画像: プリウスαの車室内の眺め。ダッシュボードの両端に、トゥイーターとミッドレンジを近接配置し、ウーファーはドアの下前方に配置して、3ウェイを構成している。

プリウスαの車室内の眺め。ダッシュボードの両端に、トゥイーターとミッドレンジを近接配置し、ウーファーはドアの下前方に配置して、3ウェイを構成している。

プリウスα搭載のイートン+ザプコ+ヘリックスに挑戦

 これまで、DSPの基本機能やその効果について解説してきた本企画。実際に調整する上でのポイントなどを理解してもらうべく、個別のケーススタディをご紹介していこう。今回取り上げるのは、ドイツのブラックス/ヘリックス/マッチや、イートン、マクロム、米国のザプコなどを輸入販売するエムズラインが所有するデモカー、トヨタ・プリウスαだ。調整の実作業は、これまでDSPの機能解説をしてきた中村重王氏がおこなっている。

画像: エムズライン所有のデモカー、トヨタ・プリウスα。全国のイベント会場や、カーオーディオ専門店での試聴会などでその音を体験できるクルマである。

エムズライン所有のデモカー、トヨタ・プリウスα。全国のイベント会場や、カーオーディオ専門店での試聴会などでその音を体験できるクルマである。

画像: DSP調整をおこなう中村重王氏。

DSP調整をおこなう中村重王氏。

 まず、プリウスαに搭載されているコンポーネントからご紹介しよう。

画像1: プリウスα搭載のイートン+ザプコ+ヘリックスに挑戦

 スピーカーは、イートンの3ウェイ+サブウーファー。2ウェイ構成のMAS-160typeM(パッシブネットワークレス仕様)にミッドレンジのMAS-80を組み合わせてフロントスピーカーとして組み込んでいる。ウーファーは、160mm口径で、コーン振動板にイートン独自のアラミド繊維とハニカムコアを組み合わせたヘキサコーンを採用。トゥイーターは25mmのマグネシウムダイヤフラムを搭載したモデルだ。ミッドレンジは80mm口径で、ウーファーと同じくブラックヘキサコーンが採用されている。

 サブウーファーは、ウーファーやミッドレンジと同じくヘキサコーン採用の12-630HEXで、サイズは300mm口径となる。

画像2: プリウスα搭載のイートン+ザプコ+ヘリックスに挑戦

 各スピーカーをドライブするのは、ザプコの4チャンネルパワーアンプZ-150.4 APが2台。3ウェイに6チャンネル分を向け、残る2チャンネルをブリッジモノーラルでサブウーファーへと向けている。DSPにはヘリックスのヒットモデルDSP-PRO MK2である。

DSP調整値をリセットして調整開始

 今回、調整の具体例を紹介するために選んだ車両は、先述の通り輸入代理店であるエムズラインがデモンストレーションに使用されているクルマである。当然、搭載システムの魅力を存分にアピールできるよう、すでに調整されているのだが、本記事のためDSPの調整値をオールリセットさせてもらった。スピーカーの調整位置やデッドニングなどについては当然ながらそのままで、取材前の状態にすぐ復帰できるよう行っている。

 調整前に、スピーカーの搭載位置や装着角度、聴取位置との関係を確認してみた。結果は下図のとおりである。

画像1: DSP調整値をリセットして調整開始
画像2: DSP調整値をリセットして調整開始
画像3: DSP調整値をリセットして調整開始
画像4: DSP調整値をリセットして調整開始
画像5: DSP調整値をリセットして調整開始
画像6: DSP調整値をリセットして調整開始
画像7: DSP調整値をリセットして調整開始

 さらに、未調整の状態での周波数特性も確認してみた。ここでは、ヘリックスの測定ツールキットMTK-1と、誰もが気軽に使うことができるスマホアプリFFT Waveを使用している。簡易的な測定ではあるが、帯域バランスを確認するためのひとつの目安として導入してみた。なお、測定は運転席でおこない、同乗者はいない状態だ。

 MTK-1はDSP-PRO MK2と合わせて使用すると、PC調整ソフトPC-Tool上で測定値を確認することができるうえ、目標とする周波数特性との音圧レベル差を1/3オクターブごとに数値表示してくれるため、イコライザー調整がやりやすい設計になっている。機能的に連携している点は、同一ブランドで開発された強みといえよう。

