従来、ライブやイベントなどの現場では、音響は音響専門の会社、映像は映像専門の会社が仕事を請け負うのが常だったが、最近では音響専門の会社(あるいは音響担当の個人の技術者)が映像を手がけるケースも珍しくなくなっている。きっと読者の中にも、「映像機器のオペレートも一緒にお願いできないだろうか」と頼まれたことがある人もいるのではないだろうか。映像と言うと構えてしまう人が多いかもしれないが、音響のオペレートができる人であれば映像のオペレートはさほど難しくないと言われ(その逆は難しい)、音響と映像の両方を扱うことができる“AVミキサー”と呼ばれる便利な機材も普及し始めている。これからの時代、音響技術者といえども最低限の映像に関する知識を持っていた方が、間違いなくプラスになると言っていいだろう。本連載『音響技術者のための映像入門』では、映像オペレートに必要な基礎知識を分かりやすく解説する。第7回目となる今回は、滋賀県を拠点に様々なイベントのプロデュース/音響/映像演出を手がける、匠サウンドのライブ配信事例を紹介することにしよう。匠サウンドはいち早くAVミキサーを導入することで、音響会社には厳しいコロナ禍を巧く乗り切っている。

滋賀県を拠点に様々な業務を行う匠サウンド

 滋賀県長浜市に拠点を置き、各種イベントのプロデュース/音響/映像演出を手がけている匠サウンド。2005年、地元のイベントを企画していたことがきっかけで音響業務をスタート。2014年からは滋賀県最大のよさこいイベント『あっぱれ祭り』の演出を担当、近年は東京近郊でも多くの仕事をこなしている。代表の居川信彦氏によれば、同社が映像演出まで手がけるようになったのは約4年前で、イベントの協賛企業の宣伝効果を考えたことがきっかけになったという。

「私たちが手がけているイベントには地元の企業が協賛で付いてくれるんですが、けっこうなお金を出していただいているのに、チラシに会社のロゴを掲載するくらいで、申し訳ないなという思いがずっとあったんです。それでもう少し協賛企業にメリットのあることをできないかと考え、映像を再生するためのLEDビジョンを導入してみようと。それまでも“映像を出したい”という要望はあったんですが、ローカル・イベントですと予算が潤沢ではありませんし、仮に余裕があったとしても大阪や京都まで機材をレンタルしに行かなければならない。だったら思い切って買ってしまった方がいいのではないかと考えたんです。LEDビジョンを持っていれば、企業のCMやプロモーション・ビデオなど、ちょっとした映像を流すことができますからね。それで幅9メートル/縦4メートルのLEDビジョンを購入したんです」(居川氏)

 

匠サウンドの代表、居川信彦氏

 

 パソコンを再生機として使用し、ビデオ・スイッチャー経由でLEDビジョンに出力するというシンプルなシステムで、映像演出まで手がけるようになった匠サウンド。LEDビジョンによる演出は、協賛企業や関係者から好評で、その後映像が絡む仕事がどんどん増えていったとのことだ。

「私たちは音響の世界では比較的後発ですから、いくら良い機材を揃えたところで、既に繋がりがあるところに入っていくのは難しい。私たちのようなところが仕事を増やしていくには、新しい分野に参入していかなければダメだろうと思っていたんです。それでLEDビジョンを導入したわけですが、これは私たちにとって本当に大きな“武器”になりました。音響と映像演出を一緒に手がけることで、他社に絶対に負けない価格で仕事を受けれるようになりましたしね。イベントのたびにLEDビジョンをレンタルしていたら、私たちの価格では絶対にできないと思います」(居川氏)

 LEDビジョンが届いて間もなく、ビデオ・スイッチャーとしてローランドのV-1HDを導入し、数ヶ月後にはAVミキサーのVR-50HDにアップグレードしたとのこと。ビデオ・スイッチャーを導入するにあたって、他にも選択肢はあったとのことだが、迷わずローランド製品をセレクトしたという。

「気に入って長年使用しているラインアレイ・スピーカーがあるんですが、以前使っていたデジタル・コンソールでは、卓で音の輪郭がボヤけてしまうような気がして。それで何とかしたいなと思っていたときに、名古屋の音響屋さんからローランドのM-5000をおしえてもらったんですが、これがもの凄く良かったんです。音の輪郭がハッキリしていて、さすが96kHz処理は違うなと。96kHzの音を知って、それまで使っていた卓はすべて売り払ってしまいましたよ(笑)。その経験からローランド製品には良い印象を持っていたので、映像機器も迷わずローランドにしようと思いました」(居川氏)

