オートサウンドウェブグランプリ2020でスペシャルアワードを獲得したオーディオテクニカのハイレゾメディアプレーヤーAT-HRP5。国内メーカーとしては初のデジタルファイルに特化したプレーヤーであり、国内外でもっとも多様なファイル形式の再生に対応したモデルである。ハイレゾファイルでは、PCMで最大384kHz/24bit、DSDでは最大5.6MHzの再生が可能。音声ファイルのみならず動画ファイルの再生にも対応する。従来のハイファイカーオーディオ市場では、ポータブルデジタルプレーヤーをクルマに持ち込むケースが定着してきていたが、その存在に代わる役割が期待されるデジタル出力も備える。本グランプリでは、新たなジャンル製品として評価された本機だが、ここでは各選考メンバーの評価ポイントなどを語ってもらっている。[編集部]
パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、藤原陽祐、黛健司、脇森宏、長谷川圭]
(まとめ=ASW編集部/写真=嶋津彰夫)
ASW:スペシャルアワードに選定しましたオーディオテクニカAT-HRP5、メディアプレーヤーについてお話をうかがいます。鈴木先生からお願いできますでしょうか。
鈴木 裕(以下鈴木):まずこの製品は存在自体が評価できると思っています。今まで使ってきたAVナビやヘッドユニットを活かしてハイレゾや映像を再生したいという人に対してこの値段でこの製品があるというのはいいですね。
それにS/Nがかなりいいし、質感がいい……金属が鳴っている、皮が鳴っている、粘膜が鳴っているといった表現もいい。それにスムースな音で、余計な付帯音がないのに一個一個の音の実在感が高いといった印象がありました。試聴時のメモにはジッター成分の少ない再現性の高い音って書いてあるんですが、ハイレゾの目指している音色感で聴かせるのではなく感慨感で聴かせるという方向の音をきちんともっているというところがいいと思いました。
ASW:ありがとうございました。続いて、黛先生にお話しいただけますでしょうか。
黛 健司(以下、黛):こういう物が、自身のカーオーディオシステムに必要だと思っていた人達には待ちに待った製品の登場だと思います。オーディオテクニカはカーオーディオの分野では、いわゆるメインユニットって手がけていなくて、アクセサリー的なケーブルであるとか、そういった物が中心だったので、音に積極的に関わる部分の製品としては初めてと言ってもいいかもしれません。それだけにそうとうがんばっていろんなことをおやりになったんだろうと思います。
僕が試聴したときに、テスト機が少し不調だったのですべての機能は試せていないんですが、それにしてもデジタルファイルがこの製品を通すことでちゃんと音がよくなっているということは確認できました。本来もつ機能の全部は確認できませんでしたけれど、オーディオテクニカというメーカーが、こういうタイプの製品を送り出してきて、それが確かにいい音を作ることに貢献している、そういう部分でスペシャルアワードであろうと認識しています。
ASW:なるほど、ありがとうございます。藤原先生はいかがでしょうか?
