2023年のオートサウンドウェブグランプリでゴールドアワードを獲得したカロッツェリアのAVナビゲーション、サイバーナビシリーズ「912III」。オーディオ回路の構成パーツを見直し、そのサウンドを一新したほか、ナビ機能では音声での検索機能を強化するなど使いやすさを向上させた。インターネットブラウザ機能はもちろん、つながるナビも健在の同社上級シリーズ製品だ。ここでは選考会で各賞を確定した直後の座談会を紹介する。[編集部]
パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、長谷川圭、藤原陽祐、黛健司、脇森宏]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)
Auto Sound Web(以下ASW):今年もオートサウンウェブグランプリが決定いたしました。長時間にわたる試聴と、採点評価、お疲れ様でした。受賞製品の個別レビューについては分担していただいて執筆をお願いしましたが、ここでは上位3賞についてお話をうかがっていきます。まずは最高位となるゴールドアワードに輝きましたカロッツェリアのサイバーナビについてお話しください。モデルナンバーが912のマークスリーです。それではまず、鈴木先生、お願いいたします。
鈴木 裕(以下、鈴木):個人的な感慨もあるんですけれど、カロッツェリアはかつてXのヘッドユニットがあって、その後AVナビというジャンルができて、その当初はずいぶん苦労があったようですけれど、各メーカーがしのぎを削って、ある時はダイヤトーンサウンドナビとの一騎打ちがあったり、アルパインとの対決が続き、そういう市場の中でサイバーナビは高評価を得続けていましたね。今年のモデルでは、そうした歴史を経て洗練された仕上がりでしたね。20年来の積み重ねから生まれた製品という気がしています。とても細かなところまで調整が効いている音でした。
ASW:ありがとうございました。では続いて石田先生はどの様な印象を持たれましたでしょうか?
石田 功(以下、石田):製品の印象としては鈴木さんがおっしゃったとおり、洗練されたというか、音がクリアーでシャープでした。サイバーナビXの音が出ていましたね。
鈴木:そうですね。
石田:ただ……。
ASW:ただ?
石田:ええ、ただ、低音がちょっと足らないなと。
長谷川 圭(以下、長谷川):少し軽めな感じですか?
石田:そうですね。少し軽い印象だったんです。この印象についてはパイオニアの開発陣に伝えたんですが、低音の整え方についてはだいぶ苦労をしたらしく、最後までその部分のチューニングに時間を割いていたと言っていました。あまりにも高域がよく出すぎたために、バランス的に低音が貧弱に感じられてしまうきらいがあったそうです。他メーカーの製品でいうと、ケンウッドあたりはよく低音が出ていたので、比較すると弱めな印象でした。裏を返すと、これだけの評価を得ていながらまだまだ伸び代があるということですよね。ますます期待が高まる、そう感じたサイバーナビでした。
ASW:黛先生はいかがでしたか?
黛健司(以下、黛):カロッツェリアのAVナビって、とても貴重な存在だと思うんですよ。他社の対抗馬がありましたけれど、今年AVナビのライバル機種として聴けたのは、ケンウッドの彩速ナビType Mだけでした…今まで覇を競っていたブランドは今年はエントリーはありませんでした。そのあたりが寂しいところではあるんですけれど、その中にあって確実に進化させてきている。今年はメーカーの方と意見交換する機会があって、カロッツェリアというブランドの層の厚さを感じましたね。若手が確実に育っている。本機の開発に携わった方とお会いしまして、初めて会う方でした。過去のカロッツェリアを代表するモデルの開発者と同じように、オーディオ機器の音をまとめるうえでとてもいいセンスをお持ちですね。パイオニアの社内で、才能ある人が発掘されてしかるべき担当者として抜擢されているということの証だろうと、当然人材がいなければできないことです。
これは、例えば、同じ人がいつまで経っても若手に席を譲らずに……。
長谷川:具体的にどこかの誰かという話じゃないですよね? (笑)。
石田:あくまでも例えですから(笑)。
黛:ベテランがやり続けてというのは、良いようで悪いようで、結局その人がいなくなった時にそのブランドが停滞の時期に入ってしまう危険があるわけです。そのあたり、カロッツェリア、パイオニアは、カーオーディオ市場においてのリーディングカンパニーですから、業界を引っ張っていく……、自社のことだけじゃなくてという責任感も感じます。
今年、このサイバーナビに関して開発者の方とお話しさせてもらって、OBがもったいないからもっと活用してはどうでしょう? と提案したんです。カロッツェリア歴代の名機を作り上げてきた技術者たち、すでに定年を迎えて、雇用延長して入るけれど、いよいよ本格的にリタイヤされる人などはまだまだ第一線でやれることがあるはずなんです。キャリアを持った人たちが年齢ということだけで離れてしまうのが大メーカーの弊害だと思うんです。パイオニアだったら自社内に新プロジェクトを立ち上げることもできるでしょうし。
人が作り上げるもので、良いものを聴くと、過去製品のエンジニアのいまを想像して、彼らが今の開発に少しでも関わったら、どんなものができるんだろう……などと思いを巡らせてしまいました。
ASW:なるほど、確かに優れたスキルを持った技術者が腕を振るいましたよね。それでは続いて、脇森先生はいかがだったでしょう?
