クルマ購入時に搭載されている標準装備やメーカーオプション、ディーラーオプションのカーオーディオ、いわゆる「車両純正オーディオ」を実車で体験。本稿では純正カーオーディオのシステム概要やサウンドについてレビューする。今回、紹介するのはトヨタ(TOYOTA)の「GRヤリス」。同車では8基にものぼるスピーカーを搭載するJBLプレミアムサウンドシステムが採用され、上位グレードに標準装備またはオプション設定されている。走りの性能を追求したクルマで、街乗りから高速道路走行まで、実際に走行して体験してみた。
文/写真=長谷川 圭
GRヤリス RZ、テールに飾られるGR-FOURのバッジは伊達ではない。WRCに参戦する車両のDNAを受け継いだこのモデルは、とにかくアガるクルマである。そして、想像以上にこのクルマに搭載されたJBLプレミアムサウンドシステムの完成度の高さに驚き、クルマを走らせることが楽しくて仕方がなくなってしまった。
とにかくエモい! 五感のすべてに刺激的な走りだし、オーディオの音も底抜けに気持ちがいい。サウンドバランス的には重低音が物足りないところはあるものの、音楽の量感はしっかりしている。声の厚みを感じさせる中域といい、最高域まで滑らかに伸びる高音などは、高回転までよどみなく回る本車のエンジンのようでもある。音量を上げてもひずみっぽさはなく、軽快かつ力強い走行性能に通じるように感じるあたり、専用アンプがかなりいい仕事をしているようだ。
ステレオのサウンドイメージも奇麗に描き出されていて、何を聴いても納得の仕上がり。コンパクトな車室内に対して、ホーントゥイーターと効果的なスピーカーレイアウトの賜物だろう。
本システムはラジオまたはUSB、ブルートゥース(BT)を再生ソースとして選ぶディスプレイオーディオ。そのため、今回の取材ではUSBに格納しているWAVファイルを再生したが、このJBL、なかなか巧みな鳴らし方をしているようだ。
GRヤリスの前席周り。黒で統一されてインテリアデザインに、メタリックなスポーツタイプの3ペダルが光る。センターコンソールのディスプレイオーディオは8インチディスプレイが採用される。天井には、ワイヤレス通話などで利用できるマイクが埋め込まれている。
テールハッチに飾られるヤリスのロゴと、その横にGRのロゴバッジが並ぶ。
ディスプレイオーディオのモニター直下、ハザードランプスイッチの上に飾られるJBLロゴ。
スピーカーの構成を左右チャンネルに分けて考えてみると、25mmドームユニット採用ホーントゥイーター、80mmワイドディスバージョンスピーカー、150mmミッドウーファー、170mmサブウーファーという構成で、最大サイズのスピーカーユニットがドア装着の170mmユニットとなる。通常、170mmだとウーファーとしての使用が一般的だが、本車ではサブウーファー。しかも30Hzあたりからしっかり再生しているから驚く。変則的ともとれる4ウェイ構成を、ヤリスというクルマの中に上手くレイアウトし、まとめ上げたサウンドシステムである。
ソース別の音質差はどうか、USBではメモリーによるWAVファイルをメインとして聴くほか、iPhoneを接続してApple CarPlayを利用したAmazon MUSIC HDを聴いてみた。USBメモリーとアマゾンミュージックの差はほとんど気にならずデータ通信量を気にせず利用できるなら、サブスクリプションで楽しむというので充分かもしれない。
ブルートゥースではさすがに情報量の差が出ていて、特に高音の抜けが悪くなる。本車にはワイヤレス充電といった装備がないので、スマートフォンをケーブルで接続したうえで活用するのがいいのではないだろうか。
なお、JBLプレミアムサウンドシステムをオプション選択した場合、カーナビは搭載されない、そのためスマートフォンを利用したマップアプリを活用することになる。となるとやはり、1つしかないUSB端子はスマホ接続用と心得るのが自然なようだ。
ディスプレイオーディオはGRヤリスの全グレードで標準装備となる。カーナビゲーションはディーラーオプションで設定される。取材した車両にはナビ非搭載であったためスマートフォンのアプリを活用した。
ピラーの根元にはトゥイーター、ダッシュボードの端にはワイドディスパージョンスピーカーが配置され、中高音再生をつかさどる。高音用トゥイーターは25mmドーム型ユニットに、本車専用設計のホーンが組み合わされている。
ドアポケットの最前下方、ポケットの前に170mmのサブウーファーユニットがマウントされている。一般的にミッドウーファーやウーファーといった役割のスピーカーが配されることが多いドアだが、GRヤリスではこのサブウーファーがいい働きをしている。
リアシートのサイドにマウントされる150mmミッドウーファー。グリル越しにJBLオレンジのエッジを採用したスピーカーユニットが確認できる。
エアコンディショナー操作スイッチの下には、USB TypeAの端子が用意されている。スマートフォンの充電が行えるほか、ディスプレイオーディオと機能的に接続される。このほかUSBメモリーを接続することで、メモリーオーディオ再生が可能となる。
トヨタ GR ヤリス専用JBLプレミアムサウンドシステムのスピーカーレイアウト。