画像: MTK-1で測定してみた結果。ブルーのラインが、測定された周波数特性だ。これを見ると50Hz付近と160Hz付近、5kHzあたりの暴れが気になる。

MTK-1で測定してみた結果。ブルーのラインが、測定された周波数特性だ。これを見ると50Hz付近と160Hz付近、5kHzあたりの暴れが気になる。

画像: スマホアプリの「FFT Wave」を使った測定結果。測定条件がMTK-1と異なるものの、5kHzあたりの落ち込みは同様に計測されている。

スマホアプリの「FFT Wave」を使った測定結果。測定条件がMTK-1と異なるものの、5kHzあたりの落ち込みは同様に計測されている。

手順はサブウーファーのクロスオーバーから

 まず始めに手がけるのはチャンネルディバイディング機能を使った、いわゆるクロスオーバーの決定だ。調整のセオリーとして、低音パートであるサブウーファーに取りかかる。サブウーファー以外のチャンネルを全てミュートして、車両後方にマウントされているサブウーファーユニットのみ音が出るようにする。この状態で、楽曲を再生してサブウーファーで再生する帯域とレベルを決定した。ここでの調整ポイントを中村氏に解説してもらう。

<中村氏コメント>
 サブウーファーの調整からスタートする理由は、波長の一番長い帯域である重低域が音楽信号のベース(基盤)となる帯域、つまり音の土台部分であるからです。この土台がしっかりしないとその上に乗る中高域の安定性が出てきません。サブウーファー単体でも重低域より高い周波数成分(倍音)が再生されます。その中高域の成分と本来サブウーファーが再生する重低域の聴こえ方がマッチしている事がポイントとなります。この時の音の聴こえ方の感覚は「弾む低域」が私的なキーワードです。
 サブウーファーにハイパスフィルターを加えていますがその意味はサブウーファーの再生帯域全体の位相特性を変化させ正相に聴こえる帯域を如何に広げられるかを判断しています。
 広い帯域の位相特性が確保されるほど音の弾み感、ローパスフィルターで減衰させた中域以上の音の「素直さ」が良く出てきます。サブウーファーの再現するわずかな中域でもフロント側のウーファーの奏でる中域とケンカしない音色⇒「正相の音」に調整しておく事がとても重要です。

 サブウーファーの調整パラメーターを整えることで、タイトで弾むような低音が車室内に充たされたように感じられた。特にビート音の音離れの良さといった部分では、位相を反転させたときにその違いが大きく感じられた。今回決めたパラメーターは、ハイパスフィルター(HPF)39Hzでスロープ-12dB/oct、(LPF)ローパスフィルター56Hzでスロープ-12dB/oct、レベルは-1dBとした。フィルターの特性はバターワースを選択している。

 続いてウーファーの調整へと移る。サブウーファーと同様、他チャンネルはミュートし、ウーファーのみ音を出す。ここではおもにヴォーカルの聴こえ方に注意して調整をおこなった。声の抜けの良さといったところを重視して再生帯域を選択、数値を決定した。パラメーターはHPF72H:-12dB/oct、LPF880Hz:-12dB/oct、ともにバターワースだ。

 ミッドレンジの調整は、ウーファーと一緒に鳴らしておこなっている。ここでのポイントを中村氏に解説してもらおう。

<中村氏コメント>
 カーオーディオ用スピーカーの多くは、その口径から2ウェイシステムでも充分に再生帯域をカバーできるものがほとんどです。例えば16cmのウーファーと25mmのトィーターでは、この2つのユニット構成でほぼフルレンジをカバーできてしまう口径であると考えられます。そこにあえてミッドレンジを投入して3ウェイとするわけですから、追加されるミッドレンジは本当に“美味しい”帯域だけを再現させてあげる事が重要と考えています。そうすることでウーファーの上限に余裕を持たせ、トゥイーターの下限を上げる事で歪みをより少なくする事が可能となります。
 ときどき、ミッドレンジを高い位置にマウントし、さらに再生帯域を広げることで、高さ方向の定位改善を意図したと思われる調整を聴くことがありますが、多くの場合その目論見が成功しているクルマに出会うことはありません。ほとんどは、ウーファーの上限の音と合わない音(位相のズレ)を広げていると思えることが多いです。
 ミッドレンジは、耳の感度が一番高い領域をカバーするユニットですから、とにかく綺麗な音を目指す事が重要です。したがって、この帯域はウーファ―との一体感を図りながら、ミッドレンジが加わる事で何が良く聴こえるのか、音の情報量の何が増えるのかを聴きながら調整を行います。