藤原陽祐(以下、藤原):ナビに外部入力があればどんなシステムにも使える、HDMIがあったら、それ1本で接続できてハイレゾが聴ける、こういう手軽さを持った製品って今まであるようでなかったと思うんです。ちょっとオーディオ的に考えるとHDMIは使いたくないなという風にも思うんですが、でも利便性を考えると一般的にはHDMIでつなぐというのが簡単ですからね。
それに音もオーディオテクニカらしくきちんとしている、ちゃんと造られていますね。新しいジャンルの製品なので、同様のコンポーネントが出てくると面白くなるだろうなと思います。
長谷川 圭(以下、長谷川):そうですね、利便性と音質が上手くバランスしていると言えるでしょうね。
ASW:ありがとうございます。脇森先生、お願いします。
脇森 宏(以下、脇森):ダイヤトーンのDA-PX1なきあとの、代わる製品になるのかなと……。
長谷川 :あぁ、なるほど。あれはデジタルプリアンプにデジタルファイル再生機能があったという感じでしたけど、確かにそれに近いポジションかもしれないですね。
脇森:ただ、値段は全然違いますけどね。USBつないで再生できてというところは似ていますよね。
長谷川 :AT-HRP5には細かな調整ができるDSP機能はないですけれど、たしかにUSBを直接挿して使えるという点ではそう言えるでしょう。
脇森:DSP調整機能は別にして、メモリーを挿してという部分ではAT-HRP5の方がいろいろなことができる。そういうことを考えると、すごく意味のある製品かなと思うんです。特に今のクルマはナビも純正になってしまってオーディオに手が着けられないというのも少なくない。そこにこれを持ってきて、もうひとつオーディオの系統をつけてあげると、アンプを持ってきてもいいしいろいろなことができるようになる。そういった可能性のあるシステムのためのメインになる製品です。
D/Aコンバーターをつけたときの音、今回同ブランドのAT-HRD500を試してみましたけれど、とても説得力があるというか、『あぁ、これならいいな』と思わせてくれたんです。ハイエンドの世界とは少し違うところもあるんですけれど、嫌味がなくて、安定感があって、音楽が楽しめる方向の音に聴けるんです。新たにオーディオのシステムをクルマに持ち込みたいなという人にとっては、ひじょうに目をつけるべき製品だろうと思います。
操作性に関しては、残念ながら今のところ小さなリモコンしかないので、クルマの中ではちょっとしんどいかな……。
石田 功(以下、石田):かなりの確率でなくしそうですね(笑)。
脇森:たとえばステアリングリモコンとか、ボリュウムだけ手の届くところにツマミが着けられるとか、そういった展開を望みたいですね。
ASW:ありがとうございます。では石田先生、お願いします。
石田:いま脇森さんもおっしゃったけれど、最近のクルマが純正のナビから替えられなくなっていたりするので、それでハイレゾ聴きたいというとハードルが高いですよね。ハイレゾを聴こうとなると、今多いのはDSPにデジタルオーディオプレーヤー(DAP)を繋いで聴いたりしています。そこに、汎用性の高いメディアプレーヤーとして本機が登場したのはいいことですよね。
音はちょっとハイ上がりっぽいところもあるんだけれど、これはシステムの組み方次第で解決できる程度のことなので、大いに使える製品です。対応しているデジタルファイル型式も多いですし、動画も再生できる。アナログ出力はもちろんだけれど、デジタル出力もDAPなんかよりイイ感じですよね。
ただ、脇森さんもおっしゃった操作性は……(笑)。たとえば、最近ではみんなディスプレイにメニューが表示されたり、機能ボタンが出たりしたら、当たり前に画面にタッチするじゃないですか。そこがこのAT-HRP5を使うときに慣れるまで時間がかかりそうですよね。もっともDAPをクルマに持ち込んだ場合は、もっと使いづらいわけで、そう考えると現状のAT-HRP5でも車載機としてよく考えられているとも言える。ステアリングリモコンとか、できたらいいでしょうね。
ASW:ありがとうございました。長谷川先生はどうでしょう?
長谷川 :クルマの中でハイレゾを聴こうとしたとき、特にカーオーディオコンテストにエントリーするような人達のクルマではデジタルオーディオプレーヤーが主流ですね。でも、あれは見るたびに思うんですが、あの小さなDAPの表示画面にタッチして操作するのって、運転中は絶対無理です。そうなると、一度再生状態にすると、再生中のプレイリストを聴き続けることになるんですよね。曲送りくらいはできるDAPもありますけれど、運転中にはやりたくないです。そういう使い方しかできないのは、なかなか厳しいと思います。ドライブ中に聴く音楽って、その時々で変えたくなったりしますから、そのあたり根本的に破綻するなと思っているんです。いい音で聴けるのはありがたいのだけれど、私はその時の気分に合わせた曲がすぐに再生できるというあたりも両立して欲しい。
AT-HRP5は、再生ファイル対応も幅広いし、音声だけじゃなくて動画ファイルにも対応する。対応能力がひじょうに高いですね。DAPとも違って、車載機として開発されています。そういうところで、新しいジャンルの製品だと認識しています。音についても、単体で抜群にハイクォリティだとはいかないけれど、組合せを考えて上手く使うと、相当な水準のサウンドが聴けますので、充分に評価するべき製品だろうと感じました。
おそらくこれからメーカーががんばって販売されるのでしょうけれど、私はDAPを使っている人にこそ……使っている人ってけっこう高額なDAPをクルマに持ち込んでますよね?
