2024年のオートサウンドウェブグランプリでブロンズアワードを獲得したドイツ、ブラックスの新シリーズパワーアンプReveration RX2 PRO。同ブランド初となる本格クラスDのモデルだ。シャーシデザインは、BRAX DSPと同じとしている。ここでは選考会で各賞を確定した直後の座談会を紹介する。[編集部]
パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、長谷川圭、藤原陽祐、黛健司、脇森宏]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)
Auto Sound Web(以下ASW)ブラックスのレベレーションRX2 PROがブロンズアワードを獲得しました。同ブランド初のデジタルパワーアンプになります。ステレオ機で、チャンネルあたりの出力は300W(4Ω)です。では藤原先生からお願いいたします。
藤原陽祐(以下、藤原):デジタルアンプは最近とても良くなっていて、昔のような音にざらつきがあるような癖のある響きと無縁の、アナログアンプと遜色ない音質へと進化しているんですけれど、このRX2 PROは本当に質のいいアナログアンプ的な……きめ細かい繊細な音がして、空間も広くてその中でフォーカスも鋭くて、立ち上がりの鋭さと立ち下がりのスムーズさ、アンプとしての過渡応答の良さといったものが感じられます。
今風の、質の高い音です。ドイツのオーディオテックフォッシャー社では、世代交代もしていて、開発担当者が2代目社長という話を聞きました。作り手が変わると音もだいぶ違うなと感じますね。ブラックスの力強さ、強引さといったようなところが“らしさ”として聴かれていたものだけれど、圧倒的な駆動力のようなものは鳴りを潜めています。
鈴木 裕(以下、鈴木):確かにそういう傾向でした、ただ、その強引さはもう少し残っていても良かったとも感じます。
藤原:とはいえ、いい部分も多くて、スピーカーを上手く鳴らしてあげるというか、あまりアンプとしては出しゃばらないで上手い感じの音を出すような、そんなニュアンスの良音。成熟したサウンドとでも言えそうな音、どうやら2代目社長は先代よりそういう志向で落ち着いた音を好むのかもしれないですね。優しくてジェントルでね。色彩が感じられるような音が聴けて楽しかった。
長谷川 圭(以下、長谷川):これまで同社では創業者のハインツ・フィッシャー氏が、アナログアンプの開発をしていて、息子で2代目社長に就任したジュリアン・フィッシャー氏DSPやD/Aコンバーターなど、デジタル分野の開発を担当していました。
ブラックスはこれまでデジタル製品というとDSPだけで、ほとんどの製品開発にハインツ氏が関わっていたのですが、輸入元のエムズライン社長の塩井氏にうかがいましたけれど、RX2 PROの開発に当たってはハインツ氏は手出しせず、ジュリアン氏とデジタル機器の開発メンバーが作り上げたそうです。ハインツ氏は完成した本機を聴いて、出来の良さに頬が緩んだとか。
石田 功(以下、石田):ジュリアン氏、社長になっていたんでしたね。立派になって……。
黛 健司(以下、黛):ハインツ氏時代のブラックスは「重厚な響き」が特徴だったと感じています。それに対してジュリアン氏が開発の陣頭指揮をとるようになったデジタルアンプは、爽やかさの描写が得意になったように思う。
もちろん、ブラックスならではの表現力を備えていますから、音楽の濃やかなニュアンスの表出には、ハッとさせられる瞬間があります。ヴォーカルの艶やかで潤いの感じられる音、ベースの響きもなんとも魅力的です。ただ、ハインツ時代の通好みの濃密な音と比べると、やや、薄味になったと言うか、誰にでもわかる、普遍的な音になったように感じてしまう。時代の変化、世代交代の結果と、受け入れてはいるのですが、ちょっと寂しくもあります。
鈴木:僕がすごくいいなと思ったのは、これは僕の言葉なんですけれど時間軸方向の分解能という、すごく細かい音の立ち上がりと立ち下がりがよく聴こえて、こうした細やかさがよく表現できるところが高く評価できると感じました。
そもそもデジタルアンプというのはDSPなどと組み合わせた時にハイレスポンスで信号の伝送と増幅ができなければならなくて、本機ではそういったところも上手く仕上がっている音に感じられました。個人的にはブラックス特有の低音の力強さを期待していたところもあったので、少し残念にも思いましたけれど、これはこれで気持ちよく聴ける音でした。
ASWeb:ありがとうございます。脇森先生はいかがでしたか?
脇森 宏(以下、脇森):はい。このRX2 PROは、デジタルアンプというよりもはやアナログアンプなのではなかろうかと思いながら聴きました(笑)。作り手が変わったという情報を聞いて、『なるほど人が変わるとブラックスもこうなるのか』と思いました。以前の力強さを前面に出すのも良かったんだけれど、新世代になって、こういう音の方向性を目指すことができる心の広いメーカーなのだなという感じはしました。
鈴木:とにかく技術力が高いですね。ジュリアン社長の優秀さがよくわかります。
ASWeb:確かに、ヘリックスやマッチといった同社のブランドで展開しているDSPはジュリアン氏とそのチームで開発してきたものですし、歴代デジタル製品は高い評価を受けていて実績がありますね。石田先生の評価はいかがだったでしょうか。
石田:ブラックスだから力強い低音、これを期待していたんですが、そう思って聴き始めたんですけれど、聴こえてきた音はまとまりよくて、大人びてというか落ち着いていて『こうなったのか』と意外な感じがしました。ただ、デジタル臭さはまったくなくて、むしろアナログっぽい音です。
鈴木:同意見です。
石田:すごい落ち着いた音で、これはこれでアリだと思いました。やはりジュリアン社長の性格が、こういう音を作らせたんでしょうね。
長谷川:私もブラックスのアンプなので……ブラックスのアンプって、スピーカーに対して支配力が強いというか、どんなスピーカーを持ってきてもブラックストーンというか、ブラックス色に染められた音で聴けるんですね。またそれがクルマで音楽を楽しむという方向にがっつりハマっていた感がありました。でもRX2 PROを聴くと、支配的な鳴り方をしない。印象としてはとてもジェントルな音ということになっていました。筐体サイズも、マトリックスシリーズなどに比べてだいぶコンパクトですし、BRAX DSPと同サイズにまとめているそうです。DSPと並べて使うことを想定して作ったんですね。オプションで用意されるデジタル入力が載ったところに、DSPを合わせて使って……シナリオはできていそうです。
石田:そこが楽しみですね。今年は前哨戦で、来年本気で鳴るつもりかもしれません。直でデジタル入力ですから、そこで再生される音たるや……。凄そうです。過去にマトリックスアンプで聴きましたけれど、とんでもない音世界でしたからね。
ASWeb:来年の話まで出てしまいましたが、どんな音で聴くことができるのか、今から楽しみになってきましたね。RX2 PROは2ch機ですので、DSPを使ったマルチアンプドライブシステムなどを作ろうとするとアンプが複数台、クルマに乗りことになりますね、システム総額がどう鳴るのか、ワクワクが止まらないですね。