 ウーファーとの音のつながりを確かめながら決定したパラメーターは、HPFが1,021Hz:-12dB/oct、LPFが4,797Hz:-12dB/odt、肩特性はバターワースを選択、位相はインバート(逆相)とした。

 トゥイーターの調整は、ウーファーとミッドレンジとともに鳴らしておこなう。ハイパスフィルターのカットオフ周波数をどこに設定するか、楽曲を再生しながら探っていく。

<中村氏コメント>
 今回のトゥイーターはマグネシウムダイアフラム仕様、金属のハードドームタイプです。一般的に金属系ダイヤフラムは超高域まで伸びる特性が魅力であることが多く、今回のイートンもキャラクターの多くをこのトゥイーターが支配していると感じました。その特徴を活かすため、HPFの帯域を高めに設定して超高域の伸びが楽しめる音を出せるように考えました。
 よく定位感の改善の為にトゥイーターのHPFカットオフ周波数を下げ気味に調整した音を聴くことがありますが、HPFの周波数を下げると相対的に耐入力が下がることになり、大音量時に歪み感をともなう事があるため注意が必要です。
 今回の設定では5kHz台に落ち着きましたが、この周波数を決定したポイントは、音の表情がどのように感じられるかです。ミッドレンジまでの帯域と位相の整合が取れるにつれ、音場感の広がり、心地よさ、各楽器の明瞭感、ヴォーカルの顔の向き等まで感じ取れるようになります。

 いくつかのカットオフ周波数を聴いてみて決定したパラメーターはHPF5,275Hz:-12dB/oct、バターワース、正相とした。

画像: DSP調整ソフト「PC-Tool」の表示画面で、決定した各ユニットの帯域割り当てを見るとこのようになる。パワーアンプのゲインは、すでに調整された状態であったため、チャンデバ機能でのレベル調整はほとんど施す必要がなく、微調整程度となった。

DSP調整ソフト「PC-Tool」の表示画面で、決定した各ユニットの帯域割り当てを見るとこのようになる。パワーアンプのゲインは、すでに調整された状態であったため、チャンデバ機能でのレベル調整はほとんど施す必要がなく、微調整程度となった。

 この時点で、各ユニットで再生する音圧レベルを見直してみる。サブウーファー、ウーファー、ミッドレンジ、トゥイーターを全て鳴らして、バランスを確認。その結果、ミッドレンジを-1.25dBとした。

画像: 若干の凹凸は残るものの、チャンネルディバイダーの設定によりなだらかな右下がりの特性が得られた。クルマにおける理想的な周波数特性は諸説あるが、低音ほど音圧が高めで高音に行くほどレベルが下がる特性をよしとする意見が多い。これは、走行時に低音ほどマスキング効果で聴き取りにくくなるところから来ているものと考えられる。

若干の凹凸は残るものの、チャンネルディバイダーの設定によりなだらかな右下がりの特性が得られた。クルマにおける理想的な周波数特性は諸説あるが、低音ほど音圧が高めで高音に行くほどレベルが下がる特性をよしとする意見が多い。これは、走行時に低音ほどマスキング効果で聴き取りにくくなるところから来ているものと考えられる。

画像: チャンネルディバイディング機能で、各ユニットの再生帯域を設定してみると、これだけでも周波数特性のピークディップが少なくなっていることがわかる。

チャンネルディバイディング機能で、各ユニットの再生帯域を設定してみると、これだけでも周波数特性のピークディップが少なくなっていることがわかる。

ディレイ調整は片チャンネルだけ鳴らして聴く

 下図は運転席での聴取位置と各スピーカーユニットの距離を採寸してみた結果だ。これはDSP-PRO MK2の調整ソフトPC-Toolにディスタンスモードという距離を入力してタイムディレイが調整できる機能があるため、試してみようという目論見からおこなってみた。しかし、結果は芳しくなかった。タイムディレイを整えることで、サウンドステージのでき方が変わるわけだが、楽曲を再生してみるとステレオイメージはなく、各ユニットがバラバラに鳴っている印象だった。ただ、面白いことにフロントシート、リアシートのどの席で聴いても同じ印象の聴こえ方になった。

