肉付き良く、繊細さと力感がバランス。浸透力のある清楚な歌声が存在感を示す
三浦孝仁
エアータイトの真空管アンプは、海外で抜群の人気を誇っている。もちろん日本でも確固たるポジションを築いているわけだが、創業当初から北米市場に照準を合わせた製品開発を行なってきたこともあり、エアータイトのブランドバリューは世界的に高いのだ。
エアータイト製品を製造しているのは、大阪府高槻市にあるA&M(エイ・アンド・アム)株式会社である。かつてラックス・コーポレーション(現在のラックスマン)の米国拠点で代表を務めた三浦 篤氏(2022年5月に逝去)が、自らの「A」と、回路設計者である盟友の石黒正美氏(2014年12月に逝去)の「M」の、いずれもファーストネームから命名して起業。いまから38年前の1986年4月、デビュー作のEL34プッシュプル機ATM1とともにA&Mは始動した。
5極管のEL34/6CA7は、蘭フィリップス系の英国企業マラード製が最初期の真空管。オーディオ用アンプだけでなくエレキギター用アンプにも重用されている名球だ。最近はKT120〜KT170といった高出力ビーム管を採用するケースが増えており、EL34を積極的に採用するメーカーはあまり見当たらない……。しかしながら、EL34は堅実な音の良さと家庭用として過不足のない出力を獲得できている、優れた音質の真空管だと思う。
創業20周年記念モデルから18年後の第3世代機
新登場のエアータイトATM1 2024エディションは、デビュー作のATM1から数えて3世代目のATM1である。創業20周年を記念したATM1Sが2006年に登場しており、それから数えて18年後の新製品ということになる。基本的な回路、すなわちマラード型(カソード結合型)位相反転で出力段ウルトラリニア接続プッシュプル構成はオリジナル機を踏襲しているけれども、たとえば前段の双3極管は12AX7×1本—12AU7×2本から、12AT7×1本—6CG7×2本に改められた。出力は35W+35Wである。ATM1Sは36W+36Wだったが、動作安定性を重視した結果だという。
ATM1 2024エディションは、三浦 篤氏の子息で2022年から社長を務めている三浦 裕氏が指揮し、同社技術の濱田 潔氏らが手掛けた。オリジナルのATM1によるEL34プッシュプル機の音を現在時点で再定義するべく、本機が開発されたのである。

出力管を出力トランス側、前段管をフロント側に配置。初代機ATM1でのレイアウトに回帰した。出力管EL34は固定バイアス動作で、プレート電流監視メーターは新しくエッジワイズ式を採用。フロント側にバイアス調整トリマーを配置する。メーターの右が電源部チョークコイル。出力トランス/電源部チョークコイルはタムラ製作所製を採用した。

銅メッキ鋼板の底板を外して内部を見る。要所のカーボン皮膜抵抗など音質を吟味したパーツが選択され、同社アンプ伝統の手配線が踏襲される。増幅回路は基本構成を引き継ぎながら回路定数が見直された。EL34・UL接続プッシュプルで出力35W+35Wを得る。
先代モデルのATM1S。創立20周年モデルとして2006年に登場した。真空管のレイアウトなど、ATM1 2024 editionでの意匠の刷新がわかる。
原点回帰となるタムラ製作所製出力トランス搭載
このATM1 2024エディションは、オリジナル機と同じくタムラ製作所製の出力トランスを搭載している。ATM1Sでは橋本電気製だったので、これは原点回帰といえよう。そして、これまではシャーシ内部に置かれた電源部のチョークコイルが、本機ではやはりタムラ製に改められて、天板に設置された。真空管のレイアウトも、オリジナル機に倣っている。また、バイアス調整のアナログメーターを刷新。211シングル・モノーラル機ATM2211Jパワーアンプで使われている縦長のエッジワイズ型が採用されて、視認性が向上している。
本機の試聴では、プリアンプとしてリファレンスのウエスギU・BROS280Rに加えて、純正ペアとなるエアータイトATC5sも用意した。アキュフェーズDC1000(D/Aコンバーター)+DELAのN1(ミュージックサーバー)を送り出しにして、B&W801D4シグネチュアをモニタースピーカーとして音を聴いてみた。
試聴に使用したプリアンプ
エアータイト ATC5s
¥1,089,000(税込)
●使用真空管:12AX7×3(フォノイコライザー部)、12AT7×2(ラインアンプ部)●寸法/重量:W400×H90×D260mm/約9kg
ファットな音に陥ることなく、深々とした表情が得られる
最初に聴いた手嶌 葵「月のぬくもり」で印象深かったのは、浸透力のある清楚な歌声の存在感。フッと浮かぶように定位するヴォーカルと背後で伴奏するピアノとの位置関係が、聴き慣れた楽曲のイメージどおりに表れた。ウエスギとの組合せではややハイファイ調の音に感じられたが、ATC5sでは帯域内の密度が高まり、音が濃厚に描かれていく。ネマニャ・ラドゥロヴィチ「マケドニアの娘」では、ヴァイオリンの音色も、ATC5sで聴くほうが陰りのある深々とした表情になり、悲哀を感じさせる抒情的な演奏となった。
ATM1 2024エディションで聴くEL34出力管は、たとえばKT150のような低域の豪快さとは対照的に、適度に肉付きが良い音で、繊細さと力感の配分が整っている。イーグルスのライヴ音源「ホテル・カリフォルニア」は、音ヌケの良さではウエスギとの組合せが好ましかったが、低音域の制動が効いているためファットな音に陥らないのはEL34プッシュプルの良さなのだろう。
2つのプリアンプと組み合わせて聴き、私は本機の音が好きになった。表現の巧みさに加えて、均整の取れた音が得られていたのである。

前段は12AT7×1、6CG7×2で構成。電源部チョークコイルを天板に配したのは第3世代機となる本機が初めてで、存在感が伝わる。フロントパネルは肉厚のアルミ製。L/Rch独立のアッテネーターとバイアス調整用の出力管切替えの3基のノブを装備する。

リアビュー。スピーカー出力端子は4Ω/8Ωを独立装備した。16Ωも選択可能。右に配置されたRCAアンバランス入力端子はXLR端子への変更が可能。
EL34 Push-Pull Power Amplifier
エアータイト ATM1 2024 edition
¥1,386,000(税込)
●出力:35W+35W
●入力端子:LINE1系統(RCAアンバランス)
●入力感度/インピーダンス:700mV/100kΩ
●スピーカー出力端子:4Ω、8Ω(16Ωを選択可能)
●使用真空管:12AT7/ECC81×1、6CG7/6FQ7(エアータイト銘)×2、EL34(Electro Harmonix、エアータイト銘)×4
●寸法/重量:W365×H225×D305mm/21.5kg
●備考:入力端子はXLR(シングル接続)を選択可能






