インフィニオンテクノロジーズジャパンは本日、窒化ガリウム(GaN)を用いたオーディオアプリケーションに関する説明会を開催した。同社はドイツに本社を置く世界有数の総合半導体メーカーで、自動車用半導体、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタ)やSiC(シリコンカーバイト)パワー半導体、パワー&センサーシステムといった分野で商品を展開している。

画像: 今回展示されたインフィニオンテクノロジーズのGaNパワー半導体搭載音質評価ボード。左右のボードの違いは出力で、左の方が高出力仕様とのこと

今回展示されたインフィニオンテクノロジーズのGaNパワー半導体搭載音質評価ボード。左右のボードの違いは出力で、左の方が高出力仕様とのこと

 この中でも、GaNは高効率・小型化が求められる様々な電力変換用途で注目されており、その応用先のひとつとして、クラスDオーディオアンプでも採用検討が進んでいるそうだ。

 今回は、インフィニオン米国法人でクラスDオーディオシステムを担当しているシニアプリンシパルエンジニアの本田 潤氏から、オーディオアンプ用としてのGaNパワーデバイスについての解説が行われた。

 本田氏は、パイオニアでオーディオシステムの設計経験を経た後、クラスDアンプの研究のために渡米、2015年からインフィニティオンテクノジーズアメリカに所属し、最新のパワー半導体技術を用いたソリューションの開発を行っている。

画像: インフィニオン テクノロジーズ アメリカ クラスD オーディオ システムズ担当 シニア プリンシパル エンジニア 本田 潤氏

インフィニオン テクノロジーズ アメリカ クラスD オーディオ システムズ担当 シニア プリンシパル エンジニア 本田 潤氏

 今回のGaNパワー半導体について本田氏は、「高速スイッチング」「スイッチングの波形の綺麗さ」「オン抵抗の損失が小さいこと」といったメリットがあり、理想的なパワーデバイスだと解説する。

 そもそもパワー半導体とは、電力の強さを制御するデバイスで、デジタルアンプの場合はこれを使って入力信号を増幅し、スピーカーを駆動している。そこでは入力信号をパルスに変換してスイッチングで制御しているが、動作としてはスイッチがオフの時には電流は流れず、オンの時は電流が流れるというもので、ここでの電力損失がゼロになる(発熱もない)のが理想だという。

 しかし従来のパワー半導体の場合、スイッチ部に浮遊容量コンデンサーがつけられていたり、オン抵抗(スイッチをオンにした場合の抵抗)もゼロではないので、ロスは発生してしまう。また信号の波形としてもオン、オフの切り替わり部分でぴったり同期できないことがあり、電圧と電流に遅れが発生してロスが発生することもあるという。ここについて、GaNはオン抵抗も小さく、スイッチングのスピードがひじょうに早いので遅れ成分が少なくでき、結果としてロスも抑えられるとのことだ。

画像1: GaNパワー半導体は、“理想的なパワーデバイス” です。インフィニオンテクノロジーズがクラスDオーディオアンプを大きく進化させる

 パワー半導体の動作としては、シリコンMOSFETの場合はボディダイオードの上に絶縁体を載せ、その上にゲートと呼ばれるパーツを配置している。ゲートに電圧がかかるとボディダイオード内で電子が集まって電流が流れるようになる仕組みだ。

 一方のGaNを使ったパワー半導体では、シリコンベースの上にGaNとAl-GaNという組成の異なる二層を形成する。この状態ではGaNとAl-GaNの間に2次元電子ガス層が生成され、電流が流れる(スイッチはオンの状態)。そこにP-GaNという素材を乗せると2次元電子ガス層が空乏化して電流が流れなくなる(オフの状態)。つまりGaNではその構造上、オン抵抗も小さく、ドレインとソースという信号を扱う間隔も小さくできるので高速なスイッチングが可能になるという。

画像2: GaNパワー半導体は、“理想的なパワーデバイス” です。インフィニオンテクノロジーズがクラスDオーディオアンプを大きく進化させる

 ちなみに同社のパワー半導体では、シリコンMOSFETを使ったものでは信号の周波数帯域は40kHz、スイッチングの周波数は400kHzという仕様だったという。これは人の可聴帯域20kHzをカバーし、かつスイッチングによる損失とノイズのバランスを考えて決められた値とのことだ。

 対するGaNはスイッチング周波数を1MHzまで上げることができ、それに伴ってオーディオ信号も100kHzまで扱えるようになったそうだ。当然、再生される音もいっそうつながりがよくなり、細かい情報まで再現できることが期待される。

