画質にもこだわった11インチの大画面と、AV/ナビゲーション一体型機としての品質の高さで評価を得ているアルパインのビッグX11シリーズに、より汎用性の高いフローティングタイプが加わった。持ち前のクォリティ、機能性に磨きをかけながら、幅180mm×高さ100mmの2DIN(ダブルDIN)のスペースに、11インチの大画面ナビをすっきりと収まる。しかもビッグXシリーズ、自慢の音質にも改善の手が加えられ、さらなる進化を遂げている模様。ここではその全貌に迫る。

画像: フローティングビッグX11(イレブン)を追加。安定の音の良さを実証したアルパインAVナビ

徹底したS.T.A.R.理論の追求で高音質化を図る

 純正コンソールにスマートに納まるデザイン性といい、ストレスを感じさせない快適な操作性といい、強者がひしめく激戦の市場で明確な優位性を打ち出してきたアルパインのビッグXシリーズ。AVナビの場合、どうしてもナビが主役でオーディオは脇役と捉えられがちだが、アルパインでは両者はあくまでも対等、いや、どちらかと言えば、オーディオ重視の姿勢を打ち出し、各方面から音のいいナビとして高い評価を得ている。

 とは言え、完全一体型のAVナビの場合、どうしてもナビ機能に伴う画像処理関連の技術が優先されやすく、オーディオについては回路設計においても厳しい制約を強いられる。そのハンディを払拭し、オーディオ専用機に負けないクォリティを獲得する。そんな開発陣の強い思いの実現に向けて投入された技術が、歪み、ノイズを極限まで抑え、円滑な信号の流れを確保するという独自のS.T.A.R.(スター)サーキット理論だ。

 各回路の電位を徹底して揃えていくことで、アース電流によるノイズの影響を最小限に止めるというのが、その基本的な考え方だが、AVナビの本体内には数百にも及ぶ回路が複雑に入り組んでおり、ここでS.T.A.R.理論を実践するのはそうとうハードルが高い。

画像: 迫力の大画面11型パネルを採用したフローティングビッグX11(イレブン)。左は同時に試聴した8型パネルのビッグX。

迫力の大画面11型パネルを採用したフローティングビッグX11(イレブン)。左は同時に試聴した8型パネルのビッグX。

画像: アルパインが培ってきたS.T.A.R.理論は、回路基板のパターン設計はもちろん、近年ではパーツの内部や、機体を構成する基板配置などに広く応用されている。

アルパインが培ってきたS.T.A.R.理論は、回路基板のパターン設計はもちろん、近年ではパーツの内部や、機体を構成する基板配置などに広く応用されている。

パーツレベルで開発に取り組んだS.T.A.R.サーキット

 ところがアルパインの技術者は諦めなかった。「映像、オーディオ、デジタルと、多彩な回路が1つの筐体に凝縮されているAVナビだからこそ、S.T.A.R.サーキットが有効です。これが実現できれば、AVナビの音質は飛躍的に改善できる。確信がありました」(開発担当エンジニア)。

 それは低ノイズの地デジチューナー用ICの開発から始まり、相互干渉の低減を徹底して追求した回路パターン、各回路への独立した電源供給、さらにはデジタル/アナログ回路の干渉、共振まで考慮したシャーシ設計(DINT構造/ThechassisDividingIntoThreeblochs)と、クォリティに効くと思われることはコスト度外視で積極的に取り入れ、世代を重ねながら、地道にS.T.A.R.の考え方を浸透させていったのである。

 そしてS.T.A.R.理論の追求は、協力関係にある部品メーカーをも巻き込み、各種ディバイスの開発へとつながっていく。具体的には、オーディオ帯域におけるフラット化、低インピーダンス化を両立した電解コンデンサー、最終段のMOSFETを分離し、純銅製の内部配線を採用したパワーIC、不純物や酸化を徹底排除し、均一な積層体を確保したフィルムコンデンサー、さらには低ノイズ、かつフラットでクリアな電源生成が可能な赤色LEDバイアス電源などなど、オーディオ機器にとって、まさに肝となるところに集中して、これでもかとばかりに高度な技術を開発、投入し続けてきたのである。

