「2019年5月7日」を中心とする物語である。そう聞いて私の第一印象は「おお、6年前か。コロナがなくて今よりはまだ世が穏やかだったような気がするな」と思う程度だったのだが、ハッカーたちにとっては本当にこの日は勝負所であったのだと知った。そして平成から令和へと元号が替わった日でもあるのだと知った。そうだ、当時は、別に崩御とセットにならなくても新しい元号は始められるのだな、と思った覚えがある。
元号が替わる時はまた、日本の金融システムが最も隙だらけになる日でもあったという。そこで暗躍するのがハッカーの野原(阿部寛)だ。天才との名をほしいままにしたが、とある事情から刑務所での暮らしも経験している。彼が計画したのは大金を手に入れること――それだけならば驚くに値しないが、「AIをだましたうえで」というのだから大胆不敵だ。最初「ハッカーだとか金融とかは正直言って遠い世界かもな」と思っていた私だが、「AI対人間」というテーマが色濃くなってくると、これはひとごとではないぞという気分になり、「このシチュエーションのとき、自分はどうするだろうか」と、だんだん内省的な気分になりながら見入ってしまった。
世界4ヵ国6都市を舞台にした、いろんな言語が飛びまくる展開を、90数分にテンポよくまとめあげている。策略、裏切り、ごまかしなどが飛び交っているけれど、だが、1日24時間で、1分は60秒で、それは誰にも代えられない。そしてこの日に「あること」を考えていたのは、当然ながら、野原のまわりの人々だけではない。川崎工業地帯のエピソードが、野原たちの物語とどう絡み合っていくのかも見どころだ。監督は米倉強太、脚本・チーフプロデューサーは小椋悟、原作は川村徹彦「損切り:FXシミュレーション・サクセスストーリー」。ほかの出演者は菜々緒、アリッサ・チア、サヘル・ローズ、津田健次郎、リン・ボーホン、YOUNG DAIS、マフティ・ホセイン・シルディ、デイヴィッド・リッジス、タン・ヨンシュー等。
映画『キャンドルスティック』
7月4日から新宿バルト9ほか全国ロードショー
原作:川村徹彦「損切り:FXシミュレーション・サクセスストーリー」
監督:米倉強太 脚本・チーフプロデューサー:小椋悟
出演:阿部寛、菜々緒、アリッサ・チア、サヘル・ローズ、津田健次郎、リン・ボーホン、YOUNG DAIS、マフティ・ホセイン・シルディ、デイヴィッド・リッジス、タン・ヨンシュー
製作:ジャズフィルム/ジャズインベストメント 配給:ティ・ジョイ
協力:晶澈科技股份有限公司/台北101/美陸達股份有限公司
エンディングテーマ曲:「I need you」 DUAL
2025/日本
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