Part 1:ダン・ジンベルマン氏インタビュー
Dan Zimbelman(Senior Business Development Manager,PMC Ltd.)Interview
─── はじめに、会社の成り立ちをあらためておしえていただけますか。
ダン・ジンベルマン(以下、DZ) PMCは1991年、ピーター・トーマス(Peter Thomas/現・会長)とエイドリアン・ローダー(Adrian Loader)という経験豊富な2人の音響技術者によって設立された会社になります。最初の製品は、トーマスがBBC(英国放送協会)に勤務していた時代に設計したモニター・スピーカーで、我々のスピーカーは30年経った現在でもBBCのリファレンスとして採用されています。BBCはPMCに優れたモニター・スピーカーを求め続けており、30年にわたって採用され続けているということは、何よりも優れたデザインの証であると思っています。
PMCの本社、研究開発拠点、工場はすべてイギリスにあり、CEOのジェフ・ウィルコックス(Jeff Willcocks)が指揮を執っています。また、アメリカ・ロサンゼルスにはPMC USAという子会社があります。スタッフは現在、世界中で60名を超えており、事業拡大に伴ってさらに人数が増えています。 研究開発チームはピーター・トーマスの息子であるオリバー・トーマス(Oliver Thomas)が率いており、彼のチームには4人の優秀なエンジニアが在籍しています。
─── イギリスでの生産はコストがかかると思いますが、特別なこだわりがあるのでしょうか。
DZ PMCの製品はすべて、高度な訓練を受けた熟練工によってイギリスで生産されています。私たちが設計したすべての製品がリファレンスと完全に同一なレプリカであることを保証するために、設計から製造までのすべての段階を一つの屋根の下で維持することが重要だと考えています。また、私たちは製品を工場から出荷する前に、試聴と測定を行います。試聴と測定こそ品質と性能を維持するための唯一の方法であり、それが私たちの評判を高めているのです。
─── ピーター・トーマス氏とエイドリアン・ローダー氏は、市場に出回っているモニター・スピーカーに不満を感じ、オリジナルのモニター・スピーカーの開発に着手したと聞いています。具体的にはどのあたりに不満を感じていたのでしょうか。
DZ “クラリティ”(明瞭さ/透明感)です。2人は当時の大型モニター・スピーカーには、クラリティが足りないと感じていたのです。当時、解像度が高く透明感のあるサウンドは静電容量方式でしか得られませんでしたが、その方式ですと大型モニター・スピーカーに求められるダイナミクスと音圧レベルを確保することができなかったのです。彼らは精密さと低歪み率の両方を求めると同時に、より高いSPLも達成しようと考えました。そしてトランスミッション・スピーカーの設計を通してその解決策を編み出し、PMCのトランスミッション・ライン・ダイナスティは誕生したのです。
─── 製品開発におけるフィロソフィーはありますか。
DZ 我々はフィロソフィーではなく、“ホリスティック”と呼んでいます。我々は設計プロセスと製造の両方において、すべての要素とその聴感上の効果を考慮します。 測定しては耳を傾け、測定しては耳を傾け、満足のいく結果が得られるまでこれを繰り返します。
─── 記念すべき最初の製品、LB1とBB5についておしえてください。
DZ BB5は驚異的な透明感、超低歪率、高SPL性能を実現した最初のモニター・スピーカーであり、まさしくコンプリート・パッケージと言える製品でした。一方のLB1は、BB5と同じ特性をはるかに小さなパッケージに収めた、妥協のないパッシブ型のコンパクト・2ウェイ・モニター・スピーカーです。 BB5とLB1はともに、放送局、ポスト・プロダクション、マスタリング、そしてオーディオ・マニアのコンシューマー市場で絶大な人気を博しました。
─── PMC 30年の歴史で、ブレイクスルーとなった製品というと?
