日本育ちのミャンマー人の映像作家・ティンダン監督の『めぐる』が、いよいよ3月6日より公開される。誰かのほんのちょっとした行動が、他の誰かの運命に大きな影響を与えてしまう……。そのバタフライエフェクトの様子が、30分という短編にまとめられている。ここでは、主人公めぐみを演じた生越千晴にインタビューを実施。作品のテーマや役作りについて話を聞いた。
――よろしくお願いします。まずは、完成から6年越しで公開が決まりました。今の心境をお聞かせください。
ありがとうございます。本当に良かったと思います。ティンダン監督がクーデター後のミャンマーで拘束されたことも含めて、この映画が今公開されることは、本当に意味があることだと思いますし、観てもらえることがすごくうれしいです。
――出演の経緯や撮影の時期は?
過去のメールをチェックしたら、2017年に監督からオファーをいただいて出演が決まったので、もう9年も前になります。オーディションは動画審査と面接がありました。
――最初に台本を読んだ時の感想や印象はいかがでしたか?
すごく人間らしい人たちが出てくる作品だなっていうのが、第一印象でした。素直になれなかったり、自分の過去の言動にがんじがらめになっていたり、今を生きることがすごく難しくて、苦しんでいる人たちが出てくるので、生々しい作品だと思いました。
――話は飛びますけど、言葉がスラスラと出てきますね。生越さんは日常から文章を書いていたりするのですか?
作品を書いたりしたことはないです。ただ私は昔から自分の感情を言葉にすることが苦手だったので、日常の自分の感情を分かっておきたいと思い、日々、日記を書いたり、ジャーナリングをしたり、時間がある時は1時間おきに自分がどんな感情かを記録するトレーニングをしたりはしています。
――それは日常生活を含め、演じる上でも役に立っていそうですね。
そうですね。生きていくためには、自分の気持ちが分からないと前に進めなかったりすることもいっぱいありますし、自分だけでなく他人の感情に気づいたり、想像を膨らませて(相手に)接することが、やはり芝居にも生きていくと思っているので、効果があったらいいなと思っています。
――それが役に立っているのでしょうね。さて、いろいろな人たちが出てきて、それが影響し合うという本作のテーマは、どのように受け取りましたか。
生きるってそういうことだよなって思いました。極端ですけど 人は人と影響しあって生かされたり殺されたりもすると感じています。 すぐ側にある日常でもこうやって一歩家から出て、出かけたり、電車に乗ったりするだけで、見ず知らずの人たちとすれ違う。 それだけでも何か影響があったりしますよね。
でもそんな風に影響を受けるという当たり前なことを、日々生活していると 忘れてしまうことも多いなと感じています。私自身よくあったのですが 「何に影響を受けて、こんなに苦しいんだろう」と分からないからもっと苦しくなったり、悪循環になったり。だから私はジャーナリングなどを習慣化したのですが……。そして私自身も誰かに与えなくていいネガティブな影響を与えてしまうかもしれないと思うと、恐ろしくも感じたので、日々自分に余裕を持って、自分の気持ちをコントロールしながら生きていかねばと思うようになりました。
――演じられた「めぐみ」の印象や役作りについて教えてください。
監督といろいろとお話をさせていただきながら作り上げていった、というのは覚えています。監督はすごく穏やかで、温かく、紳士的で、話しやすい方で、でも静かなパワーをお持ちで、お陰で、ストレスなく演じることができた、という記憶があります。

めぐみ自身は、自分の人生を生きることをすごく模索している途中の人なんだなっていうのは強く感じました。というのも、私自身もその時にそう思っていたからです。だから(めぐみに)共感できるポイントも多く、その部分を監督と話し合いながらすり合わせをしつつ、なるべくその時の自分の感覚をめぐみに落とせるようにしながら、大事に演じました。
――一方で、「めぐみ」と対になりそうな存在の「めぐる」はどのように感じましたか?
めぐるについて、100%理解できたとは言えませんが、想像はできました。彼と全く同じような状況が自分にあったわけではありませんけど、私自身も20代前半だからこその悩みみたいなものがいっぱいあって、家族のこととか、自分の未来に対する不安とか、焦りとか、そういうものがある中で、自分のした選択に後悔する。
人にはそれぞれ気づきのポイントがあって、彼にとってはその時だったんだなって。気づいて、後悔して、それで成長するのだろうと。そこはすごく想像できたし、共感できるポイントでした。

――月並みな質問ですが、見どころをお願いします。
私自身も含めて、私たちの身の回りに、どこにでもいるような人々が描かれています。山﨑佐保子さんの素晴らしい脚本を、“生きる”ということをずっと見つめ続けてきたティンダン監督が映像化しているので、誰もが少しは考えさせられる部分があるんじゃないかと思っています。そういうパワーを持っている作品になっているところが見どころです。
――最後に今後の抱負をお願いします。
舞台からこの世界に入った人間なので、劇場に立ちたいという思いは強いです。もちろん映像(映画・ドラマ)についても、まだまだ経験が少ない方だと思っているので、もっともっと作品に参加できるようになって、この俳優さんいいねって、名前を覚えてもらえるようになりたいです。頑張ります。

映画『めぐる』
2026年3月6日(金)より アップリンク吉祥寺、テアトル梅田、アップリンク京都ほかにて全国順次公開
<あらすじ>
大切な入社試験の面接の日の朝も、めぐみ(生越千晴)はいつもの悪夢にうなされていた。その夢とは、放課後の教室で行われる妹・奈緒(姫愛奈ラレイナ)への集団いじめと、奈緒が駅のホームへ向かう光景。
寝坊しためぐみは駅へと走り、途中でスーツを着た男(泊帝)にぶつかりながらも、発車間際の電車に駆け込む。この駆け込み乗車による僅かな電車遅延が、その後さまざまな人々の運命を狂わせることになる。
母親の危篤の知らせを聞き、病院に急ぐ中年の男・圭一(小野孝弘)と、自堕落な大学浪人生活を送るその息子・めぐる(小出水賢一郎)、謎の女子高校生・ユキ(小野花梨)、そして不運なスーツの男。めぐみの行動は、自分とは全く関係ない誰かの人生をめぐりめぐっていく……。
<キャスト>
生越千晴、小野花梨、小出水賢一郎、小野孝弘、泊帝、ししくら暁子、姫愛奈ラレイナ
<スタッフ>
撮影監督:山本周平 照明:鳥内宏二 編集:辻田恵美 助監督:稲垣壮洋 宣伝美術:曽根大樹 メイク:鈴木真帆 プロデューサー:江南知幸 監督:ティンダン 脚本:山﨑佐保子 制作/配給:合同会社CHAMP ASIA 配給協力:NEGA
2020/日本語/ステレオ/アメリカンビスタ/30min
(C)合同会社CHAMP ASIA
●生越千晴(Chiharu Ogoshi)プロフィール
1992年11月9日生まれ、島根県出身。
2014年に蓬莱竜太作・演出の公演、演劇引力廣島のオーディションで主演を掴んだことをきっかけに、演劇に興味を持つ。その後、劇団モダンスイマーズの劇団員となり、俳優活動を本格的にスタート。NHK大河ドラマ「麒麟がくる」(20)、イキウメ「奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話」(24)、ほろびて「ドブへ INTO THE DITCH」(25)などに出演。


