日本時間6月15日に世界同時発表された「AXT Digital」シリーズの新モデル「ADX5D」
「AXT Digital」シリーズとは、同社の「ULX-D®」など他のデジタルワイヤレスシステムとは異なるデジタル変調方式を採用し、優れた音質はもちろん、そのクオリティを担保する強靭なRF性能を持つSHUREのフラッグシップモデル。失敗の許されないライヴ環境などで活躍し、2017年の発売後、世界中のライヴ現場で実績を積んできた。そんな「AXT Digital」の一員に加わった「ADX5D」は、ライヴ市場で培った技術を、これまでSHUREが苦手としてきた報道現場、映画や番組のロケ制作、スポーツやイベント中継といったロケーション・サウンド市場に照準を合わせた野心的な製品となる。この新製品について、プロサウンドでは、シュア・ジャパンのプロオーディオ部門ディレクターの澤口宙也氏とマーケット・デベロップメントの田中真梨恵さんのお2人にインタビューを敢行。どこよりも早く「ADX5D」の概要をお届けする。
シュア・ジャパンに聞く
先進的な技術と、新たな市場開拓を図ったADX5D
───「ADX5D」は、どんなターゲットを意識して開発されたのでしょうか。
澤口 放送/映画やドラマのロケ撮影/スポーツ中継といったロケーション・サウンドをターゲットとしています。御存知の通り、SHUREは歴史的にライヴ・サウンドの分野では、世界的に見ても非常に高いシェアを誇っています。しかし、ロケーション・サウンドのマーケットでは、過去に顧客獲得を狙った製品もあるのですが、シェアの拡大には至らず、とても苦労していました。
そこで、現場ではどんな製品が求められているのか、世界中のエンジニアにリサーチを行い、ゼロベースから開発した製品がこの「ADX5D」となります。このポータブル受信機が加わったことで、「AXT Digital」のソリューションは、より完成形に近づいたと思っています。
田中「ADX5D」は、シャーシとオプションを組み合わせることで、メジャーな放送業務用カメラに合わせたスロットイン、一眼レフカメラへのコールドシューマウント、そしてオーディオバックに入れてデジタルレコーダーと共に使用するなど、様々な収録スタイルに応えるデザインとなっています。また、「AXT Digital」は、デジタル変調方式ですので、高いS/N比、f特も20Hzから20kHzと優れていますし、レイテンシーも2.0msecという世界トップクラスの実力を持った、ロケーション・サウンドに相応しい機能と音質を備えたモデルになっています。
澤口 SHUREは世界中のライヴ・サウンドを支えるマイク・メーカーですから、オーディオのクオリティには絶対の自信を持っています。このことは、世界中のアーティストやエンジニアに受け入れられている事が証明になると思います。
田中 もうひとつ、「ADX5D」で特筆すべきポイントは、ライヴ・サウンドという過酷な電波環境下で培って来たRF性能です。これはサウンドを扱うすべてのジャンルに共通している事ですが、サウンドは一度きりのものなので失敗は許されません。その点、「ADX5D」は、RF障害への耐性を向上するトゥルー・デジタル・ダイバーシティの採用や、受信しているRF信号の品質を5段階で表示するチャンネルクオリティーメーターを搭載するなど、弊社のフラッグシップ「AXT Digital」の名を冠するのに相応しい受信性能を持っています。
澤口 RFの冗長性に関しても、他社よりも圧倒的に優れていると思っています。それ以外にもハイデンシティーモードを使用することで、B帯でも最大約30波の同時使用が可能となっています※。
※最大同時使用可能波数は環境によって異なる。また、ハイデンシティーモードでのレイテンシーは2.9msec
───「ADX5D」には、トピックとなる機能がたくさんありますが、代表的な機能を挙げていただけますか?