DZ もちろん、BB5とLB1はPMCの礎を築いた製品であり、業界にとってもランドマークと言えるモニター・スピーカーです。その次に挙げるなら、AML1とIB1でしょうか。カーボンファイバー製のピストン・ドライバーを搭載したこれらのモニター・スピーカーは、これまで以上に圧縮率の高い伝送経路を実現し、小さなキャビネットからより深みのあるクリーンな低音を再生することを可能にしました。このドライバー技術は、フラッグシップ・モデルであるQB1とQB1 XBDの大型アクティブ・モデルにも採用され、他の追随を許さないものとなっています。そしてtwotwoシリーズでは、デジタル・アンプとDSP技術を開発し、ニア・フィールド市場における解像度の新しい基準を確立しました。最近では、奥行きがわずか4インチ(100mm)で、音楽の臨場感あふれる再生に最適な革新的なスリムライン・モニター、ciシリーズを発表しました。
我々の現在の製品ポートフォリオは、コンパクトな2ウェイ・アクティブ仕様のニア・フィールドからミッド・フィールド、そして非常にパワフルなメイン・モニターまで、広範囲にわたっています。また、大型モデルに低音専用のキャビネットを追加する『XBDシステム』というアップグレードも行いました。『XBDシステム』によって低音のヘッドルームを拡張し、室内での低域のインテグレーションを向上させることができます。
また我々は、Dolby Atmosのようなイマーシブ・フォーマットのモニタリングに注力しており、専用のアクティブ・サブと、サラウンド・チャンネルおよびオーバーヘッド・チャンネルの業界標準となりつつあるスリムライン・モニター、ciシリーズを提供しています。
PMCのモニター・スピーカーの基盤には、『ATL(Advanced Transmission Line)』と呼ばれる低音再生技術があります。『ATL』は新しい設計のたびに磨かれ、発展してきました。『ATL』はすべてのモデルに、PMCをPMCたらしめている、独特の色付けの無い中域の透明感と低域を提供しています。
─── 『ATL』とはどのような技術なのでしょうか。
DZ 我々独自のベース・ローディング技術であり、PMCのモニター・スピーカーの根幹を成すテクノロジーです。我々のモニター・スピーカーは、ベース・ドライバーから発せられた音が長い空洞を通過しますが、空洞には慎重に選定された多数の音響素材が敷き詰められており、そこで非常に低い帯域以外はすべて吸収される設計になっています。そして空洞を通過した超低域は、ベース・ドライバーと同じ極性でフロント・ポートから出力され、このポートは実質的に第2のバス・ドライバーとして機能します。このアプローチの利点は、バス・ドライバーに負荷をかけるキャビネット内の空気圧が一定に保たれることにあります。これによって広い周波数範囲でドライバーのコントロールを維持し、LFの歪みを大幅に低減することができるのです。その結果、高音域と中音域のディテールが高調波の歪みによってマスクされず、PMCの特徴である透明感のある中音域と高レスポンスな低音を実現しているのです。『ATL』のもう一つの利点としては、同サイズのバスレフ型、または密閉型のスピーカーと比較して、すべてのリスニング・レベルでより低くまで伸びた低域再生と高いSPL能力を達成している点が挙げられます。
─── その他のPMCの根幹技術についておしえてください。
DZ 我々のドライブ・ユニットは、リミットを抑えたサスペンションにより、動作性が高く、また独自のボイス・コイル冷却が組み込まれており、低音域を極めて低い歪みで再生する『ATL』キャビネットに合わせて特注されています。また、ボーカルを最も正確に再現することができるソフトドーム・ミッドレンジ・ドライブ・ユニットを開発し、すべての3ウェイ・デザインに採用しています。
ラウド・スピーカーのドライブ・ユニットは、電流を機械的な動き、つまり音響エネルギーに変換するコンポーネントであると言えます。これは重要なトランスデューサーであり、スピーカーにとって最も重要なコンポーネントと言っていいでしょう。この重要なコンポーネントをいかにしてシステムに組み込み、最高の性能を引き出すかは、非常に革新的なアプローチが必要となります。キャビネットの素材から配線のケーブルに至るまで、すべての要素とその音への影響を考慮しています。また、モニターの吹き出し口の空気の流れの影響についても研究しています。
─── キャビネットは手作業で生産されているとのことですが、その理由をおしえていただけますか。
DZ PMCのすべてのモニター・スピーカーは『ATL』を採用しているため、内部が複雑な迷路のようになっており、キャビネット内に気密性を確保する必要があります。理想的な完成度と操作性を実現するためには、最高の職人を使って手作業で組み立てるしかないと考えています。
─── PMCは、いち早くアクティブ・モニターに取り組んだメーカーの一つです。