 なかでも私が音質を大きく押し上げたと感じているのが、IC内部の回路で発生するコモンモードノイズを、限りなくゼロに近づけたという電子ボリュウムだった(2016年モデルで採用)。これは信号ラインと接地間に存在するコモンモードノイズを、限りなくゼロに近づけるというもので、ボリュウム操作時に、インピーダンスが変わらない仕組みによって実現した。同時に応答性、歪み感、聴感上のS/Nも飛躍的に向上し、実際の音量がイメージ通り、制御できるようになったのも大きい。

画像: デジタル/アナログ回路の相互干渉を低減させるD.I.N.T.構造は、回路配置を、取り扱う信号周波数帯ごとに分離させたもの。この採用により、ノイズ成分の抑制を情報力の欠如を極限まで低減させることに成功したという。

デジタル/アナログ回路の相互干渉を低減させるD.I.N.T.構造は、回路配置を、取り扱う信号周波数帯ごとに分離させたもの。この採用により、ノイズ成分の抑制を情報力の欠如を極限まで低減させることに成功したという。

画像: コンデンサーメーカーと共同開発した、アルパインカスタム高音質電解コンデンサーが採用されている。

コンデンサーメーカーと共同開発した、アルパインカスタム高音質電解コンデンサーが採用されている。

画像: 入力信号を監視して、信号の基準点の揺れを制御するD.C.R.V.(Direct Control to Refarence Voltage)回路を組み込んだパワーIC。イタリアのSTマイクロ社との共同開発素子で、内部配線は純銅が採用されている。

入力信号を監視して、信号の基準点の揺れを制御するD.C.R.V.(Direct Control to Refarence Voltage)回路を組み込んだパワーIC。イタリアのSTマイクロ社との共同開発素子で、内部配線は純銅が採用されている。

画像: 回路基板上に光るインジケータではなく、赤色LED(発光ダイオード)の性質を活用した電源回路を、本機でも導入。ノイズの低減、特に低音部を最大40dBも低減させることができたとのこと。

回路基板上に光るインジケータではなく、赤色LED(発光ダイオード)の性質を活用した電源回路を、本機でも導入。ノイズの低減、特に低音部を最大40dBも低減させることができたとのこと。

画像: V.P.N.P.方式によって製造されたフィルムコンデンサー。V.P.N.P.方式は真空状態を作って生産工程で不純物が一切混入しない製造法。また、端子素材の銅を電子の伝達スピード考慮して進化させているという。

V.P.N.P.方式によって製造されたフィルムコンデンサー。V.P.N.P.方式は真空状態を作って生産工程で不純物が一切混入しない製造法。また、端子素材の銅を電子の伝達スピード考慮して進化させているという。

画像: IC内部回路に発生するコモンモードノイズを極限までゼロに近づけるA.R.C.N_ZERO circuitを組み込んだ電子ボリュウム。音楽の瞬時応答性改善に成功したとのこと。

IC内部回路に発生するコモンモードノイズを極限までゼロに近づけるA.R.C.N_ZERO circuitを組み込んだ電子ボリュウム。音楽の瞬時応答性改善に成功したとのこと。

2018年の注目株「フローティングビッグX11」のサウンドを検証

 今回のフローティングビッグX11(イレブン)は、これまで地道に積み重ねられた音質改善技術を集結した意義深いモデルである。そこには従来、なかなか手が入れられなかった高度なチューニング、工夫が施され、音質のブラッシュアップが図られているという。

 では早速、AutoSoundWeb試聴室の大型バッフルボードに取り付けられたハイエンドスピーカーとの組合せで、そのサウンドを確認してみよう。ピアノ、ジャズトリオ、女性ヴォーカルと、聴き慣れたCDを再生してみたが、音の芯をしっかりと捉えながら、勢い、瞬発力の伴った聴かせ方は、まさしくビッグXの系譜である。特定の帯域を強調したり、鮮やかな彩りを加えたりすることはなく、癖っぽさのない生なりのサウンド。聴き応えがある。