画像: 試聴に使われたパワーアンプ。左がシリコンMOSFETを使ったもので、右はGaNパワー半導体を搭載している

試聴に使われたパワーアンプ。左がシリコンMOSFETを使ったもので、右はGaNパワー半導体を搭載している

 今回はそれを体験できるデモとして、GaNの評価用ボードを使ったアンプを準備、従来のシリコンMOSFETアンプとの聴き比べも行われた。CDなどの信号をPCで再生してオッポ「Sonica DAC」に入力、2台のパワーアンプを切り替えて、スピーカーのダリ「MENUET SE」をドライブしている。

 女性ボーカルとハープによる楽曲では、シリコンMOSFETでも優しげな声と演奏が再現されるが、GaNに切り替えるとS/Nがさらによくなり、ボーカルの細かなニュアンスやハープの余韻も浮き立ってくる。ピアノ曲でも指使い、タッチのスピード感に大きな違いがある。

 音量をあげてサクソフォンとマリンバの演奏を再生すると、こちらも違いが顕著に出る。GaNでは管楽器がよりクリーンになり、歪感も少ない。マリンバの打音、立ち上がりの鋭さなどもGaNの方が一皮むけている。

画像: 東京エレクトロンデバイスの望月和人氏(左)と山下智大氏(右)がデモを担当

東京エレクトロンデバイスの望月和人氏(左)と山下智大氏(右)がデモを担当

 この違いについてデモを担当した東京エレクトロンデバイスの望月和人氏と山下智大氏からも解説があった。

 GaNではクリーンなスイッチングが可能で、ローサイド(オフの状態)とハイサイド(オンの状態)の切り替わりが綺麗に分けられるそうだ。対してシリコンMOSFETではローサイドとハイサイドがオーバーラップすると発熱が発生するため、デッドタイムを設けている。

 このデッドタイムは必要なものではあるが、デッドタイムが終わった時に歪みが発生してしまう。さらにデッドタイムにボディダイオードを電気が通ることでノイズの原因にもなるそうだ。だがGaNではデッドタイムが小さくていいことと、そもそもボディダイオードが存在しないので、ノイズも発生しないこともメリットだという。

画像: 中央の白い枠で囲まれているのがGaNパワー半導体。左右それぞれに2基、ステレオで4基を搭載している。その手間(写真下側)にコントロールチップなどが配置されている

中央の白い枠で囲まれているのがGaNパワー半導体。左右それぞれに2基、ステレオで4基を搭載している。その手間(写真下側)にコントロールチップなどが配置されている

 本田氏はGaNの発熱についても検証したそうで、600W✕2chのサイン波を1分間再生した場合でも、GaNパワー半導体は82度にしかならなかったそうだ。通常のパワー半導体なら同じ条件で動作させると150度にはなっているはずで、そのためにヒートシンクが必要だった。しかしGaNであれば通常使用なら放熱を気にする必要もないということだ。

 こうした結果を踏まえて、本田氏はGaNは広帯域、低歪率、小型化を可能にするクラスDアンプの理想的なパワー半導体として提案しているわけだ。このメリットはハイエンドオーディオだけでなく、バッテリーの省エネ化が求められる車載機器にも適しており、発熱も抑えられることからイマーシブ用にも適していることになる。

 なおインフィニオンテクノロジーズではオートモーティブ関連デバイスも手掛けているので、車載用にも提供可能とのことだ。これまで同社ではGaNを200mmウエハーで製造していたが、既に世界で初めて300mmウエハーでの製造技術も確立できているそうで、量産化によってデバイスの価格ダウンも期待できるという。

画像: インフィニティオンテクノロジーズでは、SiC(シリコンカーバイト)を使ったパワー半導体もラインナップしている。それらについては、GaNは高速でハイファイ、SiCは大音量でタフという特性によって使い分けてもらいたいとしていた

インフィニティオンテクノロジーズでは、SiC(シリコンカーバイト)を使ったパワー半導体もラインナップしている。それらについては、GaNは高速でハイファイ、SiCは大音量でタフという特性によって使い分けてもらいたいとしていた

 GaNを使ったパワー半導体は組み合わせるコントロールチップも重要で、ここが最適化できていないとノイズが発生する場合もあるそうだ。そのため同社ではGaNパワー半導体専用コントロールチップを提供しており、この組み合わせを推奨している。ちなみにGaN半導体についても、クラスDパワーアンプに適したデバイスを選定している。

 なお今回発表されたGaNパワー半導体を使ったパワーアンプについては、明日(19日)から東京国際フォーラムで開催されるOTOTENの東京エレクトロンデバイスブース(D503)で解説が行われる。それぞれの持ち味の違いやレコード、オープンリールテープを使った試聴も予定されているので、興味のある方は同ブースまで足を運んでいただきたい。

https://www.teldevice.co.jp/semiconductor/event/infineon-26-06-20/

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