DZ 我々はエントリー・モデルのResult6から、伝説のBB6まで、パフォーマンス上の利点を考えて、アクティブ回路を積極的に採用してきました。モニター・スピーカーのアクティブ・セクションは、クロスオーバーとパワー・アンプという2つの基本回路に分けられます。アクティブ・クロスオーバーは、アンプの前段で増幅前に周波数帯域を分割することで、より洗練された精度の高いフィルターを実現することができ、その上で位相や音量を細かく調整することで、ドライブ・ユニットをより正確に統合することができるのです。加えてこの段階でドライバーの保護回路を実装すれば、システムの信頼性を大幅に高めることもできます。我々はパワー・アンプの前段にフィルターを配することで、専用のパワー・アンプを各ドライブ・ユニットに直接接続しています。パッシブ回路に高レベルの信号を入力すると、サウンドに不要な色付けをしてしまい、信号の損失も生じますが、我々のアクティブ回路は、より高いダンピング・ファクターで、非常に優れた制御が可能になります。間違いなく言えるのは、適切に設計されたアクティブ回路は、高いクラリティと低い色調、そして優れた信頼性を提供するということです。
─── PMCのモニター・スピーカーの色付けのないサウンドは、内蔵のデジタル・アンプに秘密があると言うプロフェッショナルもいます。何か特別な技術が使われているのでしょうか。
DZ すべての製品の内蔵パワー・アンプは、低歪み、高ダイナミック・レンジのクラスDタイプの設計になっています。ラウド・スピーカーと同様、広範囲にわたる測定と主観的なリスニング・テストによって、最高の結果が得られるように開発されています。
─── DSPによる音場補正機能についてはどのようなスタンスで取り組んでいるのでしょうか。
DZ 我々のモニター・スピーカーの多くで、洗練されたDSPベースのクロスオーバー・プラットフォームを採用しています。カスタマイズ可能なEQオプションを追加することで、あらゆる環境に理想的に統合できるだけでなく、機能性や使いやすさも向上させています。特にSRの現場は、音響的に最適な環境ではないことがほとんどで、加えて他の多くの変数を考慮する必要があるため、DSPによる補正がより重要になります。
─── 日本ではここ数年、イマーシブ対応のスタジオでPMCのモニター・スピーカーが高く評価されています。
DZ 我々のDolby Atomsへの取り組みは2017年、ロサンゼルスにあるユニバーサル・ミュージック・グループの『Capitol Studios』のために、イマーシブ・システムを設計したことにさかのぼります。現在、同様のシステムは、ロンドンの象徴である『Dean St. Studios』、ニューヨークの『Dolby Screening Room New York』、UMGの『Berry Hill Recording Studio』、ミュンヘンの『msm-studios』など、世界中のトップ・スタジオに導入されています。また、我々はDolby Laboratoriesとともに、Dolby Atmosのデモンストレーション施設をロサンゼルス、ナッシュビル、ニューヨーク、ロンドンに作りました。これらの施設の主な目的は、レコーディング業界のプロフェッショナルにDolby Atmos Musicを紹介し、実践的なデモンストレーションを通じて、このフォーマットのメリットを体験してもらうことにあります。
PMCのモニター・スピーカーが、イマーシブ・スタジオで高く評価されている理由の一つとして、その広い指向性が挙げられます。指向性の広さは、正確な音の再生に欠かせないものであり、開発チームは常に重視しています。この広い指向性によって、遠方でも軸外のフラットな周波数特性を維持します。ハイト・スピーカーの多くは天井にフラットに取り付けられ、リスニング・ポジションの軸外に配置されることが多いため、イマーシブ・オーディオのモニタリング環境に最適なのです。ほとんどのイマーシブ・システムでは、サラウンド・チャンネルとハイト・チャンネルは低音が管理されているため、我々のモニター・スピーカーは明確な優位性を持っています。PMCのモニター・スピーカーは、『ATL』によってより低い周波数帯域の再生能力を持っており、サブ・ウーファーとシームレスに統合することが可能になっています。
─── 現在注目している技術をおしえていただけますか。
DZ 『ATL』のさらなる改良、エア・フロー効率の向上、ソフト・ドーム・ミッド・レンジ設計、新しいモニター・コントローラー・インターフェースなどなど……。挙げていけばキリがありません。
─── PMCのモニター・スピーカーを愛用している著名なスタジオ、エンジニア、プロデューサーがいれば、ご紹介いただけますか。
DZ ロサンゼルスの『Capitol Studios』から、ハリウッドを代表する映画音楽の作曲家であるトーマス・ニューマン、アフロジャック、マーティン・ギャリックス、カルヴィン・ハリスといったEDMのDJ/プロデューサーに至るまで、我々は幅広いクライアントを抱えています。
─── 彼らはPMCのモニター・スピーカーのどのあたりを評価しているのでしょうか。
DZ 我々のモニター・スピーカーは、スピーカーであると同時に本格的な“分析ツール”でもあり、音楽的でありながら科学的な正確さを備えた信頼できるリファレンスです。大音量で作業しても、ささやき声のような小さな音量で作業しても、聴こえてくる音のバランスは常に一貫しています。これによって使い手は、判断を素早く、自信を持って下すことができ、長時間の作業でも疲れません。
