9月末に発売された「Echo Auto」。アマゾンが発売するやいなや多くのメディアがニュースで紹介したのでその存在は広く知れているはず。また本機が日本市場初の車載用Echo製品であるため注目するドライバーも少なくないだろう。今般、メーカーより製品を貸与され、2月ほど試用することがかなった。実際に使ってみた印象を綴ってみたい。
文/写真=長谷川 圭
スマートスピーカーに馴染みはないが使ってみた
まずはじめに、私はEchoを使うのはほぼ初めてであることを告白しておく。“ほぼ”というのは、スマートスピーカーの類いにまったく触れたことがないわけではないが、所有して日常的に使っているわけではないという意味だ。もう少しいうと、機械相手に会話のコミュニケーションを取るのが苦手であり、これまでもどれほど優秀な音声認識機能を備えたカーナビであっても、仕事上の機能チェック以外でナビに話しかけることはなかった。自分でいうのもなんだが、滑舌にはいささか不安があり、聞き取ってもらえない自信はそこそこある。つまり、血の通わない相手に理解されず拒絶されるのが怖くもあり腹立たしくなるのである。要は苦手なのだ。
車載のアレクサは、キャデラックの純正カーオーディオにビルトインされていたり、本年夏に発売されたカロッツェリアのディスプレイオーディオに機能搭載されるなど、徐々にクルマ環境への親和性を高めてきている。クルマにおける機能操作という意味では、運転操作の他に身体的アクションを起こすことを考えると、できるだけ音声コマンドで操作できるようになったら、より安全性の高いドライブ環境が実現できると考えるのが自然だろう。となれば、Echoのようなツールがクルマに導入されるのは当然といえる。
これまで、およそスマートスピーカーの類いに向いていないと自覚するわけだが、Echo Autoはどうか。実際に車両へ搭載してみて、自らの誤解を痛感することとなった。
クルマに乗ったらまず「アレクサ!」
Echo Autoの搭載とセットアップは実にシンプル。Echo Auto本体を車室内に固定、シガーソケットからUSBケーブル経由で電源を確保。「Amazon Alexaアプリ」をインストールしたスマートフォンとワイヤレスで接続、既存の車両オーディオシステムと接続すればいい。電源供給のためのシガーソケットおよびUSBケーブルはEcho Autoに付属するので、新規に購入の必要はない。
ただし、Echo Autoへの接続ケーブルを目立たないように這わせようとすると、長めのケーブルが必要になるだろう。このあたり、耐熱性能が高いものを選びたい、ぜひ用品店やカーオーディオショップでご相談いただきたい。
Echo Autoの設置場所は、個人的にはできればあまり目立たず、かつ声を拾いやすい場所を選びたいと思う。できれば直射日光も当てたくない。そして本体上部にある8つのマイクアレイを塞がないように……。たとえばルーフのセンター部分への埋め込みや、そこまでしないならばサンバイザーにクリップ固定などというのもいいかもしれない。今回はわかりやすい場所として、ダッシュボードのセンターに固定してみた。
Echo Auto体験は、ことのほか新鮮だった。機能チェック以上に機械へ話しかけることのない私が、使い始めて3日後には、クルマに乗り込んで始動させたとたんに「アレクサ!」と発声するようになってしまった。本稿を書いている今、すでに2ヶ月近く経つというのに飽きることなく「アレクサ!」と話しかけているのだ。
これほどまでにEcho Autoと話をしてしまうのは、1人で走ることが多いがための寂しさではなく、その音声認識性能の高さにいっさいのストレスを感じないせいだ。走行中のロードノイズや風切り音が多い中であっても、あるいはそこそこの音量で音楽再生していても、こちらのいうことをほぼ聞き取って応えてくれる。なんといっても聴きたい曲を思いつくままに言えば再生するというのは楽しい。
アマゾンミュージックでさまざまな楽曲を貪り聴く
しかし、再生曲の指示にはコツがあるようだ。まず日本語での対話であるせいか、海外アーティストの楽曲は、そのタイトルをカタカナ的な発音で話さないと認識してくれない。それに、あまりに長いタイトルだと、話している最中に聞き取りをやめてしまい、Echo Autoが聞き取った文言で検索するために思った曲が再生されない。映画のサウンドトラックなども再生してくれるが、単純に曲のタイトルを言うと映画そのものを再生しようとするので「アマゾンミュージックで映画〇〇〇のサウンドトラックを再生して」といった言い方で指示しなければならない。
ここでひとつ、幾度も試しているがうまくいかない例を挙げる。個人的に大好きなヴァンヘイレンを聴こうと「アレクサ、ヴァンヘイレンのアルバム“1984”を再生して」と言ってみたが、アレクサは「ヴァンヘイレンの楽曲を再生します」とベスト盤のような再生をするのだ。“1984”を「イチキューハチヨン」と言っても、「センキュウヒャクハチジュウヨン」と言っても「ナインティーンエイティフォー」と言ってもうまくいかない。どう言えばアルバム“1984”が再生されるのか、ご存じの方がいたらご教示願いたい。
それと、クラシックの楽曲も検索が難しい。PCやスマホであれば、曲名を入力すれば候補楽曲リストが出てきて、聴きたい指揮者や演奏者の楽曲を選ぶことができるが、口頭でタイトルと言うだけだとなんとも要領を得ず、聴きたいタイトルが再生されないのである。ジャズでもメジャーナンバーは多くのアーティストがカバーしているので、アーティスト名と曲名の組合せがうまく伝えられないとダメだ。
そのためクラシックやジャズといった楽曲については、あらかじめプレイリストをアマゾンミュージックの自己アカウント上で作っておいて再生するのが良さそうだ。
カーオーディオの歴史を塗り替える?
ストリーミング再生のインターフェイスとして有望なツール
現状はスマートフォンでの通信が主流となろうが、カロッツェリアの車載専用Wi-Fiルーターも登場したこれからは、通信料金を気にしながらということもなくなっていくことだろう。通信環境の変化も、Echo Autoを後押しする要因となりそうだ。
サウンドクォリティ的には、できることならアマゾンミュージックHDで、CDクォリティ以上の再生音が楽しめたら言うことナシだが、Bluetooth経由で再生する以上は無い物ねだりといったところだろう。将来的にEcho AutoでHD再生が叶い、なおかつデジタル出力を備えてくれたら、既存のカーオーディオメインユニットが総じて白旗をあげる事態になるかもしれない。ストリーミング再生がメインストリームとなりつつあるカーオーディオ市場が一気に加速し、CD再生は化石化へと……、そんなことすら想像させる。Echo Autoの登場は大いなる衝撃となった。