田中 コンパクトなボディでありながら、1Uラックの受信機「AD4D」と同等の性能と、ShowLink®を使う際に必要だったアクセスポイントを内蔵している点が挙げられます。ShowLink®は2.4GHz帯(Zigbee Dual準拠)を用いてADX送信機をリモートコントロールするものです。ロケーション・サウンドにおける使用例としては、入念に衣装に仕込まれた送信機を取り外すことなく、手も触れずに設定変更することができます。他にも、2つの同一信号を独立した周波数で伝送し、チャンネルクオリティが低下した場合でも、自動的に両方の周波数から最適な音声信号をシームレスに切り替える周波数ダイバーシティ機能などが挙げられます。
「ADX5D」のフロントパネル。視認性に優れるOLEDを採用したディスプレイ
放送用カメラにスロットインした状態。スペーサーを使用し、ソニー、パナソニック、イケガミなどのカメラに搭載可能
音声用バッグに入れた写真。シャーシは、SHUREならではの非常に堅牢なボディとなっている
バックプレートは3種用意。写真はTA3バックプレートで、ミニXLRが2系統とACアダプター用コネクターを装備
写真は1眼レフカメラに取り付けるシューマウントオプション
───「ADX5D」の発表に際して、意気込みをうかがえますか?
田中 この度「AXT-Digital」シリーズに、「ADX5D」が加わりました。私達もロケーション・サウンド市場に、本腰を入れて参入していく、という強いメッセージの込められた製品であるとひしひしと感じています。もちろん「ADX5D」の登場によって、お客様が求める製品がすべて揃ったというわけではありません。日本のお客様へのリサーチを通じて、私達が得た貴重なフィードバックを開発チームに伝え、日本のマーケットにおいて、より利便性の高い製品になってほしいと思っております。
澤口 SHUREでは世界を大きく4つのコアリージョン(アメリカ、ヨーロッパ、中国および韓国、日本)に分けているのですが、求められる性能が他国と大きく異なるので、日本だけで独立しているほどの特別な市場です。その中でも、ロケーション・サウンド市場は独特で、国内メーカーのシェアが圧倒的に高く、また、ワークフローもそれらのメーカー製品に最適化しています。そうした日本市場という特殊な環境を、私達は最大限に理解し咀嚼して、本社の開発チームに「日本市場ではこういう性能やオプションが求められている」と伝えつづけています。その結果のひとつとして、単三乾電池で駆動するバッテリースロットのリリースが挙げられます。ほかにも、対応周波数帯の追加やマルチチャンネル用のアダプターなど、まだまだ課題は山積みですが、今後も本社へのフィードバックは継続して行い、日本のエンド・ユーザーが真に満足する製品を、提供していこうと考えています。
田中も申しました通り、私達は「ADX5D」の発売をもって「AXT Digital」は完成だとはまったく思っていません。むしろ、「ADX5D」の登場で、我々がロケーション・サウンド現場に踏み込んでいく準備ができ、いままで踏み込めなかった市場への第一歩を踏み出したという、非常に大きな意味を持つ製品だと思っています。
ADX5Dの開発方針/製品概要が語られた
ヴァーチャル・プレスイベント世界同時配信
「ADX5D」の発売にあたり、現地時間6月8日10時(日本時間6月9日0時)にヴァーチャル・プレスイベントが開催された。イベントでは、「AXT Digital」ワイヤレス・マイクシステムの責任者であるMichael Johns(マイケル・ジョーンズ)氏、「ADX5D」を含むブロードキャスト向けワイヤレス製品マネージャーのAdi Neves(アディ・ネヴェス)氏、ソフトウェア製品シニアマネージャーのCorey Peoples(コリー・ピープルズ)氏が登壇。「AXT Digital」シリーズの特徴や、「ADX5D」に内蔵されたShowLink®機能、そして、「WWB6®」や「ShurePlus™ Channels」といったアプリケーションとの連携によるネットワーク・モードについて説明があった。イベントの最後は、エミー賞の受賞経験もあるサウンド・ミキサーJon Ailetcher(ジョン・アイレッチャー)氏が登壇し、実際に収録現場で扱った際の使用感について語られた。世界各国から41名のメディア関係者が参加し、「ADX5D」の登場が、ロケーション・サウンドに与えるインパクトの大きさを実感する発表会であった。
発売は今夏を予定。本体価格はオープンプライス。また、7月18日発売のプロサウンド8月号(Vol.224)にて、機能面などをより詳しくレポートする予定です。
問い合わせ先
ヒビノインターサウンド株式会社
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