「SEIDE」とは
今回ご紹介する「SEIDE」とは、「イースペック株式会社」とその関連会社である「IDEコーポレーション」によって企画・開発を進める商品ブランドで、「イースペック」社がまだ楽器店への卸売業を主体としていた90年代後半、“安価で質の良いコンデンサーマイクを提供したい”という思いが発端となり誕生した製品群である。
当時の主流マイクロフォンが、高価な欧米ブランドや国産のコンデンサーマイクであったのに対し、「手の届きやすい価格帯」という思い切ったコンセプトで発売された「SEIDE」製マイクロフォンは、コンシューマーとプロフェッショナルの両マーケットから注目と人気を集めた。2005年からワイヤレスマイクロフォンシステムの製造に着手、同年リリースされた6波同時対応のB帯モデル「SW800II」ワイヤレスマイクシリーズは、設備マーケットに向けて日本国内で作られ、丈夫で質が良く使いやすいと評判を得た。「SEIDE」ブランドは「現場で気持ちよく使い続けることができる製品」をモットーに、開発と生産に取り組み今年で20周年を迎える。
ちなみに「SEIDE(ザイド)」とはドイツ語の「絹」に由来し、ドイツ語が持つ響きから受ける質実剛健のイメージと絹のような繊細な音質を表しているという。
製品概要
「TDW」シリーズは「初心者から設備・プロユースまで使いやすく質が良いものを手頃な価格で提供したい」という「SEIDE」ブランドの基本コンセプトはそのままに、さらなるコストダウンを実現するため、開発陣は2015年より中国の製造ライン工場に足繁く通い、パーツや製品のセット内容を吟味していたと聞く。
主な工夫点としては、「楽器店で購入されるユーザー」と「設備等で使用されるユーザー」双方の要望に対応する汎用性を持たせるため、ラックマウント金具は標準付属とし、アンテナ入出力を搭載することでアンテナデバイダーを必要とせずカスケード接続できること、ハンドマイクの適度な重量感やステージでの見栄えを左右するカラーリング、可搬性よく店頭に並んだ際に見劣りしないパッケージデザイン等、様々に重ねた検討材料がしっかりと反映された仕上がりとなっている。
「TDW」シリーズで私が真っ先に感じた魅力は、税込み39,800円という価格でありながら、1台のシステムでマイクロフォンのタイプを4種類から選べる点だった。ひとつは最もシンプルなハンドヘルド、次にベルトパックトランスミッター「TBP-01」を使用することで得られるタイピンマイク、ヘッドセットマイク。さらに付属の楽器用ケーブルを使用すればエレキギターやエレクトリック楽器のトランスミッターにも早変わりする。
このように様々なステージのニーズに対応できるよう「TDWシリーズ」には、ハンドヘルドセットとベルトパックセットの2種類のラインナップが用意(各パッケージ内容は写真①②を参照のこと)されているのだが、現状では4種類すべてのマイクタイプを揃えるには両セットを購入するしかない。今後、「TBP-01」を単体で購入できるようになれば、ユーザーにとってはコストカットになるので大いに期待したい。
使用感
デモ機が届いて早々、実際に手に取ってみる。最初の感触は受信機、ハンドヘルドマイク、ベルトパックトランスミッター、とにかくすべてにおいて余計な重量がギリギリまで抑えられている感じ。ハンドヘルドマイク「THM-01」を握ってみると一見よりやや太く感じられ、プロの現場でよく使われている「SHURE AXT200」ハンドヘルドより数ミリ大きな印象を受けた。「THM-01」本体は300g、これに単三乾電池2本(約48g)を装着しても、やはり見た目のサイズ感よりは軽い。つまりハンドマイクとしての存在感はあるけれど使い手の負担はかなり軽減されるのは間違いない。
郵送されてきた製品のパッケージは、ハンドル付きのダンボールケースでとてもコンパクト。ハードタイプのラックケースも用意があるそうだが、このパッケージであれば電車移動の際にも苦にならない大きさと重さ。購入時の姿で気軽に持ち運べるのはとても便利だ。もちろん手持ち運搬しないのであれば、付属の専用金具を使いラックマウントをすれば安全に車両運搬することもできる。金具を標準装備とした配慮を改めて嬉しく思った。