 

補助金でVR-50HD MK IIを導入

画像: 匠サウンドのライブ配信業務の中心機材、ローランド VR-50HD MK II。ビデオ・スイッチャー、デジタル・オーディオ・ミキサー、タッチパネル付きマルチビュー・モニター、USB3.0ストリーミング出力といった機能が統合されたローランドのフラッグシップAVミキサーだ。これ1台で音と映像をオペレートし、パソコンに接続してライブ配信を行うことができる

匠サウンドのライブ配信業務の中心機材、ローランド VR-50HD MK II。ビデオ・スイッチャー、デジタル・オーディオ・ミキサー、タッチパネル付きマルチビュー・モニター、USB3.0ストリーミング出力といった機能が統合されたローランドのフラッグシップAVミキサーだ。これ1台で音と映像をオペレートし、パソコンに接続してライブ配信を行うことができる

 

 そんな匠サウンドがライブ配信を手がけるようになったのは今年夏前のこと。コロナ禍でリアル・イベントが行われなくなったのを機に、ライブ配信に興味を持ち始めたという。

「春前くらいから音響の仕事が無くなり、周りでライブ配信を始める人がポツポツ出てきて、それで興味を持った感じですね。どんな機材が必要になるのかなと調べてみたら、ラッキーなことに自分のVR-50HDにはパソコンにストリーム出力できるUSB端子が備わっていたと(笑)。それでビデオ・カメラとしてソニーのXDCAMを導入し、ライブ配信にも対応できるような体制を整えました。でも、最初からライブ配信の仕事があったわけではなく、依頼が来るようになったのは、現場が“ハイブリッド”になってからです。ハイブリッドというのは、ライブ配信だけを行うのではない、観客を少し入れた配信。そういう現場の回線って凄く複雑で、音響の知識がないとできないんですよ。あっちに音を返して、こっちには送ってはいけないとか、めちゃくちゃややこしい。もちろん、音楽のライブの場合は、マイキングをしっかりしないと配信の音も聴けたものではないですし……。ようやくウチに出番が回ってきたなと(笑)」(居川氏)

 その後はビデオ・カメラの台数を増やし、現在はすべてソニー製で統一。AVミキサーとビデオ・カメラは、基本SDIで接続しているとのことだ。

「映像機器は、音響機器以上に機器同士の相性を考えなければならないんです。特にHDMI接続はセンシティブで、本当に近くにあるものはそのままHDMIで接続してしまいますが、基本SDIに変換して接続していますね。ケーブルも安価なものはトラブルの元になるので、すべてカナレで統一しています。LANケーブルは、Dante接続用に高品位なものを持っていたので、それはそのまま使えてラッキーでした。現在使用しているカメラは、すべてソニー製で、XDCAM PXW-X160が2台、XDCAM PXW-Z90が2台、α7Ⅲ、ZV-1という構成です。ソニー製にこだわっているのは、周りで使っている人が多いというのもありますが、色合わせがしやすいからですね。以前、他のメーカーのものも併用していたのですが、色が合わなくて苦労したことがあるんです。各カメラの使い分けは、PXW-X160がメインで、PXW-Z90は引きの画で使うことが多いですね。α7Ⅲはレンズを交換できるので、XDCAMでは上手く対応できないときに活躍しています。先日も築地で花火大会の現場があったのですが、建物の上階からの収録だったこともあり、PXW-X160とPXW-Z90ではドン引きしても近い画になってしまったんですよ。そんなときにはα7Ⅲと広角レンズの組み合わせが重宝しています」(居川氏)

 そして現在、ライブ配信のメイン機材として活躍しているのが、ローランドのAVミキサー、VR-50HD MK IIだ。VR-50HDの後継モデルとなるVR-50HD MK IIは、4chのビデオ・スイッチャー、12chのデジタル・オーディオ・ミキサー、タッチ・パネル付きマルチビュー・モニター、USB3.0ストリーミング出力といった機能が統合された高性能なAVミキサー。映像と音声を1台で操ることができ、そのままライブ配信を行うことができる便利機材である。前モデルのVR-50HDを愛用していた匠サウンドだが、ライブ配信業務を本格的に手がけるにあたって、VR-50HD MK IIにアップグレードしたという。