さて、このスポーティマシンで聴く音楽だが、さすがにクラシックを聴こうというドライバーはおられまいが、フルオーケストラで迫力ある演奏などは、それなりに楽しめるので、CDをお持ちでないドライバーもアプリで探してみてほしい。そして、これはぜひCDヲリッピングしてメモリーをご用意していただきたいが、「ルパン三世」は格別だった。あくまでも気分的なものではあるけれど、発進時にはお尻を振りながらスタートしている気になるし、街中で遭遇するパトカーはすべてブルーバードに見えてくる。いささか病的と思われるかもしれないが、このGRヤリスとルパン三世の組合せは、それほど相性がいい。
このほかにも、ビッグバンドジャズ、ロック、ポップスなどなど、様々な楽曲を試してみたが、どれもこれも楽しさにあふれている。スローバラードのような曲でさえも、カーチェイス後に流して走っているかのような気分で実に心地いい。
GRヤリスのJBLプレミアムサウンドシステムで最も興味深かったのは、スピーカーのレイアウトとその使い方。音像定位に大きくかかわる中域から高域の音を再生するワイドディスパージョンスピーカーとホーントゥイーターが近接してピラーの根本あたりに配置しており、このおかげで、充分な広さを持ったサウンドステージの中に歌い手がスッと立つ姿が描き出される。
また、リアサイドのミッドウーファーも絶妙で、“リア”というとフロントスピーカーと別系統のように思われるかもしれないが、本車の場合はピラーおよびダッシュ、ドアサブウーファーと合わせてのシステムづくりがなされている。ドライバーやパッセンジャーの耳の位置を考えてみても、フロントの各ユニットとリアサイドのユニットは距離もほぼ等しい。そして、中低域担当のミッドウーファーを聴取位置のやや後方に配置することで、音場空間にサラウンド的な広がり感を醸し出すことに成功している。
ディスプレイオーディオの設定にサラウンドといった機能はないものの、音に包まれている感は充分で、ライブ盤などでもホール感が存分に味わうことができた。この絶妙なバランスを崩すこと無く聴くために、バランス/フェーダーはデフォルト1択、調整の必要は感じなかった。
ドアにスピーカーというのは珍しくないが、サブウーファーをマウントするのはレアだ。仮にサブウーファーをドアマウントしても大パワーでドライブさせると、ドアはもちろんクルマ中、あちらこちらで共振を起こしてビリビリと耳障りな音が乗るはずである。しかしこのGRヤリスでは、上手くサブウーファーの再生帯域を工夫しているようで、すっきりとした低音を送り出してくる。
USBメモリーの再生画面。CDをパソコンでリッピング、CDクォリティのデータをWAVファイルでメモリーに格納して車内に持ち込んでいる。
ディスプレイオーディオのトップメニュー画面。AppsではSmartDeviceLink Appsを表しており、スマートフォンにインストールしているアプリをディスプレイオーディオ画面上で操作できる機能。Apple CarPlayやAndroid Autoとは別の機能である。
オーディオソース選択画面でラジオやブルートゥース、USBやMiracastなどが選択できる。並んでいるアイコンの表示位置は「配置変更」でカスタマイズが可能。
「音設定」のメニューはトーンコントロール(Treble/Mid/Bass)とフェーダー/バランス、ASLがあり、メニュータイトルにタッチすると調整画面が表示される。
トーンコントロールの画面。GRヤリスではほんの気持ち程度だが低音の押し出しが欲しかったため、高音(Treble)と中音(Mid)を1ステップずつ下げてバランスをとってみた。ちなみにバランス/フェーダーはデフォルトで聴いた。
メニューの「設定・調整」から「共通設定」を表示させたところ。スマホ連携サービスではApple CarPlayやAndroid Autoをセレクトして設定することができる。このほか設定画面では、ブルートゥースでワイヤレス接続する端末の設定などが行える。
何をとっても良くできているGRヤリス×JBLなのだが、唯一取材車両での不満があるとすれば、USB端子が1つだけというところ。CarPlayでナビも音楽も活用できはするが、スマホに通信させないで充電だけという使い方も少なくないはずで、その場合にはUSBメモリーや他のポータブルプレーヤーを接続して聴きたくなる。となると、できればもうひとつ、USB端子が用意されていると嬉しかった。乗ってすぐわかるスポーツカーではあるし、あまり多くを望むものではないかもしれないが、偽らざる気持ちである。
なお、GRヤリスのJBLプレミアムサウンドシステムは、RZ High performanceグレードで標準装備、RZグレードではコンフォートパッケージ(メーカーオプション税込¥130,900)で搭載可能。2WDグレードのRSでは設定されていない。ちなみにRZおよびRSの標準装備は2スピーカーとなる。また、JBLともにサウンドに関する装備としてアクティブノイズコントロールも組み込まれるため、いっそうクリアに音を楽しむことができていると思われる。
ステアリングホイールにはディスプレイオーディの操作機能のほか、レーントレーシングアシストやレーダークルーズコントロールなどの運転支援機能の操作が可能。
シフトレバーの横にはWRCとともにGRロゴがで材されたプレートが飾られている。
一度乗ると「GR-FOUR」のバッジを見るだけでワクワクしてきてしまう。GRヤリスは走りが好きなドライバーにはたまらなく楽しいクルマの1台だろうし、できるならJBLプレミアムサウンドシステムとともに走ることをお勧めしたい。