さて、今回はハンドヘルドマイクをMC用として1000人キャパシティのホールと120人キャパシティのライヴハウス、2つの本番で使用してみた。
ホールではラインアレイスピーカーをフライングした環境で使用したが、ラインアレイ効果もあり、垂直方向への音の広がりが抑えられ余分な反射がなかったので、EQはフラット、Lowカット120Hzだけの処理でクリアなトークが聴こえてきた。
ライヴハウスでは通常のLowボックスとHiボックスで構成されるスピーカー環境で使用したが、通常のスピーカーはラインアレイスピーカーと違い水平方向にも垂直方向にも球面状に音が広がることから低域と高域それぞれにわずかなピークを感じたため、120Hzを3dbカット、7kHzを2dbカットしたがこの処理だけで問題なく使用できた。
それぞれの音場で使用した上で、じっくり「TDW」サウンドを検証してみたが、どちらの会場においても非常にクリアでありながら耳疲れのしない良好な音質を確認できた。具体的には周波数特性的にはフラットというよりは、Hiの声を明瞭にする2~4kHzの帯域と、子音が聴こえやすい6~8kHz辺りがちょうどよく持ち上がり、それでいて100Hz辺りの低域感もしっかりあって気持ちの良いメリハリ感があった。また、B帯とのことから送受信時のトラブルにわずかな懸念はあったものの、トゥルーダイバシティー方式による高い送受信性能により音切れやノイズ発生といったトラブルは全くなく、WiFiやBluetoothの干渉も問題ないようで、使用を始めて間もなく、当初の心配事項は頭から消えていた。
マイクのOn/Offスイッチは、ゴム製の四角いボタンでスイッチを入れる(押す)際にも硬さは感じない。0.5秒くらいの長押しをすれば確実にオンになる。スイッチ上にはPCのOn/Offマークが表示されており、今の時代に直感的に分かりやすく大きな助けとなるだろう。音声を生かしたままハンドヘルドマイクのOn/Offを切り替えても何ひとつノイズが出ないため、ミキサー上でOn/Offをする必要がないことも現場に優しい機能だと感じた。
ホールの現場に「TDW」システムを仕込んだ際、電波干渉があり離調していたので周波数のチャンネル変更をしたのだが、その方法もとても簡潔だった。まず任意の周波数を選び、ハンドヘルドマイク(ベルトパック)のIRポートを「TDW-610R」レシーバーの赤外線SYNCポートに近づけ、レシーバーのSyncボタンを1秒押すと、レシーバー側の指定されたチャンネルに変更設定できる。バッテリー残量がレシーバーのディスプレイでもハンドヘルドマイクやベルトパック側でも確認できるのも良い。表示はバッテリーが満タンの状態で3つの単色LEDが点灯する。一例だが、MCマイクとして約3時間のライヴで使用した後でも、バッテリー表示は満タンのままだった。ヴォーカルで使用した場合にはバッテリー消費も無論増えるが、恐らくLED表示がひとつ減るくらいではないかと思われた。今回は音質の劣化が見られなかったことが大きく印象に残っている。
なお、今回は現場でのテスト使用はできなかったが、ヘッドセットマイク・タイピンマイク・楽器用ケーブルを自宅でチェックした点を付け加える。クリームピンク色のヘッドセットには同色のウインドスクリーンが付属しており、「DPA 4000シリーズ/D:fineシリーズ」のような見た目スッキリのフォルムをしていて装着感が良い。音質は8~10kHz辺りの高域に伸びがあり、声の存在感を出す100~120Hz近辺もしっかりとしている。タイピンマイクは黒色クリップタイプで同色のウインドスクリーンが付属、3~5cmの距離で話すとヘッドセットマイク同様、低域に存在感がある。またハンドヘルドマイクとも遜色ない明瞭度の高さを見せてくれた。口から10~20cmほど距離が離れてしまうと、ハウリングマージンが下がるのでイコライジング処理が必要になるが、アコースティック楽器にクリップで取り付ければ、レンジの広い音を拾えそうな印象だ。楽器用ケーブルを使えばLowインピーダンスのエレクトリック楽器に使用でき、演奏パフォーマンスの幅が広がることだろう。
総評