─── 最後に、この記事を読んでいる日本のプロフェッショナルにメッセージをお願いいたします。
DZ 我々はエンジニアリングとエモーションを融合させることへの情熱に突き動かされています。PMCのモニター・スピーカーは、精密な設計を用いることにより、可能な限り正確で自然な音を提供します。我々はプロフェッショナルの皆様が、真実を提示するリファレンスを必要としていることを十分に理解しています。真実を提示するリファレンスは、永続的な作品を生み出すために不可欠なものです。音と感情を可能な限り正確に伝えるために、高度なデザインを採用するというアプローチが、我々のすべての設計を支えています。PMCのグローバル・コミュニティは非常に健全なペースで拡大しており、我々の哲学から恩恵を受けられるプロフェッショナルが今後も増えていくことを確信しています。
Part 2:エンジニア 古賀健一氏に訊く、PMCの魅力
Recording Engineer: Kenichi Koga Interview
日本でも多くのプロフェッショナルに愛用されているPMCのスタジオ・モニター。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやOfficial髭男dismといったアーティストを手がけるレコーディング・エンジニアの古賀健一氏も、PMCの音質を高く評価するプロフェッショナルの一人だ。古賀氏は昨年末、これから増えていくであろうDolby Atmos/空間オーディオ・コンテンツのプロダクションに対応すべく、ホームグラウンドである『Xylomania Studio』のリニューアルを実施。イマーシブ作業用のスピーカーとしてtwotwo.6とtwotwo.5を導入し、9.1.4chのモニター・システムを構築した。他社のスピーカーも併用する古賀氏に、PMCが秀でていると感じる部分と、その位置付けについて話を伺ってみることにした。(2021年8月、オンラインで取材)
愛用スピーカーの変遷
自分のスピーカーはオンキヨーのコンポがスタートで、専門学校に入ってからは、ヤマハ NS-10M Proの改造版を使っていました。学校に機材を改造してしまう名物先生がいて、その方に特注で作ってもらった解像度が高い10M。卒業後入社した青葉台スタジオにはラージにRey Audioがあったんですけど、ニア・フィールドはしばらく特注の10Mを使っていましたね。でも次第に、「このままでは厳しいかもしれない」と感じるようになり、そろそろ“脱10M”しようと、別のスピーカーを探し始めたんです。特に厳しいと感じたのが低域で、10Mでは見えていないものがあり過ぎるような気がして……。しかし当時、リズム録りの音量感に耐えられるパワード・スピーカーがほとんど無く、Dynaudioや流行り始めていたADAM AudioもMusikelectronic Geithainもチェックしたんですが、どちらもリズム録りには厳しかったんです。それでどうしようと思っていたときに日本にSonodyneが入ってきて、試してみたらなかなか良かったので、10Mに替わるニア・フィールド用として使い始めました。青葉台スタジオにはMastering Labのユニットが入ったManley Tannoy ML-10があり、しばらくはそれとSonodyneの組み合わせで仕事をこなしていましたね。
独立してからは、ラージが欲しいと思って、FocalのSM9を手に入れました。ぼくはマスタリングの仕事もしているので、スーパー・ローまで見えるスピーカーでないと、人のミックスを触るのは失礼だと思って。その頃はもう3ウェイのスピーカーじゃないと感覚的にダメになっていて、Sonodyneを手放してKEFの3ウェイも買いました。3ウェイの解像度が無いと、中域が低域に引っ張られてしまうので、ミッド・レンジのニュアンスが掴みにくいんです。
PMCとの出会い
twotwoシリーズを初めて使ったのは、KEFを導入する前だったと思います。スタジオに持ち運べて、低域の見えるニア・フィールドが欲しいなと思い、代理店さんにお願いしてtwotwo.6を借りて試してみたんです。PMCに関しては、twotwoシリーズの前のモデルやAvidとコラボレーションしたものはあまりピンとこなかったのですが、twotwoシリーズは興味を惹かれるスペックだったんですよね。実際にスタジオで試してみたところ、低域がとても自然で、中域のツイーターの感じもかなり好みでした。そのときは諸事情より導入するまでは至らなかったのですが、自分のスタジオ(Xylomania Studio)をイマーシブ対応させるタイミングで、twotwo.6とtwotwo.5を導入しました。
スタジオのリニューアルを決めてからは、いろいろなメーカーのスピーカーを試聴しましたよ。Genelec、ADAM Audio、JBL、そしてPMC……。見積もりと睨めっこにしながら(笑)、主に5.1chでチェックしましたね。スピーカーが一番重要だと思っていたので、Mac Proの更新やHT-RMUの導入などは考えずに、予算のほとんどをスピーカーに突っ込もうと。