画像: 2018年の注目株「フローティングビッグX11」のサウンドを検証

 ジャズトリオはベースのリズムを的確に刻み、スネア、バスドラのアタックも足元がふらつかず、力強くグンッと前に押し込んでくる。ピアノはきびきびとした反応の良さで、響きの消え際もスムーズ。立ち上がりの素早さ、響き、余韻の緻密さと、情報量は十分。そして演奏しているホールの気配、大きさまでもが感じ取れるようなS/N感の高さ。聴いていて、素直に楽しいと感じさせる表現力はさすがだ。

画像: 8型モニターのビッグXと、11型モニターのフローティングビッグX11(イレブン)。本体サイズはいずれも同じである。

8型モニターのビッグXと、11型モニターのフローティングビッグX11(イレブン)。本体サイズはいずれも同じである。

望外の好印象だったBluetoothオーディオ

 続いて、昨今、日常的に使用するユーザーが増えているBluetoothの試聴。音源は非圧縮の良質なサウンドが評判の音楽配信サービス、TIDAL(タイダル)。クォリティの高さでは定評のある、TIDALとは言え、AAC圧縮が入るBluetooth接続。正直言って、あまり期待していなかったが、それがどうして、どうして、予想以上にいい感じだ。

 ダイアナ・クラールの「Wallflower」を中心に聴いたが、ストレスを感じさせない無理のない、素直なバランスで、声が艶っぽい。バスドラ、スネアドラムも切れ込み鋭く、足元がふらつくようなこともない。ベースのリズムは曖昧さがなく、ピアノのタッチもこまやか。音調としては穏やかな傾向になるが、荒っぽさのない、洗練されたサウンドは馴染みがいい。鑑賞用として、充分通用するクォリティと見た。

画像: 望外の好印象だったBluetoothオーディオ
画像: Bluetooth Audioの音質確認をする筆者。取材時はTIDAL(タイダル)を使って確認した。

Bluetooth Audioの音質確認をする筆者。取材時はTIDAL(タイダル)を使って確認した。

視認性に優れた大画面は特筆もの

 そして注目の大画面モニター。11インチともなると、当然、その画面サイズに見合ったクォリティが求められる。パネルは高精細のWXGA(1,366×768)仕様の広視野角IPS液晶で、24ビットフルカラー表示を約束している。さらに画質を大きく左右する画像処理についても、独自のミドルウェアを構築し、表現力アップに取り組んだ。

 特に注力したのが、絵柄に応じ、リアルタイムでガンマカーブを制御して、高コントラスト化を図るダイナミックコントラストだ。家庭用テレビの絵作りでも、作り手の技量が問われる部分だが、熟練のテレビエンジニアのアドバイスを受けながら、細心の注意を払い、仕上げられたという。

 実際、その映像はクッキリとして、メリハリが効いて、細部まで鮮明に描き出す。輪郭は細く、細かな文字も太らず、読みやすい。そして最も感心させられたのは、画質の基本とも言える人肌が安定して、自然に再現されること。この画質はテレビ視聴、DVD鑑賞で強力な武器になるに違いない。

 そして今回は11インチの大画面を手動で扱うということもあって、その強度、耐震性に配慮し、各部品の精度を上げて、生産ラインでも組み立てのバラツキも最小限に抑えられるような工夫を取り入れている。

 2DINサイズに収められる11インチの大画面ナビという触れ込みで、各方面から熱い視線が送られているフローティングビッグX11。その画面の大きさ、映像の精細さも大きな魅力だが、骨格を明確に描きながら、軽やかに躍動するサウンドは、明らかにAVナビの常識を超えたもの。昨年モデルとの比較では、スケール感、レンジ感は大きく変わらない。が、大地をしっかりと踏みしめて、強烈なアタックでもグッと踏ん張る安定感は、このモデルが初めて。大きな進歩だ。

画像: 11型画面の画質もチェック。特に「ダイナミックコントラスト」機能の効き目は確かなものだった。

11型画面の画質もチェック。特に「ダイナミックコントラスト」機能の効き目は確かなものだった。

特別企画/協力:アルパイン株式会社

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