「新型コロナウイルスの問題が大きくなっていた春先、小規模事業者持続化補助金に申請したところ、見事受給することができまして。その補助金でVR-50HD MK IIとカメラ2台を導入することができたんです。VR-50HD MK IIは、前モデルで不満だった部分がことごとく改善されていて、かなり良くなっていますね。特に良くなったのがオーディオ・ミキサー機能で、ヘッドアンプが完全に新しいものになって、凄く太い音になりました。チャンネルEQも良くなりましたし、何より嬉しいのがマスターやAUXに15バンドのグラフィックEQが備わったところ。建物や会場によってハウリング・ポイントが違うので、これは本当にありがたいですね。音質的にも機能的にも、小規模PA卓と比べて劣っている感じはしません」(居川氏)

 

ピアノ+ボーカルの音楽ライブ配信

 本誌では、匠サウンドがどのようなシステム/オペレーションでライブ配信を行っているのか、現場で見せてもらうことにした。お邪魔した現場は、9月5日に行われたピアニスト茉莉さんとボーカリストLINA☆ZOさんの無観客ライブ。会場となったのは神奈川県川崎市の音誼荘(おとぎそう)というスペースで、ステージ上のミュージシャンは茉莉さんとボーカルLINA☆ZOさんの2名のみ、音と映像のオペレーションは居川氏が一人でこなした。

画像: 今回ライブ配信が行われた神奈川県川崎市にある音誼荘(おとぎそう)

今回ライブ配信が行われた神奈川県川崎市にある音誼荘(おとぎそう)

 

「茉莉さんは私と同じ滋賀県出身のピアニストで、LINA☆ZOさんの新曲のお披露目を兼ねた約1時間の無観客ライブ配信です。配信プラットホームとして利用したのはYouTube LiveとFacebook Liveで、茉莉さんとLINA☆ZOさんを知ってもらうことが一番の目的なので、無料で視聴できるようにしました。出演者は茉莉さんとLINA☆ZOさんの2名で、ピアノ用マイクはアップ・ライトの上下にDPA 4099、ボーカル用マイクはShure KSM8ですね。あとはMC用マイクがあるだけの音声は合計4回線という凄くシンプルな現場です。もちろん、すべてのマイクの出力は、単体のプリアンプなどは使用せず、すべてVR-50HD MK IIに直接入力しました」(居川氏)

 ビデオ・カメラは、ソニー XDCAM PXW-Z90が2台、α7Ⅲ、ZV-1の4台を使用。α7ⅢのみHDMI接続で、他のカメラはSDIで延長してVR-50HD MK IIに接続された(図①)。

画像: 図①:今回のライブのシステム図。カメラは4台使用された

図①:今回のライブのシステム図。カメラは4台使用された

 

「2台のPXW-Z90でピアニストとボーカリストを抜いて、手前の真ん中に設置したα7Ⅲは引きの画、ZV-1はピアニストの手元用という感じですね。今回はミュージシャン用のモニター・ディスプレイは設置せず、VR-50HD MK IIでスイッチングした映像はBlackmagic Video Assistでも録画しました。小規模なバンドのライブは大体こんなシステムです。配信機器はATEN UC9020で、高性能なPCを必要とせず、テロップを挿入できたり、同時配信にも対応していて、動作も非常に安定しています。また、ライブ配信の現場では必ずマルチバンド・ルーターも使用しています。マルチバンド・ルーターは、複数の光回線や携帯電話の回線を束ねてインターネットに接続できるルーターで、どこかの回線が詰まっても安定した配信を行うことができるんです。今回の現場では、3回線を束ねるマルチバンド・ルーターを使用しました」(居川氏)

 

VR-50HD MK IIのオペレーション

 以上のようなシステムで、音と映像を一人で操作し、ライブ配信を行っている居川氏。はたして現場では、VR-50HD MK IIを使ってどのようなオペレーションを行なっているのだろうか。まずは音のミックスから話を訊いてみた。

「VR-50HD MK IIは、左半分がオーディオ・ミキサーになるのですが、やっていることは基本PA卓と同じです。ライブ配信だから変えていることと言えば、音の作り方でしょうか。ライブ配信はスマートフォンで視聴される方が多いので、ぼくもヘッドフォンでモニターし、ローの出方を確認するようにしています。具体的に言うと、普通のPAよりもローは出さずに、ジャズ寄りのチューニングというか、スッキリしたサウンドになるように心がけている。視聴デバイスがスマートフォンですから、スピーカーの再生能力には限界があるわけで、再生しきれない帯域を入れてしまうのはどうかなと」(居川氏)