最終的にtwotwoシリーズを選定したのは、『ATL』(編註:『Advanced Transmission Line』。PMCの根幹技術であるベース・ローディング・テクノロジー)による音色と、低域の濁りの無さが決め手になりました。ツイーターの感じはもともと好きだったので、価格は少し張りましたが、もうこれでいいかなと。それと性格的にひねくれているので、みんなが使っているものとは違うものを使いたいタイプなんです(笑)。
Xylomania Studioのシステム構成
チャンネル数は9.1.4chで、LCR/サイド/バック/ワイドはtwotwo.6、ハイトはtwotwo.5サブはSub2×2という構成になっています。ハイトを別のスピーカーにするという案もあったのですが、コンサルとして入っていただいた染谷さん(編註:染谷和孝氏)から、「絶対に全部揃えた方がいい」とのアドバイスがありまして、すべてtwotwoシリーズを導入することにしました。ハイトをtwotwo.5にしたのは、twotwoシリーズはけっこうスピーカーの奥行きがあるので、サイズを落とした方が距離がとれると思ったからです。twotwoシリーズは現在3モデルがラインナップされていますが、ツイーターは50W、ウーファーは150Wと、内蔵デジタル・アンプのスペックが同一というのは気に入っているポイントの一つですね。アンプの出力が違うものを組み合わせると、音色のバランスが悪くなってしまいますから。将来的にフロントをtwotwo.8にアップグレードしようかなと考えているのですが、その際も再生周波数が伸びるだけで、すんなり移行できるのではないかと思っています。
オーディオ・インターフェース/モニター・コントローラーとして使用しているPro Tools | MTRXとは、AESでデジタル接続しています。デジタル接続とアナログ接続を比較試聴したのですが、圧倒的にデジタル接続の方がマルチ・チャンネル環境では良かったですね。スタジオのマスター・クロックはMUTECなのですが、14本すべてのスピーカーが同じクロックで動いているのが大きいのではないかと思っています。複数のスピーカーをそれぞれが持っているインターナル・クロックで使うと、たとえ同じ機種であっても絶対にずれるわけじゃないですか。ステレオだったらまだしも、14本もスピーカーがあるとそのずれは絶対に音に影響してくる。デジタル接続の効果はとてつもなく大きくて、フォーカスがしっかり合っている感じがしますね。加えてtwotwoシリーズは、RCAの入力も装備しているので、AVアンプをダイレクトに接続できるところも気に入っています。
PMCの魅力
スタジオの音響調整はまだまだ追い込む余地があると思っていますが、サラウンドの映画や、Dolby AtmosのBlu-rayの仕事をするには申し分ありませんでした。ここでプリ・ミックスしたものをダビング・ステージに持っていっても仕上がりは良かったですね。
実際に作業してみて、特に良いなと感じているのが、中低域以下に歪み感が少ないところ。ぼくはバスレフの濁った音が苦手なんですが、PMCのスピーカーはそういった嫌な感じがない。凄くナチュラルな音色だと思っています。なぜそんなに歪みを重視するのかと言えば、機材のTHDや楽器の倍音を自分で操作したいからなんです。歪み成分、倍音成分は音楽にはとても大切な要素で、“In-The-Box”の時代になって音楽がつまらなくなった、ミックスが冷たいと言う人がいますが、それはアナログ時代の歪みが無いからだと思っていて。だからミックスで二次倍音や三次倍音、真空管やトランジスタの効果を加えて、自分で音色をコントロールする必要があるのですが、肝心のスピーカーが歪んでいたら思うような味付けができないわけです。ぼくがデジタル・アンプを好んでいるのも同じ理由からで、アナログ・アンプはミックスする上では何か誤った音が出ている気がする。とにかくスピーカーは、正しい音を出してほしいんです。
その点、PMCは全体の歪み感がないので、とても作業がしやすい。ぼくはロックからアコースティックものまで幅広く手がけていますが、音楽のジャンルも選ばない感じがします。オールラウンドなスピーカーというか、マスタリング・スタジオでよく使われている理由が分かる気がしますね。PMCに望むことは、さらなるDSPの活用。現状ですと、RC1で接続できるtwotwoシリーズは14台までですし、プリセットも保存できない。そのあたりが進化すれば、もっと使いやすくなると思います。
※本記事のインタビュー取材後、Xylomania StudioではフロントL、C、Rの3本がワンサイズ大きい"twotwo.8"にアップグレードされ、サブウーファーも2本から4本に増設された。
取材協力:The Professional Monitor Company Limited、オタリテック株式会社、Xylomania Studio
PMC製品に関する問い合わせ:
オタリテック株式会社
Tel:03-6457-6021 https://otaritec.co.jp/
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