楽>に身も心も委ねていただきたいと思う。

画像: 【注意】本作は、パッケージ販売となり、DSD 11.2MHzファイルは、BD-ROMに収められている。再生(データのPCへのコピー)にはBDドライブが必要だ

【注意】本作は、パッケージ販売となり、DSD 11.2MHzファイルは、BD-ROMに収められている。再生(データのPCへのコピー)にはBDドライブが必要だ

This article is a sponsored article by
''.