ドイツのエラックは、輸入元ユキムのホームページによると、1926年まで遡る創業100年の長寿メーカーで、創業時はソナーなど高度な軍需産業の一端を担い、戦後は平和産業に転換した、とある。しかし長い歴史を誇るだけに、具体像はなかなかイメージできない。

 だが、ここ20年くらいに限定すれば、「エラックはスピーカーの専門メーカーでしょ」と大方のオーディオファンは答えるに違いない。そのスピーカーでは、JETトゥイーターがエラックを象徴する技術として知られている。

 当然、創業100周年のお祝いとなれば、最新世代JETを搭載するシステムとなろう。こうした記念モデルは、自慢の技術を前面に出しながら、大型化や高価格で衆目を集めるケースが常套だ。だが、エラックの創業100周年は違う。「小さく」て「キュート」で「美しい」モデルで祝うのだ。その名は、日本国内50ペアの限定モデル、ELEGANT 100である。

Speaker System
ELEGANT 100
¥495,000 (ペア)税込 ※日本国内50ペア限定

●型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット : JET型トゥイーター、115mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル : 88dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数 : 3.2kHz
●インピーダンス : 4Ω
●寸法/質量 : W123×H208×D282mm/7.2kg
●備考 : 写真の木製ベース/ファブリック・グリルは付属。スタンドは別売りオプション(LS 60[¥104,500ペア税込])

 

 

創業100年を祝う記念モデルはJETスピーカーの基本形の最新版

 少し時を遡り、たとえば70年代……、これは僕の場合だが「エラックはカートリッジの専門メーカー」と思っていた。実際にエラックのMM型カートリッジSTS-455Eを愛用していて記憶に残る。しかしカートリッジ事業は、1982年に登場したCDの影響で、厳しい状況になる。エラックの名は僕も忘れてしまった。

 ところが、大きく時計が回った1998年、ユキムが日本向け代理店になったことで、エラックは再び日本の土を踏むことになる。ユキムのホームページには「そのとき我々が初めて目にした黄色いヒダのあるドライバー・ユニットを彼らはJETと呼んでいた」とある。MMカートリッジではなく、JET搭載スピーカーCL310JETで再登場したのである。

 それから28年、あの「黄色いヒダのあるドライバー・ユニット」は進化に進化を重ね、そしてその最新型のJET6が創業100年を祝うELEGANT 100に積まれ輝くのである。

 改めて、JETの概要をおさらいすると、まずJETとは「Jet Emission Tweeter」の略でエラックの命名のようだ。資料には一般技術名称「AMT(Air Motion Transformer)」も載る。広く調べると、AMTの製品化は1970年代の米国とあり、日本企業も発売している。

 JETの動作は、私たちがよく目にするコーン型ウーファーやドーム型トゥイーターなどとは全く異なる。JETの核である振動板は、導電層を貼り合わせた軽量な薄膜を、アコーディオンの蛇腹のようなプリーツ状に折りたたみ、いわゆる「黄色いヒダ」をつくる。

 これを磁界に置き、音声信号を流すとプリーツ、つまり「黄色いヒダ」同士が引き合って、中の空気を圧縮し放射する。音声電流の向きが変わればプリーツは逆方向に動き空気を吸入。これが繰り返されて音が再生される仕組みだ。

 ちなみに振動板の「黄色いヒダ」は丁寧なハンドメイドである。そしてJETは、一般的な25mm径ドーム型トゥイーターと比較して10倍の振動板面積を持ち、優れたパワーハンドリングや低歪みが特徴と謳う。

画像2: 「ELAC ELEGANT 100」サイズを超えた魅惑の音!ユニット/内部配線の刷新と独自カラーをまとう創業100周年を迎えた独エラックの記念モデル【Special Review】

ベースモデルのBS312・2から基本的なユニット構成などは同一だが、次の2点の刷新が施された。具体的には、①ウーファーユニットの磁気回路内のポールピースに銅製キャップが追加されたこと、②内部配線材にヴァン・デン・ハル製The Snowlineを用いたことで、比較的小規模な変更といえよう

 

画像3: 「ELAC ELEGANT 100」サイズを超えた魅惑の音!ユニット/内部配線の刷新と独自カラーをまとう創業100周年を迎えた独エラックの記念モデル【Special Review】

