パネラー・オートサウンドウェブグランプリ選考メンバー
[石田功、鈴木裕、藤原陽祐、黛健司、脇森宏、長谷川圭(オートサウンドウェブ)]
ASW:オートサウンドウェブグランプリ2018でゴールドアワードを獲得しましたカロッツェリア「サイバーナビχシリーズ」について、お話をうかがっていきたいと思います。みなさん、それぞれの印象をお話しいただけますでしょうか。脇森先生からうかがえますか。
脇森:2017年のサイバーナビがすごくよかったですけれど、それよりも一段とよくなりましたね。“よくここまでやったな”というのが最初に聴いたときの感想です。χシリーズを作り上げるうえで、何をやったかというと、わりと地味なことを一生懸命にやっているんです。それがちゃんと音に出ている。このモデルは実際にクルマに搭載されている時の音を聴いても、試聴室で聴いてみたときとそれほど変わらないドライブ能力が感じられるんです。それは数値上、特に優れているとかいうことじゃないと思うんだけれど、聴感上、とても説得力を持っているんです。そのあたりが、試聴室での印象とクルマでの印象がひじょうに近いというところが大きく評価できるところと感じました。
石田:去年モデルと比べてよくなった。ハイレゾを聴いた印象では、カロッツェリアχで聴くCDの音は完全に超えたと感じました。脇森さんと同じですけれど“よくやったな”と思いましたね。価格の面ではダイヤトーンサウンドナビにぶつけてきている感じがしますけど、そのあたり強気できたなとも思いました。相当自信を持って出してきましたよね。とにかく頑張ってここまでのものを作り上げたという印象です。「おめでとう」と言いたい。
藤原:おそらく去年モデルくらいから、オーディオ性能への意識が特に強くなってきていたんじゃないかと思うんですが、回路基板は同じだというから、パーツの吟味とチューニングですよね、それをじっくりやってる。まあ、オーディオってそういうところに時間をかけるのが大事だったりしますから、いい形で設計できたのだと思います。新しいシャーシを採用し、ベースモデルの気になる部分を改めていって、サイバーナビχシリーズでレベルをグッと上げてきましたよね。**
石田さんもおっしゃっているけれど、USBメモリーで聴く音がよかったですよね。CDとの差が結構ありました。
石田:そう、ずいぶん違いますよね。
藤原:CDをリッピングした音源でも、CDを直接再生するのよりだいぶいい感じがします。空間の出方とか、周波数特性のデコボコもない感じがするし、音が揃って出てくるように聴けました。パイオニアの開発陣と話をした際には「このメモリーの音を、ぜひディスクでも出せるようにしてね」と言ったんですが、それほどメモリーの音がよかった。これほどの音が出せるようになったのはAVナビとして高く評価するところです。カロッツェリアは、昔からちゃんとした音だったけれど、オーディオコンポーネント単体としてどれほどのレベルだったかというと少し物足りなさもあったと思うんです。でも、サイバーナビχシリーズで相当高いレベルに到達しましたね。
それから、個人的にちょっと嬉しかったのが、映像パネルのフレーム……ベゼル部分というか、そこをピアノ仕上げにしているんですよね。これは、パイオニアが昔から得意にしている漆調の仕上げで、昔の「エリート」がやっていたようなものなんですが、これを車載機でやるのは簡単じゃないはず……光が反射したり、劣化したりというのを車載環境で使えるものにしなきゃいけないから……その難しい仕上げを採用して高級感も演出している。しかも、あの細いフレーム部分というわずかな面積なのに、妥協せず取り組んだんですね。「ハイエンドオーディオナビ」と謳っている、その意気込みが意匠にも込められているのが嬉しいです。
黛:基礎体力がぜんぜん違うなという印象です。2DINフォーミュラというものがあるじゃないですか。あのサイズの中に全てを入れて音をまとめなきゃいけない。その基本の中で、カロッツェリアは“こういうことをキチッとやっておかないと意図する音が出せない”というのにある時期気づいたんだと思うんです。あるいはやらざるを得なくなったのかもしれない。