脇森 宏(以下、脇森):バックグラウンドに関しては、今皆さんがお話になったようなことで充分かと思います。個人的には、昨年モデルからの音の変化がね……、いままでのカロッツェリアの音が良いんです。良いんですが、ややしんどいところも……肩肘張ったというか、ものすごく正確性を求めていてね。それはそれで素晴らしいことなのだけれど、一般の人がそれを受け止めてとなると少し難しいところがあった気もしているんです。そのあたりを、こう……感覚重視というか耳に優しい方向に振ってくれて、これは数多くの人が求める方向だろうなと思いました。そして何よりも声がいいんですよ。
鈴木:あぁ、良いですね。
脇森:同じ人の音楽表現の幅というかね、その辺が昨年から結構向上してます。だから、聴いていてすごく楽しい。そういった楽しみが増えたところが、今年のサイバーナビのもっとも良くなった部分だと思いました。
ASW:ありがとうございます。では藤原先生のお話もいただけますか。
藤原陽祐(以下、藤原):このサイバーナビというのは、ユーザーの期待値が結構あって、音を良くしようという動きがあった。ハード設計の面では今回、マスタークロックとオペアンプを変えて、周辺回路素子の選別、電源回路もブラッシュアップしました。いわゆる成熟型のモデルで、家庭用のオーディオでは良くあるアプローチですよね。こういった形のサウンドチューニングをじっくりやることでグレードが上がる。ホームオーディオに近い感じがしますよね。オーディオ機器ってマーク2やマーク3の方が断然良くなるじゃないですか。やはり時間かけてパーツは基本的に変わらないのに、チューニングですごい良くなる。カーオーディオではなかなかないので、レアな例だろうなと思います。
脇森さんが言われた「耳に優しい」というのは僕も感じていて、いままでの情報量志向というか、S/Nが良くて解像度が高くてハイスペック……日本のメーカーに良くあるスペックとしては一流で素晴らしい数値を出しているんだけれど、心に響くところで言うとちょっと……モスコニみたいなザラつきのある音の方が良いなと感じたりするところがある。ただ、今年のサイバーはアナログの良いプリアンプを使っているような印象……。
長谷川:あぁ、良い例えですね。
鈴木:そうですね。そういう音ですね。
藤原:優しく、滑らかになって、すごく柔軟性があって音が気持ち良くまとわり付いてくるような、そんな印象。
鈴木:そういった意味では、石田さんがおっしゃったことと一緒なんですけれど、パワーアンプは変わっていないんだけれど電源部がすごくしっかりして駆動力があって、支配力というか部屋全体の空気を支配するような力があったと思うんです。プリアウトのクォリティも高いので、別体のアンプで鳴らすシステムが欲しくなりますね。
藤原:そうですよね。また違う世界ではあるけれど、聴ける音は段違いに素晴らしくなる。
鈴木:今の時代、別体のアンプはハードルが高いんですけれど、そこはぜひやって欲しいなと思わせる音ですね。
脇森:内蔵アンプの音だけでも相当良いですけれどね。
鈴木:それもそうですが、別体アンプで鳴らしたくなるというほど、良いプレーヤーでありプリアンプだろうなと思うんです。
石田:プレーヤーという話で言うと、今回ゴールドホルンって新進ブランドのプレーヤーが受賞してますけど、あれも良いプレーヤーでしたが、ゴールドホルン聴いてサイバーに替えると、音がガラッと変わりますよね。
藤原:そうそう、ずいぶんと変わりますよね。
長谷川:ゴールドホルンは抽象的な言い方ですけどデジタルらしい音でしたしね。サイバーに替えるとしなやかさとかまろやかさみたいなものがしっかり表現されるようになりました。解像度は高いし。
鈴木:ゴールドホルンは、ああいう方向の音作りでしたから。個性派でしたよね。あの音が好きと言う人は少なくないでしょうし。