 そして本誌読者が最も知りたいのは、きっと映像のオペレーションについてだろう。音のミックスと同時に、右半分のビデオ・スイッチャーではどのような操作を行なっているのか。居川氏は丁寧に解説してくれた。

「基本となるのはカメラの切り替えです。右側手前のインプット・セレクト・スイッチで、4台のカメラを切り替える。楽曲やステージ上の演奏に合わせてカメラを切り替えるわけですが、ぼくの場合は自分が観たいと思った映像をセレクトしています。ずっと映像をやってきた人間ではないので、感性でセレクトしているというか。4台のカメラの映像を同時に確認できるマルチビュー画面を見ながら、例えばピアノ・ソロだったらピアニストの手元や表情を見たくなるので、視聴者の気持ちになって切り替える。視聴者の気持ちになるというのは、ぼくが常に心がけていることです。よく、“素人ほど頻繁に映像を切り替える”と言いますが、音楽を伴った花火の中継とかですと、素早いスイッチングの方が映像演出できたりしますし(笑)、一概には言えないですね。カメラを切り替えるスピードは、右上のTRANSITION TIMEのつまみで変えられるのですが、これはPA卓で言うところのリバーブ・タイムと一緒です。切り替えのスピードで映像の雰囲気がかなり変わるので、この設定はかなり重要ですね。2つの映像をワイプさせることもできますが、ぼくはほとんど使うことはありません。まとめると、音楽のライブ配信で行なっているのは、カメラのスイッチングと切り替えスピードの操作くらいです。あとは“配信は15時からスタートします”といったスチル画像やアーティスト名のテロップを表示させるくらい。最近私たちが手がけている“オンライン法要”では、お経をクロマキー合成で表示させたりもします」(居川氏)

 

画像: 2台使用されたソニー PXW-Z90。それぞれピアニストとボーカリストを狙って設置された

2台使用されたソニー PXW-Z90。それぞれピアニストとボーカリストを狙って設置された

画像: 真ん中に設置され、引き画用として使用されたソニー α7 Ⅲ

真ん中に設置され、引き画用として使用されたソニー α7 Ⅲ

画像: ピアニストの手元用カメラとして使用されたソニー ZV-1

ピアニストの手元用カメラとして使用されたソニー ZV-1

 

 音と映像を1台で操作できる便利機材=AVミキサーをいち早く導入したことで、コロナ禍のライブ配信ブームに上手く乗ることができた匠サウンド。今後もVR-50HD MK IIをフル活用し、いろいろな仕事にチャレンジしていきたいと語る居川氏に、ライブ配信/映像演出に興味を持っている音響の会社に向けてアドバイスをいただいた。

「配信に興味を持っているのであれば、AVミキサーとビデオ・カメラが3台用意すれば、すぐに始めることができます。VR-50HD MK IIには4系統のSDIとHDMI入力が備わっていますが、ほとんどの現場ではPowerPointの画面を1系統HDMI入力するので、最初は3台くらいがちょうどいいと思います。先ほども言ったとおり、ビデオ・カメラはすべて同じメーカー、できれば同じモデルで揃えた方が画合わせがラクですね。あとはSDI出力が付いたものがいい。業務として配信を行う上で大切なのは、やはり事前の仕込みと段取りです。しっかり段取りをしておかないと、現場で絶対にトラブルが起こる。トラブルで一番多いのが音周りで、映像は画面を見れば信号が来ていないことが分かりますが、音は目で見て分からない。先日の現場でも、ZOOMの音声をFacebook Liveにも送らなければならないということをまったく考えていなくて大変でした。配信の音声回線は意外と複雑なので、本当に段取りが重要です。それでも映像を始めて良かったと思いますね。音だけでやっていたら今頃死んでいたのではないかなと(笑)。映像も音と同様、とても奥が深いので日々勉強です」(居川氏)

 

画像: 写真向かって左から、ピアニストの茉莉さん、ボーカリストのLINA☆ZOさん、匠サウンドの代表 居川信彦氏、音誼荘のオーナーであるオアシスの金森祥之氏

写真向かって左から、ピアニストの茉莉さん、ボーカリストのLINA☆ZOさん、匠サウンドの代表 居川信彦氏、音誼荘のオーナーであるオアシスの金森祥之氏

 

 

音響技術者/音響会社におすすめの映像機器 #5
ローランド V-1HD+
定番ビデオ・スイッチャーのアップグレード・モデルが登場

画像: ローランドの新製品、V-1HD+。大ヒットを記録した小型HDMIビデオ・スイッチャー、V-1HDの機能を強化したアップグレード・モデルだ。ライブ配信をはじめ、イベント演出や映像制作など、あらゆる用途に対応する