カロッツェリアのスタッフと話していたとき、「昔はカロッツェリアχがあるから、やりたいことはカロッツェリアχでやればいいという自由度があったかもしれないけれど、今は現実問題としてカロッツェリアχはできない。そしてサイバーナビも1DIN+1DINをなくして、2DINサイズに集約、戦う土俵が2DINのみになった。その2DINフォーミュラで、カロッツェリアχでやってきたような高音質を実現させるか。また時代の新しさで言ったら、カロッツェリアχ時代にはなかったハイレゾへの取り組み、その音の魅力を聴かせられるようにするためにはどうすればいいかということを真剣にかんがえた」と聞きました。その結果、プラットフォームができたのでしょう、それを磨き上げるというのが……まさにいま取組中だと思うけれど……その磨き上げの過程でなかなかいいものに仕上がってきた。音楽を支える土台のようなもののシッカリ具合……構築される音楽再生の世界が他とは全然違いますね。その安定感というのは今まで2DINのAVナビで聴いてきたものとは比較にならないくらいしっかりしている。同じ12Vの電源なのに何でこんなに音が違うんだろうと思いました。
鈴木:僕は春に80周年記念パッケージが出るタイミングで取材をして、そこでTADのスピーカーシステムReference 1を鳴らしているのを聴いているんですけれど、やっぱり去年モデルもよかったんだけれど“ちょっと物足らないところ”もあった。その“ちょっと”を実は一部基板まで変更して改善していて、結果その“ちょっと”を遙かに超えた音に到達したような気がします。僕はそのときの原稿の最後に「獅子は目覚めた」と書いたんですけど、『本気でこの人達、やってますよね』という想いもあって……『あ、ここまでメッキを……空冷ファンの所にまで銅メッキだなんて』とか『全部銅メッキしちゃうんじゃなくて、ビスのひとつひとつも場所によって銅メッキしたりしなかったり……』とか……。
石田:そうそう、こちらの側面は銅メッキビスで逆サイドは通常ビス、という設計にしてますよね。
鈴木:そこまでして音を詰めているんですよね。ここまでのことができる総合力というのには感心しました。今回はAVナビ単体として評価しているんですが、スピーカーや単体アンプなども含めてパイオニア/カロッツェリアというブランドの本気になったときの底力を感じました。総合的にHi-Fi性能のような物理的な部分と、音楽を鳴らした時の音のなめらかさ……密度が高くてしっとりしているといった聴き心地の部分を両立させていて、とてもいいと思いました。
長谷川:取材の現場で、開発を担当された方とお話しする機会があって、サイバーナビχシリーズの開発に当たってはコスト度外視で作り上げたというエピソードをうかがっていたんですね。そこで、「すべてやり尽くして、このサイバーナビχシリーズでやれることはないんですか?」とたずねたんです。すると「今回発売したサイバーナビχシリーズは2017年サイバーナビをベースに仕上げたもので、17サイバーをサイバーナビχシリーズへ高音質化するための開発コスト度外視だったので、もし別のアプローチで開発を進めるとしたら、やるべきことはまだまだたくさんあります」という話でした。『この人達はどこまで突き詰めた製品作りができてしまうんだろう』と感じました。
鈴木:それから、今回は試すことができていないんですが、サイバーナビの車種専用モデルでは全ての座席で違和感なく聴ける「全席モード」や「自動音響調整機能」があるじゃないですか。わりと手軽にいい音が聴けてそこからさらにチューニングが詰められてさらなる高みに到達できるものですね、そういうものが付加されたら魅力倍増でしょうね。
藤原:内蔵アンプがけっこういいですよね。
脇森:そう、これはよかった。
藤原:試聴したときに外部アンプで鳴らして、その後内蔵アンプも聴いて……こういう聴き方すると内蔵アンプの音が聴き劣りするものだけれど、サイバーナビχシリーズはそんなことなくそこそこ聴けたんです。鳴りっぷりがよく、『これは内蔵アンプが結構使えるな』と思いましたね。この辺も去年と違いますよね。
石田:内蔵アンプの聴き心地は、去年とかなり違った印象でした。
長谷川:電源回路をかなり強化してきているので、そのあたりも内蔵アンプの鳴り方に影響しているでしょうね。
石田:内蔵アンプのデバイスは変わっていないんですよね。
長谷川:変わってないですね。変わっていないのに音は全く違っていて、よくなっている。石田さんとカロッツェリアの開発陣とお話されたときに石田さんが「どうして天板まで銅メッキにしなかったの?」と聞かれてましたよね?