石田:確かにそうですね。
長谷川:単体アンプのお話が出ましたけれど、実際、ほかのグランプリ受賞パワーアンプ、その良いパワーアンプと組み合わせて聴いた時に、そのアンプの良さが音に出ていたというのが、何より優秀なプレーヤーでありプリアンプだったなと感じました。マーク2からマーク3に変わるにあたって、マスタークロックとオペアンプを変更して、それで音は大きく変わってくるので、合わせて周辺回路の素子を整えて電源も強化したんですよね。
石田:音の肝になるところのパーツ変更ですけど、アイデアとしてはかなり以前からあったそうです。ただ実施するとコスト的な面などで折り合いがつかなかったという話も聞いてます。
長谷川:サウンドチューニングを施したチームの中心人物で松永さんっていらっしゃいましたよね。彼は表面実装が多くなっている回路基板のパーツを半田ごて片手に実際に取り替えては音を聴きを繰り返して音を詰めていったそうです。音の評価は社内の別のエンジニアも聴いて判断したといいますし、その中にはカロッツェリアXの開発に携わった人もいたそうです。それと、サウンドチューニングの手法としてはサイバーナビXがあったからできたということも言ってました。
今回はパーツの変更が主だったけれど、回路パターンから設計して良いと言われたら、もっとすごいものができそうですねとたずねたんです。そうしたら、1から設計するとなると何でもできるかもしれないけれど、やれることが多すぎてまとめきれないかもしれないとも言ってました。
藤原:新規設計なかなかうまくいかないことが多いですね。色々やることがあって、音のチューニングにじっくり取り組む余裕は少なくなりがちでしょう。だから今回のようなアプローチを続けていけるといいですね。今、他のメーカーはこういうことができていないでしょうから。
長谷川:いい仕事したなぁなんてことを思いながら聴いていて、嬉しかったですね。
藤原:若い人がやっているというのがよかった。だいたいホームオーディオでも、本当にもう定年間際の人が指揮してやっているんですけど、若い人がチームを引っ張ってという形はなかなかないから。
石田:今回のサイバーナビは、遡るとカロッツェリアXのプロセッサー設計にも関わっていた橋本さんが、数年前にサイバーナビの企画で関わっていて、その時にとても音がいいモデルに仕上げられたんです。それがあって、今回、もっと音を良くしようというアプローチに踏み切ったと聞きました。それにさっき長谷川さんも言ってましたが、カロッツェリアXに参加していたエンジニアが、出音の評価に参加していたんですよね。
長谷川:カロッツェリアXをやっていた当時、パイオニアの社内にHQという開発チームがありましたよね。現在は解散しているんですが、当時は企画や設計、しかも製品ジャンルごとのプロフェッショナルといった位置付けで存在してました。チームとしては解散しているものの、人はいるわけで、今回のようにここぞという時には声がかかってプロジェクトに参加しているんですよね。このあたりは黛さんがおっしゃった層の厚さを作るきっかけになっているのかもしれないですね。
ASW:今回のサイバーナビゴールドアワード受賞ですが、全員が最高評価で決まったという内容でした。AVナビという製品ジャンルでは、今後こうした製品が出てくるかどうか、市場をみると微妙ではあります。装着できるクルマが少なくなっていますので。ただ、無くなって欲しくはないなと思いますね。
石田:でもAVナビじゃなければディスプレイオーディオという形でもいいですしね。かえって作りやすいかもしれない。
長谷川:メカレスで作れたら、それはそれで優秀なモデルが誕生しやすいかもしれませんね。
ASW:今年のサイバーナビの誕生はとても喜ばしいことでしたね。これからもカロッツェリアには大いに期待が持てそうです。ありがとうございました。