ローランドの新製品、V-1HD+。大ヒットを記録した小型HDMIビデオ・スイッチャー、V-1HDの機能を強化したアップグレード・モデルだ。ライブ配信をはじめ、イベント演出や映像制作など、あらゆる用途に対応する

 

小型HDMIビデオ・スイッチャーの上位モデル

 ライブ配信需要の高まりを受けて、各社から続々と登場している映像/音響関連の新製品。中でも関係者の間で大きな話題になっているのが、先月発表されたローランドのV-1HD+だ。V-1HD+は、ライブ配信の現場で人気のビデオ・スイッチャー、V-1HDを大きくアップグレードした製品。2015年に発売されたV-1HDは、ハーフA4サイズのコンパクト・ボデイにビデオ・スイッチャー機能とオーディオ・ミキサー機能を統合し、“小型のHDMIビデオ・スイッチャー”という新ジャンルを開拓した画期的な製品だ。V-1HDのコンセプトはそのままに、大幅に機能が強化されたのがV-1HD+で、ローランドによれば、ユーザーから寄せられた多くのフィードバックを反映する形で開発したとのこと。販売価格も安く、ライブ配信に興味を持っている本誌読者は、大注目の新製品と言っていいだろう。

 

新たにスケーラーとEDIDエミュレーターを搭載

 V-1HD+の核となる機能が、4系統のHDMI入力をスイッチ一つで切り替えることができるビデオ・スイッチャーだ。右端には、業務用映像機器に搭載されている伝統の“Tバー”も備わり、音楽に合わせてフェードしながら切り替えるといった演出にも対応。従来のローランド製ビデオ・スイッチャー同様、直感的で分かりやすい操作体系で、映像機器に慣れていない人でもすぐに使いこなせるようになるだろう。

 V-1HD+で追加されたビデオ関連の新機能の一つが、“HDMI入力4”(4番目のHDMI入力)に備わった『スケーラー』と『EDIDエミュレーター』だ。これまではパソコンやタブレットといった一般的なビデオ信号とは異なる解像度の機器を接続する場合、コンバーターなどを使ってフォーマットを合わせなければならなかったが、『スケーラー』によってシンプルに接続できるようになった。解像度やリフレッシュレートといった情報を接続機器側に送出する『EDIDエミュレーター』も備わっているので、煩わしい設定をすることなくパソコンやタブレットを接続することが可能。ライブ配信の現場では、パソコンやタブレットの画面を表示させたいという場面が多々あるので、これはとても便利な新機能だ。

 また、映像を一画面で確認できるマルチビュー画面の分割数が、4から10に増えたのもV-1HD+の大きなポイント。これによって4系統のHDMI入力、内部ビデオ・バスのPGM出力とPST出力、4つの静止画(V-1HD+では、最大4枚の静止画を映像と同じように再生することができる)を一つの画面に表示/確認できるようになった。

 映像のエフェクト/合成機能も強化されており、複数の映像を重ねることができるレイヤー機能は、レイヤー数が4つに増加。さらには簡単にテロップ合成ができる『DSK(ダウンストリームキーヤー)』と呼ばれる機能も備わった。これによってHDMI入力1とHDMI入力2をスプリット(分割)した映像の上にPinP(ピクチャー・イン・ピクチャー)でHDMI入力3を小画面で重ね、さらに4つめのレイヤーとして『DSK』でテロップを重ねるといった本格的な合成も可能に。テレビのニュース番組のような映像も簡単操作で作ることができる。

 

画像1: 音響技術者のための映像入門<第7回:ライブ配信事例(匠サウンド ~ VR-50HD MK IIによるライブ配信)>【PROSOUND SEMINAR】

V-1HD+を上からみたところ。V-1HDと比べると操作子の数が増え、より直感的に操作できるようになっている。左下にオーディオ・ミキサーの操作子、右下に映像切り替え用のスイッチが配され、右端には映像をスムーズに切り替えることができる“Tバー”も装備

 

画像2: 音響技術者のための映像入門<第7回:ライブ配信事例(匠サウンド ~ VR-50HD MK IIによるライブ配信)>【PROSOUND SEMINAR】

V-1HD+のリア・パネル。4系統のHDMI入力と2系統のHDMI出力が備わる。V-1HD+ではオーディオ入力がバランス仕様のXLR端子になり、タリー出力やRS-232Cといったインターフェースも搭載された

 