石田:はい、そうでした。コスト的なものかなとも思ったんですが、じつは全然違っていて、全部銅メッキにしてしまうと、ノイズがあっちこっちに迷走するので、オーディオ回路に影響が少ないところにノイズの抜け道をつくる、そのための銅メッキパーツだというんですね。だから、適材適所といった具合に使う場所を決めていた、天板は銅メッキしなかったんじゃなくて、しちゃいけない場所だったわけです。
藤原:それもあるだろうし、全部銅メッキにしてしまうと音がホンワカするというか、柔らかいトーンになる傾向あるじゃないですか、オーディオ的な音の出方をコントロールしようとすると、それはそれで使い方が難しいですよね。
鈴木:極端な使い方をすると、思ったような音にならなかったりするんですよね。
長谷川:銅メッキのパーツを使うところを見極めながら作ったんですよね。それがちゃんと音に出ているのはさすがですよね。適材適所を決めるのに、ずいぶん耳で確認したのでしょう。
ASW:11月に発売となりました8型画面のAVIC-CL902XSもシリーズモデルということで受賞としました。画面が大型になることで、音質に影響がおよぶということもあったようですが、メーカーでは7型モデルと同等に仕上げているわけですね。
藤原:液晶パネルが大型化すると、電力消費も大きくなりますから。
長谷川:ノイズも増えるし、ノイズの種類も変わりますしね。
石田:パネルの大きさだけじゃなくて、解像度も違うじゃないですか、7型はVGAで8型はXGAですからね。
長谷川:7型が発売されてから半年足らずでの製品化ですから、短期間でよく作り上げましたね。
石田:7型が売れてきて市場から8型の要望が出てきて、その声に応えた形ですよね。
脇森:でも一般ユーザーの感覚からすると「え! もう出たの?」という事になってるんじゃないでしょうか。いずれは大型画面モデルが出るだろうという期待はあったと思うけれど、これほど早くでてくるとは思っていなかったかもしれません。
石田:思っていなかったかもですね。
脇森:「大画面モデルが出るならそちらを買ったのに、もう7型モデルを買ってしまった」というような声も出てそうでしょう。
長谷川:8型モデルが車両に載った状態で聴ける機会が増えてくると、そのあたりの意見ははっきりしてきそうですよね。やはりクルマで聴いてみてどうかということろで。2018
脇森:試聴室とクルマでそれぞれの印象があまり変わらないというのは、サイバーナビχシリーズの不思議なところだと思うんです。他のモデルだと、それなりの差があるものです。
鈴木:13バンドのパラメトリックイコライザーを搭載していて、それで調整しているのが大きいようですね。
脇森:デモカーでサウンドチューニングして仕上げた音ももちろんですが、何も調整をしていない状態で聴いても音の方向として同じようにいいところが聴けると感じました。だからこれは、そもそものポテンシャルがかなり高いということの証明だと思います。
長谷川:昨年夏のイベントなどでは、早くもサイバーナビχシリーズを搭載したクルマがちらほら登場していましたけれど、どのクルマを聴いてもすごい音を聴かせていました。特に解像度の高さは素晴らしかったですね。サイバーナビχシリーズのポテンシャルの高さはクルマで一聴しただけでもわかるだろうと思います。
黛:脇森さん、昔、雑誌オートサウンドで試聴取材を始めたころ、カロッツェリアχの初代ODRモデルが出てきたとき、プロセッサーで定位が作れるからと言って、無理くり真ん中に定位させてみたといったようなクルマがいっぱいありましたよね?
脇森:はい。ありましたね。
黛:不自然極まりないクルマ。その定位感が聴けるのもワンポイントで、リスナーと想定されたドライバーの位置でしか成り立たない。もう例えば助手席側に行ったら、およそステレオとは思えないような音になってしまう、そんなクルマが多かった記憶があります。でも、ハードウェアの性能が上がってきたら、ステレオフォニックの音場が、プロセッサーでそれほどいじらなくても成立させられるようになったクルマが増えてきましたよね。
脇森:そうですね。製品が進化するのにともなって、ずいぶん変わってきました。
黛:僕はその辺が一番違うのかなと思ってるんです。カロッツェリアのやっている基本のところをきっちり押さえるハードづくりです。プロセッサーとしての能力は、鈴木さんがおっしゃる通りすごいものを持っていると思うんだけれど、DSP機能の助けを借りなくてもポン付けでもいい音が出るから……たとえば、純正のスピーカーのままでもそれなりにいいところまで持っていけるし……。
鈴木:確かにそうですね。
黛:ましてや、カロッツェリアの開発陣が想定するようなスピーカーと組み合わせたらひじょうにいいマッチングを聴かせるだろうし、よそのスピーカーを使っても面白いことができる。だから専門店でもずいぶんサイバーナビχシリーズをお客さんに進めるケースが多かったようです。
このハードが進化したことで、クルマにおけるステレオ2チャンネル再生のクォリティがとても高まった。取り付けや調整といったところで、あまり無理をしなくても楽しめるようになった印象をもっています。それはここ最近のことだと感じてます。
脇森:そうですね。ただ、昔でも、いい製品をうまく使えばそういう方向に行けたと思うんですけど、全体的に「クルマの中だからこうしなければ」というようなものがあって、その代表がDSPだったりしたわけですね。
黛:もう少し補足すると、昔は2チャンネルだけでやろうとすると職人技が必要で、それなりの感覚と経験がなければできなかった。でも今は純正のスピーカー位置をそのまま使ってもそれなりに鳴るようになったかなと。
脇森:うーむ……。確かにオーディオのハードウェアは良くなりましたよね……。でもそのいっぽうで、クルマのほうが……しんどくなっている。
石田:脇森さんはクルマを施工していて、最近は楽だなと感じます?