アルミニウム押出し材による強固なエンクロージャーに高性能ユニットを搭載、リアバスレフポートがフレアー形状で、これはポートノイズの低減を意図したためだろう。スピーカー端子は、バイワイアリング接続対応。100周年記念モデルとして、ウッドベースとファブリック・グリルが付属するが、これは既存のELEGANT BS312・2でオプション設定になっているアイテムと同じ。価格は、それぞれ税込ペア価格が3万8500円となっている

 

 

キュートな外観から信じがたいリアリティの高い音を放つ

 いよいよELEGANT 100と向き合うべく、HiVi視聴室に入ると、「エッ、こんなに小さかったかなあ」と、少々驚く。記憶の中では、ELEGANT 100の母体モデル、ELEGANT BS 312.2はもう少し大きいような気がしていたのだが……。

 余談だが、この原稿を書きながら2024年4月に行なったELEGANT BS 312.2の取材記録を読み返した。「全域が良質でバランスもいい。パワーリニアリティも良好で機敏によく歌う、等々」と音の印象が抜群。どうやらその好印象が、2年の間で、記憶の寸法を大きくしたようだ。

 実際の寸法は高さ208mmで、幅が123mmと変りはない。ちなみにウーファーサイズも変わらずの115mmの小口径で、トゥイーターのJET6とで成す2ウェイ構成も同じ。ウーファーは基本設計は同じだが、ポールピース内に銅製キャップを装着し、(ウーファーユニットの自体の)「高域特性の改善と歪みの低減、過渡特性向上に繋がった」とあり、内部配線にヴァン・デン・ハル製The Snowlineを採用とある。外観上、大胆に変わった点もある。外観の色だ。資料は「一目でそれとわかる限定色Teal」と記す。Teal(ティール)とは、調べると青緑色とあり、とても落ち着いた品のいい色だ。

 今回は、ELEGANT 100を3つのシステムで堪能しよう。今回の1番手のシステムは、生産完了機だが、長らくHiVi視聴室のリファレンスとして親しみ、信頼もしているデノンのDCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDをバランス接続で登場願った。

 ハモンドオルガンのエディ・ルイスとピアノのミシェル・ペトルチアーニによる熱々のデュオ『Eddy Louiss/Michel Petrucciani』のCDを聴く。記憶にあるELEGANT BS 312.2の好印象通り、ハモンドの持続するエネルギー感、とりわけベースパートのそれは視覚を大きく裏切って心地良い。一方ピアノのペトルチアーニはまさに命がけ(実際に骨を砕くほど)の打弦が生む音でオルガンのパワーと対峙する。信じがたいリアリティが目前のキュートな容姿から放たれるのだ。もちろんこうした好印象は駆動システムの力量次第であるが。

 続いて、ステレオサウンド リファレンス・レコード『石川さゆり』のCD層で「転がる石」を聴いた。聴きどころは、石川さゆりには珍しい、巻き舌も格好いい男歌の歌いっぷり。下っ腹から歌う一節毎に、左右のキュートなELEGANT 100が頼もしく見える。円熟の表現がしっかり堪能できて嬉しい。

 

価格重視かつストリーミング対応を狙ってWiiMで鳴らす。この組合せは粋だ

 2番手のシステムは価格を重視し、ソース機能を含む最もシンプルなシステムで聴いてみた。システムの中核は、WiiMのストリーミング機能内蔵プリメインアンプWiiM Amp Ultraで、実売価格は9万9,880円である。

画像4: 「ELAC ELEGANT 100」サイズを超えた魅惑の音!ユニット/内部配線の刷新と独自カラーをまとう創業100周年を迎えた独エラックの記念モデル【Special Review】

今回はHiVi視聴室のリファレンスコンポーネントであるデノンのSACD/CDプレーヤーとプリメインアンプ、DCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDの組合せを試したあと、現実的なコンポーネントでのシステムプランニングを考えて、実際に試した。写真は、WiiMのネットワークオーディオ機能付きプリメインアンプWiiM Amp Ultra(実勢価格9万9,880円前後)の組合せ。主にQobuzなどの音楽ストリーミングでエラックを活かすイメージだ。アンプに搭載されているHDMI ARC機能を活用してテレビとの連携もスムーズに図れる