画像3: 音響技術者のための映像入門<第7回:ライブ配信事例(匠サウンド ~ VR-50HD MK IIによるライブ配信)>【PROSOUND SEMINAR】

マルチビュー画面。分割数が10に増え、4系統のHDMI入力、内部ビデオ・バスのPGM出力とPST出力、4つの静止画を一画面に表示できるようになった

 

画像4: 音響技術者のための映像入門<第7回:ライブ配信事例(匠サウンド ~ VR-50HD MK IIによるライブ配信)>【PROSOUND SEMINAR】

複数の映像を重ねることができるレイヤー機能は、レイヤー数が4つに増加。簡単にテロップ合成ができる『DSK(ダウンストリームキーヤー)』機能も搭載

 

オーディオ入力はXLR端子を実装

 オーディオ機能も本格的で、24bit/48kHz対応の14chデジタル・ミキサーを搭載。HDMI入力のオーディオ信号にマイクやライン入力の音声を重ねて、単体のオーディオ・ミキサーと同じようにバランスを取ることができる。そしてV-1HD+では2系統のオーディオ入力にバランス仕様のXLR端子が採用され、ファンタム電源供給にも対応、コンデンサー・マイクなどを直接繋ぐことも可能になった。また、各オーディオ入力には、独立した3バンドのイコライザー、ハイパス・フィルター、コンプレッサー、ノイズ・ゲート、映像と音声のズレを補正できるシグナル・ディレイが備わり、XLR端子とミニ端子のオーディオ入力にはディエッサーも内蔵。単体のオーディオ・ミキサーと比較しても引けを取らない充実の仕様になっている。

 操作性もブラッシュ・アップされており、V-1HDには無かった操作子が多数搭載され、より直感的なオペレーションが可能に。本体パネルの上にはピーク・インジケーターが備わり、過大入力レベルを瞬時に把握できるようになったのも嬉しいポイントだ。

 その他、HDMIケーブル経由で対応レコーダーを操作できる録画コントロール機能や、タリー出力端子/RS-232C端子も追加されたV-1HD+。ライブ配信はもちろん、イベント演出や映像制作にも対応する低価格ビデオ・スイッチャーの決定版と言っていいだろう。

 

HDMI出力をパソコンに取り込めるオプション、USBビデオ・キャプチャー UVC-01も登場

 V-1HD+と同時に、UVC-01という新製品も発表されたのでこちらも紹介しておこう。手のひらサイズのUVC-01は、HDMI出力をUSB 3.0ストリームに変換するビデオ・キャプチャー・デバイス。V-1HD+をはじめとするビデオ・スイッチャーをHDMI入力に、USB端子をパソコンに接続するだけで、高品質なライブ配信環境を構築できる便利機材だ。パソコンはMacとWindowsの両方に対応し、使用にあたって特別なドライバー類のインストールは不要。USBバス・パワーで動作する仕様なのも便利だ。内蔵エンコーダーは、非圧縮/最大1920×1080/60pの解像度に対応し、ハードウェア・エンコーダーなので低遅延/低負荷/安定動作が特徴。また、ステレオ・ミニ端子のアナログ・オーディオ入力も備え、必要に応じてHDMI入力の音声に別の音を重ねることもできる。シンプルながら、ちょっとしたナレーションやSEなどを重ねたいというときに重宝する機能だろう。

画像: V-1HD+と同時に発表されたUSBビデオ・キャプチャー、UVC-01。HDMI出力をシンプルにパソコンに取り込むことができる便利機材だ

V-1HD+と同時に発表されたUSBビデオ・キャプチャー、UVC-01。HDMI出力をシンプルにパソコンに取り込むことができる便利機材だ

 UVC-01は、ローランドの映像機器専用ではなく、HDMI出力を備えたほとんどのデジタル・カメラやビデオ・カメラに対応する。ローランド純正の『Roland Live Recorder』という無料のパソコン用ソフトを使用すれば、ビデオ・カメラのHDMI出力を簡単にパソコンに取り込むことが可能だ(編註:『Roland Live Recorder』はWindows専用。Mac用には、『Video Capture for VR』というソフトが用意されている)。

 映像機器のHDMI出力をシンプルにパソコンに取り込むことができるUVC-01。こちらもV-1HD+同様、要注目の新製品と言えそうだ。

 

問い合わせ:ローランド株式会社
Tel:050-3101-2555(お客様相談センター)  
https://proav.roland.com/jp/

監修:ローランド株式会社 写真:鈴木千佳

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