まず、使い手に優しい仕様とともに安心感の持てる、とても使いやすいマイクだった。ハンドヘルド・ヘッドセット・タイピンマイクの3種類から選べるのもこのシリーズの魅力でもある。ヴォーカル用としてもしっかりと実力を発揮してくれるスペックの持ち主だが、もしかしたら声量があるヴォーカリストが思い切り声を張った際に、歪みはしないが少しリミッターがかかったように聴こえるかもしれない。自分の過敏なエンジニア耳での聴き方による原因も多分に考えらえるので、よほどの声量でない限り気にならないだろう。むしろ、39,800円という価格でこのクオリティがあれば充分だとも言える。ヴォーカルマイクとしてのクオリティを問うのであれば、動きの自由度を重視してワイヤレスを選ぶか、音質重視であれば有線のマイクを選ぶか、という視点で選択をすればよいのではないかと思う。
そして、この「TDWシリーズ」を手にした時にまず思ったことだが、設備として使用するイベントのMCだけでなく、ミュージシャンやアーティストが個人で所有するのに最適なシステムではないだろうか。このコンパクトで軽いシステムはどこへでも持ち歩くことができ、どんな会場でも同じパフォーマンスを可能とする、使い勝手の良いワイヤレスセットである。免許不要で使用できるB帯ワイヤレスシステムという点にも自由度がある。30bandから選べる周波数やトゥルーダイバシティー方式による安定した送受信も魅力的だ。例えばハワイアンのフラなど、踊りながらの歌のパフォーマンスにはヘッドセットマイクが役に立つだろうし、フルートや笛などの演奏者がヘッドセットマイクを使用すれば、固定マイクを使う際の動きの制限から解放され、より自由に動きのあるパフォーマンスをすることができるだろう。タイピンマイクは、タップダンスのタップ音を拾うために足に仕込んだり、ちょっとした演出での効果音を拾うための仕込み(隠し)マイクとしてもワイヤレスの機能が本領発揮してくれそうだ。
B帯ワイヤレスシステム「TDW」シリーズが1セットあれば、イベント、会議、スピーチ、音楽ライヴ、芝居、ダンスなど幅広い用途で、クオリティの高いサウンドパフォーマンスを可能にしてくれることだろう。
テキスト:加藤晴美(HAL SONIC inc.)
筆者Profile
加藤晴美(かとう・はるみ)
有限会社ハルソニック代表。1967年静岡県生まれ。PAエンジニア。「株式会社キャット(日清パワーステーション)」、「株式会社クレアジャパン」を経てフリーランスとなる。1998年に「有限会社ハルソニック」を設立。日本の女性PAエンジニアの草分け的存在。近年ではレコーディングにも活動の幅を広げている。これまで手がけたアーティストは、EPO、岡本真夜、斎藤誠、寺尾聡、山本潤子、他
Specification
True Diversity Wireless Microphone System
TDW series
【システム】●送信到達距離:50m●周波数特性:20Hz~16kHz●THD:<1% (@AF1kHz/RF46dBu)●S/N比:>90dB●パイロット周波数:32.768kHz●周波数帯域:806.125MHz~809.750MHz●チャンネル数:30
【THM-01ハンドヘルドトランスミッター】●技適番号:R210-123770●バッテリー:アルカリ単3電池x2本●寸法:L260xΦ62 mm●重量:300g
【TBP-01ベルトパック トランスミッター】●技適番号:R210-123593●カプセル:20dB adjustable●RF出力:10mw●バッテリー:アルカリ単3電池x2本●寸法:D22xW65xH110(193)mm●重量:75g
【TDW-610Rレシーバー】●オーディオ出力:レベル=アンバランス+10dBu/バランス10dBu、インピーダンス=アンバランス800Ω/バランス800Ω●入力感度:-100dBm/30dB sinad●イメージ除去:75dB●電圧:13.8V●出力端子:フォーン、XLR●付属:ラックマウント金具●寸法:210x180x45mm●重量:1.25kg
TDW seriesに関する問い合わせ先
イースペック株式会社
tel:06-6636-0372
http://e-spec.co.jp/