画像: 各ユニットと聴取位置との距離は、スピーカーユニットの振動板の中心と、調整を手がけていただいた中村氏の眼前で計測した。

各ユニットと聴取位置との距離は、スピーカーユニットの振動板の中心と、調整を手がけていただいた中村氏の眼前で計測した。

 あらためて、調整モードをディレイモードとし、サブウーファーをゼロ、他のスピーカーユニットについてディレイタイムを設定してみた。

 まずサブウーファーを鳴らしながら、左チャンネルのウーファーのみを鳴らす。低音、ベースやドラムの音に注意しながら、タイミングが合うようにディレイタイムを調整。続いて左ミッドレンジを加えて調整し、さらに左トゥイーターを加えて調整していく。最終的に左チャンネルのウーファー、ミッドレンジ、トゥイーターの調整値を右チャンネルに反映させて聴いてみる。その上で左右チャンネル間のタイムディレイを整えていく。

<中村氏コメント>
 タイムディレイは、各スピーカーユニットから到達する音の波面を合わせるイメージが本来の調整ポイントだと認識しています。しかし、そこに距離だけの変化を考えるのでは全く配慮が足りず、スピーカー毎の音の到達方向、スピーカーの反応速度なども考慮する必要があります。振動系の重いウーファーは、反応速度が遅い傾向にあります。また、駆動するアンプのドライブ能力によっても差があります。これらすべてを総合的に判断し整えるのは、人の感性に頼るのが一番だと思います。高級なマルチマイクを使いFIR適合型フィルターを駆使した自動調整機能などもハイエンドホームオーディオの世界では登場してきていますが、より反射音や外来ノイズの多いカーオーディオではまだまだ問題も多く、現状では耳で聴いたうえでの判断が1番と考えます。
 ディレイを合わせるポイントは、「音の解像度が何処まで上がるか」です。
 よく定位を合わせるためにタイムディレイを使う事がありますが、タイムディレイが登場する以前は、音の定位はバランス/フェダーで合わせるのが一般的でした。つまりゲインの変化で定位感を合わせていたわけで、それをタイムディレイでは時間領域にすり変えているわけです。この2つの要素を合わせて調整する事で、より自然な定位のイメージに近付けるのではないかと思います。

 ディレイ機能の調整パラメーターは以下の図の通りとなった。中村氏いわく音の定位にまでこだわって調整する場合は、左右チャンネルにおけるディレイ設定値に差を持たせて追い込むこともできるが、音の鮮度が落ちて、システム本来の良さをスポイルすることが多いので状況に応じておこなうべきだととのこと。

画像: ディレイ調整は片チャンネルだけ鳴らして聴く

 さて、DSPの3大機能のひとつであるイコライザーだが、今回調整実践を試したプリウスαでは、特にその必要性が感じられなかったので、デフォルト状態のままとした。好みに応じた音作りに活用することもできるが、必要以上の調整作業は音の劣化にもつながるためお勧めはしない。

<中村氏コメント>
 今回は問題がない限り-12㏈/octのスロープ特性を積極的に使うように調整しました。それは-12㏈/octはフィルター周波数以上の帯域の位相変化が180度であり、90度、270度のようなどちらつかずの位相変化が少ない事が予測されるため、不慣れな方にもわかりやすい変化が聴き取れるだろうという判断からです。
 ベテランの皆様は高次のフィルターにも挑戦してみてください。
 クロスオーバーにおける位相変化は、より尖鋭度を増すと調整は難しいものとなりますが、調整しきった時の音は更なる音の深淵を感じさせてくれるものと思います。それでは皆様ご検討を!

 最終的に調整完了したサウンドだが、イートンのスピーカーが持つよいところがうまく出ているように感じた。もっとも特徴的なのは、ひじょうに精緻に聴かせる部分で、楽器のダイナミズムと声のニュアンス表現の豊かさに感心させられる。実はこの印象、オートサウンドウェブの試聴室で聴けるイートンスピーカーのイメージにとても近く、スピーカー本来のサウンドが再現できていたように思う。

画像: タイムディレイの調整まで行ってから特性を測ってみると、ピークディップが少なくなり、低音から高音にむかってなだらかな右下がりの特性になっていることが確認できた。

タイムディレイの調整まで行ってから特性を測ってみると、ピークディップが少なくなり、低音から高音にむかってなだらかな右下がりの特性になっていることが確認できた。

 実際に今回調整したサウンドが、デモカーで聴くことができるかどうかは、試聴会やイベント会場で確認をしていただきたいが、もし試聴可能であればご一聴いただきたい。

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