戦略的な値段を持ったけっこうな実力機
音の色彩感があり、無機的な機械の音ではなく音楽の音になっている
文=鈴木 裕
6.5インチ径のミッドウーファーMF136(振動板はおなじみのケイ酸マグネシウム入りのボリプロピレン)と、シルクドームの1.1インチ径のツイーターMT136。そしてパッシブネットワークX236のセットだ。聴く前にドライバーユニットを間近で見ると、ウーファーのボイスコイルの直径がディナウディオとしては小さいと思った。MF136ウーファーのアルミのヴォイスコイルは30mm径。たとえば筆者は自分のクルマでESOTECのSYSTEM 222を15年来使っているが、ミッドウーファーMW152のボイスコイルは75mm径ある。ディナウディオというとイメージされる形はかつてはこれだった。
しかし、オートサウンド試聴室のバッフル板にESOTAN 236MKIIを装着して聴き始めるとこれがいいのだ。低域のレンジはメーカーのスペック通り45Hzあたりまでで若干狭くは感じるが音色の再現性が高く、解像感も悪くない。音の色彩感も出てくるし、何より無機的な機械の音ではなく、音楽の音になっている。空間表現力や音像のフォーカスの精度も高い。クロスオーバーは3.6kHzだが中域のつながりがとても良く、こもった帯域もない。何より開放的に、気持ち良く鳴ってくれる2ウェイに感じた。実際、調べてみると感度としては89dB@2V/1mとけっこう高く、反応良く、アンプ選びに困らないタイプだ。90年代のディナの、あの頑迷なまでにうまく鳴ってくれなかったことを考えると実に隔世の観がある。と言うか、あれからもう25年、四半世紀も経っているのだ、そりゃあディナウディオも進化している。同じようなダイアフラムの素材で同じようなアルミ製の梨子地仕上げのバスケットフレームだが、音楽を楽しませるべく洗練された振る舞い方の歌い方にしつけられている。3ウェイのESOTAN 372も中域の存在感の高い音で個人的には気に入っているのだが。いずれも戦略的な値段を持ったエントリーモデルでけっこうな実力機だ。
ディナウディオ待望のスタンダードグレードスピーカー
上質でしなやかその響きは、最高峰のEsotar2シリーズに通じる
文=藤原陽祐
スピーカーを知り尽くしたデンマークのハイエンド・ブランドDYNAUDIO。家庭用の高級スピーカーシステムのイメージが強いかもしれないが、VOLVO、フォルクスワーゲンなどのプレミアムカーに標準搭載されるなど、カーオーディオ分野の先進的な技術、音の良さは各方面から高い評価を受けている。
今回、グランブリの栄誉を射止めた『ESOTAN(エソタン)シリーズ』は、高級システムの開発で培った技術、ノウハウを積極的に活かしつつ、戦略モデルとして開発された、同社待望のスタンダードグレードのスピーカーシステムだ。
スムーズな反応と素直な周波数特性が持ち味のソフトドーム(天然ファブリック)トゥイーターと、MSP(ケイ酸マグネシウム・ポリマー)製コーンに、純アルミワイヤーボイスコイルを組み込んだウーファーという2ウェイのユニットは、同社の上級ラインの血統を感じさせるもの。バスケットフレームも剛性を追求したアルミ製で、良質な低音を絞り出す。
スピーカーとしての素性を把握するために、聴き慣れたシーナ・エイのCD、「フェイス・ザ・ミュージック」から数曲、再生してみたが、解像感、レンジを無理に欲張らない穏やかな聴かせ方で、しなやかなタッチと濃厚な響きはいかにもディナウディオらしい。
このクラスのスピーカーシステムの場合、明るく、開放的に鳴る反面、低音の質感や響きの拡がりなど、細部の表現にある種の物足りなさを感じられてしまうケースもあるが、このESOTAN についてはそうした不満は皆無。上質で、しなやかその響きは、まさに最高峰のEsotar2シリーズに通じるものと言っていいだろう。
続いて、ショパン国際ピアノ・コンクールで日本人最高位の2位に入賞した反田恭平の「ラ・カンパネラ La Campanella」(96kHz/24bit)を聴いたが、その静けさと細やかな響きにすっかり魅了されてしまった。
ピアノのオブリガードからその独特の響きを丁寧に拾い上げ、しかも1音1音の音離れの良さが際立つ。一定の緊張感を保ちながら、それでいて穏やかで、柔軟性に富んだ聴き心地のいい響き。スタンダードモデルであることを、ついつい忘れてしまうほどの表現力だった
ディナウディオ Dynaudio
ESOTAN 236MKII
¥90,000(セット/税込)
APECIFICATION
●型式:セパレート型2ウェイスピーカー
●使用ユニット:ウーファー・165mmコーン型、トゥイーター・28mmドーム型
●定格入力:80W
●最大入力:160W
●出力音圧レベル:89dB/2V/m
●再生周波数帯域:60Hz〜20kHz
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:3.6kHz