脇森:いや、本当にしっかりやろうと思ったら、今も昔も楽じゃないですけど(笑)。
石田:そうですよね(笑)。現実的には最近のクルマは鉄板が薄くなっているし……。
脇森:そのへんはしんどいですね。
長谷川:クルマの作りが、オーディオをやるのにしんどくなっているけれど、カーオーディオの製品自体はとてもよくなってきているということですよね。
脇森:様々な製品が、時代とともに現れては消えていくわけだけれど、淘汰されていくことでいいものが残るという世界になってきたから、製品が進化してよくなったという感覚になるのだと思います。
長谷川:先ほど藤原さんや石田さんがおっしゃっていましたけれど、USBはほんとによかったですね。石田さんにいたっては、ハイレゾファイルの再生ではカロッツェリアχのCDを超えたとまでおっしゃる。
石田:完全に超えましたよね。
黛:カロッツェリアの開発スタッフに聞きましたけれど、ハイレゾに対応することになって、ハイレゾの音源を研究して、いままでのCD……44.1kHz/16bitの限界を超えた音があるんだというのを実体験したのだそうです。そして、それに挑戦するというのが一つのテーマになったそうです。だからハイレゾ対応というのが、開発において大きな意味をもったんですね。
2018年モデルが相当な完成度に達しているというのが、今回のグランプリゴールドアワード受賞したという結果に表れていると思うんですが、まだ次はさらによくなりそうな予感がして、すごく楽しみですね。
脇森:ただね、今のナビの形態がいつまで続くかという問題はありますよね。
一同:それはありますね……。
黛:いつまで買ってもらえるかですよね。
脇森:そう、そういうことです。
長谷川:でも今回のサイバーナビχシリーズで、これだけのものが……これだけの音が出せるものに仕上げたのですから、この開発姿勢は継続してもらいたいですよね。
藤原:そう、モノづくりって途絶えたらそれをまた復活させるってできないんですよね。だから、パイオニアは大変かもしれないけれど、地道に続けていってほしいですね。そんなに画期的なことはやらなくてもいいから、地道にいい音を作り続けてほしい。
石田:ハイレゾの普及ももっと進んでほしいですね。そうするとこのサイバーナビχシリーズのすごさがもっとよくわかる。
藤原:ハイレゾも今の形で聴かれていくかどうかわからないところありますよね、特にクルマだと。
鈴木:やはり配信というか、ストリーミングというサービス形態は避けようがないでしょう。ストリーミングでMQAを配信したら352kHz/24bitが聴けてしまいますから、充分ハイレゾリューションオーディオが成り立つんですよね。5Gで通信速度の飛躍的な増加もあることだし、やはりそういうふうになっていくんじゃないでしょうか。
長谷川:ハイレゾ対応再生ももちろんですけれど、サイバーナビχシリーズが持っているマスターサウンドリバイブ機能は圧縮音源でかなり効果的ですよね。CDでもその効果がわかるくらい。なので、ハイレゾファイルの再生にこだわらなくても、ハイレゾに迫るほどの音質であらゆる音源が聴けてしまうというのもすごいことです。ストリーミングだと、通信状態によってはデータの欠落とかありえるわけですけれど、そういうところも補って聴かせてくれるようになるんじゃないでしょうか。
黛:ハイレゾのサウンドは、そのファイル方式や容量による器の大きさが、どれだけ音に表れるかというところが肝心だと思うんですね。すると、送り出しのナビはもちろんですけれど、スピーカーにもそれなりのクォリティが要求されるし、単体パワーアンプをシステムに追加して……するとアンプのクォリティも要求が高くなる。パイオニアって、その要求にこたえられるだけのエンジニアがいると思うんです。だからいい耳を持ったエンジニア達がこれまで通り、あるいはこれまで以上にいい音に取り組める体制で頑張ってもらいたいと思いますね。
長谷川:これだけの製品を作り出してくれたパイオニア/カロッツェリアですから、大いに期待したいですね。ゴールドアワード獲得のサイバーナビχシリーズが、多くのクルマに積まれて、この音を楽しむドライバーが増えるのも楽しみですね。
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