 

 まずは、パフォーマンス判断の手がかりとして、DCD-SX1 LIMITEDからのアンバランス接続でエディ・ルイスとミシェル・ペトルチアーニのCDを聴いたが、中高域のヌケ感の素晴らしさに驚く。『石川さゆり』も同様にスカッとしたヌケ感のなか円熟の歌が届く。

 そしてWiiMのメイン機能であるストリーミングで『エディ・ルイス~』を聴くと、1994年録音の古さが影響しているのだろうか、少々低域の厚み不足を覚え、残念に感じた。

 その印象が音源自体に由来する可能性もあると思い、注目の若手ピアニスト、エメット・コーンの2025年の最新録音作品『ユニヴァーサル・トゥルース』を聴くと、これが生き生きとフレッシュな描写で好印象だ。

 いわずもがなだが、WiiM Amp Ultraの購入ターゲット層は、明らかに僕よりは若く、CDよりもストリーミング再生がメインとなろう。コンセプトも価格もコンパクトなボディも多彩な機能も意匠も、まさにターゲット層にピッタリ。そして、そのコンパクト性ではELEGANT 100とも相通じ、組合せの粋を想う。

 

フルサイズ国産機との組合せはリアルさが魅力。AV再生も凄い

 3番手のシステムは、スピーカーの価格とバランスする、フルサイズの国産機との組合せを試す。CDプレーヤーにティアックのVRDS-701(定価47万3,000円)、プリメインアンプにアキュフェーズE-3000(定価49万5,000円)を抜擢した。

画像5: 「ELAC ELEGANT 100」サイズを超えた魅惑の音!ユニット/内部配線の刷新と独自カラーをまとう創業100周年を迎えた独エラックの記念モデル【Special Review】

こちらは国産老舗ブランドによるフルサイズコンポーネントでのシステムプラン。CDプレーヤーがティアックVRDS-701(¥473,000税込)、プリメインアンプがアキュフェーズE-3000(¥495,000税込)。VRDS-701はSACDには対応していない純CD再生機。名称の一部にある「VRDS」という高精度ディスクドライブメカニズムの搭載が一大特徴だ。E-3000は、アキュフェーズで最も手頃なプリメインアンプで、音量調整部や増幅部に同社最新の技術を満載、クラスを超えた音質の実現を目指した。本機はデジタル音声ボード(DAC-60。¥99,000税込)が追加できるので、それを用いてパナソニック製4KレコーダーDMR-ZR1と同軸接続、AV再生も試している

 

 CD『エディ・ルイス~』は録音の古さを全く感じさせない、ダイナミックなリアルさで迫り来る。コンパクトなELEGANT 100が名手二人の会話を堂々と描き出すのだ。

 『石川さゆり』も、近接したヴォーカル用マイクがベテランの堂々感を捉えたリアルさで魅せる。一方8ビート仕立てのバッキングはディストーション・ギターを始め、スチール弦のアコースティック・ギターのカッティング、重厚なベースやドラムス、ハモンドオルガンなどの贅沢な編成だが、それらを高い解像感で解き明かし、歌の物語性を盛り立てる。そしてうっすら添えた弦セクションを、まさにうっすら魅惑的に聴かせる。

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 こうなると欲が出る。120インチスクリーンと組み、BD『ゼロ・グラビティ』のステレオAV再生に挑む。パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1をPCM変換への出力設定を施して、E-3000に装着したオプションのデジタル音声入力ボードの同軸端子へ繋ぎ、2ch再生。照明を落とすとスクリーン外側の小さなELEGANT 100は、闇に溶け消えてしまう。その視覚的効果が活きて、音は大型スクリーンから放たれるような錯覚。使ってみれば「粋だねェ」と言いたい気分である。

 

リファレンス機器
●プロジェクター:ビクターDLA-V90R
●スクリーン:キクチDressty 4K/G2
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
●SACD/CDプレーヤー:デノンDCD-SX1 LIMITED
●プリメインアンプ:デノンPMA-SX1 LIMITED
●スイッチングハブ:バッファローBS-GS2016/A

 

 >本記事の掲載は『HiVi 2026年秋号』

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