石田:あのあたりはけっこうね。
鈴木:金色のとか載せている人、多かったりしますね。
長谷川 :ですよね。そういうプレーヤーを使っている人からすると、このAT-HRP5はお安い製品だと思うので、まず試してみていただきたいなと思うんです。
鈴木:そこですね。DAPっていっても、クルマで使おうとするとそんなにパフォーマンスはよくないです。実際にン十万円のDAPで鳴らしていても『これを使っていてこの音だともったいない』というクルマはありますから。
長谷川 :DAPからのデジタル出力をDSPに入れてというケースが多いと思いますけれど、そのデジタル出力もフルスペックで出せるものは多くないですし。USBデジタル出力ならまだしも、たとえば光デジタル出力などだと、ほぼすべてのケースでサンプルレートが落ちているでしょうし。でもAT-HRP5ならDSDなどはPCM変換されますけれど、かなり高次な状態で送り出しができます。つまり汎用DSPを使ったハイレゾ再生などをしてらっしゃる方にとっては、トライする価値が大いにあると思うんです。
石田:これを知らずに損する人もいるかもだし、安価だからとスルーする人もいるかもしれない。
長谷川 :食わず嫌いはよくないですよね。一度、聴いてみてもらいたいです。
石田:「オレのン十万のDAPが負けるわけがない」とかね(笑)
長谷川 :思いたいでしょうけれどね(笑)。でも、その思い込みを覆すことができるかもしれない。
黛:再生する音楽ファイルの格納場所というか、メディアとして推奨しているのはどういうところなんでしょうね?
石田:USB端子で繋ぐので、USBメモリーとか、SSDといったところでしょう。
長谷川 :SSDのような大容量記録媒体だと、おそらく一般的な音楽ファンだと、すべてのライブラリーが納められるでしょうし、入力が2系統あるので、ひとつにはSSDをつないだまま、もうひとつはドライブのたびに差し替えて聴いたりという使い方ができるでしょう。
黛:インターフェイスとしては、つなげられるモニター画面さえあれば、既存のナビ画面じゃなくても使えるんですよね。
藤原:タッチ操作はできないけど(笑)
鈴木:タッチは無理(笑)
長谷川 :いくら画面を触っても反応しないです(笑)
鈴木:HDMI接続できるんですが、HDMI3.0って光通信なんですよ。HDMIの端子の中で変換するようになっているので……。
黛:光を使った伝送だと、クルマの中では大きなメリットですよね。
長谷川 :いま、市販のAVナビの上級モデルだと、ほぼHDMI入力が付いているので組み合わせやすいでしょう。
石田:純正ナビだとなかなかね……。コンポジットの映像入力だと、インターフェイスとして使えるけど、あまりきれいな画面表示にならないのがね……ちょっと残念。
黛:脇森さんがおっしゃったように、よくぞ製品化してくれたけれどユーザーのことを考えると、言いたいことはけっこうあるんですよね。その意味でもスペシャルアワードが妥当なところなのでしょう。
長谷川 :今後ファームウェアのアップデートもしていくでしょうし、これからの製品、その第一弾というところで評価しています。
ASW:ありがとうございました。期待を込めてのスペシャルアワードということですね。多くのドライバーがこの製品に魅力を感じてくれることを祈りましょう。
以上で、オートサウンドウェブグランプリ2020に関する取材は終了となります。今年は例年にくらべて、皆さんが積極的に評価できる製品が多数あって、選出においてずいぶん悩まれたとのお話もうかがいました。今後も音楽を愛するドライバーに、魅力的な製品を紹介できるよう邁進していきます。みなさまもご協力をお願いいたします。
一同:はい!